孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インドに残る巨大な貧困、南アフリカでの人種問題も絡む“格差”

2011-02-07 21:47:16 | 世相

(インド・ムンバイの通勤列車 “flickr”より By Globe Treader™ ©Kiran Ghag
http://www.flickr.com/photos/globe_treader/2245979671/ )

求職者殺到、帰路18名が列車の屋根で死亡
中国と並び、今後の世界経済をリードするとされている新興国の雄、インド。
その経済成長を裏付けるように、好調な新車販売台数なども報じられています。

****インド:新車販売300万台突破*****
インド自動車工業会は1月11日、10年の新車販売台数(商用車含む)を発表、前年比34.1%増の約303万9000台と過去最高になった。乗用車は31.3%増の約238万6000台だった。高い経済成長を背景に自動車の販売市場が急拡大を続けていることが鮮明になった。自動車の購買を支える中間層が今後も拡大するとみられており、近い将来世界有数の自動車市場へと成長しそうな勢いだ。
同国での自動車販売の主力は小型車で、各社が相次いで新型車を投入するなど激しく競争。インド政府も景気刺激策として税金の減免措置を取っていることもあり、市場全体をけん引している。(後略)【1月12日 毎日】
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中国の場合、これまで経済成長をリードしてきた沿海部においては労働者賃金が上昇する傾向にあり、また、日本などの外資系企業などを中心に待遇改善を求める激しい労働争議の多発なども話題になっています。
また、内陸部の開発の進展に伴い、春節に沿岸部の工場から内陸部故郷に帰省した労働者が、そのまま内陸部で職を得て、沿岸部工場に戻ってこない・・・といった事例も多いようです。

そうしたことを見ると、中国においては“次の発展段階”に入りつつあるようにも見えます。
それに比べるとインドの場合、巨大な人口圧力を吸収しきる段階にはまだ至っていないようです。

*****インド求職者18人、列車の屋根に乗り死亡*****
インド北部のウッタルプラデシュ州で前週、インド・チベット国境警察(ITBP)の採用説明会が開かれ、10万人もの求職者が殺到したが、帰路、定員超過状態となった列車の屋根に乗った若者のうち18人が、低い橋の下を通過した際に頭を下げきれずに死亡した。
また、登録手続きの繁雑さにいらついた一部の若者が列車に放火するといった事態も起きた。
採用枠があったのは416件分の仕事だけだったが、ITBPの説明会が行われたバレーリーには、奥地の貧しい平野をまたがる複数の州から若者を中心とする人びとが大挙し、様々な交通手段で何時間もかけて押し寄せていた。【2月6日 AFP】
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416件分の仕事に、10万人が求職に押し寄せるというのもすごいですが、列車の屋根に乗った者の18人が死亡するというのも、日本では想像しかねるものがあります。
以前、インドの列車事情については、08年6月28日ブログ「インド・ムンバイ 最も危険な列車と女子登校促進“現ナマ”作戦」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080628)でも取り上げたことがあります。
そこでも紹介したように、“混雑のため車両に乗り込むことができず、車両の端につかまった状態で無理やり「乗車」したものの、手が離れてしまった”という列車事故が“毎日”多発しており、屋根の乗客が振り落とされたり、何かに頭をぶつけたりして死亡すること自体は日常的な出来事のようです。

インドで垣間見たスラムのあり様といい、こうした毎日の日常的な事故といい、命の重さに関して日本とは異なるものがあるようにも思えます。

【「スシ・オン・モデル」】
中国でもインドでも、また、他の多くの国でも、市場経済の活性化によって貧困からの脱出をはかろうとしています。
確かに“自由な市場”は“効率的に”経済を拡大させてくれます。
ただ、その結果としての所得分配の有り様を“公正”なものとして保証するものではありません。
発展段階においては、いち早く波に乗った一部の者と、その他大勢の間の、いわゆる“貧富の格差”が顕在化します。

世界経済の先導役として期待される新興4カ国「BRICs」(ブラジル、ロシア、インド、中国)に、南アフリカ共和国の頭文字「S」を加えて「BRICS」とも称されるように、南アフリカも新興国として著しい成長を遂げていますが、その過程で現れる格差”に対する不満もまた、国民にはあるようです。

****南アフリカ黒人新エリート層の「成金ぶり」に批判*****
ビキニ姿のモデルの体から寿司をつまみ、シャンパンを一晩中酌み交わす─。南アフリカに新たに登場した黒人エリート層の「富の見せつけぶり」が、同国で大多数を占める貧困層のひんしゅくを買っている。
成金文化の台頭が顕著なのは、与党アフリカ民族会議(ANC)などと政治的コネクションを持つ大物たちだ。

冒頭の場面は実業家、ケニー・クネーネ氏が催したケープタウンのクラブのオープニング・パーティーだが、この写真が週末の各紙一面を飾ると論争が巻き起こった。娯楽産業と鉱山業で身を立てたクネーネ氏は、このクラブに絡んだ詐欺で有罪を言い渡されているが、ヨハネスブルクでも同様のパーティーを何度も開いていた。

40歳の誕生パーティーで70万ランド(約800万円)を散財したクネーネ氏に対し、ANCの支持母体である南アフリカ労働組合会議(Cosatu)のZwelinzima Vavi事務局長は、「新エリートはいかがわしい手段で財産を作ったことも多い。彼らがパーティーで富をひけらかすのを見るとむかむかする。貧困層の顔につばを吐くようなものだ」と激しく批判した。

クネーネ被告は最初、成功した黒人男性として、自分が稼いだお金を自由に使う権利があると主張し、Vavi事務局長への公開書簡で「アパルトヘイト時代を思い出させる。黒人はこれはしてもいいが、これはしてはいけないといった具合だ。あなたは心が狭く、いまだ黒人がスポーツカーを乗り回したり、若いうちに富豪になることは罪だと思っている。そちらこそ、わたしをむかつかせる」と反論した。

しかしそうしたパーティーに党内の有力者も参加しているANCが「中傷的で無神経、女性の品位を傷つける行為だ。こうした行為に関わっている全員に今すぐこのような行為を止めるよう求める」と声明を発表すると、クネーネ氏は謝罪を発表せざるをえなくなった。

■「黒人にも浪費する権利はある」と叫ぶ成金層
クネーネ被告のような浪費生活と、大半の南アの黒人たちの生活はまったく対照的だ。政府は黒人の経済力強化を目指す法律を作ったが、南アの黒人の多くはいまだ貧困の中で暮らしている。
非公式な数字だが、同国の失業率は40%という高さ。さらに南ア人種関係研究所が前週発表した調査結果によると、黒人の平均個人所得は白人のおよそ8分の1だ。
 
ここへ来て南アの黒人の成金層をめぐる論争には、人種的ひねりが加わっている。派手なライフスタイルを支持する人びとは、なぜ黒人ばかりが非難されて、白人の浪費は見過ごされるのかと問う。
例えば米国の大富豪、プレストン・ハスケル氏は、ケープタウンの邸宅で1200万ランド(約1億4000万円)を費やして大みそかのパーティーを開いたが、世論の反発など受けてないと、クネーネ被告の事業の片腕であるゲートン・マッケンジー氏は言う。「70万ランドのパーティーが貧困層の顔につばをかけていると言うのならば、1200万ランドのパーティーは頭上に爆弾だ。われわれ黒人はいまだ身の程を知れと言われているようだ」

南アの黒人層の富の蓄積には、アパルトヘイト時代に不利な境遇に置かれていた黒人の事業を優遇する法律が一役買っている。その一方で、アパルトヘイト廃止から17年経った今も活力ある黒人中流層が生まれていないことから、ANCは批判を受けている。【2月6日 AFP】
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“活力ある黒人中流層が生まれていない”かどうかについては、“黒いダイヤモンド”とも呼ばれる黒人中流層出現の報道なども目にしますので、いろいろ異論のあるところでしょう。

上記記事にあるように、南アフリカの場合アパルトヘイトの歴史から、人種問題が“格差問題”に絡んできます。
確かに、白人が豪遊しても何も言われないのに、黒人が同様のことを行うと世間的に批判される・・・といいのは、もっともな言い分です。

ただ、その“豪遊”の中身も問題になります。
ビキニ姿のモデルの体の上に並べられた寿司・・・いわゆる“女体盛り”というものですが、南アフリカではどういう訳かは知りませんが、富裕層ビジネスマンの間や社交界のパーティーでの「スシ・オン・モデル」として流行っているそうです。
どう見ても品のいい趣向とは思えませんが、こうした馬鹿げたものが日本文化のひとつとして理解されると困ります。一体どこの馬鹿者がこうしたものを海外に広めたのか・・・。

今回問題になっているケニー・クネーネ氏のパーティーの写真で、非常にザラついた印象を与えたのは、寿司を乗せてビキニ姿で横たわるのが白人女性で、そのまわりでシャンパンを手に談笑しているのがすべて黒人男女・・・という点です。
別に他意のない組み合わせであるならいいですが、何か人種的な感情が絡んでいるのであれば“むかむかする”ものもあるかも。



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