(コンピュータウイルス「スタクスネット」感染でチェルノブイリ原発事故級の大惨事を引き起こす可能性もあったと報じられている、ロシアが建設したイランのブシェール原発 “flickr”より By revistanuevamineria
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【交渉物別れとイランの本音】
1月下旬にトルコ・イスタンブールで行われたイラン核開発に関するイランと6カ国の協議は、進展を見ないまま終了しています。
****イラン核協議、物別れ 開発遅れも譲歩姿勢みせず****
核兵器開発が疑われるイランと、国連安全保障理事会5常任理事国にドイツを加えた6カ国との協議が22日、トルコの最大都市イスタンブールで前日に続き行われた。イランの核開発は最近、国外からのサイバー攻撃で著しく妨害されているとも指摘され、イランは6カ国との交渉上、弱い立場にあったが、譲歩の姿勢を一切みせず、協議は次回日程も決まらないまま物別れに終わった。
6カ国側の代表である欧州連合(EU)のアシュトン外交安全保障上級代表は協議終了後、交渉に進展がみられなかったことに「失望している」と述べた。
イランと6カ国は2009年10月、イランの低濃縮ウラン1・2トンを国外搬出し、兵器転用しにくい形に燃料加工した上でイランに戻す案で合意したものの、後にイランがほごにしたことで頓挫。イランの低濃縮ウランは現在、再濃縮すれば核爆弾2~3個分に相当する3トン超に達しているとみられている。
今協議で6カ国は、低濃縮ウランの搬出量を増やすなどの修正案を用意したとされる。だがロイター通信によると、イランは交渉の前提として、(1)ウラン濃縮の権利容認(2)経済制裁の解除-の2条件を提示、前提条件を認めない6カ国との溝は埋まらなかった。
イラン核開発の中核である中部ナタンツの濃縮施設をめぐっては、昨年秋までに制御システムを誤作動させるコンピューターウイルスの攻撃を受け、核開発に2年以上の遅れが出ているとされる。今月16日付の米紙ニューヨーク・タイムズによると、このウイルスは米国とイスラエルが共同開発したものだという。
これが事実ならば、6カ国側には少なくとも、交渉に時間的な余裕があるのは確かで、当面は経済制裁の効果とイランの出方を見ながらの駆け引きが続く可能性がある。【1月23日 産経】
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ただ、表向きの“物別れ”とは別に、経済制裁による国民の不満の高まりなどを背景に、イランが打開策を探り出したとの見方も出ています。
****イラン核交渉譲歩探る*****
イランの核開発をめぐる協議が物別れに終わった。国連安保理常任理事国にドイツを加えた6カ国が求めるウラン濃縮停止を、イランが拒否したためだ。その一方、イランは濃縮ウランの一部放棄の表明を検討していたという。経済制裁による国民の不満の高まりなどを背景に、イランが打開策を探り出したとの見方が出ている。
21、22日にトルコのイスタンブールで開かれた協議で、イラン最高安全保障委員会のジャリリ事務局長は「平和目的の核開発は権利だ」と改めて強調し、ウラン濃縮の停止要求を拒んだ。これまでの強硬姿勢を貫き、協議は決裂したかのような印象を与える。
しかし、イラン協議筋によると、6カ国側が核開発の権利を認めて制裁解除を約束すれば、次の段階として昨年2月に着手した20%濃縮ウランの生産を停止し、蓄積した40キロを国外に搬出する譲歩案を提示する構えだったという。(中略)イラン協議筋は今後、技術的な点を詰めるための協議が行われ、イラン側が譲歩する可能性を示唆した。
経済制裁の解除狙い
中部ナタンズのウラン濃縮施設が昨年11月、米国やイスラエルの関与が指摘されるコンピューターウイルス「スタクスネット」によるとみられる攻撃を受け、アフマディネジャド大統領は二部の遠心分離器が停止した」と認めた。(中略)
米国や欧州連合などによる経済制裁も効いているようだ。イランは世界有数の産油国でありながら製油所が老朽化し、国内需要の約3割のガソリンを輸入してきた。だが、制裁の影響で外国資本は相次いで撤退。独自に増産を急いだ結果、粗製乱造で大気汚染を深刻化させたとして国会で問題視されている。
輸入品を中心に物価も上昇しつつある。大衆人気に支えられるアフマディネジヤド政権にとって、国民の不満の高まりは命取りになりかねず、制裁の解除は是が非でも実現したいというのが本音だ。【1月25日 朝日】
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【イラン核兵器保有「2015年説」】
交渉のカギとなるのは、イランの核開発がどの程度進展していて、具体的には核兵器を手にするのがいつになるのかという点です。
2009年にイスラエルのバラク国防相は、2011年までにイランが核兵器を獲得すると発言しているように、イランに危機感を持つイスラエルを中心に、イランの核兵器保有が間近に迫っているとの見方がこれまで示されてきました。
しかし、1月7日付けのイスラエルの『ハーレツ』紙のインターネット版の報道によれば、イスラエルの対外諜報機関モサドの長官を8年間務めたメイル・ダガンが、モサド長官からの退任直後のイスラエル議会の外交国防委員会での説明の中で、イランの核兵器獲得は2015年以降になると発言して、関係国を驚かせています。
このダガン長官の発言の背景には、イラン核施設攻撃にはやるネタニヤフ首相を牽制するために、あえて国際社会を安心させる発言をした・・・との見方があるようです。
****イラン核武装「2015年説」の真相****
イランが核兵器を製造するまでには少なくとも4年はかかる 退任を間近に控えたイスラエル対外情報機関モサドのメイル・ダガン長官は1月上旬、記者たちにこう語り世界を驚かせた。
これまでイスラエルは国際社会に行動を促すため、イランをめぐる緊迫した警告を発してきた。09年にはバラク国防相が、11年までにイランは核兵器を製造できるようになるとの見解を示した。
経済制裁や「妨害工作」によってイランの開発を遅らせたのは確かだ。しかし、せっかくイラン政府が圧力を感じ始めているなかで、なぜイスラエルの情報機関の長官が国際社会を安心させるような発言をしたのか。
ダガンは単に、自分の任期中にイランの核開発は進展しなかったと示そうとしただけなのかもしれない。しかしもっと可能性がありそうなのは、ネタニヤフ首相が早まってイラン核施設の攻撃を決めかねないとダガンが懸念している、という線だ。
ダガンの見解を知る人々によると、彼は対イラン攻撃は間違いであり、問題を解決できないままイスラエルを激しい戦争に追い込みかねないとみているという。「決断を追られるまでは、時間も選択肢もたっぷりあるとダガンは考えている」と、ある人物は語る。
「2015年説」を公の場で語ることで、ネタニヤフが内閣やアメリカ、国内世論に対しイラン攻撃の正当性を主張しにくくしたのかもしれない。
イスラエルのイディオト・アハロノト紙は先週、ネタニヤフがダガンに激怒していると報じた。ダガンの発言について尋ねられたネタニヤフは、「情報機関の予測はあくまでも予測だ。最良のものから最悪なものまである」と語った。
確かにそのとおり。だがダガンが2015年説を語った会見の出席者によれば、彼はこの説は「最悪のシナリオ」であり、「世界が何もしなければイランは早くて15年に核兵器を手にするだろう」と語ったという。
ネタニヤフの姿勢に異を唱えているのはダガンだけではない。2月に退任するアシュケナジ軍参謀総長も、イラン攻撃に前向きでない意向を示した。ハーレツ紙によると、アシュケナジはペレス大統領とイスラエル軍大将2人に、「自分の見解を聞くと首相に約束してもらうように」と要請したという。これがバラクの怒りを買い、アシュケナジの退任につながったとの指摘もある。【2月2日号 Newsweek】
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なお、「2015年説」は楽観的に過ぎるとの見方もあります。
****イランの核武装、来年中にも実現する可能性=英国防相****
リアム・フォックス英国防相は31日、西側諸国はイランが来年中にも核兵器を保有する可能性を前提に問題に取り組むべきとの考えを示した。2015年までにイランが核武装するとのイスラエル情報当局による見方は、過度に楽観的である可能性があるとしている。
イスラエルの対外特務機関モサドのダガン前長官は先に、イランの核兵器保有は2015年以降になるとの見方を示していたが、フォックス国防相は議会での質疑で「特に北朝鮮で起きたことを考えれば、国際社会が事態を実際より楽観視して追い込まれることがあることを、われわれは過去の経験から分かっている」とし、イランが2012年中に核武装することも十分可能だと認識すべきだと述べた。【2月1日 ロイター】
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【コンピュータウイルス「スタックスネット」】
ことの真相、ダガン発言の真意はわかりませんが、イランの核開発の遅れの大きな原因のひとつと考えられているのは、イラン核施設のコンピュータ・システムがウイルスに感染した件で、アメリカ政府当局もこのウイルス感染でイラン核開発に2年以上の遅れが出ているとの見方を示しています。
****イラン核開発に2年の遅れ=ウイルス感染で分析―米****
ロイター通信は12日、米政府当局者らの話として、イランのウラン濃縮関連設備のコンピューター・システムがウイルスに感染したことで、同国の核開発に2年以上の遅れが出ているとの見方を伝えた。また、米情報機関は、イラン政府が核兵器製造を決定していないと判断しているという。
同通信によると、イスラエルの情報機関は、イランの核科学者の暗殺やコンピューター・システムのウイルス感染が核開発を遅らせていると分析。米国の専門家の一部もこれを支持している。【1月13日 時事】
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この「スタックスネット」と呼ばれるコンピュータウイルスは、アメリカとイスラエルが共同で開発したイラン核施設にターゲットを絞ったもので、いわゆる“サイバー攻撃”にあたると言われています。
****イラン核施設、サイバー攻撃で深刻ダメージか****
イランの核施設を標的とした「スタックスネット」と呼ばれるコンピューターウイルスが、イラン核開発計画の中核である中部ナタンツのウラン濃縮施設に深刻な影響を与えた可能性が強まっている。
イランの核開発が遅れることで、イスタンブールで21日から始まった核協議でも欧米は有利な立場から交渉に臨める。
米紙ニューヨーク・タイムズによると、ウイルスは米国とイスラエルが共同で開発した。ウイルスは、遠心分離器を制御するコンピューターソフトを誤作動させ、機器を異常に高速回転させて破壊する。一方で、正常な動作を示す偽装データを送るため、異常が発覚せず、緊急停止などの防護措置を取れない。【1月22日 読売】
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【チェルノブイリ原発事故級の大惨事の可能性もあった】
ただ、危ういのは、このコンピュータウイルス「スタックスネット」によってイラン南部のブシェール原発が大惨事を引き起こす可能性があったと報道されていることです。
****イラン:ブシェール原発へのサイバー攻撃 あわや惨事か****
イラン南部のブシェール原発がコンピューターウイルス「スタックスネット」に感染した問題で、AP通信は31日、感染が原因で86年4月に旧ソ連のウクライナで起きたチェルノブイリ原発事故級の大惨事につながる可能性があったと報じた。
AP通信はこの問題に関する報告書を入手。西側諸国の情報機関が作成したものとみられる。それによると、ブシェール原発は昨夏以降、サイバー攻撃を受けてウイルスに感染。原子炉が一時制御不能になり、崩壊する恐れがあった。その場合、小型核爆弾1個ほどの威力だったという。
ロシアのロゴジン駐北大西洋条約機構(NATO)大使は先週、同様の指摘をし、NATOによる調査の必要性を訴えていた。(後略)【2月1日 毎日】
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上記報道にある指摘が真実なのか、アメリカ・イスラエルのサイバー攻撃を牽制するためのものなのか・・・そのあたりはよくわかりません。