
(テヘラン 2月14日 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/5447204575/ )
【イラン:「米国に支配された指導者」に対する「イスラムの目覚め」】
チュニジア・エジプトの政変は中東独裁・長期政権国家を大きく揺さぶる形で“中東民主化ドミノ”の様相を呈しており、各国とも「アメとムチ」の対策に追われています。
“民主化”をいつも高く掲げるアメリカが、中東戦略の要でもあるエジプトの親米ムバラク政権の動揺・イスラム過激派台頭の懸念から、今回抗議行動への対応が不透明・迷走した感もあったのに対し、その宿敵イランは最高指導者ハメネイ師がエジプト反大統領デモを「イスラムの目覚めによるものだ」と称賛、アフマディネジャド大統領も「32年前に我々が成し遂げた革命が、中東や北アフリカで(イスラムの)目覚めを呼び起こした」、「勝利を信じて最後まで闘ってほしい。悪者(ムバラク大統領)は最終的には去ることになろう」と、親米ムバラク政権崩壊に期待感を示していました。
****エジプトデモ:ハメネイ師が称賛 「イスラムの目覚め」*****
イランの最高指導者ハメネイ師は4日、金曜礼拝の演説でエジプトのムバラク政権を強く批判し、同国で続く反大統領デモを「イスラムの目覚めによるものだ」と称賛した。「ムバラク後」にイスラム主義の台頭を警戒する米国やイスラエルを刺激しそうだ。
テヘランからの報道によると、ハメネイ師はムバラク大統領を「米国に支配された指導者」と表現。イスラエルと平和条約を結んだエジプトが「パレスチナ住民の最大の敵」となったと非難した。
イランは11日がイスラム革命(79年)の記念日で、政府は国威発揚に努めている。ハメネイ師は、エジプトでの動きが「イスラム革命を手本にしたもの」と指摘した。エジプトでは今後、穏健派イスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」の影響力が強まるとの見方が出ており、米国やイスラエルは警戒している。【2月5日 毎日】
******************************
【「ムバラク政権とイランの権威主義的支配者は驚くほど似ている」】
09年6月の大統領選直後に数十万人規模のデモが起きたイランも、内心では自国への波及に不安を持っていたとは思いますが、実際、これまで力で封じ込まれていた反体制派がエジプト政変にならって行動を起こす形で、影響はイランにも飛び火しています。
****エジプトと同じ方法で…イラン改革派がデモ計画****
イランの改革派主要政党「イスラム・イラン参加戦線」は12日、エジプトのムバラク大統領辞任にあたり声明を発表。
その中で、「ムバラク政権とイランの権威主義的支配者は驚くほど似ている」と指摘し、「我々も(エジプトの反体制派と)同じ方法で戦っていく」と述べ、反政府デモ再開を目指す考えを示した。改革派は、14日に、エジプト反体制派を支持するデモを計画している。
イランのイスラム体制は、エジプトの反体制デモを支持し、その様子を国営テレビでも大々的に報道している。だが、ムバラク氏退陣が実現したことで、下火になっていたイラン改革派の反政府運動が再燃するかどうか注目される。【2月12日 読売】
****************************
【イラン反政府行動・衝突再燃】
首都テヘランでは14日、アフマディネジャド政権に反発する市民ら数千人がデモ行進、治安部隊の激しい弾圧で市民1人が死亡、多数が負傷する事態となっています。
****中東:イランなど各地で反政府デモ エジプトに触発され*****
・・・・ファルス通信によると、「扇動者」の発砲で市民1人が死亡、多数が負傷した。治安部隊が催涙弾などでデモ隊に応酬し、数十人を拘束している模様だ。イラン当局はこうした反政府運動の弾圧を徹底している。
デモは、保守派のアフマディネジャド大統領に反発する改革派のムサビ元首相やカルビ元国会議長が呼びかけていた。
若者らが「独裁者に死を」などのスローガンを掲げてテヘラン市内を行進し、治安部隊が催涙弾を発射したり、棒で殴るなどして抑え込んだ。この日、中部イスファハン、南部シラーズでも同様のデモがあった。
ムサビ氏らは「(反政府デモを展開した)エジプトやチュニジア国民を支持する」という名目でデモ許可を治安当局に事前申請していた。これに対し、当局は反政府デモに転化するのを恐れ、この数日間でデモ計画の関係者を相次いで逮捕し、ムサビ氏を自宅軟禁状態にした。(後略)【2月15日 毎日】
*********************************
14日の衝突による死者が出たことで、反政府市民側と政府の間で非難の応酬が繰り広げられています。
****イラン:デモ犠牲者めぐり衝突*****
イランの首都テヘランで14日に起きた大規模デモで犠牲者を出した責任を巡り、反政府側の市民と政府との間で激しい応酬が繰り広げられている。死亡した1人の男性について、反政府側の市民は「芸術を専攻する学生」とする一方、政府側は「(革命防衛隊傘下の)民兵組織バシジの青年だ」と主張。16日の男性の葬儀会場では双方の主張がぶつかり、衝突に発展した。
数千人が参加した14日のデモでは、当局が催涙弾などで応じ、2人の死者が出た。うち1人の男性の身元について、改革派ウェブサイトや国際人権団体は、芸術を学ぶ26歳の大学生として証明写真も掲載する一方で、革命防衛隊系ファルス通信は、バシジに所属する“身内”の男性と主張している。
今回のデモについて、政府や保守派国会議員らは「米国やイスラエルが扇動したものだ」とし、犠牲が出た責任もデモ参加者側にあると主張。デモを呼びかけた改革派ムサビ元首相やカルビ元国会議長らを激しく糾弾している。16日にテヘランであった葬儀では、男性を追悼する反政府側の市民に対し、政府支持者は「偽善者に死を」と叫んで衝突した。
**********************************
イラン国会では、議員200人以上が連名で15日、14日のデモを扇動したとして改革派のムサビ元首相とカルビ元国会議長の訴追を求める声明を出しています。
“声明は「ムサビ、カルビ氏はエジプト国民のためなどと言いながら米国やシオニスト政権(イスラエル)のために働いた」と非難。声明を読み上げる際、一部の議員らが「(2人を)死刑にしろ」と声を上げたという。”【2月16日 毎日】
【米:「イラン市民の普遍的人権を支持する」】
こうしたイラン情勢に、エジプト政変時とは攻守所を変える形で、アメリカがイランの反政府行動弾圧を厳しく非難しています。
****イラン政府、米国務長官のデモ支持発言に反発*****
イラン外務省は15日、同国の反政府デモ参加者の「勇気」を称賛したヒラリー・クリントン米国務長官の発言について、「混乱と錯乱から発せられたもの」だと反発した。
イラン外務省報道官は、「米高官が最近発しているコメントは、この地域が変化したことによる混乱と錯乱から生じたものだ」と述べ、「この変化は支配権力とシオニスト体制の支援者らに大打撃を与えた。だから、そういった発言をすることで問題を退けようとしているのだ」と語った。
エジプトのホスニ・ムバラク前大統領の辞任以降、米国とイランは舌戦を繰り広げている。イラン政府は、ムバラク氏の辞任を米国とイスラエルの「敗北」と呼び、米政府はエジプトの抗議デモがイランにまで広がることを願っていると主張している。
14日にはクリントン氏が、テヘランで反政府デモに参加した人びとを称賛した。
クリントン長官は「われわれは、イラン各地の都市で路上に出た勇敢な人びとや野党勢力が、エジプトの仲間たちと同じ機会を得られることを望んでいる」と語った。さらに、「イラン市民の普遍的人権を支持する」と述べ、ムバラク氏を追放したデモ隊と「同じ権利をイラン市民も持つのは当然であり、それは彼らの生まれながらにして持つ権利なのだ」と述べた。
また、エジプトからイランまで抗議行動の参加者たちが政治的自由の要求にインターネットを利用するなか、クリントン氏は、自由で開放されたインターネットが必要との従来からの主張を繰り返した。
14日のイランの反政府デモでは、2009年6月の大統領選挙後の反政府デモのときと同様、外国メディアは現地取材を禁止されている。【2月15日 AFP】
**********************************
アメリカ・オバマ大統領も、「エジプトで起きたことを祝福するふりをしながら、実際には国民を射殺したり、殴ったりしているのは皮肉だ」とイランを非難しています。
****米大統領:イランのデモ弾圧を批判 中東諸国に改革求める*****
オバマ米大統領は15日に記者会見し、反政府デモが拡大する中東情勢について「世界は変わりつつある。立ち遅れてはならない」と訴え、各国の指導者に政治・経済改革を促進するよう改めて求めた。「抑圧では権力を維持できない」とも述べ、特にイラン政府のデモ弾圧を厳しく批判した。
イラン政府の対応について、大統領は「エジプトで起きたことを祝福するふりをしながら、実際には国民を射殺したり、殴ったりしているのは皮肉だ」と指摘した。
また中東情勢には「明らかに懸念を抱いている」とし、「より多くの機会を求めている若者」の不満解消が安定化への鍵であると主張した。
一方で大統領は表現の自由など「普遍的価値を支持する」一方で、社会変化が「混乱や暴力につながらないことを望む」と強調した。エジプト政変の際も「米国が争点にならないように気を使った」と述べ、イラン国民にも「イラン国内のことを米国が決定することはできない」と理解を求めた。内政介入による反米感情の高まりや、政権側の政治利用を避けたいとの意向があるとみられる。【2月16日 毎日】
*****************************
【「彼らが投げた砂は、彼らの目に入るだろう」】
アフマディネジャド大統領は、改革派指導者の処分も示唆しながら、反政府行動封じ込めを徹底する構えです。
****投げた砂は目に入る…イラン大統領デモ弾圧へ*****
ランのアフマディネジャド大統領は15日、国営テレビのインタビューで、改革派による反政府デモについて、「目的を達成することはないだろう」と述べ、封じ込めを徹底する考えを示した。
英BBC放送が伝えた。大統領は「彼らが投げた砂は、彼らの目に入るだろう」とし、改革派指導者のミルホセイン・ムサビ元首相らの処分を示唆した。
BBC放送などによると、イラン国会では15日、保守派議員らが「ムサビに死を」などと叫びながら議場を行進し、ムサビ元首相らは死刑に処されるべきだとする声明を出した。【2月16日 読売】
********************************
イラン対アメリカの舌戦以外では、近年、欧米とイランの仲介者の役割を担う形で存在感を示しているトルコもイランの弾圧を批判しています。
****トルコ大統領、会見同席のイラン大統領批判*****
トルコのアブドラ・ギュル大統領は14日、訪問先のテヘランで行った共同記者会見で、同席したイランのアフマディネジャド大統領を横目に、「国民が求める政治・経済改革に真剣に取り組むべきだ」と述べ、改革派を弾圧し続けるイラン指導部を批判した。
イランの改革派系紙「シャルグ」(15日付)が報じた。
ギュル大統領は、「国家指導者が国民の要求に注意を払わなければ、国民が要求達成のため(デモなどの)行動を起こすのを我々は目の当たりにすることになる」とも述べ、イラン改革派の反政府運動に理解を示した。トルコはこれまで、欧米が反対するイランの核開発に一定の理解を示し、欧米とイランの仲介者の役割を担ってきた。【2月16日 読売】
******************************
現実問題としては、革命防衛隊傘下の民兵組織バシジを擁するイランでは、なかなか反政府行動の広がりも難しいところがありますが、あのリビア・カダフィ政権下でも反政府行動が起きている現状ですので、今後の展開が注目されます。
なお、イランが79年の革命以来初めてスエズ運河に軍艦を差し向けていることが報じられ、イスラエルが激しく反発していましたが、結局、スエズ運河通過の計画を断念し引き揚げたとAP通信が伝えています。
地中海に艦船を展開させるイスラエルへの示威行動、あるいは、イスラエルとの協調関係を維持する姿勢を示しているエジプト軍最高評議会への揺さぶりとも見られています。
いろんなことをしかける国です。