孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン・ロウハニ大統領 就任から1年 今後は核問題交渉の進展具合次第

2014-08-04 23:34:15 | イラン

(6月9日 トルコ訪問時のロウハニ大統領(左)とトルコのギュル大統領 “flickr”より By Yerevan News https://www.flickr.com/photos/98979659@N04/14387472171/in/photolist-nYMYfX-nYMZWc-nGixdQ-nGiyZ5-nGihPt-nF4G2d-o9dseo-ossTNi-oquS19-oqFxT3-nZrZDj-nGiuEw-o2meFt-nZrYMu-nXwiRj-o2mfbX-o1CxxM-nYFdPh-nJ97m1-nxRy8A-nVnye2-nCKU61-o7KpqF-nWYVuM-nEvoY8)

国際的孤立からは抜け出す
8月3日、保守穏健派とされるイランのロウハニ政権が誕生して1年を迎えました。
この間、イランを取り巻く国際関係の緊張はある程度緩和し、懸案事項である経済は若干の回復の兆しを見せています。

しかし、自由の拡大は保守強硬派の抵抗もあって殆ど進んでいません。

まず、対外関係については、核開発問題を巡る主要6カ国(米英仏中露独)との協議が続く中で一定に改善しており、国際的孤立からは抜け出しています。

****強硬派との対話がカギ****
「イランは、米国とイスラエルの結束や、アラブ諸国の団結をある程度崩し、自国に対する暗く、悲観的な雰囲気を軽減した」

元国会議員のファラハピシェ・アラメタバタバイ大教授は取材に対し、イラン核協議の進展が対外関係の改善を後押ししたと指摘する。

ロウハニ師は対話外交を重視し、イラン革命(1979年)後の在イラン米大使館占拠事件以降、断交していた米国のオバマ大統領との電話協議を実現。

昨年11月には、米欧など6カ国との核交渉で暫定合意にこぎ着け、一部制裁緩和も引き出した。

その結果、経済制裁の全面解除後のイラン市場を狙う各国の動きが活発化し、イランへの対応が軟化した。

シリア内戦で対立していたトルコは、経済協力を積極的に働きかけ、敵対していたイスラム教スンニ派国家サウジアラビアも5月末、「中東地域の安定に協力したい」とイランのザリフ外相の招待を表明した。

ファラハピシェ教授は「オマーン、クウェート、カタールも緊張緩和に向き始めた。サウジとイランの接近はイスラム世界の平和に貢献する」と期待する。

核開発をはじめとした重要政策は、最高指導者ハメネイ師の専権事項だ。ハメネイ師に近い強硬派とうまく渡り合いながら、国内外の課題に対処できるか、ロウハニ師の手腕が試される。【8月3日 毎日】
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主要6カ国との核問題をめぐる包括交渉は「著しい隔たり」を残しており、最終合意に漕ぎつけるかは不透明ですが、11月24日まで4カ月延長することが決まっており、9月初旬に再開予定です。

イランにとっては、この協議を続けている間はイスラエルから核施設攻撃を受ける心配はありません。(イスラエルも今はガザ地区で手いっぱいでしょうが)

****イラン核:協議延長合意もウラン濃縮巡り「著しい隔たり*****
イラン核問題を巡りウィーンで開かれていた同国と主要6カ国(米英仏中露独)の包括交渉は19日、今月20日の交渉期限を11月24日まで4カ月延長することで合意した。

ただ、双方の間にはイランのウラン濃縮規模を巡り「著しい隔たり」がある。交渉をリードする米国とイラン両国とも国内に安易な妥協を許さない勢力を抱えており、最終合意の可能性は不透明な状況だ。

「1万9000基は明らかに多い」。ケリー米国務長官は15日の記者会見で、イランが現在保有するウラン濃縮用の遠心分離機を削減することを求めた。

一方、イランは「核の平和利用の権利」を主張。最高指導者ハメネイ師は8日に「19万基必要」と、現在の10倍の台数を提示した。(中略)

経済再生を掲げて当選したロウハニ大統領の就任から8月で1年。
原油の禁輸や金融取引停止などの経済制裁は解除されておらず、経済の立て直しからはほど遠い。

国内には強硬路線を維持したい勢力も存在する。核交渉の最終合意にこぎ着け、経済制裁の全面解除を引き出さなければ国民の怒りが政権に向かう可能性もある。

一方、オバマ米政権が交渉期限の延長を受け入れたのは、長年「敵」と見なしてきたイランに、核問題という国家安全保障上の重要分野での外交成果に期待をつないだ側面がある。

ケリー国務長官は延長決定後の声明でイラン核問題は「世界で最も優先順位の高い問題の一つだ」と述べ、解決の必要性を強調。アーネスト大統領報道官は「最終合意の確かな見通しがある」と前向きの姿勢を示した。

ただ、11月の中間選挙で野党・共和党が上院も支配する事態になれば、「交渉妥結は極めて困難になる」(議会筋)との見方がある。

中東の同盟国でイランを強く警戒するイスラエルやサウジアラビアも厳しい目を向けており、関係各国まで納得させる包括合意の実現は至難の業だ。【7月19日 毎日】
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パレスチナの人々へ連帯を示す「コッズ・デー(エルサレムの日)」の7月25日には、イランの770都市でイスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区への攻撃に対する抗議デモが行われました。

パレスチナ・ガザ地区のハマスがイスラエルのテルアビブ、エルサレム、更には核施設があるディモナにまでロケット弾を撃ち込めるようになったことがイスラエルの危機感を強め、現在の厳しい攻撃の背景ともなっていますが、これらのハマスの長距離ロケット弾はイランが提供したものと思われています。

前任者アフマディネジャド大統領であれば、そうした“成果”をアピールし、激しくイスラエルを非難するところでしょうが、ロウハニ大統領はイスラエルを刺激することを避けて非常に抑制的です。

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デモは世界各地で毎年行われ、イランでは大統領が演説するのが恒例だが、この日、ロウハニ大統領は就任後初のデモが行われるなか、演説しなかった。

核協議の進展で諸外国との対話ムードが広がるなか、イスラエルを刺激したくないとの思惑があるとみられる。

テヘラン市内のデモに参加したロウハニ師は、アフマディネジャド前大統領が昨年の演説で「この地域にイスラエルの場所はない」と強調したのとは対照的に、「ガザの平和を望む。イスラエルを前に、イスラム教徒が団結して抵抗するしかない」と報道陣に述べるにとどめた。【7月26日 毎日】
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インフレは改善、しかし経済成長は未だ
欧米諸国の制裁で疲弊した経済の立て直しについては、“どん底の経済にも薄日が差しつつある”【8月3日 朝日】といったところですが、今後の核問題に関する協議が進展して本格的な制裁緩和が取られないと、国民の期待は失望・怒りに変わる危険な状態が続いています。

****制裁緩和には道筋****
・・・・11月には核開発の縮小を米欧など6カ国に約束、原油売り上げ42億ドル(約4300億円)の資産凍結が解除された。

核開発に絡む欧米からの制裁で低迷する経済も上向きつつある。

国際通貨基金(IMF)が4月に出した報告書によると、インフレ率は昨年の年35%から年23%に改善。「経済の安定に前進した」と評価を受けた。

ただし、失業率は高止まりし、18~25歳の若者では45%。大卒でも職がなく、将来への不安が渦巻く。20年前に4%あった出生率は1・3%に下がった。【8月3日 朝日】
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イラン中央銀行の発表によれば、インフレ率は“就任時(昨年8月)の43・1%から14・6%(今年6月末)に改善した。”【8月4日 毎日】とも。

ほぼ一直線に右肩下がりに低下していますので、今後も期待が持てます。

しかし、失業率の高止まりに見るように、経済成長は予想(期待)ほどは改善していません。

この原因は、“穏健派を重用した人事で能力のない人間が入閣し、国内強硬派の、特に国会議員が足を引っ張った。また、(制裁緩和など)国際分野でロウハニ師が目指した水準まで前進がなく、創造的な政策もなかった。”(イランの経済アナリスト、セイエドホセイン・ガセミ氏)【8月4日 毎日】と報じられています。

イラン側からの日本への働きかけも行われています。

****イラン、対日関係テコ入れ 閣僚が相次ぎ来日****
核開発問題を巡り米欧との協力で合意したイランが対日関係のテコ入れに動いている。
過去1カ月の間に重要閣僚2人が相次ぎ来日。

2日、都内で記者会見したエブテカール副大統領兼環境庁長官は環境、自動車、石油分野について「イランには多くの機会がある。日本の投資を歓迎する」と述べ、経済関係の再構築に意欲を示した。

記者会見に先立ち、エブテカール副大統領は石原伸晃環境相と、水質管理など環境5分野での協力覚書を締結。湿地保護対策で国際協力機構(JICA)との協力実績にも言及した。

イランでは2013年8月に穏健派のロウハニ政権が発足。米欧との対話を通じ核開発の縮小を受け入れることで合意した。第1段階として1月に米欧が自動車産業への制裁や石油化学製品の禁輸を一時停止した。

3月初めに日本を訪れたイランのザリフ外相は「日本が不在になって久しい」と語り、日本企業の早期復帰を呼び掛けた。制裁でイラン経済は大きな打撃を受けた。人口増で若年層の雇用環境は厳しく、外国投資誘致は切実な課題だ。

イタリア炭化水素公社(ENI)など欧州石油メジャーや仏系自動車メーカーがイランでの活動再開の意欲を表明している。米国は最終合意に至らない段階での欧州勢のイラン・ビジネス再開の動きをけん制する立場だ。【4月3日 日経】
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【難しい「自由な社会」・・・・ハメネイ師との摩擦を避けている
公約に掲げた自由な社会の実現は厳しい状況です。

****司法と宗教、改革が停滞****
イラン政府は表現の自由を厳しく制限し、体制への批判には警察や民兵が目を光らせてきた。出版物や映画は発表前に検閲し、ネットについても欧米メディアやツイッターなど約500万カ所への接続を制限する。

ロハニ氏は、そんな息苦しい社会を変えると選挙戦で訴えたが、変化はまだ見えない。

7月、ネット上で体制を批判した若者8人に、禁錮11~21年の判決が下ったと報じられた。5月には、曲にあわせてダンスする動画をユーチューブに投稿した6人が逮捕された。

ロハニ氏と大臣の全員がフェイスブックに自身のページを持つが、国内からは閲覧できない。

政治評論で知られるテヘラン大のサデグ・ジバキャラン教授は、核開発に使う巨額の資金を教育や福祉に回してはどうか、と記した公開書簡を強硬派の国会議員に送ったことが罪に問われている。

5月下旬、裁判所で「最高指導者や国会、政府に異を唱え、人心を混乱させた」と検事に告げられ、3週間後に届いた文書で「禁錮1年半を命じる」と言い渡された。

ジバキャラン氏は「司法制度が特定の政治勢力に利用されている」と憤り、控訴中だ。

「すべての政治犯の釈放」も公約だが、2009年の反政府デモで中心となった改革派のムサビ元首相らは自宅軟禁のままだ。

イランの大統領は行政機関の長に過ぎず、上位には最高指導者のハメネイ師がいる。

ロハニ氏は司法や宗教に関わる問題では、ハメネイ師との摩擦を避けているとみられる。
その結果、両分野に関わる政策では、改革が停滞しているようだ。

これには「上ばかり見て国民を見ていない」(イラン人記者)と批判もくすぶっている。【8月3日 朝日】
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この問題に関しては、保守強硬派の壁がいまだ厚いようです。
核問題の包括交渉が進展して制裁が本格的に緩和され、経済が上向く状況になれば、ロウハニ政権の国内での発言力も高まり、自由拡大にも薄日が差します。

逆に、交渉も制裁緩和も進展しなければ、政権は力を失い、自由の拡大もかなわぬ夢となります。

****イラン大統領:「自由な社会」道半ば 国際的孤立は脱却****
・・・・米国人歌手の大ヒット曲「ハッピー」に合わせて踊る動画をインターネットサイト「ユーチューブ」に投稿したイランの若者6人が逮捕された。

「社会の道徳を傷付けた」とするテヘラン警察署長に対し、表現の自由を巡り国内外から批判が相次いだ。

ロウハニ師は事件後、当選時にツイッターに投稿した「ハピネス」で始まるメッセージを再投稿し、警察当局の対応を暗に非難した。

イランでは、フェイスブックやツイッターなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)への接続規制が前政権から続く。

中東民主化運動「アラブの春」のようにSNSを通じて体制批判が拡散するのを防ぐ狙いがあるとみられる。

ロウハニ政権下で、映画や出版の検閲緩和を進める文化・イスラム文化指導相のジャンナティ氏は「文化の活性化には、開かれた空間が必要」などと繰り返し、SNS解禁を訴える。

だが、国内強硬派を中心とした反対に阻まれている。

イスラム教シーア派最高権威の宗教指導者、マカレム・シラジ師にSNS解禁反対の理由を聞いた。シラジ師は「道徳、社会、政治的な堕落を招き、イスラム法の考えに反するため許されない」と携帯電話のショートメッセージサービス(SMS)で回答した。【8月3日 毎日】
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繰り返しになりますが、経済にしても、自由拡大にしても、今後の核問題交渉の進展による制裁緩和が実現できるかどうかにかかっています。

しかし、核問題は最高指導者ハメネイ師の専権事項であり、保守強硬派の壁も厚く、ロウハニ大統領の前途は厳しいと言わざるを得ません。
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