(決選投票の投票所 【6月14日 WSJ】 タリバンの影響が強い地域では、投票は命がけです。)
【800万票すべてについて、不正がなかったかを確認】
アフガニスタンでは4月5日に大統領選挙の初回投票が行われ、1位のアブドラ元外相と2位のガニ元財務相によって6月14日に決選投票が行われました。
この決選投票の暫定結果ではガニ元財務相がアブドラ元外相を10ポイント以上、上回りましたが、アブドラ元外相が大規模な組織的不正があったとして結果受け入れを拒否。一時は、それぞれの陣営による二つの政府が並立することも懸念されました。
アブドラ元外相を支持する少数派のタジク人、ガニ元財務相を支持する多数派のパシュトゥン人という民族対立が背景にあるだけに、政治混乱は容易に民族間の衝突につながります。
その後、今年末の撤退を控えてアフガニスタンの混乱を危惧するアメリカ・ケリー国務長官の仲裁によって、有権者が投じたおよそ800万票すべてについて、不正がなかったかを確認する調査の実施が決まりました。
報道によれば、最終結果発表後に両候補が挙国一致内閣を樹立することで合意したとのことですが、かなり玉虫色の合意のようでもあります。
“外交筋によれば、挙国一致内閣案は敗者が行政長官となり、約2年後のロヤ・ジルガ(国民大会議)での憲法改正を経て新ポストの首相に就任するという内容。取材に対し、アブドラ氏陣営の関係者は合意案を認めたが、暫定結果1位のガニ氏の陣営幹部は、「制度変更については合意していない」と明らかにした。”【7月28日 産経】
「不正の有無の確認」とは言っても、実際に両陣営が納得する形でどうやって行えるのか・・・難航することは容易に想像できますが、実際、難航しているようです。
****アフガニスタン:大統領選 決選投票の再集計が難航****
アフガニスタン大統領選で決選投票の再集計が難航している。
独立選挙委員会(中央選管)は約810万のすべての投票について不正を調査しているが、不正票の選別基準などを巡り両候補者がたびたび対立。26日には再集計の作業が3度目の中断に入った。
最終結果が出るまで当初は「3週間程度」と言われていたが、発表のめどは立っていない。(中略)
選管などによると、再集計は17日に始まったが、両陣営で不正票の判断基準が食い違うなどして作業が停滞。再集計が終わったのは、投票箱約2万3000個のうち1300個あまり。
オバマ米大統領は25日、両候補に電話で結束を保つよう求めたが、選管は26日、再集計を一時中断した。
関係者の協議を経て、ラマダン(イスラム教の断食月)明けの祝祭「イード」が終わる31日にも再開する方針だ。
新大統領は8月末にも就任する予定だが、再集計作業が停滞すれば遅れる可能性もある。【7月29日 毎日】
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【「カルザイ大統領と政府、国際社会は(ガニ氏の)勝利を望んでいる」】
6月の決選投票では、アブドラ元外相は得票率45%を確保した1回目から約50万票増えたものの346万票にとどまったのに対し、ガニ元財務相は1回目の2倍を超える449万票を獲得。
特に地盤の東部ホースト州で4・6倍、南部カンダハル州で7・6倍に増やすなど驚異的な得票数の伸びを見せました。
このあたりの票の動きを“不自然”と見るかどうか・・・・。
パシュトゥン人が暮らす上記地域で、初回投票時のパシュトゥン人候補がいなくなりガニ元財務相に一本化されたため、ガニ元財務相の得票が大幅に伸びた(実際に初回投票にそうした対立候補がいたのかそうかは知りません)・・・ということは可能性としてはあり得ますが、投票率自体が大幅に高くなっていることなどがどういう理由によるものなのか・・・・。
また、組織的関与を疑わせるものとしては、選挙管理委員会事務局長アマルヘイル氏とされる人物が、「ヒツジを持ってこい。カラにするな」「彼らはヤギを詰め込むために雇われた」と話している録音音声(ヒツジは投票箱、ヤギは票を意味しているという)が公表され、アマルヘイル氏は辞任に追い込まれています。
更には、副大統領の不正指示も表沙汰になっています。
****副大統領が不正指示か=元外相、極秘会議の録音暴露―アフガン大統領選****
アフガニスタン大統領選挙で、候補のアブドラ元外相は3日、カルザイ政権のハリリ第2副大統領が選挙管理委員会関係者らとの極秘会議で発言した内容の録音テープを公表した。
現政権が票の水増しなどの不正に関与した証拠だと主張している。
6月実施の大統領選決選投票では、選管が組織的不正があったと認めている。
今回新たな証拠が提示されたことで、アブドラ氏の対立候補であるガニ元財務相に、現政権が不正に勝利をもたらそうとした疑いが強まってきた。
極秘会議が開かれたのは決選投票前で、選管やガニ陣営関係者が出席していたとみられる。
ハリリ副大統領はこの中で「カルザイ大統領と政府、国際社会は(ガニ氏の)勝利を望んでいる」と発言し、「どのような手段を使っても(ガニ氏に)勝利をもたらせ」と指示していた。
アブドラ陣営幹部は記者会見で「この国では選挙結果はあらかじめ決められ、有権者の投票が全く無意味だったことが証明された」と批判した。【8月4日 時事】
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前回2009年選挙でも激しい不正が横行し、カルザイ大統領はアメリカなどの国際圧力で決選投票を行うことになりました。
このときも対立候補であったアブドラ氏は不正防止策として選挙管理委員会の委員長の更迭などを要求し、結局公正な選挙が期待できないとして、せっかく準備された決選投票をボイコットしました。
そうした経緯があって、選挙結果受け入れを拒否したアブドラ元外相については「またか・・・」という感もあり、当初「アフガニスタンの現状を考えれば、多少の不正は仕方ないじゃないか。結果は結果として受け入れないと・・・」という印象もありました。
しかし、副大統領の陣頭指揮での不正行為という話になると、また違ってきます。
【自立への第1歩 正念場のアフガニスタン】
NHKのドキュメント番組「投票できなかった3人の若者~アフガニスタン大統領選挙~」を観ました。
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従来はタリバンの勢力はさほど強くなったにもかかわらず、最近その力が大きくなってきている北部クンズドゥ州が舞台です。
選挙を妨害するタリバンによるテロを心配して投票を認めない父親。それでも新しい国の在り方を自分の1票でつくりたいという思いで、選挙に参加しようと悩む女性。
かつての内戦時は兵士で、今は武器を捨てたはずの農民。しかし復興が進まない現状にいらだち、タリバンから村を守る自警団として再び武器を取った元兵士。投票日はタリバンとの戦闘で、投票どころではありませんでした。
外国部隊の通訳として働いていた男性。裏切り者としてタリバンから命を狙われる恐怖の中で、投票日を前にドイツへ出国。
近年この地域で台頭したタリバンの兵士。もともとは農民であったが、政府の無策で暮らしが立ち行かず、タリバンに身を投じ、農民から税金を取り立てる側に。
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こうした人々の想い、苦悩にもかかわらず、選挙の意味を認めず不正で勝利しようとする政治家、腐敗・不正が横行して復興を進められない政治・・・なんともやりきれない思いです。
****タリバン1千人が検問所を襲撃、60人以上死亡 アフガン東部****
アフガニスタンのメディアによると、アフガン東部ナンガルハル州で29日、イスラム原理主義勢力タリバンのメンバー約1千人が当局の検問所を襲撃した。治安部隊との間で戦闘になり、タリバン側約60人と治安要員6人が死亡した。タリバンは、同州など首都カブール近郊での攻撃を強めている。【7月30日 産経】
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****アフガニスタン:外国人へ攻撃相次ぐ…軍人・警官が狙う****
アフガニスタンで駐留外国軍の兵士などが軍人や警官に攻撃される事件が相次いでいる。5日には首都カブールでアフガン軍兵士とみられる男が米軍幹部らを殺傷したほか、東部パクティア州でも警官が外国軍に発砲し負傷者が出た。こうした内部からの「インサイダー攻撃」は外国軍や治安当局の脅威になっている。【8月6日 毎日】
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今年末の外国部隊撤退を前にした、大統領選挙の混乱とタリバンの攻勢。
なんとか踏みとどまって、必死に生きる人々の暮らしが改善することになればいいのですが。