(欧米人であれば、帰国して丁寧な治療も受けられますが、現地ではただ死を待つばかり人々も “flickr”より By Khabar chitv https://www.flickr.com/photos/125034789@N08/14880432576/in/photolist-oEW7bm-oF4oCq-orsvyP-oJuCBA-oHMagW-orBStg-oJVEJw-ostgyg-oH1VMd-ossNXn-osnUPR-oK8GKG-oJQhhr-osnUkg-oEpxmy-osTXH9-orjhiM-orjfAS-oGGMjU-osqYaf-osuY2Z-osvk4a-oJjVtS-oJKySe-otaK9Y-oKKpXK-otfbHX-oKnWmF-oJY1SX-oJCpwe-oqG6SF-oss212-os8EwU-oq21Nb-ospgft-oqYot3-osUt6K-oqASxp-oHHU3W-oryXHm-oqBMR6-oryCSM-osmYnh-osNeyj-oJNzUW-oHRnn4-oH53f6-orC1Zg-oHX5Lg-oHhwt2)
【感染者数や死者数が実態よりも大幅に少なく見積もられている】
西アフリカのエボラ出血熱については、12日ブログ「エボラ出血熱 隔離地域住民に飢餓の危機 未承認薬使用が容認されたものの・・・・」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140812)で取り上げたばかりですが、危機的な状況がいよいよ明らかになっています。
****エボラ出血熱 WHO「実態はより深刻」****
西アフリカで患者が増え続けているエボラ出血熱について、WHO=世界保健機関は、感染の状況を完全には把握しきれておらず実態はより深刻だとして、国際社会と協力して支援を大幅に強化する姿勢を示しています。
エボラ出血熱を巡っては、感染または感染の疑いで死亡した人が西アフリカの4か国で合わせて1069人に上り、感染拡大に歯止めがかかっていません。
こうしたなかWHOは14日、声明を出し、現地で対策に当たっている専門家が、これまで報告されている感染事例や死者数だけではエボラ出血熱の感染の状況を完全には把握しきれていないとみていることを明らかにし、実態はより深刻だという認識を示しました。
そのうえで患者はさらに増え続けるおそれがあるとして、国際社会と協力して支援を大幅に強化する姿勢を示しています。
このうちアメリカのCDC=疾病対策センターは、西アフリカの国々で感染の広がりを分析するための支援を行っているということです。
また日本からは、長崎大学の熱帯医学研究所の疫学や統計学に詳しい専門家が、今月下旬からスイスのジュネーブにあるWHOの本部に派遣され、今後の流行の分析などに当たる予定です。
WHOは、こうした分析を現地での患者を隔離する施設の建設や医療スタッフの配置に生かしたいとしており、国際社会の支援を結集させることで感染拡大の防止につなげたいとしています。【8月15日 NHK】
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現地住民に病気が正確に認識されていない部分があること、現地医療体制が崩壊しつつあること、現地住民と医療スタッフの信頼関係が十分でないこと・・・・などを考えると、死者1145人、感染者2127人(8月16日 WHO発表)という数字より実態は更に悪いことが想像できます。
“WHOが公表する感染者数などのまとめは、各国政府のデータを基にしている。WHOは14日、感染者数や死者数が実態よりも大幅に少なく見積もられている可能性に言及しており、実際の感染者数などはさらに増えている可能性がある”【8月16日 毎日】
“世界保健機関(WHO)は14日、エボラ出血熱の流行規模がこれまで「大幅に」過小評価されてきており、拡大防止のためには「異例の措置」を講じる必要があるとの見解を表明している。”【8月15日 AFP】
現地の最前線で対応している国際医療支援団体「国境なき医師団(MSF)」のコメントも、「(エボラ出血熱は)私たちが対応しきれないほどの速さで悪化し拡大している」、「まるで戦時下のようだ」(MSF会長)と、悲壮感が漂っています。
【餓死者も懸念される隔離地域 見捨てられる感染者】
感染拡大だけでなく、前回ブログでも触れたように、感染拡大防止のため隔離された感染地域の状況も非常に懸念されます。
****エボラ隔離地域で食糧難=往来制限、「餓死の瀬戸際」―西アフリカ****
致死率の高い伝染病、エボラ出血熱の感染拡大が止まらない。死者は1100人を突破し、感染者も増える一方。
西アフリカの流行国や周辺国は、感染予防措置を強化しているが、医療設備や資金が不十分な中、万全の対策は困難。隔離地域では支援の手が届かず、住民が食糧難に陥るなど二次的な影響も生じている。
報道によるとシエラレオネ当局は、被害が顕著な東部を対象に「オクトパス作戦」と称する予防策を実施。検疫強化を目的に治安要員1500人を各検問所に配置し、通行人に監視の目を光らせている。
隔離地域への人の出入りは厳しく制限され、運び込めるのは最低限の物資のみ。市場も閉鎖されため食べ物が買えず、「餓死者が出る瀬戸際」(地元記者)の状態という。【8月16日 時事】
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“拡大防止のためには「異例の措置」を講じる必要がある”というWHOの見解にもあるように、隔離はやむを得ない措置でしょうが、隔離地域内住民の食糧・医療への配慮も必要です。
「感染拡大を封じ込めるための隔離には賛成だが、私たちが餓死する必要はない。診療所も閉鎖されている上、食べ物もなくなったら、どうやって生き残れというのか。エボラウイルスの犠牲者以上の人が死ぬことになる」(現地住民女性)【8月10日 AFP】というのは悲惨です。
治療体制もなく、病気の不安におののく住民の間では、下記記事のような悲劇も起きています。
****見捨てられた一家の死、恐怖が生む差別 エボラの悲劇 リベリア****
見捨てられたリベリアの村で唯一響き渡っていたのは、母親の遺体と共に自宅に閉じ込められ、飢えと渇きに耐えながら死を待つ少女の叫び声だった。
やがてこの少女、ファトゥ・シェリフさん(12)もまた、同国を含む西アフリカ諸国で1000人以上の犠牲者を出しているエボラウイルスに命を奪われ、その声を止めた。
AFP記者は10日、ファトゥさん一家が暮らしていたバラジャ村を訪れた。
すでに大半の住民がエボラ出血熱を恐れて森に逃げた後で、ファトゥさんは母親の遺体と共に1週間にわたり自宅に閉じ込められていた。
村のあちこちに住民たちの持ち物が散らばり、慌てて逃げたのか、ドアが開いたままになっている家もあった。
村にとどまったごく少数の住民のうちの一人、地元指導者の70代の男性が、ファトゥさんの身に起きた恐ろしい出来事を記者に語った。
リベリアの首都モンロビアから約150キロ離れたバラジャ村は、同国でエボラ出血熱の拡大を防ぐために設定された隔離地域のうちの一つの中心部に位置している。
地元指導者によると、ファトゥさん一家で最初にエボラ感染が確認されたのは先月20日、父親(51)が病に倒れた時だった。
村の500人ほどの住民たちは診断結果を知ってパニックになった。通報を受けた保健当局が派遣したチームが到着した時には、父親は死後5日が経過していた。
助けを乞い続けた少女
ファトゥさんと母親(43)は既にエボラを発症していたが、兄のバーニーさん(15)だけは陰性の検査結果が出ていた。
地元指導者によると、父親の遺体を収容した保健当局は、村人たちにファトゥさんとその母親には近づかないよう警告。「2人は朝から晩まで隣人に食べ物を求める叫び声を上げていたが、皆が怖がっていた」という。
母親は今月10日に死亡したが、ファトゥさんの叫び声は聞こえ続けた。一家の自宅のドアや窓はふさがれ、中の様子をうかがい知ることはできなかった。
12日に再びAFPの取材に応じた地元指導者は、ファトゥさんが前夜に水も食料もないまま孤独な死を迎えたと語った。
AFP記者は10日、見捨てられた家屋の一軒にいた兄のバーニーさんを発見。やつれて、汚れたTシャツとすり切れたサンダルを身に着けたバーニーさんは、涙ながらにこう語った。
「誰も僕に近づこうとしない。僕がエボラに感染していないことを知っているのに。お腹がすいたら外で草を探す。それが神のおっしゃることだから、受け入れている」
地元指導者によると、一家を見捨てて村を去った住民らは、エボラ拡大を懸念する近隣の町の住民から嫌がられているという。
リベリアの保健当局は、この村で起きた出来事についてコメントを拒否した。【8月13日 AFP】
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パニック状態で、医療知識も十分でない現地では、誤った情報が容易に拡散します。
****エボラ熱「塩水が予防」=迷信で2人死亡も****
世界保健機関(WHO)は15日、西アフリカで猛威を振るうエボラ出血熱感染に関し、ナイジェリアで感染予防になるとのうわさを信じた住民が塩水を飲み、少なくとも2人が死亡したと明らかにした。
WHOによると、誤った感染治療や予防の迷信がソーシャルメディアを通じて広がっている。迷信やうわさの中には、生命を危険にさらす恐れのある間違った情報が含まれているという。【8月16日 時事】
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【崩壊する医療体制】
本来は死活的に必要とされる医療ですが、エボラ感染を恐れる医療従事者が職務を放棄し、通常の疾患に対する医療を含めて、医療体制が崩壊しつつあるようです。
****エボラ出血熱:「危機的状況」…リベリアの日本人国連職員****
◇「日本も医療物資の送付や医師、看護師の派遣の支援を」
西アフリカ・リベリアでエボラ出血熱の感染拡大を防ぐため、医療物資の配布などを行っているリベリア国連平和維持活動事務所の総務担当官、池田明子さん(47)が毎日新聞の取材に応じた。
池田さんは「多くの住民が病気への知識がなく、感染が広がる一方、医師や看護師が病気を恐れて診察を中止している。首都モンロビアの病院はほとんど閉鎖され、危機的状況にある」と窮状を訴えた。
池田さんによると、リベリアでは死者が出ると、親族が遺体を抱擁したり、キスをしたりして「最後のお別れ」をした後に土葬する習慣があり、親族全員が感染するケースが後を絶たないという。
政府や国連はテレビやラジオを使ってエボラ出血熱の危険性を訴えているが、住民にまだ行き渡っていない。
またエボラ出血熱の初期症状はマラリアなどと似ているため、住民がエボラ出血熱と思わず、感染が拡大している可能性もあるという。
また患者の診察にあたった看護師60人がエボラ出血熱で死亡するなど、医療関係者にも感染が広がる。モンロビアにある四つの病院は医師らが感染を恐れて閉鎖。
政府や国連が診察を再開するように交渉しているが、住民はエボラ出血熱だけでなく、他の病気の治療も受けられない状態だ。
リベリアでは手袋や防護服など医療関係者が感染を防ぐための物資も不足している。池田さんは、マスク、手袋、消毒に使うタオルなどを車や飛行機を使い、診察を続ける地方の医療機関に配布する作業を行っている。
池田さんは「今月12日に中国から医療物資100トンが届いた。日本も医療物資の送付や医師、看護師の派遣、または現地医師の研修など支援をぜひ検討してほしい」と訴えた。【8月16日 毎日】
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「楽観的に考えても(封じ込めには)少なくとも6カ月以上かかる」(国境なき医師団(MSF)会長)【8月15日 時事】
治療には量的に限られた安全性・効果もさだかではない未承認薬しかない、感染拡大はコントロールできない速度で拡大しつつある・・・・沈静化を待つ状況は、まるで消火方法がない大規模山火事の鎮火を待つような感もあります。
山火事なら雨が降れば鎮火もします。風向きが変われば火の勢いが止まることもあります。森林を焼き尽くして住居地域に至れば、それ以上の拡大が止まることもあるでしょう。
エボラ出血熱の場合、今の状況で、どういう条件が起きれば収束にむかうのでしょうか?
まさか、隔離地域住民が全員感染して死亡すれば流行もおさまる・・・という話でもないでしょう。
その隔離にしても、すでに感染者が広範囲に拡大しいる現状では十分に機能していません。飛行機等による移動で遠隔地に飛び火する危険もあります。
【今こそ必要とされる国際支援 日本はどのように向き合うのか?】
とにもかくにも、国際社会としてもこの混乱を座視する訳にいきません。
治療薬がないとはいいながらも医療ケアは必要ですし、生活物資の配布も必要です。
アフリカへの進出が近年著しい中国も、これまでにない対応を示しています。
***専門家派遣 中国、西アフリカ3カ国に****
エボラ出血熱が猛威を振るう西アフリカのシエラレオネなど3カ国に、中国が専門家9人を派遣した。中国国営通信、新華社(英語版)が12日伝えた。
中国メディアによると、中国が公衆衛生上の緊急事態で他国に支援を提供するのは初めてという。
シエラレオネではエボラ熱の治療に当たった中国人の医療従事者8人が隔離されたことが明らかになったばかり。感染の症状はなく、予防措置とみられる。
中国は自国民の感染を強く警戒しながらも、天然資源が豊富で「運命共同体」(李克強首相)と位置づけるアフリカ各国に対し、欧米諸国に引けを取らない支援の姿勢を示す狙いがある。
新華社によると、中国政府は7日、ギニア、リベリア、シエラレオネの3カ国に対し、3千万元(約5億円)規模の支援を発表。リベリアには12日までに防護服や医療用手袋などの支援物資が到着した。【8月13日 msn産経】
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日本も支援を拡大させています。
****エボラ出血熱で150万ドル無償協力 政府、追加支援へ*****
政府は15日、西アフリカ諸国で大流行しているエボラ出血熱への対策として、150万ドル(約1億5400万円)の無償資金協力を決めた。
世界保健機関(WHO)など三つの国際機関を通じ、医薬品の提供や感染予防に充てられる。
WHOは、11日までに1975人に感染の疑いがあり、このうち1069人が死亡したと発表。
外務省は4月、ギニアでの対策として約52万ドルの資金協力をしたが、隣国のシエラレオネ、リベリアなどへの感染拡大を受け、追加支援を決めた。
外務省は8日、ギニアなど3カ国を対象に「渡航の延期」を呼びかける感染症危険情報を出している。【8月15日 朝日】
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資金・物資もさることながら、今現地で一番必要なのは医療スタッフであり、現地で活動するスタッフでしょう。
もちろん、現地で医療等の活動にあたるということは、感染、すなわち死の危険が伴いますし、その確率も殆ど“戦闘参加”と同じぐらいでしょう。
そういう危険な場に一体誰が希望して行くのか、誰に行けと命じることができるのか・・・。
ただ、国際的な危機に対して武力による関与を封じている日本にとって、武力行使もダメ、危険な医療等の活動もダメ・・・というのでは、どうでしょうか?
「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」という日本国憲法の理念に対して絵空事に過ぎないとの批判がありますが、リスクを伴う関与を回避しているだけでは、実際いざという場合の国際社会の公正と信義をあてにすることもかなわないでしょう。
逆に、リスクも伴う支援を積み重ねて国際的信頼を確立していけば、必ずしも絵空事でもなくなるのでは。
繰り返しになりますが、“そういう危険な場に一体誰が希望していくのか、誰に行けと命じることができるのか・・・”という非常に難しい問題はあります。
しかし、実際に今も現地で活動しているスタッフも大勢います。
やはり避けて通ってはいけない問題だと考えます。