(出産のために訪米した中国人妊婦ら=2013年2月、米カリフォルニア州ロサンゼルス近郊チノヒルズ 【2013年6月10日 zakzak】)
【制裁覚悟でウクライナへ介入するロシア・プーチン大統領】
ロシア・プーチン大統領は、7月以降戦局が不利になりつつあったウクライナ東部の親ロシア派勢力がウクライナ政府軍に一掃されて、ウクライナに対するロシアの影響力を失う事態は絶対に避けるために、強引にロシア軍をウクライナ領内に侵入させて形勢の挽回を企てています。
欧米が求めた親ロシア派を抑制する方向ではなく、これまでも秘密裡に行ってきた親ロシア派支援をより大胆に展開する方向のようです。
親ロシア派勢力を残存させた状態で停戦に持ち込み、ウクライナ東部の自治権の拡大、ウクライナのEU・NATO接近の阻止でロシアの影響力を行使したい思惑でしょう。
26日にベラルーシの首都ミンスクで、ウクライナのポロシェンコ大統領とロシアのプーチン大統領と初めて長時間にわたり会談した首脳会談直後の展開だけに、「そこまでやるか・・・」という感があります。
アメリカ・EUの反発・批判、制裁強化は覚悟のうえの行動でしょうから、すみやかにロシアに手を引かせるのは難しいところです。
アメリカ・EUにとって、ロシアと直接戦火を交えるような事態は論外ですから、対応策としては対ロシア制裁強化ということになるのでしょうが、今も制裁の応酬になっているように、制裁を課す側にも大きな痛みが伴います。
ロシア向けの輸出のストップ、天然ガスの流入停止、欧州金融市場で存在感を持つロシアマネーの撤退・・・等々。
ただ、ロシア側が国際批判に耳を貸さず強引に行動する以上は、制裁強化は“武器を使わない戦争”であり、一定の犠牲が伴うのはやむを得ない・・・との強い覚悟で臨む必要があるでしょう。
日本も、北方領土絡みでロシアとの軋轢は避けたいところではありますが、ここはやはり国際秩序を無視するロシアに対して厳しい姿勢が必要でしょう。
なお、ロシア・プーチン大統領のこうした強引な手法は、ロシアの孤立化、経済への悪影響をもたらすもので、一時的な民族主義の鼓舞になっても、長期的にみればロシアの衰退を招く誤った選択であることはこれまでも繰り返しているところです。
【「ロンドングラード」】
“強いロシア”を掲げるプーチン大統領ですが、ロシア革命時の列強によるシベリア出兵以来、“ロシアは敵意を持った国々に囲まれており、それらの国々との間に自国影響下にある緩衝地帯を設けないと安心できない”・・・ロシア指導者にはそんな心理・不安感もあるように思えます。
中国にとっての北朝鮮もそのような緩衝地帯ですが、そうした防御態勢を必要とするということは、自国システムの脆弱性を認識していることの表れともいえます。
現段階では国民からの圧倒的支持を誇るプーチン大統領ですが、孤立化・経済停滞が長期化した際にはどうでしょうか?
****世界一の領土なのに…ロシア人はなぜ外国に行きたがるのか****
ロシアではこの夏、旅行会社が突然倒産し、ツアーや航空券を購入していた人々が旅先で足止めを食らうという報道が相次いだ。業界の価格競争に加え、経済の先行き懸念から旅行客が減っていることが響いた。
だが、このニュースが気づかせてくれたのは逆に、最近のロシア人がいかに外国旅行好きかということだ。
報道によると、近隣を除く外国に出た人は2013年に3850万人で大半が旅行者だ。00年の980万人、05年の1480万人から急増した。
昨年の米国からの出国者は5540万人だったが、カナダやメキシコに向かった人を除けば2620万人。米国は人口でロシアの2倍超、経済水準もはるかに上であるにもかかわらずだ。
立ち位置がロシアに近いブラジルからの出国者は490万人だった。
なぜ世界一の領土を持ちながら、外国に行きたがるのか-。
知り合いの若者は「国内は高い上にサービス水準がひどい。ビザ(査証)取得で苦労しても、倹約してでも外国に行く」と話す。自国がひどいから外に向かうという、強烈な何かが感じられるのだ。
ウクライナ問題を受け、ロシア国内は政権礼賛と反欧米の「愛国ムード」。政権がこの先、ソ連時代のように国境まで閉ざそうとしたら何が起きるのだろうか。【8月29日 産経】
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ロシアの海外旅行者の多さが“自国がひどいから外に向かう”ということを示すのかどうか・・・は即断はできませんが、海外で動く巨額のロシアマネーの存在も、結局自国の将来を不安視しているせいでは・・・とも感じさせます。
****「ロンドングラード」に象徴されるロシアマネーの浸透****
・・・・英国はどの欧米諸国より、ロシアの富が社会の上流に浸透している。
ソビエト連邦の崩壊後に台頭したオリガルヒ(新興財閥)が「ロンドングラード」(グラードはロシア語で市の意味)に注ぎ込んできた金額を考えると、デビッド・キャメロン首相率いる英政権は、ロシアの非道にどれほど怒りを覚えようとも、オリガルヒを弾圧できないだろうという批判がある。
ロンドンの金融街シティはロシア人を締め出すべきではないというメモが流出したことも、そうした批判の正当性を裏付けているように見える。
英国は、英国債に100万ポンド以上を投資している外国人に、3年間の「投資家」ビザを発給している。2年後にその国債を保有し続けていれば、1000万ポンドで居住権を手に入れることもできる。
2008年第3四半期から2013年第3四半期までの間に、ロシア人には、この種のビザが433件発給されている。これはどの国より多く、近い数字は中国人の419件のみだ。
英国には、オリガルヒの子弟向けに枠を用意した学校は、ダリッジ・カレッジ以外にも何十校もある。
独立学校協会(ISC)によれば、2013年に私立学校に在籍する非英国人の生徒のうち、8.3%がロシア人だったという。年間の学費にすると最大で6000万ポンドをロシア人が支払っている。ロシア人の生徒数は、2009年以降倍増した。
オリガルヒは、ロンドンのマンションやペントハウスを買いあさっている。不動産会社のサビルズによると、チェルシーやウェストミンスターといった「一等地」の購入者の4%がロシア人で、平均630万ポンドを投じているという。
興味深いことに、別の不動産業者によれば、最近、あるロシアの顧客から「妙な」電話があり、2件の大規模な不動産を今すぐ売却したいと相談されたという。ウクライナ危機に関連しているのかもしれない。
ロシア人が所有する不動産の数は、実際には、ロシア人の名義で登記されている不動産の数よりも多い。
ロシア人はオフショア組織の名義で登記することを好み、そうした組織は把握されていないためだ。
英国の海外領土、特に秘密主義のペーパー会社で知られる英領バージン諸島などは、これで大きな利益を得ている。
バージン諸島のある有力な弁護士は、依頼人の15~20%がロシア人だと話している。同じくらい活発なのは中国人くらいだ。
その弁護士によれば、ここ数週間、ロシア人からの依頼が少し増えているという。(後略)【英エコノミスト誌 3月22日号】
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ロシアのオリガルヒ(新興財閥)以上に、海外志向が強いのが上記記事でも指摘されている中国富裕層です。
【「裸官」と「出産ツアー」】
中国では、いつでも海外に逃亡できるように職権を利用して家族を海外に移住させ、個人資産を移した上で自分だけが国内に要職で残る「裸官」と呼ばれる官僚が多数存在し、習近平国家主席の進める腐敗撲滅運動の対象ともなっています。
****150人超が米に逃亡…中国「腐敗官僚の引き渡しを」****
中国公安省は150人以上の腐敗官僚が米国に逃亡しているとして、米司法当局に身柄の確保と引き渡しを求めていく方針を決めた。12日付の中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報などが伝えた。習近平指導部が進める綱紀粛正の一環だ。
米中は犯罪人引き渡し条約を結んでいないが、中国側は米司法当局とのハイレベル協議開催などを通じ、捜査への協力を要請する。(中略)
中国では職権を利用して家族を海外に移住させ、個人資産を移した上で自分だけが国内に要職で残る“高飛び予備軍”への批判も強まっている。
「裸官」と呼ばれており、逃亡ルートに使われやすい香港に隣接する広東省では先月、2190人が「裸官」の烙印(らくいん)を押され、このうち866人が閑職に追われている。【8月13日 産経】
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海外への“高跳び”を予定した「裸官」も、自国の将来を信じていないことの表れですが、将来への不安は役人だけでなく中国富裕層に共通しているようです。
アメリカ市民権を得るための“中国人出産ツアー”はそうした思いがもっと鮮明です。
****「子に米国籍を」中国人出産ツアー*****
芝生の緑が鮮やかな住宅街のプールサイドで、妊婦たちがくつろいでいた。バーベキューの香ばしいにおいが漂うと、中国語の会話がいっそう弾んだ。
カリフォルニア州ロサンゼルス東部のローランドハイツ。中華料理店や中国系銀行が多い地区にある高級住宅地「フェザンハイツ」では、塀に囲まれた敷地の門から妊婦や乳母車を押す女性が出入りしていた。米国で出産するため中国から来た女性たちだ。
「生まれてくる赤ちゃんに、人生の選択肢を増やしてあげたいの」。北京から1カ月前に来たという女性(35)は話した。公務員。職場には、米国にいることを隠している。夫は建設会社を営み、中国生まれの長女は3歳。長男は米国で生まれれば、市民権(国籍)を得て「米国人」になる。
到着後、高級ブランドのバッグや洋服を買うため約1万ドル(約100万円)を使った。「店では客の9割が中国人妊婦だったわよ」。帰国前に大量の離乳食も買う。「中国製は安全ではない」からだ。(中略)
米国に移る別の手段として「投資移民」も、中国人を引きつける。
米議会は1990年、時限立法で投資移民制度を作った。100万ドル(約1億円)、失業率の高い地域では50万ドルを投資し、米国人10人を雇うなどの条件を満たせば、投資家にビザを、ゆくゆくは永住権を与える。2015年まで延長され、恒久化されるとの観測もある。
カリフォルニア州サンフランシスコの東にあるオークランド。外国人投資家と投資案件をつなぐ連邦政府認定の受け皿「地域センター」を設立したトム・ヘンダーソン代表(65)は「中国人投資家のカネが失業率の高い町で雇用を生み、投資家は永住権を得る。ウィンウィン(ともに勝者)の関係です」という。
地域センターは、全米に300以上。オークランドでは設立から約2年半で2700万ドル(約27億円)の投資を集めた。99%が中国からだという。
オークランドの地域センターの胡珂星・中国代表(35)は「移民の理由を聞かれたら、ほとんどの人は教育のためと答える」と話す。「ただ、根底には中国の将来への悲観がある」とも指摘した。
19世紀半ば、米西海岸のゴールドラッシュで一獲千金を夢見た中国人が太平洋を渡った。20世紀末、中国から米国を目指した出稼ぎは、厳しい労働に耐えた。
89年の天安門事件後、中国人学生が米国の留学先にとどまり、自由を求めて中国から米国へ逃れた。
いま、官僚や国有企業の社員ら中国の新しい富裕層が、一党支配の将来を見通せない中、出産や投資で米国に活路を求めている。【8月23日 朝日】
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****年2万人、中国人妊婦が殺到****
・・・・中国共産党の機関紙・人民日報系の経済紙「国際金融報」は13年9月、同年に米国で出産する中国人妊婦が2万人に達する見通しだと伝えた。関連業者は500社に上るとしている。
・・・・ベイエリアカウンシル経済研究所のショーン・ランドルフ所長によれば、2012年の投資移民の応募者約7600人のうち、6100人が中国人。今年、上限1万人の枠が初めて埋まる、とみられている。
今後10年間、毎年6千人に投資移民のビザが発給されると、経済効果は約280億ドル(約2兆8千億円)との試算も。中国からの投資移民は、無視できない影響力を持ちつつある。
中国には、経済成長を経てもなお未来を信じることができない富裕層がいる。米国は、その資金も糧に経済危機からの立ち直りをはかる。二大経済大国のいびつな関係を、ヒトとカネの動きが映し出している。【8月23日 朝日】
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政治的にはアメリカ・欧州と鋭く対立しながら、資産・我が子の将来を欧米に託す・・・なんとも奇妙な現象です。
ロシア・プーチン大統領にしても、中国・習近平国家主席にしても、ロシアや中国の独自性を強調しますが、そうしないと自国システムが欧米社会に呑み込まれてしまう不安感があるのでしょう。
そして“呑み込まれる”には、呑み込まれるだけの理由(脆弱性・問題)が存在するのでしょう。
それを感じ取った人々のうち、余裕がある人々は海外に保険をかけることになります。
そして、指導者が独自性を振りかざして欧米との融和を拒めば、更にいびつな自国システムの問題は深刻となっていきます。