(民兵組織の勢力争いの舞台となった首都トリポリの国際空港 “flickr”より By zoom tony https://www.flickr.com/photos/120919226@N08/14844506810/in/photolist-oBKYGA-oTaEJ4-oV9TZJ-oBZXjz-oA8aD4-oNFk4Y-oApRUd-oRh6Rn-oTaCEL-oSu9pA-oSDXK9-oyWqca-oCB7VD-oAYNF1-oQ7amz-oPmh5D-oQm1S9-oSk43a-oPT4Wi-oR9NDC-oNYrVQ-oC3f69-oSwQHm-oyvZCZ-oyB97d-oPCWbG-ozHCKK)
【民兵組織の勢力争いにイスラム主義への距離感も絡んで混乱拡大】
混乱が拡大するリビア情勢については、7月29日ブログ「リビア 首都でも東部でも戦闘が続く 議会選挙はリベラル勢力勝利か」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140729)でも取り上げましたが、様々なイスラム武装勢力や民兵組織があちこちで戦闘を行っており、一体誰と誰が戦っているのか? 政府はどういうスタンスのなのか? 政府軍はどのように関与しているのか? 選挙が行われた議会はどうなったのか?・・・等々、断片的な情報だけでは全体像が分かりづらい混乱状態となっています。
下記記事では、そのあたりの国際空港を中心とした首都トリポリにおける戦闘、政府・議会の対応などについては、比較的わかりやすく整理されています。
****リビア、内戦状態 民兵の抗争激化、政府も分裂****
3年前にカダフィ政権が崩壊したリビアで、民兵組織間の戦闘が激化している。
ほとんどの外国大使館は退去し、首都の国際空港も閉鎖。政府や議会が民族派とイスラム派に分裂して統治機能を失っている。弱体な国軍は民兵を抑えられず、ほとんど内戦再発の状況になっている。
アラビア語衛星放送アルジャジーラの報道によると、首都トリポリの国際空港が23日、首都の東方のミスラタを拠点とするイスラム系民兵組織によって制圧された。
首都では、今年7月初めから、ミスラタ民兵組織と首都の南西のジンタンを拠点とする民兵組織が、戦闘を続けていた。
ジンタンの民兵組織は、部族有力者や旧カダフィ政権から離反した旧政権幹部などからなる民族派と連携しているとされる。
空港を巡る戦闘は、今月17日から18日にかけて、ミスラタ民兵の拠点に正体不明の爆撃機による攻撃があったことをきっかけに激化していた。
空港では、エジプトとチュニジアからの航空便が飛んでいたが、空爆以来、運航は止まった。
■首都は停電続く
トリポリでは停電が続き、市中心部で民兵同士の銃撃戦が起きてほとんどの外国人が退去している。在リビア日本大使館は7月下旬にカイロに退避した。
ジンタンとミスラタの両民兵は、2011年8月に北大西洋条約機構(NATO)の支援を受けた反カダフィ勢力がトリポリを陥落させた時には、首都を挟み撃ちして攻略した。
首都陥落後にはともに治安維持に当たっていたが、徐々に勢力争いが始まった。
カダフィ政権崩壊後、12年に選挙をへて制憲議会が発足した。政府や議会は民兵の国軍への編入を進めたが、弱体な軍は編入された民兵組織を統率できず、民兵は編入後も、元の組織の司令官や、ジンタンやミスラタなど本拠地とのつながりを維持した。
同時に議会では、民族派と旧反体制組織の「リビア・ムスリム同胞団」などのイスラム系勢力の対立が起きた。民族派はジンタン民兵と、イスラム派はミスラタ民兵と連携。民兵が各派の要人や省庁の警護にあたるなど政治勢力と民兵勢力の結びつきが生まれていた。
こうしたなかで今年6月、新憲法ができないまま、制憲議会に代わる暫定議会議員選挙があり、民族派が多数となった。
暫定議会は混乱を避け、8月初めにエジプト国境に近い東部のトブルクで初会合を開いた。しかし、イスラム派は「(トブルクでの会合は)無効だ」としてボイコット。
政府は制憲議会時代に任命された民族派に近いサニー暫定首相がそのまま政務を仕切っているが、ほとんど機能していない。
■停戦交渉進まず
国連リビア支援派遣団(UNSMIL)のレオン代表は抗争する民兵間の停戦を提案しているが、交渉は進んでいない。
イスラム勢力の台頭を嫌うエジプトやアラブ首長国連邦(UAE)などが民族派を支援しているともされ、抗争はより広域化しかねない。
一方、東部のベンガジでは、別の武装勢力同士の抗争が同時に続いている。
対立するのは、国際テロ組織アルカイダともつながり、議会を否定するイスラム過激派「アンサール・シャリーア」と、元国軍将軍のハフター氏が率いる民兵組織。
アンサール・シャリーアは、12年秋に起きたベンガジ米領事館襲撃事件で米大使殺害に関与したとされる。【8月25日 朝日】
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首都トリポリでイスラム系民兵組織「ミスラタ」と戦う民兵組織「ジンタン」は、東部ベンガジでイスラム系組織と戦う元国軍将軍のハフター氏と連携していると言われています。
この元国軍将軍のハフター氏や民兵組織「ジンタン」を、記事によっては“リベラル派”“右派”とも称しています。イスラム系武装勢力と対立する“世俗派”といういうとでしょう。上記記事では“民族派”とされています。
“弱体な軍は編入された民兵組織を統率できず、民兵は編入後も、元の組織の司令官や、ジンタンやミスラタなど本拠地とのつながりを維持した”ということで、ときにハフター氏の意を受けて政府軍特殊部隊がイスラム勢力を攻撃したりもしています。
【議会も機能せず】
従来の制憲議会ではイスラム主義勢力が優勢でしたが、6月の選挙で発足した暫定議会においては“世俗派”が多数を占めるところとなりましたが、イスラム資力はこれをボイコットしています。
選挙は新憲法策定を担う制憲議会が世俗派武装組織の圧力を受けて解散したことに伴うもので、暫定議会が新憲法成立までの間、暫定的に国会の役割を果たす位置づけとなっています。
****リビア:暫定議会を初招集 イスラム政党がボイコット****
6月の選挙によるリビア暫定議会(定数200)が4日、東部トブルクで初招集された。
首都トリポリや東部ベンガジで世俗派民兵とイスラム武装勢力の武力衝突が続き、エジプト国境に近いトブルクで本会議を開く異例の事態となった。
さらに、イスラム政党が議会をボイコットし、国内分裂の根深さも浮き彫りとなった。
選挙では治安悪化のために一部選挙区で投票が行われず、12議席が欠員となった。
AP通信によると、4日の本会議には当選者188人のうち、世俗派を中心に少なくとも144人が出席。
イスラム組織ムスリム同胞団系などのイスラム政党は「トリポリで国会を開くべきだ」と主張しボイコットした。
暫定議会は、憲法制定後に正式な国会が発足するまで立法機能を担う。
当初は中央政府に不満を抱く東部の部族勢力に配慮し、東部の主要都市ベンガジで開かれる予定だった。
しかし、7月中旬以降に世俗派民兵とイスラム武装勢力の衝突が激化したため、トブルクに変更になった。
双方の衝突は4日もトリポリやベンガジで続き、7月以降の死者は230人に上った。
世俗派には政府軍の一部も加勢している。トリポリでは国際空港が破壊され、大型燃料タンクへの砲撃も相次いでいる。
ベンガジではイスラム武装勢力が優勢で、特殊部隊の基地などを占拠している。内戦状態になったことから、日本や欧米諸国は大使館を一時的に閉鎖。外国人労働者も陸路で次々と出国している。【8月5日 毎日】
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【UAE・エジプトがイスラム勢力を空爆】
重要拠点であるトリポリの国際空港を巡っては、上記記事にもあるように7月中旬から、これまで空港を抑えていた世俗派民兵組織「ジンタン」とイスラム系民兵組織「ミスラタ」が激しい攻防を続けていましたが、「ミスラタ」が掌握するところとなっています。
この状況で、イスラム武装勢力側が所属不明の航空機により爆撃を受けたことで、混乱は周辺国を巻き込む形で拡大しています。
“22日夜の空爆では戦闘員13人が死亡、20人が負傷した。これに先立つ18日夜にも、所属不明の航空機2機が軍事拠点を空爆したという。”(空港を掌握したイスラム武装勢力側の発表)【8月24日 AFP】
この“所属不明の航空機”はアラブ首長国連邦(UAE)のもので、エジプトが基地を提供していると報じられています。
****<UAE>リビアの武装勢力を空爆 エジプトと連携し****
米ニューヨーク・タイムズ紙は25日、複数の米政府高官の話として、アラブ首長国連邦(UAE)とエジプトが連携し、リビアのイスラム主義武装勢力を2回空爆したと報じた。
リビアでは首都トリポリでイスラム主義勢力が空港を焼き打ちするなど戦闘が続いており、米国と欧州の4カ国は同日、共同声明で即時停戦を求めた。
同紙によると、空爆について米国は事前に相談されなかったといい、事後もエジプト政府は実施を否定した。UAEも認めていない。
空爆が事実ならば中東の「親米国」に対する米国の影響力が低下していることを示す事例と言える。
空爆は過去1週間に実施され、いずれも首都周辺のイスラム主義武装勢力の拠点に打撃を与えた。UAEが機材とパイロットを提供し、エジプトが基地を提供したという。
UAEもエジプトも、イスラム主義組織のリビアや他の中東諸国での台頭に懸念を強めており、空爆の背景になったとみられる。米ホワイトハウスや国務省は空爆の公式確認は避けた。
リビアではトリポリや第2の都市の東部ベンガジなどで世俗派民兵とイスラム主義勢力が武力衝突を続けている。
米国と英仏独伊の4カ国は25日の声明で停戦を求めるとともに、リビア政府や暫定議会に国内各派の意向を反映した融和的政策を実施するよう求めた。【8月26日 毎日】
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“空爆は世俗主義勢力を支援するためで、秘密裏に行われた。エジプトとUAEは、両国と関係が深い米国にも空爆を通告しなかったという。”【8月26日 読売】ということですが、実際のところはもちろんわかりません。
本当にアメリカへの通告がなかったのなら、“中東の「親米国」に対する米国の影響力が低下していることを示す事例”とも言えるでしょう。どうしていちいち「世界の警察官」でもないアメリカの承諾がいるのか・・・と言えば、そのとおりではありますが。
ただ、2012年9月にベンガジの米国領事館が襲撃されて米大使らが死亡した事件が、アメリカ国内的にオバマ政権・クリントン国務長官(当時)に対する責任問題となっています。
いつまでそんなことを・・・とも思える議論ではありますが、いずれにしてもオバマ政権はこれ以上リビアに関わりを持ちたくない・・・そんな雰囲気もあるのではないでしょうか。
ただでさえ、「イスラム国」をめぐってシリア領内でも空爆すべきかどうかで揉めているのに、更にリビアの空爆など表立って相談されても困るでしょう。
少なくとも、おいそれと関与する訳にはいかないので、仮に相談されても「やるなら、勝手にやってくれ」という話にもなるのでは。
これでリビアの混乱が、UAE・エジプトを巻き込んでますます深まったことは間違いありません。
****独裁崩壊3年、内戦の恐れ=中東諸国の軍事介入も―リビア****
2011年のカダフィ独裁政権崩壊から3年たったリビアで武装勢力同士の対立が激化し、内戦に陥りかねない情勢となっている。
事態の泥沼化が続き、混乱収拾は当面難しい。
各地で続く部族間の武力衝突に「国家のイスラム化」をめぐる争いも絡む。
中東地域でのイスラム勢力伸長を警戒するアラブ首長国連邦(UAE)は限定的な空爆による軍事介入に踏み切ったもようだ。(後略)【8月26日 時事】
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「カダフィ政権時代に(内戦を)経験したが、今の状況の方がずっと悪い」「混乱が支配している無政府状態で、食料や燃料、水、電気の供給が長時間途絶えている」(国外に退避したリビア在留外国人)【8月3日 AFP】という声も出ています。