孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エボラ出血熱  感染国での混乱拡大 不十分な国際支援 急がれる治療薬の量産

2014-08-22 23:14:04 | 疾病・保健衛生

(リベリア 感染地域を隔離封鎖しようとする兵士と対峙する地域住民 “flickr”より By Richard Girard https://www.flickr.com/photos/socialnetworkingnews/14963383146/in/photolist-oNgfuA-oMkPPQ-oQBEbC-ov7BJo-owqCPr-ot1JGU-oyoPgb-oygjBb-oxnd9d-oweHa2-oNJzxv-owfbTY-owfauW-oKz763-oMktpr-oyKha1-oRdrDy-oyKVTq-ot2UAE-oFeUVj-ov75Y5-ov7nSK-ov7inJ-ov7WDK-ov7uiP-ov7oNd-ov7KpF-ov7i7n-ov7bWN-oMkjrX-ov81iP-oN48ip-ov7dLZ-oMzmoW-otasrE-oN49Uv-ov87C2-ov84YM-ov7Z6E-ov7qcV-ov87VD-oMA65N-oMkpci-oMzJ8C-ov87iY-ov7RCW-ov7R7K-oMBSGa-ov8bN9-oMzY3w)

感染が拡散する危険も
西アフリカで猛威をふるうエボラ出血熱については、8月16日ブログ「エボラ出血熱 発表数字より深刻な実態 求められる国際支援」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140816でも取り上げましたが、犠牲者は更に増加しています。

****エボラ熱死者、1350人に=2日間で100人超増加―WHO****
世界保健機関(WHO)は20日、西アフリカで感染拡大が続くエボラ出血熱に関し、18日までの死者が感染が疑われるケースを含め計1350人に上ったと発表した。17日から2日間の死者は106人で、依然速いペースで増えている。感染者は計2473人。

国別の累計死者数は、リベリアが576人、ギニアが396人、シエラレオネが374人、ナイジェリアが4人。17、18の両日では、リベリアで95人が死亡したが、ナイジェリアでは死者が出なかった。【8月21日 時事】 
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そのなかで「ナイジェリアとギニアでは明るい兆しもある」(19日WHO報道官)ということです。ナイジェリアでは新たな犠牲者が出ないそうです。【8月19日 時事より】
ギニアでも、新たな感染例の数が著しく減少しています。

しかし、コンゴで“発生源が不明の出血熱”発生も報じられています。
西アフリカ以上に医療体制が不十分な地域ですから、もしエボラ出血熱だとすると厄介なことになります。
コンゴでは以前にもエボラ出血熱が発生したことがあります。

****コンゴ民主共和国で出血熱、10日で13人死亡 保健省****
アフリカ中部・コンゴ民主共和国(旧ザイール)の保健省は21日、同国北西部で今月11日以降、発生源が不明の出血熱で13人が死亡したと発表した。

いずれも発熱や下痢、嘔吐(おうと)といった症状を見せた後、末期には「黒い物質」を嘔吐したという。最初の犠牲者は妊娠中だった女性で、残りの12人(医療従事者5人を含む)は女性と接触した後に死亡した。

これまでに死亡患者らと接触した約80人が観察下に置かれている。

犠牲者の体からは検体が採取され、病原体の特定のための検査にかけられる予定。結果は1週間以内に出るとみられている。

西アフリカではエボラ出血熱が多数の死者を出しており、アフリカ内外への拡大が懸念されている。【8月22日 AFP】
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感染拡大はアフリカだけの問題ではありません。
飛行機を使って人が遠隔地に行き来している時代ですから、思わぬ地域への飛び火もありえます。

韓国ではエボラ発生地域からの入国者の隔離に失敗したとのことです。
もちろん、この者は現在までのところでは陰性ですが、万一この者がその後発症すれば韓国での感染拡大もありえる・・・ということになります。あくまでも理屈上そうした事態もありうるという話ですが。

そうなれば、韓国との往来が極めて多い日本にも・・・ということで、決してアフリカだけの問題、対岸の火事ではありません。

****エボラ発生地域から入国の男性が行方不明…釜山に恐怖拡散****
西アフリカを中心にエボラ出血熱が猛威を振るう中、エボラ感染者が最も多いとされる地域から入国した男性が釜山で行方不明となり、韓国国内は恐怖に包まれている。

韓国当局によると、リベリア出身の20代男性が、大邱(テグ)国際空港から入国。しかしその後、当初より宿泊予定だった釜山のホテルにチェックインしていないことがわかった。

エボラ発生地域からの入国者であるため入国の際、体温チェックを行った結果、陰性。出入国管理局は90日間の国内残留許可を与えたが、エボラウィルスは潜伏期間があることから、男性が感染していないとの確証は、もてない。そのため、追跡観察ができるよう宿泊先を把握していた.

出入国管理局は、男性を不法在留者として手配したが、現在のところ行方は掴めていない。【8月22日 WoW!Korea】
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なお、WHOは「航空機による旅行でエボラ出血熱に感染する危険性は低い」との見解で、過度の移動制限などは必要ないとのこです。

しかし、感染拡大を恐れるアフリカの国々では感染地域との言移動制限を行う国が増えており、感染国の孤立化が進んでいます。

感染国は混乱状態
一方、エボラ発生地域内においては、感染中心地域の隔離が行われていますが、その地域の住民が十分な食料・医療も与えられず、隔離地域の孤立化でエボラとは別の危機が起きていることは、これまでのブログで伝えてきたところです。

また、対策にあたる医療スタッフへの不信感もぬぐえず、リベリアの首都モンロビアでは16日、武装集団が感染者隔離施設を襲撃し、入所者17人が逃走、感染の原因にもなる施設内の備品が持ち去られるという事件がおきています。

この件に関しては、リベリア当局が逃走した17人全員を見つけ、特別施設に移送したとのことです。

更に、感染拡大予防のため、スラム地域の強制撤去という問題も起きています。

****エボラ出血熱 医療不信で施設襲撃****
西アフリカでエボラ出血熱の患者が過去最大の規模で増え続けているなか、最も多くの死者が出ているリベリアでは、現地の医療に対する不信感が強まっていて、医療施設が何者かに襲撃されるなど混乱が広がっています。(中略)

現地で不信感が強まっている背景には、エボラ出血熱の致死率が極めて高く、医療施設に入っても有効な治療法がないことや、医療従事者が感染を広げているのではないかとの誤解と偏見があるためだとみられています。

このためWHOは、「正しい知識があれば感染拡大は防げる」として冷静な対応を呼びかけていますが、モンロビアの住民はNHKの取材に対し、「エボラ出血熱は恐怖だ。感染の予防には限界があり、早く薬を開発してほしい」と話していて、感染拡大への強い不安が首都でも広がっている実態が浮き彫りになっています。

住民の不信感強まる
患者が増え続けているギニアでは、地元の治安部隊が感染拡大を防ぐためだとしてスラム街を強制的に撤去する作業を行い、住民の間からは行きすぎた対応だとして批判の声が上がっています。(中略)

しかし住民からは行きすぎた対応だとして批判の声が上がり、住民の1人は、「同じギニア人なのになぜここまでするのか。どうせエボラ出血熱で死亡するのだろうから放っておいてほしい」と述べています。

一方、最も多い数の死者が出ているリベリアの首都モンロビアでは、「エボラ出血熱の疑いで死亡したとみられる男性が路上で2日間、放置されていた」と伝えられています。

AP通信によりますと、放置されていたのは男性の遺体で、住民が地元の当局に何度も通報したにも関わらず、2日間にわたって対応しなかったということです。

このため住民は当局を批判していて、感染の拡大に歯止めがかかっていないなか、地元の当局に対する住民の不信感が強まっています。【8月18日 NHK】
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感染者隔離施設襲撃事件が起きたリベリアでは、当局側の一方的なスラム地域隔離に対し、住民が抵抗するという異常な事態も起きています。

****リベリア、住民隔離で軍部隊と衝突****
エボラ出血熱の勢いは止まらず、西アフリカでこれまでに1350人以上の死者を出す史上最悪の事態となっている。大流行を食い止めるべく大規模な取り組みが行われているが、その結果、リベリアでは異様な事態が起きている。

リベリア政府は19日、首都モンロビアにあるスラム地域の隔離に踏み切り、その結果、怒った住民と当局の衝突が起きた。

先週、暴徒らの手で隔離施設から“解放”された患者を連れ戻し、午後9時から午前6時までの外出禁止令を全国で施行。

さらには、エボラ出血熱が西アフリカで猛威を振るっているという話はデマだとする悪質なうわさとも闘わなければならない。

これら全てに対応するだけの力を、リベリアの公衆衛生当局はそもそも持ち合わせてはいなかった。

対策チームの経験豊富なメンバーに言わせると、リベリアの状況は“悪化の一途”をたどっているということだ。一方で、国境なき医師団は、モンロビアは“破滅的な”状況にあると語っている。

リベリアでは、患者数、死者数ともに他の国々よりも多くなっており、死亡した患者はこれまでに576人に昇っている(ギニアでは396人、シエラレオネでは374人)。また、医療従事者のウイルスへの感染も数十例報告されている。

◆感染の拡大
・・・・国境なき医師団によると、体調不良や恐怖心から職場を離れる医療スタッフが続出したことで、ほとんどの国で病院が閉鎖され、路上や住宅に遺体が放置されたままの状態だという。

今回の大流行の影響を受けている国々では、感染の拡大を封じ込めようと隔離区域が設けられた。リベリアでは軍隊を派遣し、隔離区域の警備を強化している。リベリア、ギニア、シエラレオネの隔離区域では、現在100万人以上が暮らしている。

しかし、食料や物資が区域内に届かないのではないか、困窮した住民が隔離区域からの逃走を試みるのではないかといった懸念が広がっている。(後略)【8月21日 ナショナルジオグラフィック】
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支援増強要請に対する国際社会の反応は「全くない」】
リベリアの状況は、リベリア単独で対処できる限界を超えているように見えます。
現地で治療にあたっている「国境なき医師団」からは、こうした危機的状況にもかかわらず国際支援が不十分なことへの批判も出ています。

****支援団体、エボラ危機への国際社会の対応を批判****
リベリアとシエラレオネにおけるエボラウイルスの拡散は、死に至ることもあるこの感染症の過去最悪のアウトブレイク(集団発生)――公式発表によれば、少なくとも1229人が犠牲になった――を封じ込めようとする他の西アフリカ諸国の努力を上回ってしまう恐れがある。

しかし、ギニア、リベリア、シエラレオネの3カ国でエボラ出血熱を封じ込めようと先頭に立って奮闘している国境なき医師団(MSF)によれば、被害に見舞われている国々からの支援増強要請に対する国際社会の反応は「全くない」という。

アフリカ大陸の他の地域におけるエボラ出血熱の集団発生に長らく対処してきた実績を持つMSFは、感染した患者を隔離する病室の確保に苦労していると話している。現地では国際的な支援団体がMSFのほかにはほとんどなく、リベリアの公衆衛生サービスも完全に崩壊しているという。

孤軍奮闘する国境なき医師団、「1つの国が丸ごと崩壊する瀬戸際にある」
この危機はリベリア経済全体にも悲惨な波及効果をもたらしている。リベリアはシエラレオネと同様、1990年代の内戦からの回復がまだ初期段階にとどまっている。(中略)

「この伝染病に対抗しようという意思と、プロとしての意識と、支援の手配が全くないことに我々は本当に驚いている。我々はもう何カ月も前から叫び続けてきた。状況はさらに悪くなっている。1つの国が丸ごと崩壊する瀬戸際にある」

医療従事者が恐れているのは、もしこの病気をリベリアで――そしてシエラレオネでも――制御できなければ、他の西アフリカ諸国にも広がり続けるだろうということ。そして、ウイルスの封じ込めが比較的成功しているギニアなどの国々でも再び感染者が出てしまうことだ。

リベリアのロファ郡では先週、124人の患者が新たに確認され、60人が死亡した。世界保健機関(WHO)とリベリア政府当局は、実際の患者の数はこれをはるかに上回っている恐れがあると警告している。遠く離れたジャングルの中には医療従事者がほとんど入ることができないからだ。(中略)

MSFによると、支援する力を持つ国連などの主要国際機関は、シエラレオネとリベリア――どちらも弱い国で、その医療従事者が主な犠牲者に含まれている――の現場に資格のあるチームを派遣することに消極的だという。

「リベリアの状況は破滅的だ。私は軽々しくこの言葉を使っているわけじゃない」と(この地域のMSFの対応を調整している)ドゥ・ル・ビーニュ氏は言う。

「人口130万人の都市であるモンロビアでは、開いている病院が1つたりともないため、緊急事態の内に緊急事態を抱えた状況になっている。人が医療を受けられる場所がない。自動車事故に遭っても行き場がないんですよ」【8月20日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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【「ZMapp」 一定量を製造できるのは年末
隔離地域での混乱・医療崩壊、周辺国の移動制限と感染国の孤立化、国際社会の不十分な支援・・・・これらは基本的にはエボラ出血熱に対する有効な治療薬が未だ存在しないという事実、いったん感染が拡大したらどうしようもないという恐怖に起因しています。

そうした状況で、未承認薬の「ZMapp」投与患者が回復した事例も報じられています。

****エボラ出血熱:治療薬投与で「回復兆候」 リベリア政府****
西アフリカ・リベリアのブラウン情報相は19日、エボラ出血熱に感染し、米製薬会社が開発中の治療薬「ZMapp」を投与されたリベリア人医師ら3人に「目覚ましい回復の兆候」があると明らかにした。ロイター通信が伝えた。

世界保健機関(WHO)が12日、感染者に未承認の治療薬の投与を条件付きで容認した後、投与された患者が回復の兆候を示したのは初めて。

ZMappの効果と安全性が確認されれば、感染地域への迅速な供給を求める声が高まりそうだ。

ただ、製薬会社は既に在庫は尽きたとし、一定量を製造できるのは年末になるとの見方も出ている。【8月20日 毎日】
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リベリアでエボラ出血熱に感染しアメリカに移送されて「ZMapp」による治療を受けていた米国人医師も回復して退院したそうです。

これらが「ZMapp」による効果なのか、自然治癒なのかはさだかではありませんが、他の有効な治療薬がない現段階では期待も高まります。

しかし、開発段階で大量生産体制にはないため、その供給は著しく制限されているようです。供給が限られていると、使用できない犠牲者が増大しますし、“誰に使うのか”という微妙な問題にもなります。

【8月20日 毎日】に言う“一定量を製造できるのは年末になる”というのが、どの程度の量なのか?
現在把握されている感染者は計2473人ですが、実際はもっと多いと思われます。

「ZMapp」の開発会社は社員9人のベンチャー企業で、生産はアメリカ大手タバコ会社の子会社とか。

もし当該企業だけでは十分な量の供給が間に合わないのでれば、もっと大規模に、いろんな製薬会社・研究機関などで作れないのか?

一般論としては、薬の開発には膨大な開発費用がかかりますので、その製造特許は開発企業の知的財産として保護されないと製薬会社は開発コストを回収できず、ひいては新薬開発のインセンティブがなくなります。

しかし、エボラ出血熱のように患者が極めて限定されている場合は、膨大なコストをかけて製品供給してもコスト回収が見込めず、そもそも市場原理では開発・製造されません。

「ZMapp」も政府による支援があってはじめて開発された薬です。

であるなら、この際、WHOなどが開発企業に開発費用の支払いを保証する形(最終的には加盟各国政府が費用を分担する形)でその製造法を完全に一般公開させ、製造能力がある企業・機関で一斉につくる・・・というのはできないものでしょうか?

そうすれば多くの患者に使用することも可能になります。
仮に「ZMapp」の効果が認められなかったにしても、次の段階に進むことができます。

なんらかの治療薬を見つけないと、今後も人類はエボラ出血熱感染拡大の恐怖に怯え続けなければなりません。
「ZMapp」以外にも、カナダ・テクミラ社の「TKMエボラ」、日本・富士フイルムの「ファビピラビル」が期待されています。
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