(政府軍による砲撃の瞬間 “flickr”より By Hasn abdullah https://www.flickr.com/photos/116493407@N03/14820015081/in/photolist-ozAsap-ojKPV8-ogHLmC-oxRAd3-oke6Jg-oHAqm7-onygCV-op2WL7-okbVQU-okgQid-oqriRQ-oqs8X1-oEU3zN-oGEZeD-oGFnvc-oqskDY-oqtk2x-oqtRBZ-oqtJGr-oGFaH4-oGVAtu-oqrzFN-oqsH4w-oGG3Fg-oGEQnR-oEU7gW-oqrmU3-oGWzGR-oqsjKw-oEVEHC-oETPh5-oGFUJV-oGUfRq-oqs6SM-oEUoLE-oGEaQR-oqrZmS-oGXB8K-oqsTgT-oGXbR8-oEUg2b-oqsvqw-oqtnYo-oC6DC6-okaJsK-oqENFN-ozC7y1-ozSk7B-okjNRD-oBDQgK)
【「イスラム国」と政府軍の戦闘が本格化】
ウクライナ、イラク、パレスチナ・・・・と、世界のあちこちで新しい戦いが火を噴く状況では、以前から続く戦闘はメディアに取り上げられる機会も少なくなります。
2011年1月から続くシリア内戦やアサド大統領に関する記事も、最近はあまり見かけません。(自分の関心が薄れて見落としているのかも)
あまり情報を目にしないので、小康状態になっているのか・・・とも思ってしまいますが、とんでもない誤解のようです。
戦火が続く中東における7月の犠牲者9000人のうち、シリアは5342人と約6割を占めて断トツです。メディアでの露出が多いパレスチナやイラクでの死者の3倍以上です。
****<中東>7月の死者9000人 「アラブの春」以降最悪****
紛争やテロ事件が相次ぐ中東諸国で、今年7月だけで死者が計約9000人に上ったことが分かった。2011年の民主化要求運動「アラブの春」以降、1カ月の死者としては最悪となった。
シリア内戦やパレスチナ自治区ガザ地区の紛争に加えて、イラク、リビア、イエメンで紛争が拡大。エジプトやチュニジアでもイスラム過激派によるテロや軍との衝突が頻発した。8月に入っても各地で武力衝突が継続しており、中東の混迷は深まっている。
国連や各地の保健当局・人権団体によると、7月の紛争に関連した死者は▽シリア5342人▽イラク1737人▽ガザ地区約1400人▽イエメン約300人▽リビア約120人。
シリアとイラクではイスラム過激派組織「イスラム国」が勢力を広げ、政府軍やシリア反体制派、少数民族クルド人との衝突が激化した。
ガザ地区では7月上旬からイスラエル軍の攻撃が強まり、死者が急増。
イエメンではイスラム教シーア派武装組織と政府軍、リビアでは世俗派民兵とイスラム武装勢力の対立が激化した。
こうした紛争地は、「アラブの春」で独裁体制が崩壊し、混乱が続いている国が多く、イスラム過激派の勢力拡大が混乱に拍車をかけている。【8月6日 毎日】
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7月時点でのシリア情勢を伝える記事を見ると、やはりイラクで急拡大した「イスラム国」がシリアでも勢力を広げ、以前は“棲み分け”状態だった政府軍との間で戦闘が激化しているようです。
その一方で、欧米が支援する自由シリア軍など反体制派は、苦しい展開となっています。
****<「イスラム国」>シリアでも勢力拡大…国土の35%制圧****
イラクへの侵攻を続けるイスラム過激派組織「イスラム国」が、隣国シリアでも勢力を拡大している。
シリア反体制派組織によると、北部ラッカ県と東部デリゾール県を中心に国土の35%を制圧し、従来は衝突が少なかったアサド政権との攻防も激化した。
対照的に欧米が支援する反体制派は、トルコやヨルダンとの国境に押し込められ、北部アレッポでも守勢に回っている。
在英の反体制派組織「シリア人権観測所」によると、イスラム国はイラクに大規模侵攻した6月以降、シリア東部デリゾール県でも攻撃を強化。
国際テロ組織アルカイダ系のイスラム過激派組織「ヌスラ戦線」や反体制派武装組織「自由シリア軍」を圧倒し、県都デリゾールを除く全域を掌握した。
残るデリゾール市街や郊外の空軍基地はアサド政権が支配しており、政府軍との攻防が激化している。
また7月中旬には中部ホムス県にある天然ガス田にも侵攻し、警備員や施設従業員ら約270人を殺害した。大半は拘束後に処刑されたという。
北東部ハサカ県でも、自治拡大を進めるクルド人武装組織への攻撃を強めている。
イスラム国は従来、北部や東部での実効支配拡大に注力し、国土西半分に拠点を置くアサド政権側との「すみ分け」ができていた。
だがラッカ、デリゾール両県の支配を固めたことで、政権側への攻撃も本格化させた模様だ。アサド政権側は、イスラム国の支配地域を空爆しているが、首都ダマスカス郊外や北部アレッポでの反体制派との戦闘に追われ、本格的に反撃する余裕がない。
一方、欧米が支援する自由シリア軍など反体制派は、支配地域をイスラム国に奪われ、主要拠点であるアレッポでも政権側の攻勢に遭っている。
6月には自由シリア軍幹部らが、湾岸諸国や欧米による援助を着服していた疑惑が浮上するなど、求心力が低下している。【7月21日 毎日】
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一時期は反体制派への攻勢をかけ、今後の展開に自信を見せていたアサド大統領ですが、「イスラム国(IS)」の急拡大でやや状況も変わっているようです。
直近の8月13日の戦況を、元アラブ外交官の野口雅昭氏のブログ「中東の窓」で見ると、依然として「イスラム国」の攻勢が収まっていないようです。
****シリア情勢(13日)****
2014年08月14日 17:19
13日のシリア情勢につき取りまとめたところ次の通りです。
・13日シリア各地での衝突、政府軍機の空爆等で死亡したものの数は69名で、数十名が負傷した。
・政府軍機はアレッポ、ダマス周辺、ホムス、ハマ等を空爆した。
・政府軍とヒズボッラー対反政府軍は、ダマス近くのal qalamoun での戦いを続けている他、他のダマス周辺地域、アレッポ、ホムス、ハマ等でも衝突している。
・ISはアレッポの北で、先に5の村落を占拠したが、13日さらに4の村落を占拠し、トルコ国境の検問所alsalamaに近づいた。
これまでISはシリア北部、東部の広範な地域を占領したが、これで今後西部へ地歩を広げる橋頭堡を得たことになる模様。(後略)
【8月14日 野口雅昭氏「中東の窓」 http://blog.livedoor.jp/abu_mustafa/archives/cat_73692.html】
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ついでに言えば、上記ブログには、政府軍・民兵の死者が増大していることを受けて、アサド政権支持基盤であるアラウィ派の人々の間でもアサド政権批判が強まっている・・・との情報も紹介されています。
【クリントン前国務長官「(オバマ大統領は)信頼できる戦闘部隊を構築する支援に失敗した」】
シリアに関しては、アメリカ・オバマ大統領をヒラリー・クリントン前国務長官が「シリア政策は失敗だった」と批判したことも話題となっています。
****ヒラリー氏、オバマ氏を批判「シリア政策は失敗」****
ヒラリー・クリントン前国務長官が米誌アトランティック(電子版)のインタビューで、オバマ政権によるシリア政策の「失敗」がイラクで勢力拡大を続けるイスラム過激派組織「イスラム国」の増長を招いたなどと批判した。
これには大統領側も強く反論。米メディアがこぞって取り上げる騒動となり、クリントン氏が大統領に電話で「攻撃するつもりはなかった」と釈明する事態となった。
クリントン氏は、オバマ氏がシリアで「(反アサド政権派による)信頼できる戦闘部隊を構築する支援に失敗した」と指摘、「巨大な(力の)空白をイスラム過激派勢力が埋めた」と批判した。
また、「大国には世界をまとめる基本原則が必要で、(オバマ氏の持論の)『ばかげたことはするな』というのはそうした原則ではない」と述べた。
2016年次期大統領選をにらみ、不人気な大統領と距離を置こうとした発言とみられている。
これに対し、オバマ大統領側近のアクセルロッド元大統領上級顧問は12日、ツイッターに「『ばかなことはするな』というのは、イラクを占領するようなことをするなという意味だ」と書き込んだ。
クリントン氏が上院議員時代にイラク戦争の開戦決議に賛成したことを持ち出し、逆に痛烈に批判した。
クリントン氏の報道担当者は12日に声明を発表し、クリントン氏が大統領に「政策や指導力を攻撃するつもりはなかった」と電話で釈明したことを明らかにした。
これを受け、ホワイトハウスのシュルツ副報道官は13日の記者会見で、「大統領はクリントン氏の電話に本当に感謝していた。2人は親密で強靱(きょうじん)な関係だ」と述べ、関係が悪化しているとの観測を打ち消した。【8月14日 毎日】
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もともと大統領選挙でデッドヒートを演じた両者ですから、批判・確執はあって当然でしょう。
オバマ大統領の外交に“基本原則”(あるいは長期的戦略)がない・・・という批判は、クリントン氏だけではありません。
特にシリアでは、レッドラインを云々しておきながら、土壇場で議会に判断をゆだね、最終的にはロシア提案に乗っかるという“迷走”は、「強いアメリカ」「確固たるリーダーシップ」を重視する立場からは強い批判を浴びました。
もっとも、その“迷走”のおかげで、アメリカはシリアの泥沼にはまらずに済んでいます。
“迷走”か現実的判断かの評価は、立ち位置によるでしょう。
オバマ大統領より“好戦的”とも言われるクリントン氏らしい批判でもあります。
前出野口氏のブログによれば、オバマ大統領はクリントン氏に“シリアの反政府派はもともと技術者や農民や大工などの反政府運動であったのが、、彼らは突然内戦のなかにおかれることになり、彼らの軍事援助をしたところで状況を変えることにはならない”旨を語ったそうです。
現在のシリア反政府派の窮状が、クリントン氏の言うように「(反政府派への武器援助を行わず)信頼できる戦闘部隊を構築する支援に失敗した」オバマ大統領の失策の結果なのか、オバマ大統領の言うように、もともと政府軍を相手にした内戦は無理があり、その結果なのか・・・。
少なくとも現段階に至っては(すでにだいぶその判断時期を過ぎているようにも思いますが)、反政府派を支援してアサド政権を打倒するというのは現実性がないシナリオです。
仮にアサド政権が崩壊すれば、イスラム原理主義勢力「イスラム国」がシリアの大半を支配下に置く事態ともなるでしょう。それよりはアサド政権の方がまだましです。
オバマ大統領も“彼らの軍事援助をしたところで状況を変えることにはならない”と言うのであれば、反政府派支援を口にするだけで、いたずらに犠牲者・避難民が増加する現状を放置するのは無責任でしょう。
「イスラム国」の急拡大という現状に対し、シリアではアサド政権と反政府派の停戦を実現し、イラクでは挙国一致内閣を成立させて、両方で「イスラム国」封じ込めるというのが本来とるべき対応かと思います。
ただ、現実政治においては、これまでその非人道性を批判してきたアサド政権を容認するというのは、また保守派の批判を浴びる選択であり、実際には取れない選択肢なのでしょう。
政府批判を許し、一般国民の賛意を得る必要がある民主主義という政治システムは、現実的妥協を必要とする局面においてはなかなか厄介なシステムでもあります。
それ以外にシリアに関しては、ロシアがアサド政権への高性能地対空ミサイルシステム「S300」の供給を行わないことを決定したこと、アサド政権が保有してて化学兵器原料の洋上廃棄が完了したしたことが報じられています。
後者に関しては、“国内騒乱に襲われる国から大量破壊兵器が丸ごと取り除かれた例はない”( 化学兵器禁止機関(OPCW)事務局長)という評価がある一方で、“シリアに無申告の化学兵器や原料が隠されているのかはわかっていない”とも。【8月14日 CNNより】