孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  撃墜事件後も欧米との対決姿勢を強めるプーチン大統領

2014-08-05 23:32:48 | ロシア

(“flickr”より By Karel Meijers https://www.flickr.com/photos/karelmeijers/14824576583/in/photolist-ozZQ8Z-ogLaxk-ox5C4Q-oAnGyr-oAnGCV-ozNnqH-oBGJqt-oBGJkt-oBGJnx-oBGJqi-ox5C63-ox5C8h-ox5C2q-oAnGAF-oAnGDX-ozNnuk-ozNnr4-oy8jFF-oy8jHV-oh6p66-oh6p3F-ogvWKe-ozNnqx-ogtB5C-ogvWGD-ogtB5s-ogtB69-ozNnoZ-ogvWEK-ozNnoD-oxNLwW-ogvWDH-oxNLzb-ogtB5Y-oiqQvG-oBD4rc-oBD4n4-oBD4ne-oBD4hz-ox5C87-ogrVuD-oxUzfy-oxUzf3-oxUzdE-ohye5v-oz2TJ7-ohye7V-ohye6x-ohye36-oAXbQa

プーチンは新しい反欧米イデオロギーを推進してきた
ウクライナ東部の親ロシア派武装勢力がロシアの支援のもとでマレーシア航空機を撃墜するという事件は、乗客・乗務員298名の命が奪われる痛ましい悲劇ではありましたが、これによってロシア・プーチン大統領もウクライナでの画策が難しくなり、親ロシア派と距離を置き、欧米側に歩み寄る形でウクライナの混乱について事態の収束を図るのでは・・・との期待もありました。

しかし、その後の展開はそうした甘い期待を裏切るものとなっており、ロシア・プーチン大統領の頑なな姿勢に変化はないようです。

事故現場を支配する親ロシア派武装勢力に対するロシアによる明確な働きかけは見られず、事故調査が遅延しているばかりでなく、事件後もロシアはウクライナへの関与を継続しているものと見られます。

****ロシアが国境越え砲撃 米国務省「証拠入手****
米国務省のハーフ副報道官は24日の定例会見で、ウクライナ東部の親ロシア派支配地域でマレーシア航空機がロシア製地対空ミサイルにより撃墜された後も、ロシアが国境を越えてウクライナ側の軍事拠点を砲撃し、親露派に多連装ロケット発射装置を供与する準備を行っている「新たな証拠」を米情報当局が入手したと語った。(後略)【7月25日 毎日】
**************

ロシア・プーチン大統領の頑なな姿勢の背後には、単にウクライナをどうするかとか、ウクライナ問題でのロシアの得失はどうなるか・・・といった観点ではなく、欧米的価値観を否定してロシアの独自性を強調する近年のプーチン大統領の基本的考えがあるように見えます。
(7月6日ブログ“ロシア 「ロシアはヨーロッパではない」 欧米的価値観・システムの否定を強めるプーチン大統領”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140706

****旅客機撃墜事件にもプーチンは焦つていない****
ウクライナ情勢などどうでもいい 「戦うべき相手は欧米」と考えるしたたかな戦略

・・・・誰もが知りたいのは、マレーシア航空機撃墜事件が起きた今、プーチン大統領がウクライナ情勢でどう出るかだ。・・・・実はこれらの問題設定はすべて間違っている。プーチンにとってウクライナなどどうでもいいからだ。

彼の戦いの相手はこれまでもこれからも、欧米諸国だ。そういう視点で分析すれば、過去1週間のプーチンの言動はほぼ筋が通っているし、平和は望めないという結論になる。

大統領として再登板した約2年前から、プーチンは新しい反欧米イデオロギーを推進してきた。
まずは同性愛宣伝禁止法を成立させ、抗議する人々は米国務省の回し者だなどと糾弾した。

そこでプーチンが描き出した世界観は驚くほどロシア国民を魅了し、一致団結させた。
欧米の現代的な価値観こそ、ロシアの伝統的価値観を脅かす敵と見なされたのだ。

その文明と文明の戦いが、たまたまウクライナで勃発したにすぎない。

ロシアはウクライナで欧米の拡張主義と戦い、ロシア系住民と祖国を守るのみならず、人権の普遍性を押し付けるような「人権ファシズム」の拡散から世界を救うというわけだ。

だが実際の軍備でいえば、欧米諸国のほうが勝っているのをプーチンも承知している。強大な米軍があり、NATO(北大西洋条約機構)軍もある。豊かな先進国が団結して立ち向かってくることも想定できる。

だから彼は頭脳戦に出る。強硬発言をしながら正面対決は避け、いざ攻撃するなら不意打ちだ。この戦法はクリミアで成功した。まさかのタイミングで侵攻し、勢力の均衡を確保した。

さりげなく核戦力を吹聴
ウクライナ東部ではロシアの兵器供与を受け、ロシアに操られた武装勢力が地元民を装って大暴れしていた。だがマレーシア航空機事件により、その隠れた戦いは表にさらされた。

これでウクライナ危機も正念を迎える、と世界の人々は思ったかもしれない。だがプーチンにしてみれば、長年に及ぶと覚悟していた欧米との戦いで手違いが生じただけ。

・・・・22日にはロシア安全保障会議の緊急会合を開き、冒頭でこう述べた。「わが国の主権も領土も、直接の脅威にはさらされていない。世界における戦略的なパワーバランスのおかげだ」

ロシアには核戦力があるということを強調し、最後にはこう語っている。「NATOの部隊がロシア国境に迫った場合、適切かつ相応の対応をする。国際的なミサイル防衛の開発や、核・非核を問わず高精度の戦略兵器の配備拡大に対して、わが国は見て見ぬふりはしない」(後略)【8月5日号 Newsweek日本版】
*******************

欧米とロシアの対立は新たな段階に入った
こうしたロシア・プーチン大統領の姿勢に、欧米首脳は、ロシアがウクライナ東部の親ロシア派へ兵器や戦闘員の供与を継続しているとして、連携して対ロシア経済制裁を強化する方針を確認しています。

当初ロシア制裁に慎重だっだドイツなどEU諸国も、アメリカに歩調をそろえる形で対ロシア制裁を発動することで、ロシアへの圧力を強めています。

****強硬な対ロ制裁に傾いたドイツ首相 マレーシア航空機撃墜後の対応などでプーチン大統領への信頼喪失****
・・・・ロシアの支援を受けた分離主義の勢力がMH17便を撃墜したという主張がすでに表面化していたにもかかわらず、ロシア政府に対する新たな制裁を議論するのは「時期尚早」だとメルケル首相は記者団に語った。

「これらの出来事は、我々が必要としていることが政治的解決であることを改めて我々に示している」。メルケル氏はこう述べて、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と話をする以外に選択肢はないという持説を繰り返した。

それから2週間も経たない間に、メルケル氏は、ロシアの防衛、エネルギー、金融部門に打撃を与え、西側の対ロ関係における冷戦以降最悪の亀裂をさらに深める広範な欧州連合(EU)の制裁の最も重要な支持者になった。

(中略)メルケル氏はまだプーチン氏に正しいことをするための時間を与えるよう訴えていた。

惨事が好機になる可能性があるとメルケル氏は考えていたのだ。何しろ前例があった。2010年、ポーランドの政府専用機がロシアで墜落し、ポーランドの大統領を含む搭乗者全員が死亡した後、ロシアの大統領は(一時的に)ポーランドに同情を示した。

ドイツの当局者たちは、プーチン氏が、ウクライナの反政府勢力が墜落現場を守り、死者を尊重し、国際調査団に早期のアクセスを認めるようにしてくれると思うと公言していた。だが、それは起きなかった。

(中略)これまでずっと慎重だったメルケル氏だが、ひとたび行動を取ると決意してからは、実際に行動を取っている。
しかも最も緊密なドイツのパートナー諸国が予想したよりもさらに断固とした姿勢で。【7月31日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
********************

****EU:初の対露経済制裁 対立は新段階へ****
欧州連合(EU)は29日、ウクライナ東部でのマレーシア航空機撃墜事件後もロシアが親露派武装勢力に武器を提供、不安定化工作を続けているとして、対露経済制裁を31日に発動することを決めた。経済制裁は初めて。

ロシアの政府系金融機関の資金調達禁止や石油掘削技術の提供禁止などが柱で、露経済に深刻な打撃をもたらすとみられる。

ロシアと経済関係が密接なEUは経済制裁をためらってきたが、撃墜事件を機に厳しい態度に転じた。米国も追加制裁を決定、欧米とロシアの対立は新たな段階に入った。【7月30日 毎日】
******************

ロシアとの関係が深い欧州にとっては、自国への反動も大きい措置です。
“ロシアの景気低迷が欧州企業にとってもリスク要因となってきた。ロシア関連事業の縮小に踏み切る企業も出ており、混乱が長期化すれば、欧州・ロシア双方の経済を下押ししそうだ。”【8月4日 毎日】

また、欧米と協調して追加制裁措置をとった日本にとっても、ロシアが北方領土問題を議題とする日ロ次官級協議を延期すると発表するといった形で影響が出ています。

国際的な圧力に屈してすべてを失うよりは、世界からつまはじきにされる方がまし・・・
一方のロシアは対決姿勢を変えておらず、欧米側の行動への反発を強めています。

ロシアの農業衛生当局は7月28日、ウクライナ産の牛乳やチーズなどの乳製品の輸入を禁止しました。
ロシアが定める衛生基準を満たしていないことを理由としいますが、ウクライナが6月、欧州連合(EU)と自由貿易を柱とする「連合協定」の経済条項に署名したことに対し、ロシアが対抗措置を取ったとも見られています。

ロシア政府は30日、ポーランド産の果物や野菜の多くを輸入禁止にすると発表しました。今後、EUの全域に広げる可能性も示唆しています。

****ウクライナ国境などで大演習=空軍100機、NATOけん制か―ロシア****
ロシア国防省は4日、空軍の戦闘機、爆撃機、ヘリコプター計100機以上による大規模な軍事演習を、西部軍管区などで開始したと発表した。西部軍管区は、ウクライナ国境地帯を管轄する。

ウクライナ東部ではポロシェンコ政権が親ロシア派武装勢力に対する軍事作戦を続けている。
西部軍管区は、エストニアやラトビアといった北大西洋条約機構(NATO)加盟国との国境も管轄する。

今回の大演習には、ウクライナ情勢を受けてウクライナの一部や旧東欧共産圏諸国の間で強まるNATOの東方拡大強化への期待感をけん制する狙いもありそうだ。【8月4日 時事】 
*****************

欧米との対決姿勢はロシア経済にとって大きな負担となりますし、国際政治のうえでもロシアの孤立を強めます。
ただ、プーチン大統領は“それでもかまわない・・・”と考えているようです

****対ロシア制裁:痛みを覚悟するプーチン大統領****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナで打って出た賭けの代償が大きくなっている。それでも方針変更の兆しは見られない。(中略)

マレーシア航空機の撃墜で、ためらっていた欧州首脳も決意
数カ月にわたってばらばらの対応を続けてきた米国とEUが、ついに協調して厳しい制裁を決断した。

対象はロシアの国有銀行で、ロシアの石油産業、軍事産業が必要とする技術の輸出も禁止される。これだけの制裁では、ロシアを屈服させることにはならない。しかし、すでに低迷しているロシア経済に大きなダメージを与えることはできるだろう。(中略)

国有銀行への制裁はロシア経済に最大の、そして最も差し迫った脅威をもたらす。(中略)
新たな制裁が科されれば、これらの銀行が欧米の資本市場で株式や債券で資金を調達するのは難しくなる。長期的に外部からの資金調達の道を断たれれば、債務の返済は困難になる。(中略)

いかなる犠牲を払っても戦う
プーチン大統領は、欧米が躊躇を続け、関心は長く続かないと踏んでいた。そうなれば、大きな危険や犠牲を払うことなく、ウクライナで好きなように振る舞うことができる。

外交関係は悪化するかもしれないが、実質的な痛みはない。ロシアの経済やプーチン大統領の対外的なイメージがどれほど損なわれようと、クリミアを奪還し、ウクライナに恩義を感じさせておけるのであれば、その価値はある。

今や、賭けの代償がプーチン大統領の予想を超えることがはっきりした。しかし、恐らくプーチン大統領が屈するほどのものではない。

シンクタンク、カーネギー国際平和財団モスクワ・センターのドミトリー・トレーニン氏は、プーチン大統領は現在、政治生命を懸けて戦っていると話す。

大統領は、大胆な振る舞いを続けて国内での支持を伸ばすか、国際的な圧力に屈し、場合によってはすべてを失うかのどちらかだと考えているのだ。(中略)

欧米との対決にかかっているものについてのプーチン大統領の考えからすれば、事態がエスカレートしても不思議ではない。

プーチン大統領は、自身の政治家としての将来は、ロシアの地域的影響力を守れるかどうかにかかっていると信じている。これは、プーチン大統領がソビエト連邦の崩壊から得た教訓だ。

ウクライナの分離派が敗北し、ロシアが何の見返りも得られない事態こそ、プーチン大統領にとって悪夢となる。ミハイル・ゴルバチョフ氏の二の舞いを演じるくらいなら、世界からつまはじきにされる方がましだと考えているのだろう。【英エコノミスト誌 2014年8月2日号】
*******************

ロシア国内では情報管理によって、プーチン大統領への支持はかつてなく高まっています。
ロシアの世論調査機関レバダ・センターによると、マレーシア航空機墜落はウクライナ軍の責任だと考える人が82%を占めています。

******************
・・・・今回の事件では、「プーチン大統領の専用機と見間違え、ウクライナ軍が撃墜した」「飛行機は元々遺体だけを乗せて飛んでいた」などの珍説がマスコミで相次いだ。

露政府のマスコミ統制ぶりを示す一方で、現実逃避、自暴自棄的なシニシズムの色が濃い。

ウソで固めた社会では時折、暴力的な反動が起きる。一一年の下院選挙では、プーチン与党「統一ロシア」の大規模選挙違反に、全国的な抗議デモが起きた。集計のゴマカシが広範に撮影されていたのも、国民が以前から違反を熟知していたからだ。

プーチン政権には、抑圧を強める以外に策はない。

今年導入されたのは、娯楽芸術作品の中での「汚い言葉」の使用禁止、違法デモに半年間で二回参加すれば懲役最高五年、オンラインで「分離主義」を唱えれば重罰といったもので、当局の恣意的弾圧の幅を広げた。(後略)【選択 8月号】
***************

クリミア編入では、その“手際の良さ”“断固たる姿勢”が一部では高く評価されたプーチン大統領ですが、ウクライナ東部の“ならず者”を支援する姿勢には批判が強まっています。

「プーチンはスパイだった頃と全く同じ世界観、人間観を持ち続けている」とも。

いずれにせよ、硬直した対決姿勢で突き進んでも、ロシアにとって明るい出口はないように思えます

****奈落に沈むプーチンのロシア****
撃墜事件で見せた「凶悪国家」の本性

マレーシア航空MH一七便がウクライナ東部で地対空ミサイルによって撃墜された事件で、ロシアのプーチン大統領が、内外で坂を転げ落ちている。実力以上の軍事行動が、国家消滅につながったソ連時代との類似性を指摘する声も出始め、武力と抑圧で絶頂を味わった指導者は、突然の運命の暗転に打つ手を失っている。

プーチンの立場を端的に示すのが、「ロッカビー・ライン」という言葉だ。カダフィ大佐時代のリビアが一九八八年、パンナム機を英国ロッカビー上空で爆破した後、リビアは国際的ならず者になった。

米欧外交関係者の間では、プーチンは越えてはならない一線を越えたとの見方が有力で、リンチで惨死した「中東の狂犬」と大差がない。

「今後は、国際舞台で『尊敬に値する指導者』を装うことはできない」と、クレムリン・ウオッチャーのマーク・ガレオッティ・ニューヨーク大学教授はブログで論じた。

ロシアは「本質的に攻撃的で、破壊的で、混乱の源」(同教授)であることを、自ら露呈した。【選択 8月号】
*****************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする