孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エボラ出血熱  隔離地域住民に飢餓の危機  未承認薬使用が容認されたものの・・・・

2014-08-12 21:58:30 | 疾病・保健衛生

(今日亡くなったスペイン人神父を感染地リベリアから、治療のためにスペイン国内の病院に搬送したときの様子。
治療のために感染者を受け入れることへの地域住民の賛否という問題も今後出てくるでしょう。
写真は“flickr”より By Noticias Buenos Aires https://www.flickr.com/photos/nwsba/14666996140/in/photolist-om5bXN-opDE9p-omgWnE-omvzFc-oEeteq-oBuzjE-oBkLbs-oEq7Yu-omEXMN-oBgkGL-opFqVZ-oAWBVf-oA9ApS-onPHTw-ookgyg-oE72kW-oAWCBA-oFGqqA-oo6iYq-oCtWXe-omqfk9-oC4UBE-oCxv3Y-onPe5a-oDEN8D-okM3Aw-oCP4LH-omDw9h-omenBf-oppJzh-oCFjjg-op6Mgr-op5Y7s-omQRuu-ooea7k-omZdyY-oCuGUd-oCBMmm-opa8RQ-ombBTL-onbCt8-oD6G2v-oE4gGx-oDSPNG-oFcwjh-oE3xye-omCRXB-onL9s8-oDADkN-oEQpgx)

制御不能状態で死者は1000人を超える
前回エボラ出血熱を取り上げた8月2日ブログ「エボラ出血熱 流行中心地を隔離へ 欧米も感染拡大を警戒」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140802)では、死亡者は729人(7月31日WHO発表)でしたが、それから10日ほどで1000人を超える事態となっています。

感染は沈静化ではなく、急速な拡大の方向にあります。
死亡者は1013人で、国別の内訳はギニアで373人、シエラレオネで315人、リベリアで323人、ナイジェリアで2人とされています。

つい先ほどのニュースで、アフリカ以外での死者も報じられています。

****アフリカ以外で初の死者=スペインで治療中の神父―エボラ熱****
西アフリカ・リベリアでエボラ出血熱に感染後、スペインに帰国し治療を受けていたミゲル・パハレス神父(75)が12日、マドリードの病院で死亡した。欧州のメディアが一斉に報じた。

米疾病対策センター(CDC)によると、年初に西アフリカでエボラ熱の感染が確認されて以降、アフリカ以外で死者が出た初のケースとみられる。

パハレス神父は、リベリアの首都モンロビアの教会で患者の支援に当たっていた際にエボラ熱に感染し、7日に帰国。米国が開発した実験段階の血清を投与するなどして治療を続けていた。

この教会ではアフリカ人スタッフ3人もエボラ熱に感染して死亡、教会は既に閉鎖された。【8月12日 時事】 
*****************

今後については、すでにナイジェリアに飛び火したように、航空機による移動で感染が西アフリカ以外の地域に拡散すること、特に人口密集地の都市部での感染拡大もありうること、医療従事者の感染が多く、感染の恐怖からの職務放棄も含めて感染地域での医療体制が崩壊する危険があること・・・などが懸念されています。

【「診療所も閉鎖されている上、食べ物もなくなったら、どうやって生き残れというのか」】
前回ブログで取り上げたように、ギニア、リベリア、シエラレオネの3か国は8月1日、流行の中心となっている3か国の国境が接する地域を封鎖して隔離すると宣言しました。

隔離地域は軍によって移動が厳しく制限されることになりますが、この隔離地域に封じ込まれた形となっている人々の生活と生命も問題となってきています。

****エボラ流行で隔離の地区、住民に「飢餓」の危機 リベリア****
致死率の高いエボラ出血熱が猛威を振るい、数か月前から人々が危機的な状態に置かれてきたリベリア北部で今、感染拡大の阻止を目的に隔離された地区の住民たちが、飢餓という新たな脅威に直面している。

西アフリカ全体で1000人近くの命を奪ったエボラ出血熱を封じ込めるための取り組みとして、リベリア政府は先ごろ、最も多くの患者が確認された北部地域を隔離。軍の車両が道路を封鎖し、人の移動を制限している。

しかし、隔離措置によって業者が食料品を仕入れることがきなくなり、農家も作物の収穫ができなくなっていることから、地域では商品が不足。価格が急騰している。

首都モンロビアの北にあるボポルに住む男性は、「住民は餓死するのではないかと恐れ、パニックに陥っている」と話した。また、「うちは25人家族だが、コメの値段が高騰しており、手持ちの金額で買えた分だけでは3週間も持たない」という。

また、AFPの電話取材に応じた同じ地区の住民の女性は、「感染拡大を封じ込めるための隔離には賛成だが、私たちが餓死する必要はない。診療所も閉鎖されている上、食べ物もなくなったら、どうやって生き残れというのか。エボラウイルスの犠牲者以上の人が死ぬことになる」と語った。

隔離措置は、リベリアが緊急事態を宣言した6日から実施されている。人の移動を制限するために派遣された軍は特に、最悪の被害が出ている州から首都への移動を規制している。

エレン・サーリーフ大統領は、「国の存続をかけて、非常手段を講じる必要がある」と警告している。【8月10日 AFP】
*******************

「診療所も閉鎖されている上、食べ物もなくなったら、どうやって生き残れというのか。エボラウイルスの犠牲者以上の人が死ぬことになる」・・・・映画のアウトブレイクものを思わせるような危機が現実のものとなりつつあります。

限られた量の未承認薬を誰に使うのか?】
エボラ出血熱は血液や排泄物に直接触れることで感染しますが、感染力はあまり強くなく、空気感染もしないため、新型インフルエンザのようなパンデミックには至らないと思われることが唯一の救いです。

しかし、有効な特効薬が存在せず、“WHOによると、エボラ出血熱は1976年以降、いずれもアフリカで20回以上発生した。原因はエボラウイルスで、潜伏期間は2〜21日(多くは8〜10日)とされる。ウイルスには5タイプあり、今回は致死率が8〜9割と最も高い「ザイール型」に近いとみられている。”【8月9日 毎日】というように、致死率が極めて高いことが問題です。

現在注目を集めているのは、開発段階にある未承認治療薬の存在です。

当然、未承認ということで、医薬品としての安全性は確認されておらず、その有効性も実証されていない訳ですが、“致死率が8〜9割”という状況では、現実的対応として“可能性があるものなら使用してみよう(仮に副作用があったとしても、放置すれば8〜9割の確率で死んでしまうのだから・・・)”ということになります。

すでに、アメリカではリベリアでエボラ出血熱に感染した2人のアメリカ人医療従事者へ、臨床試験を経ていない治療薬が投与されています。

WHOも今日、未承認薬の使用を容認しました。

****エボラ WHOが未承認薬の使用容認****
西アフリカでエボラ出血熱の患者が増え続けるなか、WHO=世界保健機関は安全性などが最終的に確認されていない未承認の薬を一定の条件の下で使用を認める方針をホームページ上で明らかにしました。

具体的には患者に薬のリスクなどを事前に説明したうえで本人の同意を得ることや、地元政府などの理解を得るなどの一定の条件が満たされれば、未承認の薬を患者に投与することを認めるとしています。

WHOでは、日本時間の12日午後9時からスイスのジュネーブにある本部で記者会見を開いて、今回の方針について詳しく説明することにしています。【8月12日 NHK】
*******************

安全性の問題は、緊急事態ということで一定にやむを得ないところですが、使おうにも少量しか存在しないという問題もあるようです。

*******************
投与された「ZMapp」と呼ばれる薬は、ごくわずかな量しか製造されていない。したがって、治療が施される人数も限定されると米国立衛生研究所の国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)所長、アンソニー・ファーシ氏は話す。

米国保健社会福祉省(HHS)の生物医学先端研究開発局(BARDA)によると、少量を生成するのに3~4カ月はかかるという。

米サレプタ・セラピューティックス社のCEO、クリス・ガラベディアン氏は、政府による支援の打ち切りでエボラ治療薬の開発を棚上げしていたが、20~30人には施せる分量の薬を提供するつもりだと、投資専門週刊誌「Barron's」のインタビューで語っている。【8月12日 ナショナルジオグラフィック】
******************

今言っても仕方ないことですが、“政府による支援の打ち切りでエボラ治療薬の開発を棚上げしていた”というのは、命の価値の格差を反映しています。

エボラ出血熱は、これまでもアフリカで20回以上発生し、多くの死者を出してきました。
これがアフリカではなく、欧米で発生した感染症であれば、“政府による支援の打ち切りでエボラ治療薬の開発を棚上げしていた”などということはなかったでしょう。

医療・医薬品開発においても、欧米先進国の基準で行われており、アフリカの人々の命と欧米先進国のそれとでは現実問題として格差が存在するということです。

当面の話に戻すと、“20~30人には施せる分量の薬を提供するつもり”ということになると、誰に使うのか?・・・という問題も起きてきます。

******************
今回2人のアメリカ人に薬が投与されたことで、人々の関心は、「未承認薬を使うべきか」をすでに通り越し、「なぜ病気に苦しむアフリカの人々ではなく、アメリカ人に投与したのか」に移行している。

また、エボラ対策に従事し、“国民的英雄”と呼ばれるシエラレオネ唯一のウイルス学者、シーク・ウマル・カーン医師は、薬の投与が行われる数日前に感染によって亡くなっているが、なぜ彼に薬を与えなかったのかという疑問もわき起こっている。【同上】
*****************

こうした未承認治療薬の存在が発生地域で知られるようになり、かつ、その供給量が極めて限定的だとすると、今現在感染して死期が迫っている患者、及びその家族・関係者が「薬はあるけど、あなたには使えません」という話を了承するでしょうか?

まあ、そうした話は今回のエボラ出血熱に限ったことではなく、ほんの僅かばかりの医薬品・食糧がない(もちろん世界には捨てるほど存在していますが、アフリカなどの貧困者には使えない)ために多くの(万人単位の)人々が亡くなっているのは世の中の常識ですから、今回のこともとやかく言うほどのものではないのでしょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする