孤帆の遠影碧空に尽き

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ウクライナ東部へ向けて、ロシアは人道支援団を見切り発車 EU・ロシアの制裁応酬の痛み

2014-08-13 22:10:41 | ロシア

(モスクワ郊外アラビノを出発するトラック(12日) 【8月13日 WSJ】)

包囲された拠点都市で悪化する市民生活
ウクライナ東部における親ロシア派武装集団と政府軍の戦闘は、ここ数週間にわたり攻勢を強める政府軍が親ロシア派の拠点都市を包囲する状況となっています。

****ウクライナ軍 補給路遮断を発表****
ウクライナ東部で軍事作戦を続けるウクライナ軍の作戦本部は、親ロシア派の武装集団が拠点とする2つの都市をつなぐ補給路を遮断したと発表し、武装集団に対する攻勢をさらに強めています。

ウクライナ東部では、先月起きたマレーシア航空機の撃墜事件のあとも、ウクライナ軍とロシアの支援を受けているとされる親ロシア派の武装集団の間で激しい戦闘が続いています。

こうしたなか、軍の作戦本部は10日、武装集団が拠点としている2つの都市、ドネツクとルガンスクをつなぐ補給路を遮断したと発表しました。

また、ウクライナのメディアによりますと、軍はドネツクをほぼ包囲し、10日には街なかに通じる道路に設置された武装集団側の検問所の1つを制圧したということで、攻勢を強めています。(後略)【8月11日 NHK】
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しかし、親ロシア派組織「ドネツク人民共和国」の新しい「首相」に就任したザハルチェンコ氏は、いったん停戦を呼びかけたましたが、その後反転攻勢に言及、大規模な市街戦に発展する可能性も懸念されています。

“親露派の支配下にある40万人都市ルガンスクでは、水や食料の不足に加え、停電も起き、避難せずに残っている住民は厳しい生活を強いられている。もう一つの親露派の拠点ドネツクも同様の情勢だ。”【8月12日 毎日】とのことで、市民生活が脅かされる状況が深刻化しています。

ロシアの見切り発車 欧米の警戒
こうしたロシア系住民の危機的状況に、親ロシア派を支えてきたロシアがトラック280台からなる人道支援団をモスクワからウクライナ東部に向けてウクライナ政府・欧米側の同意を得ることなく“見切り発車”的に出発させたことで、ロシアによる人道支援を隠れみのにした軍事介入への布石ではないかと疑うウクライナ政府との間で、あらたな緊張が生まれています。

人道支援物資は穀物400トン、砂糖100トン、離乳食62トン、医薬品54トン、寝袋1万2000人分、発電機69基とされています。

ウクライナ政府は、国境で赤十字の車両へ積み替えを求めているのに対し、ロシアはウクライナ政府が意図的に物資の到着を遅らせようとしていると批判している。

ウクライナ政府によれば、ロシアを含めた関係国と赤十字は11日に人道支援実施で合意し、今後1週間程度かけ具体的な支援の詳細について調査に入る方針だったとのことです。

ロシアとしては、拠点都市が政府軍側に落ちるといった、戦局が親ロシア派側にとって大きく悪化する前に何らかのテコ入れをしたいという思惑でしょうか。

ただ、ウクライナ政府にとっては、ロシアによる人道支援というのは、純粋に人道目的であったとしても自国の体面を潰す面白くないことでもあります。

トラックは現地時間の13日にも国境に到達する予定と言われていましたので、そろそろ国境付近に近づいているのではないでしょうか。まだ新しい情報は入っていません。

ロシアが国境を強行突破するような事態となれば、国境付近に集結しているロシア軍2万人の動向と併せて、情勢が大きく動くことも考えられます。

****ロシア、トラック280台で人道支援―ウクライナは警戒****
ロシアは12日、人道支援物資を積載していると主張するトラック280台を戦火で荒廃したウクライナ東部の都市へ送った。ただ、ウクライナ側は支援口実の軍事介入を警戒し緊張が高まっている。

ウクライナ政府関係者は、トラックがウクライナ当局と赤十字国際委員会の監督の下、ハリコフ州近くの駐留基地からウクライナ側へ入る予定との連絡をロシア政府から受けたことを明らかにした。

しかし、ウクライナ政府側は、物資が国境地点でロシアのトラックから赤十字の車両へ積み替えられなければならないとし、一方的にロシア車両でそのまま運搬しようとすれば侵略行為とみなすと警告した。

これに対しロシア外務省は、積み替えはいたずらに物資到着を遅らせるだけとし、ウクライナ政府が意図的に遅らせようとしているとした。

一方、赤十字はロシアが積み荷や安全確保に関して必要な情報を通知してきていないと述べた。

こうしたやり取りは、ロシアとウクライナの新たな緊張関係を生みかねないとの懸念を呼んでいる。

ロシアは、4カ月に及ぶ親ロシア分離派のウクライナ政府に対する戦いを支えてきた。
分離派が支配するドネツクやルガンスクなど東部地域などで、一般住民の戦闘による被害と苦痛を和らげる努力をウクライナ政府が怠っていると批判した。

ロシア政府担当高官は、今回の支援について西側諸国担当者と最近たびたび協議しており、トラック車列の動向もテレビによって事細かく放映されていると話した。

これに対しウクライナ政府は、親ロ勢力への武器・戦闘員供給を続け国境越しに迫撃砲でウクライナ軍を攻撃するロシア側が、「皮肉にも」支援を提供していると批判した。ロシアはこれを言いがかりとして否定している。

ウクライナ政府にとっては、ロシアの支援物資がたとえ赤十字によって配達されたとしても恥となる。一般市民の苦痛への対応に腐心しており、現政権を新たな親西側政権として既に疑っている住民にこれといった支援をしてこなかったためだ。

ここ数週間にわたり分離派への攻勢を強めているウクライナ政府軍は、ドネツクとルガンスクを分断しさらにロシアから両地域への支援ラインを遮断することを狙っている。ただ、この2、3日は戦果が鈍っている。

両地域では、砲撃と市民の負傷者が日々報告され、状況は急速に悪化している。ルガンスクでは水道や電気などの公共サービスが1週間以上停止している。【8月13日 WSJ】
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欧米側には、今回の“人道支援”がロシアによるウクライナ侵攻につながるのではないかとの懸念が強くあります。

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ウクライナや北大西洋条約機構(NATO)によれば、ロシア軍はウクライナ東部国境近くに戦車や戦闘機、攻撃用ヘリなどからなる約二万人規模の部隊を展開。

そうした状況での支援車両派遣に対し、欧米の懸念は高まる一方だ。

NATOのラスムセン事務総長は十一日、ロイター通信の取材に対し、ロシアは「人道支援の名目で(ウクライナ侵攻)作戦を展開するつもりだろう」と指摘。侵攻する「確率は高い」と強い警戒感を示した。

フランスのファビウス外相も十二日、仏ラジオ局に、ロシアの人道支援の車列は、ドネツクやルガンスク付近に「侵攻の基盤をつくるための隠れみのになりうる」と述べた。【8月13日 東京】
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制裁でEU側にも大きな痛み
一方、EUとロシアの経済制裁の応酬による影響が拡大しています。

EUは7月29日、ウクライナ東部でのマレーシア航空機撃墜事件後もロシアが親ロシア派に武器を提供、不安定化工作を続けているとして、初めての対ロシア経済制裁を31日に発動することを決めました。

EUが発動を決めた制裁は▽ロシア政府系金融機関、開発銀行などの資金調達禁止▽新規の武器禁輸▽軍事転用可能な高度技術・製品の提供禁止▽深海や北極圏の石油開発、シェールオイル掘削のための技術・製品の提供禁止・・・という内容で、長期的にロシア経済に深刻な打撃をもたらすとみられています。

一方、ロシアのメドベージェフ首相は8月7日、欧米などの対ロシア制裁への報復として、制裁発動国からの農産品と食料品の輸入を禁止する措置を発表しました。対象はアメリカ、EU、カナダ、オーストラリアなどで、対ロシア制裁に加わっている日本は含まれていません。

輸入が禁じられるのは、対象国産の牛・豚・鶏肉、魚、牛乳・乳製品、野菜、果物など。禁輸は8月7日から実施され、期間は1年間。

****ロシア:農産品・食料品輸入禁止の報復 負の応酬暗い影****
ロシアの食料品・農産物の輸入額は2012年で403億ドル(約4兆1500億円)。
EUからロシアへの農産品輸出額は13年で122億ユーロ(約1兆6500億円)と、輸出総額の0.4%程度。米国もロシアへの輸出額自体が輸出総額の1%程度に過ぎず、「米欧全体の経済への影響はほとんどない」(米経済紙)との見方が大勢だ。

ただ、ロシア向け輸出は欧州が域外に輸出する果物と野菜の2〜3割を占めており、農畜産業者の経営にとって痛手だ。

世界最大のリンゴ輸出国でそのうち56%をロシア向けに輸出するポーランドは、ロシアの輸入禁止措置で国内総生産(GDP)が0.6%低下すると予測する。

仏乳製品大手のダノンは売り上げの約1割をロシア事業が占めており、食品メーカーにとっても対応を迫られそうだ。

ロシア国内経済の悪化で欧州自動車メーカーの新車販売台数が急減するなど既に欧米企業のロシアでの業績は悪化しており、今後制裁が広がった場合は影響が広がりそうだ。

一方、ロシアにとって輸入禁止はもろ刃の剣だ。ロシアは穀物をほぼ自給する一方、英メディアによると、食品全体では約4割を輸入品に頼っているとみられる。

ロシアは通貨安の影響で消費者物価が既に前年比8%近くまで上昇しており、米欧からの輸入停止がインフレに拍車をかける恐れがある。

プーチン大統領は6日、禁輸措置に伴う物価対策として、ブラジルやアルゼンチンなどの制裁不参加国からの輸入拡大などを指示したが、短期間での切り替えは容易ではなさそうだ。【8月7日 毎日】
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“EUからロシアへの農産品輸出額は13年で122億ユーロ(約1兆6500億円)と、輸出総額の0.4%程度”・・・とは言っても、個々の産業、地域によっては大きな打撃となります。

欧州各国のTVニュースではこのところ連日、販路を一夜にして失った農産物生産者の困惑が報じられています。

****露禁輸:東欧など悲鳴 「巨大市場」失い、農水産業に打撃****
ウクライナ情勢を巡る欧米などのロシア制裁に対する報復措置として、ロシアが制裁発動国からの農産品などの輸入を禁止した影響で、ロシアとの経済的な結び付きが強い東欧諸国や旧ソ連圏のバルト3国が対応に苦慮している。こうした諸国にとってロシアは依然として「巨大市場」のため、生産者からは悲鳴も上がっている。

ロシアが7日から輸入を禁じたのは、欧州連合(EU)諸国や米国の牛・豚・鶏肉、魚、牛乳・乳製品、野菜、果物などで、主要食料品の多くが対象だ。

バルト3国からの報道によると、エストニアはロシアへの農産物輸出禁止による損失が1億ドル(約102億円)に上る見通しという。リトアニアでは、複数の企業がラトビアの農場と契約し、牛乳・乳製品を生産しているが、主要な販売先だったロシアに輸出できなくなった。

このため過剰生産を防ぐ目的で、ラトビア農場との契約を次々に解除しているという。ラトビアのストラウユマ首相は「国産の乳製品、水産物を買おう」と国民にテレビで呼びかけたが、酪農団体幹部は「ラトビアの国内市場はあまりに小さい。早急に新市場を探すべきだ」と訴えた。

ロシアが禁輸を発表した7日以降、リトアニアからラトビアなどを通ってロシア方面に向かう幹線道路では、各地で肉や乳製品を積んだトラックが立ち往生している様子が報じられた。禁輸決定前に出荷が決まった製品も、ロシアに入れない状況という。

ポーランドでは、ロシアと年間4億ドル(約408億円)規模の取引をしてきた約800社のリンゴ生産業者が影響を受けた。シュネプフ駐米ポーランド大使はビデオメッセージで「ポーランドのリンゴを買って」と米国民に呼びかけている。【8月12日 毎日】
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今のところは結束を強めるロシア
一方のロシアは情報が政府見解で統一されていますので、今のところは混乱は報じられていません。

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ロシア国営テレビは7日、国内農業の販売促進キャンペーンに乗り出し、地元で採れた果物や野菜の価値を謳い、制裁が地元の生産者にとって恩恵になると強調した。番組では、単に農業だけでなく、機械など関連部門でも、すぐに何百という雇用が創出されると報じていた。(中略)

新たな措置で同様の不足が起きるのではないかと心配する買い物客もいる。

だが、前出のコルニロフさんのような人たちは、長期的な視点を持っている。制裁や報復制裁は「長くて3~4年続き、その後はすべて元の状態に戻る」とコルニロフさんは主張する。

その間、ロシア人は多少の不便さに対処する覚悟を持っている。「ロシア人は何にでも耐え抜くことができる」とコルニロフさんは言う。【8月8日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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現段階では、プーチン大統領の欧米対決姿勢は国民の結束を強める方向で作用しています。

****ロシア:プーチン大統領支持87% 過去2番目の高さ****
ロシアのプーチン大統領の支持率が87%に達していることが民間世論調査機関「レバダ・センター」の最新調査(今月1〜4日に実施)で分かった。

2008年8月のグルジア紛争直後に当時首相だったプーチン氏が記録した88%に次いで2番目の高さ。ウクライナ東部で先月起きたマレーシア航空機撃墜事件をめぐりロシアが国際的批判を浴び、欧米などが対露制裁を強化するなか、ロシア国民がプーチン氏のもとで「結束」を強めているようだ。

ロシアが外国の制裁に報復措置を取ることについては72%が「正当だ」と回答し、「非生産的だ」と否定的にとらえる人は18%にとどまった。調査はプーチン大統領が制裁発動国からの農産物や食料品の輸入禁止を発表した今月6日の前に行われたが、多くの国民が対抗策を支持しているとみられる。

またマレーシア機撃墜の責任がだれにあるかとの設問(複数回答可)では、50%がウクライナ指導部、45%がウクライナ軍、20%が米国と答え、親ロシア派武装集団は2%だった。国際社会では親露派の犯行説が有力視されているが、ロシア国内の見解は大きく異なっている。

今年1月に65%だったプーチン大統領の支持率は、ウクライナ南部クリミアを編入した3月に80%に跳ね上がり、その後も8割台を維持している。【8月12日 毎日】
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短期的には、各国の利害が対立し、また、政府批判が表に出やすい欧州側の対応の方が難しいかも。
その欧州をとりまとめるのはドイツ・メルケル首相です。

対ロシア制裁には慎重姿勢だったメルケル首相が制裁に転じたのはプーチン大統領への不信感があると言われています。

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ドイツ政府高官の話によれば、メルケル氏がプーチン氏をとうとう信用しなくなったのは、分離主義者を制止する用意やロシアの関与についてプーチン氏がウソを繰り返した(両者は30回以上電話で話をしていた)と考えるに至ったからだという。メルケル首相にとって、信用できるか否かは非常に重要だ。【8月12日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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プーチン大統領、メルケル首相、それぞれ痛みは覚悟の制裁応酬、我慢比べでしょう。
欧州側が当面の混乱を回避できれば、長期的にはロシアに深刻な打撃となるでしょう。
当然、ウクライナ東部の情勢がどのように動くかも影響します。
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