(2005年 カシュガルを旅行した際のエイティガール寺院 モスクの外の木陰はお年寄りの溜まり場でした。おしゃべりしたり、寝転んだり、ナイフ自慢なども見られました。 今はナイフなど見せたら即逮捕でしょうが・・・)
【「テロ」や「過激な思想」を防ぐ名目でイスラム教への介入を強める】
中国の党中枢では、周永康(しゅう・えいこう)前党中央政法委員会書記(71)を「重大な規律違反」で立件・調査するという、反腐敗運動に名を借りた熾烈な権力闘争が繰り広げられていますが、「テロ」対策を名目にした強圧的な締め付け策が行われている新疆ウイグル自治区の情勢は益々不穏になっています。
当局による住民感情を無視した抑え込み、それに対するウイグル族住民の反発については、7月4日ブログ「中国 ウルムチ騒乱から5年 強圧的なウイグル政策で、イスラム過激派の影響が強まり過激化する恐れも」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140704でも取り上げました。
当局側の強圧的な対応については、以下のようにも報じられていました。
****中国当局、ウルムチ締め付け「ついにここまで」****
中国新疆ウイグル自治区のウルムチで少数民族ウイグル族と漢族が衝突し、当局発表で死者197人を出した大暴動から、5日で5年となった。
暴動現場の一つ、繁華街の国際大バザールでは、自動小銃を持った武装警察官が巡回するなど厳戒態勢が敷かれた。当局は力で治安を保っているが、強まる締め付けにウイグル族の不満が膨らむ一方だ。
「当局による宗教や慣習の軽視は年々強まっているが、ついにここまできたか」
6月中旬、ウルムチに住むウイグル族の男性は、当局の指示に基づく町内会のイスラム教の慣習に関する通知を見て暗たんたる気持ちになった。
宗教服の着用やひげを伸ばすことなど禁止事項が並んでいた。こうした通知が社会の末端まで下されるのは初めてとされる。当局が「テロ」や「過激な思想」を防ぐ名目でイスラム教への介入を強めていることを示すものだ。
暴動後、ウルムチのモスクで行われる礼拝では、当局の監視員が内部に置かれるようになった。これまで1人だったが、6月には3人に増えた。モスクの外でも多数の警官が目を光らせているところもある。
この男性は「こんなやり方では反感しか持てない」と憤る。
ラマダン(断食月)が6月末に始まると、同自治区のトルファン地区当局は公務員らの断食や礼拝を厳禁。ウルムチの飲食店は、断食の慣習に反して日中も店を開くよう求められている。
当局への反発から、5年で顔全体をスカーフで覆う女性が増えており、イスラム教を厳格に守る保守的な思想が広がっていることが背景にあるとみられる。【7月6日 読売】
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****新疆ウルムチ、バスへの液体持ち込み禁止…水も****
中国西部・新疆ウイグル自治区の区都ウルムチ市当局は24日から、市内を走る路線バスについて、飲料水を含むすべての液体物の持ち込みを禁止した。
中国紙・法政日報(電子版)などが報じた。ウルムチでは4、5月に爆発事件が発生し、当局は少数民族ウイグル族の犯行とみて、テロ対策を名目に締め付けを強化している。【7月25日 読売】
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飛行機ならともかく、市民の足であるバスにも水すら持ち込めないというのは、息苦しいような感じがあります。
【大規模襲撃、そして「武装警察ばかりの恐怖の世界」】
そういう厳しい締め付けに反発するように、相当に大規模な事件が発生しています。
****<中国>新疆で庁舎襲撃 無差別切りつけ死傷者100人か****
中国・新疆ウイグル自治区カシュガル地区ヤルカンド県で28日朝、刃物を持った武装集団が地元政府庁舎や派出所を襲撃した事件で、AFP通信は亡命ウイグル人組織のスポークスマンの話として、死傷者が100人近くに上ったと伝えた。
50人以上との情報もある。襲撃は大規模で、警察当局は「組織的で綿密に計画された重大なテロ」と断定した。
襲撃したのはウイグル族とみられる。現地ではイスラム教を信仰するウイグル族が多数を占めており、ラマダン(断食月)明けの祝祭を翌日に控えていた。
米政府系の自由アジア放送(RFA)によると、ラマダン期間中に当局者が各家庭を回り、女性が禁止されているスカーフを着用していないかチェックしていたことに反発が強まっていたという。
また、7月8日にはスカーフの検査をめぐり、警察官が7歳の少年を含む家族5人を射殺する事件も起きていた。
カシュガル地区では大規模な交易会が開かれており、警戒態勢が強まっていた。中国メディアによると、28日早朝に現地で警察官が爆発物を持った武装集団を発見。
容疑者らは逃走後に再び政府庁舎などを襲撃した後、別の村などでも市民に無差別に切りつけ、車両を壊した。RFAはネット上の投稿情報として「300人余りが結集した」と伝えた。
事件を受けて現地では厳戒態勢が取られている。ネットは遮断され、電話も通じにくい。
現地のウイグル族の女性は電話取材に「武装警察ばかりで、取り締まりを恐れて街には誰も出ていない。道路も検問があり行き来できない。恐怖の世界だ」と訴えた。
同自治区では漢族が中心の共産党支配へのウイグル族の反発から爆発事件や襲撃事件が相次いでいる。
ヤルカンド県では昨年12月に刃物を持った9人が警察署を襲撃する事件が発生。4月と5月には区都ウルムチで爆発事件が起きた。
習近平指導部は徹底した「対テロ作戦」を進めているが、今回の事件を受けてさらに締め付けを強めるものとみられる。【7月30日 毎日】
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“ラマダン期間中に当局者が各家庭を回り、女性が禁止されているスカーフを着用していないかチェックしていた”・・・随分と無神経な対応です。
自国民への対応というより、占領下の植民地での対応(それも19世紀頃の)のようにも思えます。
襲撃については、“数百人から1000人規模のウイグル族住民が関わる大規模な騒乱だった模様だ”【7月30日 読売】とも報じられています。
【「愛国宗教人」殺害】
この事件が起きたばかりのカシュガルでは、“戒厳令”のような警戒にも関わらず、新たな事件も起きています。
****中国:最大モスク指導者の他殺体 ウイグル族に容疑****
中国・新疆ウイグル自治区の政府系サイト「天山網」などによると、自治区カシュガルにある中国最大のモスク(イスラム礼拝所)・エイティガール寺院で7月30日朝、同寺院の指導者ジュメ・タヒール氏が殺害されているのが見つかった。
警察は容疑者としてウイグル族とみられる3人を特定し、2人を射殺、1人を拘束した。
タヒール氏は中国イスラム教協会副会長。政府の少数民族政策を支持するなど「当局側」と見られていた。天山網は3人が「過激な宗教思想の影響を受けていた」と強調した。
カシュガルのヤルカンド県では28日朝、武装集団が政府庁舎などを襲撃する事件が起きたばかり。【8月1日 毎日】
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28日の襲撃事件が起きたヤルカンドはカシュガル地区とは言っても、いわゆるカシュガルの町からは200km近く離れていますが、エイティガール寺院はカシュガルを象徴する新疆最大のモスクで、カシュガルの町のど真ん中にあります。
2005年にカシュガルを旅行した際には、途中ウルムチで現金・パスポート・カード・エアチケットなどすべてが入ったバッグを置き引きにあうというトラブルに遭遇し、パスポート等は戻ったものの現金の殆どは戻らず、カシュガルではわずかの手持ち金だけでなんとかやりくりする・・・といったこともありました。
お金もないので、昼食後にエイティガール寺院でボーッと時間をつぶすようなこともありました。
そんなこんなで、ちょっと思い出のあるモスクでもあります。
中国共産党のウイグル自治区委員会宣伝部が運営する情報サイト「天山網」は、殺害されたジュメ・タヒール師を「愛国宗教人」と表現して伝えています。
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・・・・捜査によると容疑者は3人で「極端な宗教思想の影響を受け、『大きなこと』をして影響力を高めるために行った計画的犯行」だったという。
・・・・中国では「共産党には属さないが、当局に協力的な人物」を「愛国」と表現することが多い。
ジュメ・タヒール師は1940年生まれ。天山網はジュメ・タヒール師を「イスラム教の平和、団結、中道、寛容などの思想と理念を発揚しつづけた」、「長期にわたり(テロリズム、民族分裂主義、極端な宗教の)『3つの勢力』との戦いを続けた」などと紹介した。
ジュメ・タヒール師は全国人民代表大会(全人代)議員、全国イスラム教協会副会長、カシュガル市政治協商会議副主席などの要職を歴任した。【8月1日 Searchina】
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亡命ウイグル人組織「世界ウイグル会議」は、中国当局の強圧的な政策が引き起こした事件と評しています。
****中国最大モスクの指導者、殺害される 新疆ウイグル****
・・・・イスラム教徒が大半を占める少数民族ウイグル人が住む新疆ウイグル自治区で激化している暴力は昨年、中国の他の地域へも飛び火した。
中国では、イマムと呼ばれるイスラム教指導者や他の宗教の指導者は政府によって任命され、説教の中身は厳しく管理されている。31日の国営新華社通信によると、タヒール師は「中国国内のイスラム教徒の間で非常に高名だった」という。
一方、AFPの電子メール取材に応じた亡命ウイグル人組織「世界ウイグル会議(WUC)」の広報担当ディルシャット・ラシット氏は殺害事件を非難せずに、「この地域の中国政府の政策は、時に起こるべきことでないことを引き起こす。現地のウイグル人たちによれば、ジュメ・タヒール師は常に政府に協力し、宗教活動の監視を支援し、同モスクにおける自分の地位を利用し、ウイグル人には受け入れがたい中国政府の政策を促進していたという。地元のウイグル人たちは、同師が中国の公安省と特別な関係にあるのではないかと疑っていた」と語った。【8月1日 AFP】
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【粗暴な植民地政策】
これら事件とは別に、民族間の和解を主張していた穏健なウイグル族学者の起訴も報じられています。
****中国:ウイグル族学者イリハム氏を国家分裂罪で起訴****
新疆ウイグル自治区の現状を発信し、民族間理解の重要性を訴えていた著名なウイグル族学者のイリハム・トフティ氏について、新疆ウイグル自治区ウルムチ市の人民検察院は30日、イリハム氏を国家分裂罪で起訴したと発表した。
イリハム氏は今年2月に逮捕され、ウルムチ市当局は「(同氏が)新疆独立を宣伝している」などとしていた。イリハム氏の拘束には米政府が懸念を表明している。【7月30日 毎日】
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一切の主張を許さず、徹底して政府方針に従わせる・・・・やはり、これは自国民への施策ではなく、植民地政策(それも相当にまずい)です。