孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  シャリフ首相の退陣を求める数万人規模のデモが首都へ 混乱すれば軍の介入も?

2014-08-15 23:29:55 | アフガン・パキスタン

(昨年5月に行われた総選挙の不正を糾弾して、腐敗一掃の反政府大衆行動を起こした野党「正義のための運動」(PTI)のイムラン・カーン党首 “flickr”より By wzohaib https://www.flickr.com/photos/48925059@N06/14891458576/in/photolist-oHmdAw-orDunF-oHpHEB-oro86R-oHDzNh-oHpHz6-orbMiD-oHuFf7-orxPTf-oFQKz5-oJ5Vyt-orrDuF-oFUBPN-or9wd2-oHUx7L-orX92V-oJCt8j-oFQQGE-oruLwn)

首都イスラマバードに向け、首相退陣をもとめてデモ行進
パキスタンでは、ムシャラフ元大統領、ザルダリ前大統領の頃も政情不安はいつもの話でしたが、昨年5月の総選挙で圧勝して首相に復帰したシャリフ首相のもとでもやはり落ち着かないようです。

****パキスタン:首相退陣求めデモ行進 数万人、首都に向け****
パキスタンで、シャリフ首相の退陣を求める数万人規模のデモが起きている。デモ隊は昨年5月の総選挙でシャリフ首相側による不正があったとしている。

独立記念日の14日、野党とイスラム教指導者はそれぞれ東部ラホールから約300キロ離れた首都イスラマバードに向けてデモ行進を開始。首都に到着後、座り込みを行う構えで、混乱が深まる可能性がある。

デモは、元クリケット選手のイムラン・カーン党首が率いる野党「正義のための運動」(PTI)と、イスラム教説教師のカドリ氏がそれぞれ主催。いずれも総選挙で不正が行われたとして再選挙を求めている。

シャリフ首相は12日、不正調査委員会の設置を約束したが、カーン党首らは「首相の辞任が先だ」として、デモ行進を敢行した。

地元メディアなどによると、両デモ隊は計数万人規模で別々に首都を目指して行進。途中でシャリフ首相の支持者と小規模な衝突も発生したという。

首都には13日から2万人を超える治安部隊が展開し、主要道路をコンテナで封鎖した。大使館などが並ぶ中心地には軍部隊も駐留し、厳戒態勢が敷かれている。【8月15日 毎日】
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すでに一部は首都に侵入しており、“首都では、監視のためヘリコプターが上空を旋回し、あちこちで爆竹とみられる発破音が響いている”【8月15日 朝日】とのことです。

****反政権デモ隊、首都に進入開始 パキスタン、対立激化****
パキスタンの首都イスラマバードで14日夜、シャリフ政権の退陣を求める大規模デモを計画している野党第2党「正義運動(PTI)」の支持者らが、警察がバリケードとして路上に設置した貨物用コンテナを自力で撤去し、首都内部へ進入を始めた。

警察は新たな防衛線を作り、政府機関などがある中心部に入り込むのを阻止する構えで、にらみ合いが続いている。

「シャリフ首相が辞任するまで座り込みを続ける」とするPTIのイムラン・カーン党首に対し、政府はあくまでデモを阻止する方針だったが、東部ラホールの高裁が13日夜、法の範囲内でデモを認める決定を出したため、政府は治安当局のコントロール下でデモを容認する方針に転換していた。

しかし、政府側の予想を超える早さでデモ隊が首都に入り込んだことで、一気に緊張が高まった。(後略)【8月15日 朝日】
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今回の混乱の背景に関する説明があまりないので、事情がよくわかりません。

そもそも、シャリフ首相が「イスラム教徒連盟」を率いて圧勝し、3回目の首相職に復帰した総選挙は昨年5月の話であり、なぜに今になって・・・という感があります。

昨年5月の総選挙における不正行為に関しては、日本ではあまり大きく取り上げられることはなかったように思います。

ただ、最大都市カラチでは票の水増しが指摘され再選挙になったと報じられていますので、それなりに不正が横行していたことは想像に難くありません。

反汚職、現状打破を掲げるイムラン・カーン氏
今回の反政府大衆行動の主役のひとり、「正義のための運動」(PTI)のイムラン・カーン党首は、国民的競技クリケットの元スター選手ということで以前から知名度がありましたが、既存政治の腐敗一掃を掲げて昨年5月の総選挙では躍進も期待されました。

しかし大きく議席は増やしたものの、シャリフ氏の単独過半数獲得という大勢を脅かすまでには至りませんでした。

“反汚職、現状打破、共同体主義、イスラーム的かつ現代的な福祉国家の建設などを掲げ、中道で穏健なスタンスながら反体制政党の色彩が濃い。・・・・対テロ戦争についてはアメリカ軍のパキスタン領内での活動を拒否し、カシミール問題についても強硬な姿勢をみせるなど、パキスタン民族主義的かつポピュリスト的な面もある”【ウィキペディア】というイムラン・カーン氏ですが、特に、アメリカの無人機攻撃には強い批判を繰り返しています。

****NATO補給路遮断を警告=無人機攻撃継続なら―パキスタン野党****
パキスタンの野党パキスタン正義運動のイムラン・カーン党首は4日、米国による無人機攻撃を受け、中央政府が無人機の運用を止められなければ、アフガニスタンに駐留する北大西洋条約機構(NATO)軍向け補給路を20日から遮断すると警告した。

正義運動は北西部カイバル・パクトゥンクワ州の政権与党で、NATO軍は同州を通ってアフガン駐留部隊に物資を輸送している。【2013年11月5日 時事】
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なお、前述カラチでの再選挙が厳戒態勢のなか行われた前日に、「正義のための運動」(PTI)の女性幹部が何者かに殺害される事件が起きています。

軍部と繋がりが指摘されるカドリ氏
もうひとりの主役、イスラム教説教師のカドリ氏が世間から注目を集めたのは、2013年1月頃に展開したザルダリ・人民党政権に対する反政府大衆行動でした。

ただ、当時から軍部と繋がっているのでは・・・とも憶測されていました。

****パキスタン:政権崩壊へ軍主導か 汚職疑惑で首相逮捕命令****
パキスタン最高裁がアシュラフ首相の汚職疑惑が強まったとして15日に首相らの逮捕を命じたことで、内政が一挙に流動化する恐れがでてきた。

首都イスラマバードでは、「腐敗した現政権の打倒」を訴える住民デモが14日から続き、その規模は16日現在で最大8万人にまで拡大。一部が警官隊と衝突した。

一連の動きについて、「ザルダリ大統領が率いる与党・人民党政権を崩壊させるため、軍が背後で動いている」との観測も出ている。(中略)

反政府デモの参加者は14日以降、首都中心部の議会近くの幹線道路を約1キロにわたり占拠している。今回、デモの広がりと時を同じくして突然の首相逮捕命令が出されたことについて、アシュラフ首相の側近、チョードリー氏はロイター通信に対し、「軍が黒幕だ」と指摘した。

「軍主導」の臆測の裏付けとして挙げられているのが、デモを率いるイスラム教指導者のタヒル・カドリ氏の存在だ。

カドリ氏は、99年のムシャラフ陸軍参謀長(当時、後に大統領)による軍事クーデターを支持し、02年の総選挙で下院議員に当選した。

06年にカナダに渡り、欧米などに住むパキスタン人の間で影響力を保持してきたが、昨年末に突然、パキスタンに帰国。激しい政府批判の演説を繰り広げ、急速に支持を広げた。

イスラマバードの政治アナリストは「確たる証拠はないが、軍がカドリ氏を利用して多数の住民をデモや反政府集会に動員している可能性は否定できない」と話した。

パキスタンでは47年の建国以来、3度の軍事クーデターが繰り返され、国政の実権は軍が掌握しているといわれている。しかし、国際的な批判を考慮し、軍はあからさまな民政政権打倒は望んでいないともみられている。【2013年01月16日 毎日】
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この昨年1月の大衆行動以降はあまり目立った行動はありませんでしたが、昨年5月の総選挙については「腐敗した選挙をボイコットせよ」と訴えていました。

****パキスタン総選挙:「ボイコットを」反シャリフ派がデモ****
パキスタン総選挙の投票が行われた11日、首都イスラマバード中心部では、約3000人の住民が「腐敗した選挙をボイコットせよ」と訴え、座り込みのデモを展開した。

今年1月に首都で数万人規模の反政府デモを行い、人民党政権を揺るがしたイスラム教説教師カドリ氏の支持者たちだ。

カドリ氏は、パキスタン軍が背後で支えているといわれている。
カドリ氏自身は、最近は沈黙していたが、選挙の行方によっては、大規模な抗議デモを再び展開し、新政権を揺るがす存在として台頭する可能性がある。

カドリ氏のスポークスマンのオマル・リアズ・アッバシ氏は毎日新聞に対し「選挙結果がシャリフ元首相派圧勝となれば、不正による選挙でしかない。その際は、抗議デモで選挙結果を無効にする。そのため、(野党『正義のための運動』を率いる)イムラン・カーン氏と協力する可能性もある」と語った。

シャリフ元首相は1999年にムシャラフ陸軍参謀長(当時。後に大統領)を突然解任したことから軍事クーデターを招き、今でも軍側から憎まれているといわれている。「腐敗一掃」を訴えるカーン氏は、カドリ派と近い立場にある。【2013年05月11日 毎日】
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今回のカドリ氏とカーン氏の連携による不正選挙糾弾行動は、上記記事にあるように、昨年5月段階ですでに表明されていたものでもあります。
ただ、なぜ今頃・・・という感はあります。

混乱が広がれば、政権と緊張関係にある軍部が介入するのではないかという見方も
軍部との繋がりが指摘されているカドリ氏に対し、シャリフ首相は上記記事にもあるように、99年に軍事クーデターで職を追われ、海外生活を余儀なくされた経緯からもわかるように、軍部との関係は良くなく、昨年5月の首相復帰でも軍との関係改善が大きな課題であると言われていました。

今回の不正選挙を糾弾する大衆行動についても、“一部の軍当局者が背後でデモを支持しているとみられ、デモ隊が暴徒化した場合、軍が介入して政変になるとの見方もある”【8月14日 読売】とのことです。

エジプト、タイそしてパキスタン・・・・でしょうか。

ただ、シャリフ首相はパキスタン・タリバン運動(TTP)との和解交渉をあきらめ、軍は北西部でパキスタン・タリバン運動(TTP)などに対する掃討作戦を行っていますが、イスラム原理主義勢力への対応に関するカドリ氏やカーン氏の立ち位置はよくわかりません。

軍事クーデターや政変は珍しくないパキスタンですから、その類が起きても不思議ではありませんが、ザルダリ前大統領のように、やはり軍との折り合いが悪いながらも、いろんな問題を抱えながらも、それでも5年間の任期を全うした例もあります。
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