孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ドイツ  連立政権を揺るがす難民受け入れスキャンダル 中国・サウジ・米国には明確な自己主張

2018-06-03 21:23:41 | 欧州情勢

(中国の首都北京でメルケル独首相と面会した、拘束されている人権派弁護士の妻・李文足氏(2018年5月28日撮影)【5月28日 AFP】)

難民への滞在許可で大規模不正 連邦議会はメルケル首相の難民受け入れ政策に対する調査を開始する可能性
ドイツでは昨年9月24日の総選挙後、メルケル首相率いる「キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)」は当初、「自由民主党(FDP)」と「緑の党」との三者の連立交渉を行いましたが、一部の政策で折り合うことができず、11月19日に交渉が決裂。

その後、下野(野党)宣言をしていた「社会民主党(SPD)」と交渉を行った結果、3月4日に連立協定が成立し、半年近い政治空白にようやく終止符を打つことができました。

連立政権ですから、連立相手SPDとの「愛なき結婚」に伴う不協和音は当然のことですが、これまで国内外をリードしてきたメルケル首相の求心力低下も明らかになっており、おもに首相が進めてきた難民受け政策に対する保守系自陣からの批判が不協和音を拡大させています。

****独新政権1カ月 「愛なき結婚」不協和音続く****
ドイツのメルケル新政権発足から14日で1カ月。難交渉の末、中道左派の社会民主党とこぎ着けた再大連立では、難民・移民政策をめぐる閣僚発言などが物議を醸し、不協和音が絶えない。求心力の陰りも指摘されるメルケル首相は早くも、「愛なき結婚」の手綱さばきに腐心している。
 
メルケル氏は10〜11日、閣内の政策調整のため、ベルリン郊外で全閣僚参加の会合を開いた。重大決定はなく、メルケル氏は「目的は閣僚が知り合うこと」とし、「(閣内は)総じて協調的だ」と述べた。
 
メルケル氏がこう強調したのは、発足当初から政権内がぎくしゃくしてきたためだ。特にメルケル氏の保守系与党の一角をなすキリスト教社会同盟(CSU)出身のゼーホーファー内相は「イスラム教はドイツにそぐわない」と述べ、大きな議論を呼んだ。
 
発言はCSUの拠点、バイエルン州で秋に控えた州議会選を念頭にしたものとされるが、社民党や左派系野党が一斉に批判。メルケル氏は「イスラム教も今では、ドイツの一部」と述べ収拾を図る事態となった。
 
不協和音に輪をかけているのが、寛容な難民政策を批判するシュパーン保健相の言動だ。メルケル氏が自党の批判派取り込みのため起用したが、最近は「法と秩序が徹底されていない」と社民党が治めるベルリンなどの治安状況を批判。社民党側の反発を招いた。
 
シュパーン氏はほかにも物議を醸す発言を繰り返しており、社民党幹部はシュパーン、ゼーホーファー両氏について「自分の売り込みだけを考えている」と批判。メルケル氏に対し、政権運営に集中させるよう注文した。
 
社民党のショルツ副首相は閣僚会合後、「チームは築かれた」と内閣協調を誇示したが、公共放送ZDFは「不和は続いている。期待はできない」と懐疑的な見方を伝えた。【4月15日 産経】
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そのメルケル政権がこれまでとってきた寛容な難民受け入れ政策を揺るがしかねない事件が明らかになっています。

****難民認定で大規模不正か=当局トップを捜査―独****
ドイツで難民受け入れの可否を判断する当局で、職員らが賄賂を受け取り、犯罪歴などで本来受け入れられない難民に滞在許可を与える不正が大規模に行われていた疑いが強まっている。

独紙ビルト(電子版)は22日、検察が捜査を拡大し、当局トップを新たに対象としたと報じた。
 
今回捜査対象となったのは連邦移民・難民庁のコルト長官と幹部3人で、不正を把握しながら公表しなかった疑いがあるという。
 
検察は4月、北部ブレーメンの同庁出先機関で、2013〜16年に少なくとも1200件の不正が疑われる難民認定があったとして、収賄などの容疑で、出先機関幹部や認定申請の補助を行った弁護士ら6人に対する捜査を始めた。
 
独誌シュピーゲルによると、不正に認定を受けた疑いのある難民の中には、過激派組織「イスラム国」(IS)とのつながりが疑われ、認定後にシリアに出国したとみられる人物も含まれているという。【5月23日 時事】
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現在の担当部署責任者は上記【産経】でメルケル首相を批判しているゼーホーファー内相ですが、政府の不備を謝罪したうえで、メルケル首相の側近で前内相のトマス・デメジエール氏に責任があると指摘しています。

****ドイツ揺るがす難民スキャンダル、テロリストも認定****
ドイツで難民申請を巡るスキャンダルが浮上している。アンゲラ・メルケル首相の下で不協和音の絶えない連立政権を揺るがしかねず、連邦議会はメルケル氏の難民受け入れ政策に対する調査を開始する可能性がある。

独検察当局によると、移民局の汚職疑惑を巡る捜査で、難民申請の処理に数年前から重大な問題が発生していたことが判明した。

州の検察当局はドイツ連邦移民難民局(BAMF)ブレーメン支局が処理した少なくとも1000人の難民申請について、職員や弁護士、通訳者が共謀して金銭と引き換えに認定を出した疑いで捜査を開始した。中には犯罪者やテロ容疑者も含まれていた可能性がある。これを受け連邦内務省は先週、同支局を一時閉鎖した。

移民局の不正疑惑について全容解明を政府に求める圧力が高まる中、今週に入り議会の内務委員会はホルスト・ゼーホーファー内相を証言に呼び出し、数時間にわたって厳しく問い詰めた。

世論調査各社は、疑惑が発覚したことで、州当局が入国者の選別を放棄したとの不安が有権者の間で再燃しかねないと警告する。

そうした不安は、昨年9月の連邦議会選挙で反移民・反イスラムを掲げる政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が最大の野党勢力となる上で大きな役割を果たした。

疑惑はメルケル氏の連立政権にも緊張をもたらしている。連立相手である中道左派の社会民主党(SPD)は今週、野党が求める議会調査の実施を支持するかもしれないと述べたが、調査はメルケル氏が2015年に決定した難民受け入れ政策に関する公開審理に発展する恐れがある。

以前からメルケル氏の決断を厳しく批判してきた保守派の一人であるゼーホーファー氏は29日、政府の不備を謝罪した。

同氏は「ブレーメンの極めて深刻で恥ずべき問題への対応は唯一、徹底的な調査と完全な透明性実現しかない」とし、メルケル氏の側近で前内相のトマス・デメジエール氏に責任があると指摘した。

BAMFはウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が確認した内部報告書で、ブレーメン支局による見境のない難民認定が「多大な安全保障リスク」を生じさせたとしている。

捜査対象となっているブレーメン支局の責任者はドイツ大衆紙ビルトに対し、当局の不備は政治家の責任で、問題の真相は報道されている以上に深刻だと語った。この責任者は収賄容疑を否定している。

当局による捜査はBAMFの全51支局のうち、平均以上の認定率となっている他の10支局にも広がっている。不正が疑われる1万8000件の認定例について調査しているという。

SPDのラルフ・ステグナー副党首は先週、「メルケル氏は責任逃れをしている。沈黙して、何らの行動も起こさず、BAMFの管理問題を切り抜けようとしている」と批判した。

メルケル氏の報道官は、同氏が状況を見守っており、捜査を支持していると述べた。さらに、議会は問題について調査を開始すべきか判断する権利を持つとの見解も示した。【6月1日 WSJ】
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“難民受け入れ政策”という極めて敏感な問題で起きたスキャンダルだけに、その影響が注目されます。

【“右寄り・反移民”を競い合う極右勢力と保守派
難民受け入れ政策批判で勢力を拡大した反移民・反イスラムを掲げる政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持率は、5月当初段階で14%ほどとのことです。

5月27日にベルリン中心部で行ったイスラム系移民・難民の排斥を訴えるデモは、想定規模を下回るものになったようです。

****<ドイツ>野党第1党がイスラム系移民・難民の排斥訴えデモ****
ドイツの国政野党第1党「ドイツのための選択肢」(AfD)が27日、ベルリン中心部でイスラム系移民・難民の排斥を訴えるデモ行進をした。ガウラント党首ら幹部や支持者約6000人が参加し、難民受け入れ政策を進めたメルケル首相の辞任を求めた。
 
出発地点のベルリン中央駅前で、フォンシュトルヒ党連邦議会会派副代表は「自由かイスラム化かが我々の運命を決する問題だ」と演説。「イスラム教による支配にコーラン以外の真理はなく、キリスト教徒やユダヤ教徒は2級市民扱いされる」と述べ、イスラム教徒の排斥を訴えた。
 
デモには近郊の旧東独州などから支持者が集まったが、当初想定していた1万人を大幅に下回った。AfDに対抗する左派系政党や団体約2万5000人による抗議デモも実施されたが、大規模な衝突は起きなかった。【5月28日 毎日】
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ドイツでも高まる反イスラムの風潮を加速させているのが保守派の言動です。

****公共施設に十字架掲げよ、独バイエルン州の新政令めぐり物議****
ドイツ南部バイエルン州の州首相が25日、全ての公共施設の入り口にキリスト教の十字架を掲げるよう定めた政令を出し、物議を醸している。
 
マルクス・ゼーダー州首相は、「十字架はバイエルン人のアイデンティティーと生き方を象徴するものだ」と宣言。宗教的な象徴ではなく、文化の象徴と見なすべきだとの持論を展開した。
 
ゼーダー氏の所属する保守系の地域政党、キリスト教社会同盟は、アンゲラ・メルケル首相率いるキリスト教民主同盟の姉妹政党。10月に州議会選挙を控え、極右勢力の台頭という課題に直面している。
 
政令をめぐっては、ドイツ憲法が政教分離を定めているとして批判の声が上がっており、複数の宗教指導者が宗教と政治をもてあそんでいるとゼーダー氏を非難している。(後略)【4月26日 AFP】
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極右勢力と保守派が“右寄り・反移民”を競い合うという、他の国々でも見られる政治現象です。

影が薄くなったと言われるなかで、メルケル首相訪中時に、人権問題で譲らぬ姿勢を明快に示す
外交面では、メルケル首相はトランプ大統領とそりが合わないこともあって、フランス・マクロン大統領に主役の座を譲っている感もあります。

****メルケル独首相、埋まらぬトランプ米大統領との溝 マクロン仏大統領と欧州の「主役交代」も****
メルケル独首相の訪米は3月の新政権発足後初となった。米独首脳は「協調」演出に腐心する姿もみられたが、マクロン仏大統領が直前に訪米した際とは対照的に2人の“距離”は覆い隠せなかった。

米側が求める重要課題で打つ手も乏しく、対米関係の苦慮は今後も続きそうだ。(中略)

メルケル氏は(国防費増額要請や貿易問題で)今後も対策を模索する考えだが、米側が納得する方策が示せるかは見通せない。以前より政権基盤が弱体化する中、連立相手の社会民主党が国防費の急増に反対するなど、身動きできる余地が狭まっているためだ。
 
オバマ前米政権下でメルケル氏は欧州の最重要パートナーとされたが、独メディアにはマクロン氏との“主役交代”を指摘する向きもある。「ジャーマン・マーシャル基金」専門家のテチャウ氏は「驚くほど短期間でドイツは悪役になった」とし、仏側との協調が対米関係でも一層重要になるとの見方を示した。【4月28日 産経】
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メルケル首相は5月末に11回目の中国訪問を行っていますが、目立った成果はなかったようです。

“世界最大の経済大国である米国は「米国第一」、2位の中国は「中国製造2025」を掲げ、どちらも独自路線をとっているが、ドイツはいまだ進むべき道筋を明確にできていないと指摘。二大国間で消耗させられる危険がある”(シュヴァーベン・ツァイトゥング紙)【5月28日 Record china】

ただ、いかにもメルケル首相の面目躍如を思わせたのが、この訪中時に拘束されている中国の人権派弁護士の妻2人と面会したことです。どの国も、中国の不興を買わないようにこの種の問題を避けて通るのが常ですが・・・。

中国側とは相当に厳しい水面下の交渉もあったと想像されますが、あえて実施したのは、メルケル首相としても自身の政治的“賞味期限”が末期に近づいていることを感じるなかで、自分の信念を貫きたいという思いが強まっているのでしょうか・・・・。

****訪中したメルケル独首相、拘束された人権派弁護士の妻らと面会****
先週訪中したドイツのアンゲラ・メルケル首相が滞在中、拘束されている中国の人権派弁護士の妻2人と面会した。面会した女性が28日、AFPに明らかにした。

国や政府の指導者レベルの人物は訪中時、人権についての声明を公に発表したり、活動家やその家族と面会したりすることを避けるため、メルケル首相による今回の面会は異例と言える。
 
メルケル氏は24日と25日の2日間にわたる訪問の間、2人との面会について言及しなかったが、李克強首相との会談で人権についての話を取り上げたと述べている。
 
その一方、拘束されている弁護士の妻、李文足さんは、24日にメルケル首相と面会したことを明らかにした。李さんは先月、夫の窮状を世間に訴えようと拘置所までの100キロの道のりを行進しようとしたが、警察に阻止されている。
 
李文足さんの夫、王全璋さんは政治活動家らを担当する弁護士で、2015年の警察による一斉取り締まりで所在が分からなくなった。王弁護士は現在、「国家政権転覆」の罪に問われている。
 
李さんはAFPの取材に対し、メルケル首相と面会した際に撮影した写真を披露。写真では、メルケル首相が李さんの肩に右手を置いてほほ笑み合っている。
 
李さんは、2015年7月9日の一斉取り締まりを受けた弁護士グループに言及しながら、「709事件の弁護士たちへのメルケル首相の配慮と支援に感謝する」と述べた。
 
709事件は、弁護士らに対するここ最近では最大規模の弾圧とされ、人権派弁護士や活動家200人以上が拘束や取り調べを受けた。王弁護士もこのうちの一人とされる。
 
李さんは電子メールで、「メルケル首相に対して、私が中国政府に王全璋が存命かどうか確認できるように支援してほしいと頼んだ。また、もし生きているならば、私の弁護士が彼と面会することを政府が許可するよう促すために支援してほしいとお願いした」と説明。

「メルケル首相は、私や夫、私の子どもが置かれている状況に対して懸念を示してくれた。また、私たちへの支援と配慮をし続けると言ってくれた」と述べた。
 
メルケル氏はまた、「国家政権転覆扇動」の疑いで1月に拘束された余文生弁護士の妻、許艶さんとも面会している。【5月28日 AFP】
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今、中国に対してこれだけの行動をとれる政治指導者は、ほかに思い浮かびません。

その自己主張で、主要貿易相手国サウジとも、そしてアメリカ・トランプ大統領とも軋轢
なおドイツは、昨年11月にレバノンのハリリ首相がサウジアラビアに“軟禁されたのでは・・・”という“事件”の際に、ガブリエル外相が「サウジアラビアの政府関係者の間では、挑発行為に出ようとする考え方が広まっているが、ヨーロッパがそれに対して沈黙を決め込むことはない」と発言したことで、主要貿易相手国であるサウジアラビアの不興も買っています。

****サウジ国王、新規政府事業からドイツ企業を排除命令=独誌****
サウジアラビアのサルマン国王は、今後政府事業についてドイツ企業を新規契約先として選定することを禁止する勅令を発した。独週刊誌シュピーゲルが25日、情報源を明らかにせず報じた。

ドイツの中東政策を巡るサウジのいら立ちが続いていることがうかがえる。シュピーゲルによると、シーメンスやバイエル、ダイムラーといったドイツ主要企業が打撃を受ける公算が大きい。

サウジとドイツの関係は緊張状態が続いており、昨年にはドイツの当時のガブリエル外相によるレバノンに関する発言をきっかけにサウジが駐独大使を召還した。

ドイツ連邦統計局のデータに基づくと、同国にとってサウジは重要な貿易相手国で昨年の輸出額は66億ユーロ(77億ドル)だった。(後略)【5月28日 ロイター】
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サウジアラビアの強硬姿勢は、ドイツ等のイランへの対応への圧力もあるのでしょう。

ドイツは5月にはロシア産ガスをバルト海経由で欧州に輸送する新パイプライン「ノルド・ストリーム2」のドイツ領内の建設に着工していますが、アメリカ・トランプ大統領は計画撤回を求めています。

トランプ大統領は4月アンゲラ・メルケル首相に対し、ドイツが「ノルド・ストリーム2」への支持を取り下げれば、アメリカはEUとの新たな貿易協定に向けた交渉に臨むとの考えを示しています。

メルケル首相はこれまでにも、「ノルド・ストリーム2」を巡るアメリカや他の欧州諸国からの批判をはねつけてきました。

トランプ大統領が鉄鋼・アルミニウム関税の対象に6月1日からEUを加え、イツが誇る自動車産業を巻き込んだ全面的な貿易戦争を招きかねない状況にあります。

経済的損得勘定を考えたとき、いろいろな立場もあるのでしょうが、はっきりと自己主張する姿勢はうらやましくもあります。
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