孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾  米中対立のはざまで強まる圧力 トランプ政権に“カード”として使われる懸念も

2018-06-11 22:50:39 | 東アジア

(台湾・台中の空軍基地で実施された実弾演習に参加した、攻撃用ヘリコプターのAH64E「アパッチ」(2018年6月7日撮影)【6月7日 AFP】)

【“米朝会談の裏番組的ポジション”の台北事務所新庁舎完工式問題は、とりあえず米側が中国刺激を回避
明日12日に行われる米朝首脳会談に世間の注目が集まっていますが、半島情勢に北朝鮮の後ろ盾となってきた中国の意向が強く反映されることは当然であり、その観点で、半島情勢は、貿易戦争、台湾情勢、南シナ海問題など、アメリカと中国の関係・対立がどうなるのかという大きな流れのひとつの側面でもあります。

明日12日は、米朝首脳会談の日であると同時に、“米朝会談の裏番組的ポジション”【5月30日 福島 香織氏 日経ビジネス】にもある、米国在台協会台北事務所(AIT、米大使館に相当)の新庁舎落成式が予定されています。

****中国が米に「レッドライン」、台湾問題で****
12日は中国の重要な日だ。それは米政権のせいだが、ドナルド・トランプ大統領が北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との会談を予定しているためだけではない。
 
米国はこの日、事実上の在台湾大使館となる新庁舎開設を予定している。中国が自国の一部だと主張する台湾は、長らく米中関係の火種となっている。米国と台湾の当局者にとって、台湾で12日に行われる開設式は両者の関係強化を象徴するものだ。
 
米当局者によると、中国の外交当局者らはトランプ政権に閣僚の派遣を見送るよう求めた。派遣すれば、米政府は台湾との関係を非公式なものにとどめるべきだとの了解に反することを示唆したという。
 
米当局者は「(中国は)新たなレッドライン(越えてはならない一線)を設けつつある」と述べた。
 
別の米当局者は国務省の高官が出席すると述べたが、トランプ政権はより高位の高官が出席する可能性を排除していない。米政権は中国の外交官らに対し、台湾へのサポートは以前と変わっておらず、中国政府との合意に反していないと述べた。
 
台湾を巡る摩擦は、米中政府の緊張が既に高まっているなかで再燃している。
 
台湾での今回の式典は長らく計画されていたが、シンガポールでの米朝首脳会談と同日に行われることから、米政権はアジアにおける中国政府の影響力低下を狙っているとの中国の懸念に拍車をかけている。
 
2億4000万ドル(現在のレートで約263億円)をかけた米国在台協会(AIT)台北事務所の新庁舎建設は9年にわたり、計画より大幅に遅れている。公園やハイテク企業で知られる台北の一角に位置する新庁舎について、実質的な駐台湾大使に当たるキン・モイ所長は「台米関係の目に見える象徴だ」と述べた。【6月11日 WSJ】
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結局、米朝首脳会談への悪影響などへの配慮もあって、アメリカは台北事務所の新庁舎完工式にマリー・ロイス米国務次官補(教育・文化担当)が出席すると発表しています。

****<台湾>米国務次官補が台北事務所の新庁舎完工式に出席へ****
(中略)米メディアではトップレベルの高官が訪台するとの観測も出ていたが、トランプ米政権は中国の反発を考慮し、国務次官補の派遣にとどめたとみられる。
 

台湾メディアによると、国務次官補クラスは過去にも訪台したことがある。トランプ大統領は台湾重視の姿勢が強いが、12日は米朝首脳会談もあり、北朝鮮に影響力がある中国を台湾問題で刺激することは避けた形だ。
 
ただ、ロイター通信は米政府が9月に予定される台北事務所新庁舎の開所式に高官の派遣を検討していると報じている。米メディアでボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)の訪台説が浮上した経緯もあり、火種は残りそうだ。【6月11日 毎日】
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強まる中国の圧力 苦慮する航空会社
AIT台北事務所の件は“ひとます”は落ち着きましたが、中国・習近平政権は最近、特にアメリカ議会が台湾旅行法を2月末に可決して以降、台湾への圧力を強めています。

2016年12月のサントメ・プリシンペ、2017年6月のパナマに続き、今年5月1日にはドミニカ、同月24日にブルキナファソが台湾との断交を発表。その背景には、もちろんチャイナマネーの力があります。

これで台湾と国交を維持している国家は過去最少の18カ国となりました。台湾には気の毒ですが、これらの国々が中国か台湾のどちらかを選ぶように強いられたとき、中国を選択するのは、現在の国力をを考えれば当然の成り行きでしょう。

最近目立つのは、中国で活動する外国企業への、台湾に関する表記を国家扱いではなく中国台湾省とするようにとの圧力です。

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中国は外国の航空会社に台湾表記を「中国台湾」と表記するように4月25日に通達。一カ月以内に応じない場合は行政罰を課すとの圧力を加え、通達を受けた44社のうち18社がすでにこの要請を受け入れた。

残りの26社は技術的問題を理由に、変更期限の延期を申し入れているが、7月25日までには変更するとみられている。米国はこれに対して猛抗議を行っている。
 
航空会社だけでなく、銀行、ホテルその他の企業でも台湾に関する表記を中国台湾省とするように圧力がかけられている。

日本の衣料・生活雑貨店の無印良品が商品に「原産国:台湾」と表記していた商品を中国国内で販売していたことに対し、「中国の尊厳や利益を損ねた」として20万元の罰金が科された。無印良品側は中国国内法に違反したことを謝罪し、すぐさま表記の変更を行ったという。

米アパレル大手のGAPも、Tシャツの柄の中国地図について「台湾が描かれていない不正確な地図」を書いたとして、中国のSNS微博などで炎上、GAP側はTシャツの廃棄処分と謝罪に追い込まれた。【5月30日 福島 香織氏 日経ビジネス】
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アメリカは“抗戦”の構えです。

****中国要求に従うな」米政権、台湾表記問題で米航空会社に要請 英紙報道****
中国政府が外国航空会社に対し、ウェブサイトなどで台湾を中国の一部として表記するよう求めている問題で、英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)は6日までに、トランプ米政権が米国の航空大手に中国の要求を飲まないよう要請したと報じた。米政府当局者がユナイテッド航空など大手3社に伝えたという。
 
同紙によると、米政権はユナイテッドやアメリカン航空、デルタ航空に対し、自社のウェブや地図上で中国当局の基準に沿った「中国台湾」などの表記をしないよう要請した。
 
中国民用航空局が4月、36社に対し、台湾や香港、マカオが中国の一部であることを明確に表記するよう改善を求める書簡を送付したとして、米ホワイトハウスは先月上旬、抗議する声明を出していた。
 
ただ、米航空大手は「米政府と緊密に協議しながら対応を検討している」(デルタ)などと対応に苦慮。中国路線は成長市場で、中国国内の空港への着陸を不許可とする中国側の制裁措置が大きな懸念となるためだ。

欧米メディアによるとオーストラリアのカンタス航空などが中国の要求を受け入れる方針を示した。【6月6日 産経】
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中国の肩を持つつもりは毛頭ありませんが、台湾を自国領土と考える中国からすれば“当然の要求”でしょう。「中国要求に従うな」と言われても・・・・板挟みになった航空会社は苦しい立場です。

台湾との関係が強い日本の航空会社の対応が注目されていますが、一時的に変更され、すぐに戻される・・・と、対応に苦慮・混乱しているようです。日本政府の働きかけなど、水面下で激しい動きがあるのでしょう。

****台湾表記、一時「台湾(中国)」に 日航・ANA****
台湾の主要紙「自由時報」(電子版)は8日、ANAホールディングス(HD)と日本航空のサイト上で、運航ルートの地図の台湾の表記が一時的に「台湾(中国)」に変更されたと報じた。台湾が中国の一部だと示す表記。

台湾を孤立させようとする中国の圧力に屈したとの観測が出たが、すぐに削除されたという。両社は「意図したものではない」としている。(中略)

台湾では表記が削除され、安堵が広がっている。両社は中国の要求への対応を関係機関と協議しており、航空券の予約サイトなどで表記を変更するかを検討中という。
 
中国は台湾を自国の一部と位置づけ、台湾側も国家と主張。多くの航空会社はサイト上の項目を「国/地域」などとぼやかし複雑な中台事情に触れるのを避けてきた。明確な表記を求める中国への対応に苦慮している。【6月8日 日経】
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対抗姿勢を強める台湾・アメリカ
中国は台湾周辺での軍事演習などで、軍事的圧力を強めていることはこれまでも取り上げてきましたが、台湾側も対抗姿勢を強めています。

****台湾軍、「侵攻」撃退の実弾演習実施 蔡総統が視察*****
台湾軍は7日、中国軍による「侵攻」を撃退する実弾演習を公開した。中国政府が軍事・外交的圧力を強める中、演習には戦闘機やヘリコプター、数千人規模の部隊が参加した。
 
5日に始まった、「漢光」と命名された演習では、中国による軍事的脅威の高まるを反映し、空からの、また沿岸部への奇襲攻撃が想定されている。
 
蔡英文総統は7日、兵士4100人の他、台中の空軍基地から攻撃用ヘリコプターや戦闘機が参加して行われた実弾演習を視察。
 
蔡氏は「わが軍の能力を実際に目にした。軍が『堅固な防衛と重層的な抑止』という目標を達成できると確信している」と述べた。【6月7日 AFP】
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アメリカも台湾海峡への戦艦派遣を検討しています。

****米国、台湾海峡への戦艦派遣を検討 中国の反発必至****
米高官がロイターに明らかにしたところによると、米国は台湾海峡への戦艦派遣を検討している。貿易摩擦や北朝鮮の核問題で米中関係が緊迫するなか、中国が激しく反発するのは必至とみられる。(中略)

米高官によると、米国は今年に入り航空母艦の派遣を検討したが、実施しなかった。恐らく中国への配慮という。前回米航空母艦が台湾海峡を通過したのは2007年。

頻繁ではないが、定期的に海軍の別の戦艦を台湾海峡に派遣することも選択肢のひとつとなっている。前回実施されたのは2017年7月で、航空母艦の派遣ほどは中国を刺激しない行為とみられている。米国防総省は今後の軍事行動に関するコメントを拒否している。

トランプ大統領はこれまでの慣例を破り、2016年に正式な外交関係のない台湾の蔡英文総統と電話会談を行った。ただ、ここ数カ月は、北朝鮮の核問題で中国の支持を取り付けるため、以前よりも台湾との距離を置いている。【6月5日 ロイター】
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また、台湾では“台湾の与党・民進党が中国国旗(五星紅旗)の掲揚禁止の是非を問う住民投票実施の動きを見せている”【6月5日 Record china】との動きも。

さすがに“刺激的・危険すぎる”との批判や、憲法抵触の疑義などもあって、党としての正式な動きではないと釈明はされているようです。

トランプ政権にとって台湾問題の位置づけは?】
****台湾をめぐる米中対立が激化、その行方は****
(中略)カナダの華字メディア新華僑報は同日、今年に入ってからのこうした米中の一連の台湾をめぐる動きを総じて、「火薬のにおいが濃くなっている」と警告を発している。

二大大国の駆け引き交渉のまさにカードとなっている台湾自身の危機感も当然深まっており、2018年1月の民意調査(台湾民主基金会調べ)では、68%の青年が中国が侵攻してきたら軍に志願するかその他の手段で抵抗する、と答え、台湾が独立をかけて戦争するなら55%が参戦すると答えていた。

もちろん91%が戦争ではなく現状維持を望むとするものの、台湾が統一を望まない場合に中国が一方的に武力統一を仕掛けてくる可能性はいまだかつてなく高まっていると感じているようだ。(中略)

こうした台湾をめぐる米中駆け引きのエスカレートは、当然のことながら、半島問題での駆け引きと米中通商協議などその他の米中交渉とのからみの中で動いている。

トランプ政権、習近平政権ともに、トップの判断がそのまま方針や決断に反映されやすい部分があり、これまでの官僚・省庁中心で良くも悪くも縦割りで交渉されていた通商問題や個々の外交問題が、今は一つテーブルの上ですべてを交渉材料としてダイナミックに駆け引きされうる状況だ。

トランプがZTEへの禁輸措置を持ち出せば、習近平も金正恩となにやら密談したふりをしてみせる。米国が台湾接近姿勢を示せば、中国は南シナ海の軍事拠点化をアピールする。

気になるのは両国にとっての優先順位で、私は中国にとっての最優先事項はおそらく台湾問題であろうとみている。

習近平政権にとって、通商問題で妥協するより、半島問題で妥協するより、台湾統一を諦めることの方が、党内・国内における国家指導者としての正統性や求心力を大きく損なう。

逆に言えば、台湾統一は、少々の経済問題や半島問題の失点をリカバリーできるだけの中国にとっての悲願なのだ。だからこそ武力侵攻も辞さないという、かなり本気の恫喝を交えて台湾を事実上の“無血開城”に追い込もうと画策しているわけだ。

台湾の民主主義と独立性を守ることの意義
では米国の最優先事項はどこになるのか。通商問題なのか半島問題なのか台湾問題なのか、あるいは中東なのか。

中国側は、おそらくトランプ個人がビジネスマン気質であるという根拠から、トランプ個人の経済的利益、中間選挙に有利かどうかを最優先に考える、と想定しているのではないか。

だが、もし米国が本気でアジアにおけるプレゼンスを取り戻し、米国一強時代を守り抜く、ということを政権としての最終目標にもっているならば、中国の太平洋進出の野望を抑え込むことこそがポイントで、そのために、台湾の民主主義と独立性を守ることこそ最優先テーマだと判断するのではないだろうか。

私は米国政府からの直接情報筋は持っていないので、トランプ政権の最終目標がどこにあるのかについては分からない。先日、コロンビア大学の中国専門家と意見交換した際には、トランプが大統領になった真の目的は、個人的経済利益(ビジネスにプラスになるなど)である、という見立ても聞いた。

とすれば、ある一定の大統領としてのメンツが立てられれば、対中融和的姿勢に転じて、中国市場におけるビジネス利権を追求するといったことも考えられる。

それはあまり当たってほしくない想定だが、台湾と同様、米中関係の間で自国の安全が揺れる日本としては、自分たちの望ましくない展開もありうることを頭の隅にいれておくべきだろう。

そういう望ましくないシナリオを実現させないためには、少なくとも日本は、台湾の民主主義と独立性を中国の恫喝から守ることの意義をきちんと米国はじめ国際社会に向けて発信する必要がある、ということも忘れてはならない、と付け加えておく。【5月30日 福島 香織氏 日経ビジネス】
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“トランプが大統領になった真の目的は、個人的経済利益(ビジネスにプラスになるなど)である”とまでは思いませんが、“米国が本気でアジアにおけるプレゼンスを取り戻し、米国一強時代を守り抜く、ということを政権としての最終目標にもっている”とも思いません。

これまでも言っているように、最終的には中国と“取引”してアメリカにとっての経済的利益を引き出すことができれば、東アジアにおける中国の影響力をアメリカとしても一定に容認する形で、米中の“ウィンウィン”の大国関係が構築されることを、トランプ大統領としては考えているのでは・・・と思っています。

自由主義・民主主義の理念とか価値観に基づいて、最後まで台湾を中国の影響から守り抜く・・・・といった思考は、トランプ大統領にはないでしょう。

極言すれば、台湾問題は米中関係構築の“取引”のための“カード”として使用されることが想定され、現在のアメリカ・トランプ政権の台湾への関与については、台湾としてもそうした側面に留意する必要があります。

もちろん台湾側も十分に承知のところで、それでもアメリカに頼らざるを得ないところが、現在の台湾の置かれている苦しい状況です。

台湾が生き残る道は“中華圏における「民主化の先進地”】
台湾がやるべきこと、できることは、民主主義という点で台湾が中国とは異なる社会であることを世界に強くアピールすることでしょう。

****自由な空気」求め台湾へ 言論締めつけの香港から 蔡政権、違いアピール****
台湾の蔡英文(ツァイインウェン)政権が、中華圏における「民主化の先進地」と台湾を位置づけ、自由度の高さをアピールしている。事実上、共産党の独裁が続く中国との違いを国際社会に示すのが狙いだ。
中国の弾圧を受けた香港の書店などが台湾を拠点に選ぶ動きも出ている。

台湾東部の離島、緑島で17日、政治弾圧の歴史を伝える人権博物館の開設式が開かれた。台湾で国民党の独裁体制が続いた時代、島には政治犯が収容され「監獄島」とも呼ばれた。
あいさつした蔡総統は「(施設を通じて)我々が勇気を持って歴史を反省できることを示せる」と訴えた。(中略)

蔡氏が意識するのは、台湾に統一を迫る中国との違いだ。蔡氏は昨年6月4日、中国で民主化を求めた学生らが弾圧された89年の天安門事件を踏まえ、「両岸(中台)の最大の違いは民主主義と自由だ」「台湾は民主化の経験を対岸に分け与えることを願う」とフェイスブックに投稿した。

対中政策を担う大陸委員会は今月制作したPR動画で、中国の締め付けが強まる香港から台湾へ移住した女性を紹介。陳明通主任委員は「台湾にはより自由な空気がある」と語った。

香港では2014年、若者が民主的な選挙の実現を求めて中心部を占拠したデモ「雨傘運動」が発生。翌15年には、中国共産党の批判本を販売していた「銅鑼湾書店」の店長らが中国側に拘束される事件が起きるなど、民主化の停滞や後退が顕著だ。(後略)【5月30日 朝日】
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