孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン 水面下の交渉の成果?ラマダン明け停戦実現か 米軍、タリバンの資金源「ケシ栽培」攻撃

2018-06-12 22:12:04 | アフガン・パキスタン

(アフガン北東部ハダフシャン州でケシ畑の破壊を試みる警察官(2017年5月)【5月31日 WSJ】)

米軍「タリバンに圧力をかけ、交渉による和平を目指す」 政府・タリバン、異例のラマダン明け一時停戦発表
アフガニスタンにおけるテロはタリバンによるものだけでなく、ISによる無差別テロも頻発しており、そうしたイメージからすると、下記の米軍司令官による「タリバンによるテロなどの攻撃が過去5年の同時期の平均と比較して30%減少した」という発言は、「本当かね・・・?」という感がありました。

****<アフガン>米軍空爆、タリバン70人以上殺害****
アフガニスタンの駐留米軍は5月30日、アフガン南部で同月中旬から下旬に10日間実施した空爆で、反政府武装闘争を続ける旧支配勢力タリバンの幹部ら70人以上を殺害したと発表した。

ニコルソン司令官は記者会見で「タリバンに圧力をかけ、交渉による和平を目指す。水面下で多くの外交活動が続いている」とも述べ、和平交渉開始に向けた動きが加速していることも明らかにした。
 
発表によると、最大の空爆は24日にムサカラで実施されたロケット弾によるもので、会議のために集まっていたタリバン幹部や司令官50人以上が死傷した。
 
ニコルソン氏は、アフガンのガニ大統領がタリバンに和平を呼びかけた2月から4月までの間、タリバンによるテロなどの攻撃が過去5年の同時期の平均と比較して30%減少したと指摘。

一方、戦闘と和平交渉の開始に向けた対話の状況が当面続くとの見解も示した。【5月31日 毎日】
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そうしたなかで、ガニ大統領がタリバンに対する一時停戦を発表。

****<アフガン>タリバンと一時停戦 和平協議を促す狙い****
内戦が続くアフガニスタンのガニ大統領は7日、旧支配勢力タリバンと一時停戦すると発表した。期間は来週から10日間程度で、タリバンに和平協議に応じるよう促す狙いがあるとみられる。タリバンはコメントを発表していない。
 
ロイター通信によると、ガニ氏は「停戦はタリバンが内省する機会だ」と述べた。一方、過激派組織「イスラム国」(IS)への掃討作戦は続けるという。
 
今回の停戦は、首都カブールで今月4日に開催されたイスラム教の宗教指導者らによる会議で、停戦を求める宗教令(ファトワ)が出されたことを受けた措置。この会議の直後には会場近くで自爆テロがあり、14人が死亡している。
 
ガニ氏は今年2月、タリバンに対して政党として認めることなどの譲歩案を提示し、和平協議に応じるよう打診。タリバンは現在まで応じておらずテロを続けている。【6月7日 毎日】
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“イスラム暦のラマダン(断食月)明けの祝祭に合わせた異例の措置で、現地からの報道によると、12〜19日の8日間が対象となる。”【6月7日 時事】とも。

おそらく、ニコルソン司令官の言う“水面下での多くの外交活動”があってのガニ大統領の発表でしょう。タリバン側もこれに応じる“異例”の展開となっています。

****タリバン、アフガン政府軍との3日間の停戦を発表****
アフガニスタンの旧支配勢力タリバンは9日、イスラム教の断食月「ラマダン」が明けるのを祝う祭り「イード・アル・フィトル」に合わせ、政府軍と3日間、一時停戦すると発表した。しかし「外国の占領軍」に対する作戦は続ける意向を示した。
 
アフガニスタン政府は7日に突然、タリバンと1週間停戦すると発表したが、これは政府側の一方的な発表だったとみられる。

一時停戦に合意したタリバンだが、地元メディアに送られてきた声明で、(停戦においても)もし攻撃を受けた場合は「全力で防衛する」としている。イード・アル・フィトルに合わせてタリバンが停戦に合意したのは、2001年に米軍が進攻して以降初めて。
 
またタリバンは、「外国の占領軍は(停戦の)対象外」だと戦闘員らに告げており、「われわれの占領軍に対する作戦は引き続き行われ、占領軍を目にしたらどこであろうと攻撃する」と主張している。
 
アシュラフ・ガニ大統領が先に公式ツイッターで発表した停戦は、ラマダンの27日目からイード・アル・フィトルの5日目まで(今月12日から19日まで)続くとされている。【6月9日 AFP】
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わずか3日間とは言え、停戦が実現することは喜ばしいことで、今後への期待をつなぐものでもあります。

もちろん成果を出すには、地道な交渉と双方の妥協が求められます。気にいらないからといって交渉成果をひっくり返したりするような我儘・独善や、テレビ・支持者受けを狙ったパフォーマンス的な政治ショーではなく。

停戦直前のテロ頻発 ISとタリバン穏健派の違い
しかし、一時停戦の実施を狙ったように、直前にテロが頻発。
“アフガニスタン各地で11日、政府施設や検問所などを狙った爆弾テロや襲撃が相次ぎ、地元警察などによると、少なくとも34人が死亡した。”【6月11日 共同】

タリバン内部は一枚岩ではなく、政府との交渉を是認する穏健派から、交渉を拒否する強硬派までありますので、一時停戦実施を阻止するための強硬派の犯行か、あるいは、政府交渉など眼中にないISによる犯行か・・・。

カブール中心部にある地方開発省の庁舎近くで起きたテロについてはmISが犯行を主張しています。

****政府庁舎付近で爆発、12人死亡=ISの自爆テロか―アフガン首都****
アフガニスタンの首都カブール中心部にある地方開発省の庁舎近くで11日、爆発が発生し、保健省当局者によると少なくとも12人が死亡、31人が負傷した。自爆テロとみられる。ロイター通信によると、過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行を主張した。
 
11日はイスラム暦のラマダン(断食月)中のため、大半の政府職員は勤務を早めに切り上げていた。地元民放トロTVは「職員が帰宅しようと庁舎を出た際、入り口付近で爆発が起きた」と報じた。【6月11日 時事】 
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ISは一般住民に多数の犠牲者がでるこを厭わない、あるいは、そのことを目的としたようなテロを繰り返していますが、最終的には統治を目指すタリバンは民心に配慮する必要もありますので、いたずらに住民被害が増えるテロは避けているようにも見えます。

そうしたタリバンのISとの違いを強調する形での政府・タリバン間の交渉ができれば、今回の“3日間の一時停戦”が将来的な長期停戦やタリバンの政治参加への道につながるのかも。

タリバン資金源の「ケシ栽培」壊滅を目指す空爆で圧力
一方の“圧力”に関しては、タリバンの資金源となっている「ケシ栽培」へを標的とした空爆を強化しているとのこと。

****アフガン米軍、タリバン資金源「ケシ畑」壊滅狙う****
アフガニスタン駐留米軍が、反政府武装勢力タリバンの戦闘員だけではなく資金源をも標的にした空爆作戦に出ている。
 
米軍は昨年11月に開始した戦略爆撃作戦で、タリバンがケシの栽培・販売や道路税の徴収で得ているとされる収入源を断つための空爆を113回実施した。米軍はタリバンを和平交渉のテーブルにつかせる戦略に大きくシフトしている。
 
駐留米軍のランス・バンチ空軍准将は、「新たな戦略は、これまでにないやり方でタリバンに圧力を加えようというものだ」と説明する。
 
この空爆作戦は、米軍がシリアとイラクで過激派組織「イスラム国(IS)」に対して実施し成功を収めた作戦をモデルにしたものだ。

ISとの戦いでは、米軍機はISに多額の石油収入をもたらしていたIS支配下の製油所やタンクローリーなどを定期的に攻撃した。第2次世界大戦中、連合軍が日本やドイツの工業地帯を爆撃したのを想起させる作戦でもある。
 
米軍によれば、アフガンでの最近の空爆の典型的な例としては、F16戦闘機2機がケシ栽培の中心地ヘルマンド州南部で、約30メートル四方の泥壁で囲われた麻薬製造施設を爆撃したものがある。作戦に従事したパイロットは「建物は完全に破壊された」と述べた。
 
ドナルド・トランプ米大統領は昨年8月に発表した南アジア戦略で、アフガン戦争の膠着(こうちゃく)状態を打破するため、米軍のアフガンでの交戦規定を緩和した。それまでは、米軍機は武装勢力が有志連合軍と戦闘しているか、あるいはその恐れがある場合に限り、武装勢力を標的に攻撃できた。
 
新たな規定では、米軍機は武装勢力を発見すればどこであっても攻撃したり、タリバンの武器庫や司令部、収入源の破壊を試みたりできることになった。
 
バンチ准将はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とのインタビューで、「われわれは、タリバンがこれまでならば安全と思ったり、行動の自由があったりした場所でも、攻撃できる権限を持っている」と話した。
 
例えば米軍機は、道路上の検問所を攻撃している。武装勢力が通行人から料金を徴収する場所だ。また、米軍関係者によると、違法な鉱物採掘場も標的のリストに加わる可能性があるという。
 
だが、資金源を狙った空爆は、米軍の空域任務に占める比率がまだ小さく、空爆の大半は、アフガニスタンの広大なケシ畑で生産される生アヘンの加工施設を標的としている。

アフガン軍の軍用機も空爆を行っているほか、アフガン麻薬対策部隊も地上で麻薬バザール(取引場)を急襲するなどしている。
 
タリバンは、麻薬取引との一切の関係を否定している。
タリバンの広報担当であるザビフラ・ムジャヒド報道官は、「われわれが政権を握っていた当時は、ケシ栽培がゼロに減っていた」と述べた。

タリバンは、米軍を中心とした2001年のアフガン進攻まで、独自の厳格なイスラム法解釈に従って同国を支配していた。同報道官は「(米軍など)侵略者がやって来ると、この現象(ケシ栽培)が復活した。

米軍の将軍や情報高官らは、カブールの(アフガン)政府閣僚や議員らと一緒に、麻薬の密輸に関与し、その取引を維持している」と述べた。
 
だがバンチ准将によると、米軍はタリバンの収入の50~60%が麻薬由来だとみている。これは年間約3億2000万ドル(約350億円)に相当するという。

タリバンはこれで戦闘員に給与を支払ったり、武器を購入したりしている。これまでの空爆作戦により、タリバンは4400万ドル相当の資金源を失ったという。
 
アフガニスタンは世界最大のケシ栽培国だ。ケシはモルヒネやヘロインに精製される。

米国は進攻した2001年以降、アフガンのケシ栽培農家と密輸業者に対し、さまざまな対策を続けてきた。独立系の政策調査・分析組織であるアフガニスタン・アナリスツ・ネットワーク(AAN)のリポートによると、米軍は当初、麻薬取引に関与している軍関係者と協力していた。
 
英国は当初、米国など同盟諸国のために麻薬対策を指揮し、ケシを根絶させるため栽培農家にカネを払うことを主張した。AANのリポートによると、米国は2008年、他の同盟国を説得し、武装勢力とつながりのある麻薬取引業者を殺害できる権限を軍の部隊に与えた。
 
米軍の関与が盛んだった頃、つまり2010年から12年までの間、前線部隊が優先していたのは、麻薬との戦争ではなく、反政府勢力との戦争だった。

このため、米海兵隊はヘルマンド州を定期パトロールする際、周囲に広がっているケシのピンク色や白色の花畑をおおむね無視していた。
 
皮肉なことに、これらの農場に水を供給していたのはカジャキ・ダムとその下流にある広大なかんがいシステムだったが、それらの施設は1960年代に米国の農業支援資金によって建設されたものだった。
 
タリバンのムジャヒド報道官はWSJに対し、「ケシ畑を破壊しても、貧しくてぜい弱な農民に代替(作物)が提供されない限り、役立たない」と述べた。
 
国連薬物犯罪事務所(UNODC)の統計によれば、長年にわたるケシ栽培取り締まり努力にもかかわらず、昨年のアフガニスタンのケシ栽培面積は過去最高の32万8000ヘクタールに達し、前年比で63%も増加した。
 
米軍の現場指揮官たちは、麻薬資金の流れの維持がタリバンの大きな関心事になっていると述べている。アフガン駐留の米特殊作戦指揮官は「タリバンには政治というものは、もはやほとんど存在せず、麻薬を動かすことしか念頭にない」と語った。
 
元外交官で米国平和研究所(USIP)のアフガン専門家、ジョニー・ウォルシュ氏は、タリバンという集団は、麻薬ギャングと、宗教的に鼓舞された反政府勢力の複雑な結合体だと述べている。

タリバンが同国の広範な土地に影響力を拡大できたのは、本来の強硬路線の考え方を、地元の諸条件に適応させたことが一因だったという。
 
同氏は「タリバンは極度にイデオロギー的であると同時に、麻薬取引から極限まで利益を享受している」と述べ、「彼らはイデオロギーでは資金を調達できないし、麻薬では新兵を募集できない」と語った。【5月31日 WSJ】
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戦場の建前と現実
“それまでは、米軍機は武装勢力が有志連合軍と戦闘しているか、あるいはその恐れがある場合に限り、武装勢力を標的に攻撃できた”・・・・そういう交戦規定がったというのは初耳です。

もちろん双方が“命がけ”の戦場、狂気が支配する戦場にあっては、建前と現実は異なるのが常です。

上記交戦規定の話は驚きですが、下記のような話には別に驚きはありません。「そんなものなんだろう・・・」といった感じです。

****豪兵士、無防備な住民を崖から落とし殺害か アフガンで****
アフガニスタンに派遣されていたオーストラリア陸軍特殊空挺(くうてい)連隊の兵士らが、無防備な住民らを殺害するなどの残虐行為をしていた疑いが浮上した。戦争犯罪の可能性もあり、豪国防省が調査している。地元紙シドニーモーニングヘラルドが9日、伝えた。
 
同紙によると、一例として、アフガン南部ウルズガン州の村で2012年9月、同連隊の兵士が地元の羊飼いの男性を後ろ手に縛った状態で崖の端に連れて行き、蹴り落として殺害したケースがあったという。
 
同連隊は、豪軍兵士3人を射殺した容疑者を捜索中で、殺害された男性は、連隊が情報収集のために拘束した数十人の地元民の一人だった。

当時、妻と7人の子どもたちと暮らしており、前日に歩いて3時間離れた自宅から小麦粉を入手するために村に来ていたという。男性の兄弟の一人は同紙に「小麦粉を取りに行っただけの人間がどうして死ななければならないのか」と語った。
 
一帯ではほかにも、残虐行為をしたとされる兵士の部隊が巡回後、非武装の住民らの遺体が見つかるなど不審な事例があるという。
 
豪州は、同盟国の米国に協力して01年のアフガン戦争から陸海空の部隊を派兵。13年末に戦闘部隊を引き上げたが、現在も300人ほどがアフガンの治安部隊の訓練などをしている。【6月9日 朝日】
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農民対策と政権内腐敗一掃の必要
話を「ケシ栽培」に戻すと、タリバンの資金源を断つ戦略が有効なのはわかりますし、アフガニスタンのケシ栽培の話を聞くたびに「ケシ畑は隠せるものでもあるまいし、どうして規制ができないのか?」と不思議でもありましたが、タリバン側報道官の言うように「ケシ畑を破壊しても、貧しくてぜい弱な農民に代替(作物)が提供されない限り、役立たない」という面もあります。

農民がケシ栽培に手を出すのは、ケシ以外には有効な換金作物が栽培できないからでもあり、そこに踏み込まずに単にケシ畑を攻撃するだけでは、農民の生活が維持できるのか危惧されますし、政府・米軍への憎悪を助長するだけにもなりかねません。

農民対策と併せて、政府・軍内部に巣くう、麻薬ビジネスに結びついている勢力の一掃も何としても必要です。
おそらく麻薬ビジネスはタリバン単独で行えるものではないと思います。

政権内部の腐敗こそが、タリバン勢力拡大の背景にある大きな要因です。戦闘を続けるにせよ、和平交渉でタリバンの政治参加が実現しようと、その腐敗を改善できない限りアフガニスタン政府に未来はないと思われます。

追伸 6月12日 23:40
結局、停戦は実現しなったようです。

****アフガン政府の停戦不成立 タリバンが攻撃継続****
反政府武装勢力タリバンとの一時停戦を計画していたアフガニスタン政府は12日、一方的に戦闘を停止したが、タリバンは各地で攻撃を継続し、政府主導の停戦は成立しなかった。政府は中断している和平協議再開への機運醸成を狙うが、再開の道筋は見えない。

政府側は12日から8日間の戦闘停止を宣言したのに対し、タリバンはラマダン(イスラム教の断食月)明けの祝祭(イード)となる15日ごろから3日間停戦すると表明していた。

東部ガズニ州などで12日もタリバンの自爆テロや攻撃が続き、地元メディアなどによると、国軍兵士や警察官ら少なくとも21人が死亡した。
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