孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

カタール断交から1年 関係修復兆し見えず イランとの関係を強めるカタール

2018-06-06 22:43:33 | 中東情勢

(“カタールがサウジなどによる断絶を耐え抜いているのはカタール航空(写真)を保有し、新たな貿易ルートを構築しているためだ”“同航空は、来年までに世界第2位の規模の貨物輸送航空会社になることを目指している”【3月16日 WSJ】とも)

したたかに存在感を維持するカタール サウジの意図に反し、イランとの関係強化
昨日6月5日で、ペルシャ湾岸のカタールに対し、サウジアラビアやエジプトなど中東のアラブ諸国が外交関係断絶を通告してから5日で1年が経過しました。

サウジアラビアは、敵視するイランへのカタールの融和姿勢や「テロ支援」に対抗することを名目として、国境検問所を封鎖し(サウジアラビアはカタールにとって唯一陸続きで、主要な貿易相手国)、同調するアラブ首長国連邦(UAE)などと共にカタール発の航空機の領空通過も不許可にしました。

サウジアラビアの強硬な姿勢の背景には、“小さなカタールがここまで目の敵にされる背景にはテロ支援などの他に、父を退けて首長の座を奪ったり、女性が自由に運転できる文化など、湾岸諸国の体制を危うくしかねない要素がある”【2017年6月7日 Newsweek】という、そもそもサウジアラビアなどがカタールを疎ましく見ていた事情もあるようです。

しかし、カタールは断交後にイランとの関係をむしろ強化。断交後の経済への影響も限定的で、孤立と締め付けを狙ったサウジアラビアの思惑は大きく外れる結果となっています。

****カタール、したたかに存在感を維持 5日で断交1年****
サウジアラビアなどがペルシャ湾岸の小国カタールと断交して5日で1年となった。

イスラム教スンニ派諸国の盟主を自任するサウジが、自国に盾突くカタールに制裁を加えて政策の転換を迫った形だが、カタールは産業の多角化に取り組む一方で欧米やトルコ、イランとの関係強化を進めるなど、国内外で生き残りに向けた手を打ち、したたかに存在感を維持。対立はさらに長引くとの見方が出ている。
 
サウジが主導したカタールとの断交にはエジプトやアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンなどが加わった。イスラム原理主義組織ムスリム同胞団など「テロ組織」への支援停止や、イランとの融和的な関係の断絶などを求めた。

ロイター通信などによると、カタールでは断交の直後、輸入が4割減少するなど大きな影響が出た。
 
しかし、カタールは要求に応じず、サウジと敵対するシーア派大国イランや、トルコから食料支援を獲得。イランと独自のパイプを持つオマーンとの間で、新たな物資輸送の航路も開拓した。欧米から牛を買い付けて牛乳生産に乗り出すなど、食料の自給率アップにも取り組んでいる。
 
断交で観光や不動産、航空などの産業が打撃を受けたものの、天然ガス売却による豊富な資金力を生かし、数百億ドル(数兆円)を金融部門に投入したことで経済は安定。昨年の国内総生産(GDP)成長率は2・1%と堅調に推移している。 
 
軍事面では、米英仏から戦闘機や旅客機を購入し、関係をつなぎ止めている。昨年には、ロシアとも軍事技術協力協定を締結した。こうした動きはやすやすとは屈服しない意思表示といえ、サウジの神経を逆なでしているもようだ。
 
ロイター通信は2日、仏紙ルモンドの報道を基に、サウジのサルマン国王がマクロン仏大統領に書簡を送り、ロシアがカタールに防空システムS400を供与する可能性に懸念を表明したと伝えた。国王は「軍事行動を含め、防空システムを破壊するために必要なあらゆる手段を取るだろう」と警告し、マクロン氏に協力を求めたとしている。 
 
断交はカタールに多額の財政支出を強いた半面、カタール企業の撤退やカタール向け食料の輸出停止によってサウジなどの側も経済損失を被っているとされる。決着点が見えない中、「勝者がいない無益な争い」との見方も出ている。【6月5日 産経】
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サウジアラビアの意図に反して、むしろカタールはイランへの依存を強めています。

****<カタール断交1年>関係修復兆し見えず アラブ内紛長期化****
(中略)カタールはサウジと同じイスラム教スンニ派国家だが、近年はシーア派国家イランと連携してペルシャ湾の海底ガス田の共同開発に乗り出すなど「親イラン姿勢」が目立っており、断交はイランと敵対するサウジが主導したとみられている。(中略)

だが現在、かえってカタールはイランへの依存を強めている。英紙フィナンシャル・タイムズによると、今年1〜3月期のイランからの輸入は2億1600万カタール・リヤル(約64億6000万円)で、昨年同期の3300万リヤルから6倍以上に跳ね上がった。

逆にサウジからの輸入は激減している。カタールに軍事基地を置くトルコも食糧空輸などでカタール支援に回るなど、サウジが目指す「カタール孤立化」には至っていないのが現状だ。
 
こうした中、カタール政府は5月26日の声明で「消費者の安全を守るため」として、サウジなど4カ国で生産された食糧や日用品を撤去するよう国内の商店に指示した。

当事国の一つ、バーレーンのハリド外相は5月、「解決に向けたわずかな兆しもない」と述べ、対立が深刻化しているとの認識を示した。【6月3日 毎日】
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“サウジとカタールの対立は、サウジの湾岸地域での主導権を認めるか否かをめぐり、長年くすぶり続けていたものである。トランプ大統領によるサウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子への個人的な肩入れが、封鎖のような行動を助長する一因となったのではないかと指摘される。”【5月9日 WEGDE】と、混乱の引き金を引いたのはトランプ大統領だとも見られています。

ただ、カタールには中東最大規模の米軍基地であるアル・ウデイド空軍基地があり、アメリカにとっても重要な国であり、また、アラブ諸国の内紛はアメリカが期待する“イラン封じ込め”にとって悪影響しかありません。(だったら、どうしてトランプ大統領はサウジ・ムハンマド皇太子の後押しをしたのか・・・とも疑問に思いますが、トランプ大統領の行動を理解するは難しいものがあります)

そうした事情から、4月10日にトランプ大統領、サリバン国務長官代行(当時)、マティス国防長官とカタールのアル・サーニー首長が会談、4月18日にはマティス長官とカタールのアル・アティーヤ国防相が会談するなど、事態打開に向けて努力していますが、うまくいっていません。

“5月には湾岸諸国首脳会議を米国で開催すると発表されていたが、9月に延期となった。米側は、ティラーソン前国務長官の更迭による混乱が予測されたためなどと説明しているが、あまり納得できる説明ではない。解決に向けた糸口がまだ見えてこないことの証左と見るべきであろう。”【5月9日 WEGDE】

そうしたなかで、サウジアラビアがカタール国境に運河建設し、カタールを島にして孤立化する・・・という話も報じられました。

あまり現実的なものとは思えませんが、サウジアラビア側の苛立ちを示すものでしょう。

****対カタール国境に運河建設、島にして孤立化 サウジで計画浮上****
サウジアラビアからの報道によると、同国政府が半島国である隣国カタールとの国境沿いに運河を建設し、カタールを島にしてアラビア半島から孤立させる計画が持ち上がっているという。

政府系ニュースサイトSABQは9日、計画について「サウジアラビアの全面的な権限の下、同国とアラブ首長国連邦の民間投資部門がすべての資金を援助する」と報じた。

SABQによる連日の報道で計画の詳細が漏れ伝わる一方、サウジアラビア政府から報道を正式に否定する声明は今のところ出ていない。

サウジアラビア、UAE、エジプト、バーレーンは昨年6月、カタール政府がイスラム過激主義を支援し、イランとも近い関係にあるとして、カタールとの外交関係を断絶。唯一の陸の国境である対サウジアラビア国境も封鎖された。

カタール国営メディアは8日、「運河建設計画は対カタール国境の封鎖を一層強化し、貿易を行わせないという狙いのようだ」と報じた。【4月11日 AFP】
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なお、2022年サッカー・ワールドカップ開催国でもあるカタールでは、“カタール当局者によれば、2022年のサッカー・ワールドカップ大会の主催準備を含め、あらゆる主要な開発プロジェクトが予定通り進んでおり、加速しているものもあるという”【3月16日 WSJ】とのことですが、断交問題からのアラブ諸国の要請のほか、カタール側の様々な不祥事から、FIFAではカタールから開催権を剥奪することを検討している・・・との報道も2月にありました。9月にFIFAは決定を下す・・・とのことでしたが、その後の展開は知りません。

サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)が断交中のカタールで予定されるアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)の試合開催地を変更するよう求めていた問題では、アジア・サッカー連盟は1月、第三国での実施は認めないと発表しています。

女性の兵役志願を認めるカタール
ところで、サウジアラビアでは女性の自動車運転が解禁されたことが話題となっていますが、カタールでは女性の志願兵を認めるとのこと。

****カタール、女性の兵役志願を認める 同国史上初****
カタールは、タミム・ビン・ハマド・サーニ首長が公布した法の下、同国史上初めて女性の兵役志願を認める。同時に、徴兵制の男性については入隊期間を延長するという。
 
国営メディアは5日、同法は直ちに発効し、19歳以上の女性は兵役に志願することが可能になり、一方男性の兵役期間は現行の3か月から1年に変更されると発表した。
 
国営カタール通信は、「18〜35歳の全カタール男性は...兵役義務を果たさなければならない」とした一方で、「女性は志願制となる」と伝えた。
 
関係筋の話によれば、軍で事務職に就いている女性は既に居るものの、兵士として入隊が認められるのは今回が初めてだという。
 
ただ女性の志願兵らがどのような役割を担うのかは、現時点では明らかになっていない。【4月6日 AFP】
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女性の社会参加に関してはカタールの方が一歩先を行っているようですが、下記のような発言が公然となされるということで、イスラム社会における女性の地位はまだまだ・・・・という感も。

****航空会社は「男しか経営できない」 カタール航空CEOが業界会合で発言****
国際航空運送協会(IATA)の新たな会長に就任したカタール航空のアクバル・アル・バケル最高経営責任者(CEO)は5日、男性にしか航空会社は経営できないと発言した。

航空業界は女性のさらなる活用を目指しているが、IATAの記者会見でのバーキル氏の発言に、会見場からはうめき声や息をのむ音が聞こえたという。
アル・バケル氏は、「当然、男によって率いられなくてはいけない。とても大変な仕事だからだ」と語った。

オーストラリアのシドニーで開かれていたIATAの年次総会では、多様性の向上が主要な議題だった。

アル・バケル氏は、カタール航空が中東で最初に女性パイロットを採用した航空会社で、女性幹部もいると指摘し、「なので我々は実際、女性を後押ししている。経営幹部として非常に大きな潜在性があると考えている」と述べた。

アル・バケル氏はブルームバーグの取材に対し、女性のトップ誕生を歓迎するとしつつ、その条件として自分の指導を受けることを挙げた。「女性のCEO候補が出てくるのは喜ばしいことだ。そうしたら私が後任のCEOとして育てる」。

アル・バケル氏は昨年、米航空会社の客室乗務員を「おばあさん」と評し、謝罪に追い込まれた。その際に、カタール航空の客室乗務員の平均年齢は26歳だとも述べていたため、同氏の発言は性差別と年齢差別に当たると批判された。(後略)【6月6日 BBC】
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