
(地中海で救助され、救助船アクエリアス号への乗船を待つ移民ら【6月12日 AFP】〉
【大幅に減少はしたものの、依然高水準にある移民・難民の犠牲者】
国際移住機関(IOM)によると、中東・アフリカから船で渡る「地中海ルート」(主にリビア・チュニジアからイタリアなどを目指す)で欧州に到着した難民・移民は、2016年は約36万3000人だったが、17年は約17万1000人に半減したとのことですが、依然として命がけの渡航、そして遭難のニュースはよく目にします。
****地中海、2日間で約1500人の移民救助****
地中海で24〜25日に約1500人の移民が救助された。イタリアの沿岸警備隊が明らかにした。
救助活動にはイタリア海軍やNGO団体、欧州対外国境管理協力機関(フロンテックス)がチャーターした船舶も参加していた。
25日には別々に行われた七つの救助活動で、欧州を目指して地中海を渡ろうとしていた移民1050人が救助された。救助活動に参加したドイツの2つのNGOは、過密状態の船舶3隻からそのうちの半数近い450人を救助したと明かした。
3隻目の船に乗っていた移民たちが救助される際、現場にリビアの巡視船が接近してきたため、リビアに送還されることを恐れた一部の移民が海に飛び込んだ。だが、巡視船は一定の距離を保っていたため、ドイツの両NGOに全員が救助された。
24日、イタリア海軍は移民69人を救助。フロンテックスによる移民の密航を取り締まる「トリトン作戦」に参加しているポルトガル海軍は296人を救助した。
国際移住機関によれば、今回救助された移民を除き、イタリアでは今年に入ってから1万800人の移民が登録されているが、この数字は昨年同期比では約80%減となっている。【5月26日 AFP】
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“玄関口”イタリアには14年以降、リビアから海を渡り60万人余りの難民が押し寄せました。
2017年夏にはリビアとの間で繁栄する密入国ビジネスの取り締まりを促す取り決めを交わし、これが貢献し、昨年イタリアに到着した難民は前年比33%減少しました。【2月2日 WSJより】
今年は登録者数で見る限りは、“昨年同期比では約80%減”と、さらに大きく減少しているようです。
欧州全体で見ても、“欧州連合(EU)の欧州庇護支援事務所(EASO)は1日、2017年の欧州30カ国への難民申請件数が約70万7000件と、前年比43%減少したことを明らかにした。16年の申請件数は戦後の最高だった15年の140万件をやや下回っていた。”【同上】と減少傾向にあります。
ただ、今年これまでに欧州を目指して地中海で死亡した移民・難民数は785人【6月19日号 Newsweek日本語版】とのこと。
IMOによれば昨年2017年の死者は3116人ということですから、犠牲者数も減少傾向にはありますが、依然高い水準にあるとも言えます。
****<チュニジア沖>不法移民100人死亡 今年最悪の犠牲者数****
国際移住機関(IOM、本部ジュネーブ)は7日までに、チュニジア中部スファクス沖で不法移民を乗せた漁船が2日夜に沈没し、少なくとも100人が死亡したとみられると発表した。
AP通信によると、今年地中海で起きた海難事故では最悪の犠牲者数という。
IOMによると、漁船には約180人が乗っていたとみられ、これまでに60人の死亡を確認。約50人は行方不明だが死亡した可能性が高いという。68人は救助された。
漁船は2日夕にチュニジアを出発し、同日午後10時45分ごろに救難信号を発信。最大90人乗りだったとみられ、定員を大幅に超過していた。
乗っていたのは大半がチュニジア人だが、リビアやモロッコ、マリ、カメルーン出身者もいた。現地報道によると、欧州への密航費用として1人あたり2000〜3000チュニジア・ディナール(約8万4000〜12万6000円)を密航業者に支払っていたという。
チュニジアのシャヘド首相は6日、密航を防止できなかったとしてブラヘム内相を更迭した。(後略)【6月8日 毎日】
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【アフリカ難民船たらい回し イタリア・ポピュリズム新政権が上陸拒否 スペインに押し付け「勝利だ!」】
こうした状況にあって、移民・難民船が各国が受け入れを拒否して“たらい回し”される事態にも。
****地中海で立ち往生の移民600人超、スペインが受け入れ表明 伊は拒否****
ローマ(CNN) 600人以上の移民を乗せた船が地中海で立ち往生している問題で、スペイン政府は11日、東部バレンシアへの入港を認める方針を発表した。これに先駆けイタリアでは、ポピュリズムを掲げる新政権が船の受け入れを拒否していた。
行き場をなくしているのは国際医療支援団体「国境なき医師団(MSF)」とドイツの慈善団体「SOSメディテラ」が運営する船舶「アクアリウス号」。
9日夜から10日朝にかけ、リビア沿岸でゴムボートに乗った移民の救出作業を行った。MSFによると、伊沿岸警備隊から現在位置にとどまるよう指示を受け、10日以降はマルタ島とシチリア島の間の海域に足止めされているという。
救助された移民のうち120人以上は身寄りのない未成年で、妊婦も7人いる。MSFは15人が薬品による重いやけどを負っており、低体温症にかかっている人も複数いるとしている。
過去に前例がないとも指摘される今回の救出作業を統括した人物は11日、スペインの国営ラジオの取材に答え、船内の食料が残り1日分しかないと明かした。
スペインのサンチェス首相は同日、人道上の災厄を回避するため、アクアリウス号と乗船者をバレンシアに寄港させることを発表した。同船の現在位置はバレンシアからおよそ1280キロの距離にあり、到着まで3日かかるとみられている。
これに対し、10日の時点でアクアリウス号の寄港拒否を表明していたイタリアのサルビーニ内相は、スペイン政府の受け入れ発表後即座にソーシャルメディアへコメントを投稿。「勝利だ!629人の移民が乗ったアクアリウス号はスペインへ向かう。最初の目的を果たした!」と述べた。同氏は反移民をうたう政党「同盟」の党首も務める。
イタリアのコンテ首相もフェイスブックへの書き込みでスペイン政府の意向を歓迎。「重要な転機だ」「イタリアの要請が聞き入れられるようになってきた」との見解を示した。
一方、イタリア同様アクアリウス号の寄港を認めない方針を示したマルタの政府は、同船に食料やビスケット、飲料水を届けた。
スペインに上陸する移民の数は増加傾向が続いており、国際移住機関(IOM)によると、2018年はここまで前年比で50%増えている。これに対してイタリアでは、75%前後の減少が見られるという。【6月11日 CNN】
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****イタリアが拒否した移民救助船、スペインが受け入れ****
(中略)1週間前に就任したばかりのサンチェス首相は、アクエリウス号はバレンシア港に入港すると述べた。
また首相府は、「人権への責務に基づき、人道的惨事を防ぎ、これらの人々に安全な港を提供することは我々の義務である」としている。
欧州評議会はスペインの動きを歓迎。ドゥニャ・ミヤトビツ人権委員長は、「海での人命救助は、国家が常に支持すべき責務」とツイートした。
マルタのジョゼフ・ムスカット首相はツイッターでスペインへの感謝を述べた一方、イタリアは国際ルールを破り、こう着状態を招いたと話した。
また、マルタはアクアリウス号に新鮮な支援物資を送ると明らかにしたうえで、「こうしたことが再び起きないよう、座って話し合うべきだ。これは欧州の問題だ」と述べた。(後略)【6月12日 BBC】
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もちろん、大量の移民・難民が押し寄せる“玄関口”となっているイタリアの苦悩はわかります。
移民・難民の受け入れについて、様々な立場・見解があることもわかります。
全員の受け入れは拒否する考えもあるでしょう。
ただ、そうであるにしても、幼児・妊婦、負傷者などを含む大勢の人々を十分な食料もなく海上に放置し、他国へ追いやったことについて「勝利だ!」とする感覚には、“寒い”ものを感じます。
いつも言うように、『蜘蛛の糸』で「この糸は俺のものだ。下りろ。」と叫ぶカンダタのイメージが重なります。お釈迦様は悲しいお顔をされているのでは・・・。
【EUのダブリン条約の改正を求めるイタリア新政権】
イタリアにあっては、大衆迎合主義(ポピュリズム)政党「五つ星運動」と極右政党「同盟」という“異色”の組み合わせで連立政権が誕生したことは周知のところです。
肌合い、政策の違いはありますが、既成政治を批判し、EUに対し懐疑的な面は共通するものもあります。
特に「同盟」は移民排斥を掲げており、難民・移民受け入れには厳しい対応をとることが予想されています。
****「欧州の難民キャンプにはなれない」 極右のイタリア新内相が警告****
イタリアのポピュリスト連立新政権の内相兼副首相に就任した極右政党「同盟」のマッテオ・サルビーニ書記長は3日、南部シチリア島にある移民・難民の収容施設を訪れ、「イタリアは欧州の難民キャンプにはなれない」と述べるとともに、難民キャンプ化するのを防ぐには「良識」が必要だと訴えた。
サルビーニ内相は、難民の主要上陸地点の一つとなっているシチリア島ポッツァッロを訪問し、自身の政治基盤強化につながってきた反移民政策をアピール。炎天下に集まった支持者らに向け「イタリアとシチリア島は、欧州の難民キャンプにはなれない」と語った。
「不法移民はビジネスと化しているとの私の確信は、誰も否定できない。子どもたちを死なせることで金もうけする連中がいることを思うと、怒りがこみあげてくる」(サルビーニ氏)
この演説の後でサルビーニ氏は難民・移民の収容施設内に入り、今月1日に人権団体の船に救助されポッツァッロに上陸した移民ら約158人と面会した。
イタリア沿岸警備隊と協力して行われた救助活動の数時間前、サルビーニ氏は内相に就任。イタリアに「到着する移民の人数を減らし、国外退去者の人数を増やすにはどうしたら良いか」を省内の専門家に相談すると発言していた。また、2日には「不法滞在者に優しい時代は終わった。荷物をまとめて出て行く準備をせよ」と述べていた。
一方でサルビーニ氏は、新政権について「移民に対して強硬路線は取らず、ただ良識の一つを採用する」だろうとも語った。【6月4日 AFP】
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サルビーニ氏にとっては、「勝利だ!」とする感覚は“良識”のようです。
いずれにしても、移民・難民政策をめぐって、今後EUとの間で軋轢がありそうです。
****反移民政策に近隣国懸念=イタリア新政権「公平な負担」主張****
イタリアの新興政党「五つ星運動」と右派政党「同盟」(旧北部同盟)による連立政権が発足し、移民排斥を掲げる同盟のサルビーニ書記長が内相に就任した。
コンテ首相は6日の演説で、欧州連合(EU)内の難民受け入れ政策の見直しを主張。伊国内の難民や移民が流出すれば周辺国に多大な影響が及ぶ可能性があり、EUや近隣国は警戒感を強めている。
地中海を挟んで中東やアフリカに近いイタリアやギリシャでは、2015年をピークに大量の難民が流入。同盟は、雇用不安や治安悪化を背景に支持を広げた。
コンテ首相は6日、難民が最初に到達した国での保護申請処理を義務付けた「ダブリン規則」に関し、「根本的な見直しを要求する」と述べ、EU内での「公平な負担」を主張。サルビーニ氏も内相就任後、「(イタリアが)欧州の難民キャンプであってはならない」と強調した。
これに対しコロン仏内相は、「イタリアも国際的な枠組みの中で(難民問題に)取り組まなければならない」と述べ、けん制した。
EU内でもイタリアやギリシャの負担軽減に向けた改革が議論されてきたが、合意には至っていない。今後、難民を追い出したいイタリアと、流入を阻止したい周辺国の間で、せめぎ合いが激化しそうだ。【6月7日 時事】
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【EUを悪玉にするポピュリスト的主張には誤解も 自分たちがやるべきことをやっていないのが一番の問題】
イタリアが移民・難民の玄関口になっているのは事実ですが、イタリアが不相応に多数の移民・難民を受け入れている、EUに押し付けられている・・・というポピュリスト的な主張には誤解もあるとの指摘もあります。
****「EUのせいだ」はもう通用しない****
EU悪玉論で支持をつかんだポピュリズム政権は自国が抱える問題の根本的な解決を迫られることに
ダニエル・グロー(欧州政策研究センター所長)
(中略)2党の政策には違いも多々あるが、イタリアが抱える問題の多くを「ヨーロッパ」のせい、EUのルールと共有の原則のせいにしている点は共通だ。
イタリアの有権者は、EUが北アフリカからの難民を自分たちの国だけに押し付けていると考え、不公平感を抱いている。
実際、リビアから地中海経由でヨーロッパに押し寄せている難民の大半はイタリアに上陸するか、救助されてイタリアに連れて来られる。そうした難民の多くが、より豊かな生活を求めてヨーロッパを目指した「経済難民」であることもまた事実だ。
そうではあっても、イタリアは割に合わないほど多くの難民を受け入れているというポピュリストの主張は間違っている。
2014年以降、イタリア当局に提出された難民申請は約40万件。これはEU全体の件数390万件の約H%に当たり、
EU全体の人口に対するイタリアの人目とほぼ同程度だ。
イタリアの難民危機が特に深刻に見えるのは、制度上の不備でほかのEU加盟国に比べて難民認定手続きや不認定者の強制送還に手間取っているためだ。
また、イタリアでは難民の多くが住宅不足の都市部に集中しているため、ますます難民が街にあふれているように見える。
新たに発足した連立政権はEUのダブリン条約の改正を求めるだろう。この条約では、原則として難民が最初に足を踏み入れた国が認定手続きを行うことになっている。
この取り決めを見直すのは結構だが、それでイタリアの難民問題が解決するわけではない。難民受け入れの割合は今と変わらないからだ。
ポピュリスム政権の主張とは裏腹に、イタリアの難民問題はイタリア政府の手で解決できる。必要なのは認定手続きが迅速に進むよう制度を見直し、難民に空き住宅を斡旋するなど統合を進める政策を実施することだ。
選挙で勝つには有効でも
経済問題も同様だ。ポピュリスト政治家は財政赤字と債務残高の上限を定めたEUの財政ルールのせいで、景気刺激のための財政出動ができないと言う。
だが、このルールはユーロ加盟国全てに課されている。ユーロ圈の平均よりも常に成長率が低いイタリアが自国経済の不振をEUの財政規律のせいにするのは筋違いだ。
確かに、08年の世界的な金融危機とそれに続くユーロ危機で最も打撃を受けたユーロ圏の国々は、緊縮財政を強いられたために回復が遅れたとも言える。
だがそうだとしても、他の国々はとっくに危機を脱している。
そもそもイタリアはEUに何度も財政赤字の上限超えを大目に見てもらっている立場。財政規律を強いられているせいで景気後退が長引いているというのは下手な言い訳にすぎない。
EU経済が再び成長軌道に乗り、難民危機もやや緩和したため、EU主要国はEU改革とユーロ改革の道筋を探りつつある。
しかしイタリアが共通のルールや健全財政の基本的原則に背を向けるなら、改革は頓挫する。
それはEUにとっては懸念材料だが、今の状況はユーロ危機のピーク時とは全く違う。イタリアの連立政権の発足を受け、市場にもひとまず安堵感が広がった。
ポピュリスム政権ができてイタリアは困るにしても、ユーロが脅かされることはないと、投資家は判断したようだ。
そこにはヨーロッパ各国のポピュリスム政党が学ぶべき教訓がある。国内の問題を何でもEUのせいにすれば、選挙では勝てるかもしれないが、国際的な孤立は避けられない。EUを悪玉に仕立てるのは、長い目で見れば勝ち目のない戦略だ。【6月19日号 Newsweek日本語版】
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“認定手続きが迅速に進むよう制度を見直し、難民に空き住宅を斡旋するなど統合を進める”ことが、サルビーニ氏の“良識”に合致すればいいのですが・・・。