孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  ワールドカップ開幕で「W杯外交」展開の一方で、国民に不人気な年金・経済改革もこっそりと

2018-06-15 22:50:09 | ロシア

(13日、サッカーW杯ロシア大会開幕に先立ち、モスクワの赤の広場でコンサートを鑑賞する、前列左からインファンティノFIFA会長、プーチン・ロシア大統領、パナマのバレラ大統領、北朝鮮の金永南最高人民会議常任委員長【6月14日 産経】)

【「W杯外交」で存在感をアピールするプーチン大統領 トランプ発言で足並みが乱れる欧米
サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会が14日開幕しましたが、クリミア併合以降、欧米との対立が深まっているロシア・プーチン政権にとっては、その存在感を誇示する絶好の機会ともなります。

****<ロシア>「W杯外交」プーチン氏、積極的に****
サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会が14日開幕したことに合わせ、中国や北朝鮮などロシアの友好国や旧ソ連諸国の首脳がモスクワを訪れ、「W杯外交」が展開された。

ロシアは欧米諸国との関係悪化が続くことから、サッカー界の最大のイベントを利用し、非西側陣営の集結を演出した格好だ。
 
ロシア大統領府によると、開会セレモニーに出席したり、開幕試合を観戦したりした外国首脳らは16カ国に及んだ。内訳は▽サウジアラビアのムハンマド皇太子▽北朝鮮の国家元首に当たる金永南(キムヨンナム)最高人民会議常任委員長▽中国の孫春蘭副首相▽旧ソ連8カ国の首脳▽中南米3カ国の首脳−−など。
 
プーチン露大統領は14日、開会セレモニーに先立ち、ムハンマド皇太子や金氏らと相次いで会談した。ムハンマド皇太子とは原油生産の協調や中東情勢について意見を交わした。

金氏との会談でプーチン氏は、12日の米朝首脳会談が成功したとの認識を示し祝意を伝え、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の訪露を改めて求めた。旧ソ連諸国の首脳とも立て続けに会談し、地域の盟主であることをアピールした。
 
西側諸国の現職首脳は出席しなかったものの、開幕試合の観戦者一覧にはフランスのサルコジ元大統領が記載されていた。同国からはマクロン大統領が大会期間中の訪露と観戦に意欲を示しており、西側陣営でロシアへの対応が一致しない側面もうかがえる。

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領も21〜23日に訪露しプーチン氏との首脳会談に臨むほか、観戦も予定している。

 ◇W杯開会セレモニーや開幕試合に首脳らを派遣した国
サウジアラビア、北朝鮮、中国、アゼルバイジャン、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、モルドバ、タジキスタン、ウズベキスタン、ボリビア、レバノン、パナマ、パラグアイ、ルワンダ【6月15日 毎日】
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一方、欧米諸国は開幕戦に政府要人を送らない形で、ロシアへの強い姿勢をアピールしていますが、先のG7でのトランプ大統領による“ドタバタ”で明らかになったように、その結束は乱れがちです。

ロシア疑惑があるだけにロシアへの厳しい対応を余儀なくされているトランプ大統領ですが、ロシア・プーチン大統領への宥和的な心情は今も変わらないようです。

****トランプ氏、ロシア再加入提案=欧州は反対―G7サミット****
トランプ米大統領は8日、カナダ東部シャルルボワでの先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)開幕を前に、ロシアを再びサミットの枠組みに加えるべきだと提案した。

ただ、ロシアは2014年のウクライナ東部クリミア半島編入を機に参加停止となっており、欧州諸国は一斉に反発。当のロシアも「G8」復帰への意欲を示していない。

トランプ氏はカナダに向かう前、記者団に「ロシアを入れるべきだ。なぜロシアなしの会合をやるのか」と述べた。かねて対ロ関係改善に意欲的なトランプ氏だが、復帰すべき具体的理由は説明していない。

これに対し、貿易問題などで米国と対立するG7の欧州各国は一斉に反対した。AFP通信によると、ドイツのメルケル首相はウクライナ問題の「実質的進展」なしに、ロシア復帰を認めないことを英仏伊各国と確認したと強調。カナダのフリーランド外相も「現在の振る舞いのままで復帰する余地はない」と述べた。【6月9日 時事】
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トランプ氏は、「知ってのとおり、好きか嫌いかに関わらず、また政治的に正しくないかもしれないが、我々は世界を動かしていかなければならない。G7はかつてG8だったが、彼らはロシアを追放した。彼らはロシアを復帰させるべきだ」と述べた。

トランプ氏の発言に対しては当初、最近就任したイタリアのジュゼッペ・コンテ首相が、「皆の利益になる」とツイートし、ロシアの再加入を支持した。【6月9日 BBC】
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唐突なトランプ大統領のこの主張は、貿易問題での対米批判に染まる会議をかく乱するための戦略とも見られています。

“これはトランプ氏の意図的な戦術だと考えられる。貿易と保護主義をめぐる米国以外のG7各国との言葉による戦争から注意をそらす戦術だ。”【同上】

なお、トランプ大統領の“誘い”に対し、ロシアのペスコフ大統領報道官は、「ロシアは別の枠組みに注目している。ロシアが参加しているG20のような枠組みの方が重要性を増している」と冷ややかなコメントを出していますが、一方で、プーチン大統領は10日、アメリカ側の準備が整い次第、いつでも・トランプ大統領との会談に臨む用意があると述べ、米ロ首脳会談の候補地としてオーストリアのウィーンを挙げています。【6月10日 AFPより】

クリミア併合を正当化するトランプ大統領
ただ、このG7において、トランプ大統領はクリミア併合を容認する趣旨の発言もしていると報じられています。

****トランプ氏がロシアのクリミア併合を正当化? G7で発言と米報道 ホワイトハウスはコメントせず****
米ニュースサイト「バズフィード」は14日、トランプ大統領がカナダで今月開かれた先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)で、ロシアによるウクライナ南部クリミア半島併合を正当化する発言をしたと伝えた。複数の外交筋の話としている。
 
トランプ氏は8日の夕食会で、クリミアでは主にロシア語が使われていることを理由にロシアに属するとの認識を示したとされる。また、「ウクライナは世界中で最も腐敗した国の一つだ」と、他の首脳のウクライナへの支持を疑問視するような発言をしたという。
 
これに対し、ホワイトハウスのサンダース大統領報道官は14日の記者会見で、報じられたトランプ氏の発言を承知していないとし、「私的な会話にコメントしない」と述べた。
 
サミットでトランプ氏はロシアのサミット復帰によるG8の枠組み再開を主張した。同国のプーチン政権も、ロシア人やロシア語話者に対する権利侵害をクリミア併合やウクライナ東部への介入を正当化する論理として使ってきた。【6月15日 産経】
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現在の欧米世界の対ロシア対応を根底からひっくり返す発言です。

個人的には、これまでも何度か当ブログで書いてきましたが、トランプ大統領も言うように、クリミアはもともとロシアと一体化した地域であり、力で奪い取る手法を正当化する訳ではありませんが、ロシアへの対応にあたっては一定にそのことは考慮すべき要素だと思います。
 
また、ウクライナ政府が腐敗・汚職まみれであることも事実です。

ただ、欧米世界が一致して対ロシア制裁を実施している現状にあって、欧米世界をリードする立場にある米大統領がそれを口にする以上は、(ウクライナ以外の多方面の問題も含めた)対ロシア総合戦略を前提にすることが必要であり、そこらのネットユーザー的な感覚で、あるいは会議の“かく乱”狙いで、軽々に発言されても困ります。

ツイッターでG7首脳宣言をアメリカとして承認しないよう、事務方に指示したという“ちゃぶ台返し”【6月10日 読売】といい、同盟国・カナダ首相を不誠実だと切り捨てた直後に、核問題だけでなく、人権問題で価値観の異なる北朝鮮・金正恩委員長をほめちぎるなど、トランプ大統領の言動にはうんざりするものがあります。

トランプ大統領の“プレゼント”は苦境にあるロシア経済を救うか?】
話をロシアに戻すと、トランプ大統領のロシア・プーチン大統領への宥和姿勢にもかかわらず、アメリカは対ロシア制裁を強化しています。

ひと頃のマイナス成長から回復はしたものの、まだ足元が弱いロシア経済にとって、4月6日にアメリカ財務省が発表した一連の制裁がかなり効果をあげている(ロシアにとってはダメージが大きい)ということは、5月18日ブログ“ロシア 続く国際的孤立 “勝利”したシリアではイラン・イスラエルの対立激化”でも取り上げました。

更に、追加の制裁も。

****米、ロシアに追加制裁 サイバー攻撃、関係悪化も****
トランプ米政権は11日、米国へのサイバー攻撃などを理由に、ロシアのサイバー関連企業など5企業と3個人に制裁を科すと発表した。米国はロシア制裁を立て続けに実施しており、両国関係の一層の悪化が懸念される。
 
米財務省によると、制裁対象企業は情報機関のロシア連邦保安局(FSB)と関連があるとみられる。制裁対象者は米企業との取引が禁じられ、米国内の資産が凍結される。今回の制裁対象にはリビア人らも含まれている。【6月12日 共同】
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欧米諸国の経済制裁で苦しい状況にあるロシア経済を救うことになるかも・・・と思われたのが、やはりトランプ大統領の“イラン核合意離脱”という、ロシアへの大きな“プレゼント”でした。

イラン制裁再開によってイラン産原油が市場から排除されれば原油価格が高騰し、資源依存型のロシア経済・財政にとってはまたとないチャンスとなります。

****イラン合意からの米離脱をプーチンが喜ぶ訳****
<対イラン制裁強化による石油の供給減と価格急騰のおかげで財政は回復へ――ただし行き過ぎは石油離れの原因になる>

ドナルド・トランプ米大統領は5月上旬にイラン核合意離脱を宣言し、「イランにかつてない最強の制裁を科す」と誓った。最大の標的の1つは活況に沸くイランの油田。ヨーロッパとアジアに日量400万バレルの原油を供給する経済の原動力だ。

イランや諸外国がひるむなか、アメリカの方針転換に唯一喜んだ国がある。ロシアだ。

その理由は需要と供給。新たな制裁が今秋全面実施されれば、日量100万バレルのイラン産石油が世界市場から消える見込みだ。その結果、原油価格が急騰して一番得をするのはロシアだろう。ロシアは世界最大のエネルギー輸出国だが、過去4年間、原油価格の下落によって経済が深刻な打撃を受け、財政赤字や緊縮計画につながってきた。

だがそれもトランプのおかげで風向きが変わるかもしれない。「トランプの思いがけない贈り物に感謝しなくては」とモスクワの石油アナリスト、アレクセイ・ガブリロフは言う。「イランの損はロシアの得になる」

石油の需要回復はロシアのウラジーミル・プーチン大統領にとって政治生命の新たな命綱だ。

5月7日、プーチンは通算4期目の就任宣誓で、ロシアが「独自の開発計画を策定し、障害や環境に邪魔されずに自分たちの未来を自分たちだけで決められるようにする」と誓った。だがその裏では長引く不況を乗り切るため、財政赤字に備えた安定化基金1250億ドルを使い果たそうとしていた。

14年、ロシアによるクリミア併合とウクライナ分離独立派への支援に対してアメリカが初の制裁を科して以来、通貨ルーブルの価値は半分近く下落。インフレ率は2桁に達し、ロシアの多くの大物実業家が国際金融システムから締め出された。

国際的な石油価格の下落も財政危機の一因となった。石油と天然ガスはロシアの輸出の約50%を占める。損失を補塡し、軍事支出と社会支出を維持するべく、プーチンは原油価格下落に備えて蓄えていた安定化基金を利用した。

だが今年1月、ロシア財務省は安定化基金が約170億ドルに減少し、枯渇しかけていると発表。政府は年金受給開始年齢を現在の女性55歳、男性60歳から、男女とも65歳に引き上げる不評な年金制度改革まで計画した。(後略)【6月19日号 Newsweek日本語版】
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ただ、原油価格の動向はそれほど単純でもなさそうです。

アメリカのイラン核合意離脱・制裁再開と産油国ベネズエラの混乱で供給が減少すると見込まれ、5月には原油価格が高騰(WTI原油先物で1バレル=72ドル付近)しましたが、5月末頃からロシア・サウジアラビアの供給が増えるとの予測から急落し、現在はWTI原油先物で1バレル=66ドル付近で推移しています。

また、今後原油価格が高くなると、アメリカ産のシェールオイルが増産され価格上昇を抑えます。
更には、消費国の石油離れも一層進みます。

そうした供給・需要双方の要因がありますので、トランプ大統領の“プレゼント”がロシア経済を救えるかどうかは簡単ではなさそうです。

そんなこともあってか、ロシアでは上記【Newsweek】記事でも触れられている、年金制度改革などが進められています。

それも、国民に不人気な政策とあって、ワールドカップ(W杯)ロシア大会開幕に国民の目が向いている間に・・・という“せこい”方法で。

****ロシア、W杯開幕日に増税発表 政府に不満噴出****
サッカーのワールドカップ(W杯)が開幕した14日、開催国ロシアの政府は付加価値税を現行の18%から20%に増やし、年金受給年齢を引き上げると発表した。

国民の注意がそれる機会をわざと選び、痛みを伴う財政改革案を発表したとの不満が国内で噴出している。
 
大衆紙モスコフスキー・コムソモーレツの電子版は、政府が公約に反して社会全体で議論せず「重大な決定をするのに最もふさわしくないタイミング」を選んで発表したと非難した。国民が熱狂する大会が終わるころには「不人気な法案は既に下院で承認されているだろう」と皮肉った。【6月15日 共同】
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それなりの良識を示したロシア大統領府
ワールドカップ(W杯)ロシア大会関連のロシアの話題をもう一つ。

****ロ議員「W杯ファンとの性交渉自粛を」発言、大統領報道官が反論****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の報道官は14日、同国の議員が自国の女性たちに対し、サッカーW杯ロシア大会の試合観戦のために同国を訪れるファンと性交渉を持つべきではないと発言したことについて、女性が自ら決めることだとして反論した。
 
家族や女性、子どもに関する下院委員会の委員長を務めるタマラ・プレトニョーワ共産党議員は13日に地元ラジオで、W杯に伴うファンとの情事は、ロシア人女性たちが「別人種」の子を育てることにつながりかねないと主張した。
 
これについてドミトリー・ペスコフ大統領報道官は記者会見で、「政府の権限が及ぶ範囲外」の問題だとした上で、国際サッカー連盟がW杯ファンの身分証明書に「人種差別にNOと言おう」というスローガンを記載していることに言及し、「ロシア人女性たちは恐らく自己管理できる。彼女たちは世界一の女性たちなのだから」と述べた。【6月15日 AFP】
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この点では、ロシア大統領府は一部議員よりは“良識”があるようです。
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