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(投票用紙に記入後、読み取り機に入れて1票を投じる有権者=2018年5月12日、バグダッド、高野裕介撮影【5月12日 朝日】 どういう選挙制度になっているのか知りませんが、随分大きな投票用紙です。
初めての電子投票でしたが、集計に不正があったとの疑惑があり、手作業による再集計が行われます。)
【アメリカ・イラン双方に距離を置くサドル師 連立交渉は難航の予想】
もうひと月近く前の5月12日に行われたイラクの総選挙については、周知のように、予想に反してかつてシーア派民兵を率いて反米闘争を闘ったサドル師の勢力が第1勢力となりましたが、いずれにしても連立が必要で、どういう形になるのかはいまだによくわかりません。
****イラク総選挙、サドル師派が第1勢力 連立協議開始へ****
12日に実施されたイラク国会選挙の結果が確定し、イスラム教シーア派指導者サドル師の政党連合が第1勢力になったことを受け、サドル師は19日、アバディ首相と会談を行った。
アバディ氏は共同記者会見で、イラクの新政権樹立のための作業を迅速に進めるために他の政党も含めて協力することで合意した、と明らかにした。
また、サドル師は「新たな国家をつくりたい人であれば誰でも受け入れる」と述べた。
サドル師は総選挙に出馬していないため、自身は首相になれない。ただ、サドル師の政党連合は54議席を獲得し、アバディ首相の政党連合の議席を12議席上回ったことから、強い発言力を持つことになる。
イランの支援を受けて過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦に加わったシーア派民兵組織の司令官だったアミリ氏の政党連合は、第2勢力となった。
サドル師は隣国イランと米国の双方に敵対的。選挙前にイランは、サドル師の勢力がイラクを統治することを容認しないと表明している。イランはこれまでにもイラクの首相選定で影響力を及ぼしている。
国会の最大勢力から首相を選出するとの憲法の規定から、各政党連合は多数派形成に向けた連立協議に入る。選挙の正式結果が出てから90日以内に新政権を成立させる必要があるが、協議は難航が予想される。【5月21日 ロイター】
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かつては反米闘争を率いたサドル師ですから、アメリカは論評を避けて様子見の姿勢です。
****米、イラク総選挙に祝意 サドル師派への論評避ける****
イラク国会選挙でイスラム教シーア派の有力指導者サドル師の政党連合が第1勢力になったことについて、米国務省高官は18日、「全イラク国民に安定、安全、繁栄をもたらすのを助けるため、新たなイラク政府と協力することを楽しみにしている」と述べた。反米のサドル師への論評は控え、連立協議を見守る立場を示すにとどめた。
同高官は「イラク国民の民主プロセスへの参加を祝福する」とし、宗派や民族ではなく、経済や反腐敗といった政策に基づく投票が行われたと評価した。【5月20日 産経】
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サドル師はイランとも距離を置いているということですが、昔はイランに雲隠れしていた時期もあったはずで、何があったのでしょうか?期待に反してイランから軽く扱われ、不満を抱いたのでしょうか。
その後も、支持者をグリーンゾーンに突入させて死傷者を出すなど、サドル師はイラクの政治家としてはこのブログでの扱い件数は一番多い人物で、一言で言えば“ポピュリスト”というか“扇動家”“お騒がせ男”的な存在です。
2017年2月13日ブログ「イラク シーア派指導者サドル師主導のデモで首都混乱 “IS後”を睨んだ政治闘争活発化」
2016年5月1日ブログ「イラク政治をかく乱するポピュリスト・サドル師の「グリーンゾーン」突入」
“IS後”を睨んだ政治闘争が奏功して選挙に勝利(54議席)したようですが、この人物が今後のイラクのキーマンとなることに関しては、不安も感じます。
今のところは、国内のスンニ派やクルド人勢力との連携も模索する穏当な姿勢を見せているようですが・・・。
第2勢力には、IS掃討に活躍したシーア派民兵組織の司令官で、親イランのアミリ元運輸相の勢力が47議席。第3勢力はイラン、米国の双方と良好な関係を保ってきた現職アバディ首相の勢力で、42議席。
****複雑なパワーバランスにあるイラク****
5月12日に行われたイラク議会の総選挙では、大方の予想を覆し、シーア派の指導者サドル師が率いる勢力が1位となった。
イラクはシーア派(イスラム教の中では少数派)が多数を占めるが、他にスンニ派とクルド人という有力な勢力が存在し、複雑なパワーバランスにある。(中略)
投票率は低かったものの、イラクで比較的スムーズな選挙が行われたこと自体、評価に値する。ただ、選挙で不正があったとする主張があり、イラク政府は調査委員会を立ち上げることを決定したという。
サドルは、2003年の米軍による侵攻とサダム・フセイン政権を受け、激しい宗派的な反米闘争を繰り広げた。同氏は配下のマフディー軍を率いて宗派闘争を激化させ、ニューズウィーク誌が「世界で最も危険な男」と呼ぶほどにまでなったことがある。
しかし、2008年頃からはそうした活動を弱め、次第にイラクのナショナリストとして活動するようになり、反米だけでなく、イランの影響力排除をも訴えるようになった。
昨年、イランと対立するサウジとアラブ首長国連邦を訪問し、両国の皇太子と会談している。また、アミリが指導者を務めるPMFを解体して国軍に統合する必要があると言っている。
サドルは、今回の選挙では、宗派色を出さず、共産党を含む世俗派の6つのグループと連携し、テクノクラート政権による、汚職撲滅、治安、生活インフラの整備などを訴えた。
ナショナリスト的主張に加え、こうした現実的な主張がイラク国民の心に響いたものと思われる。包含的な政権を必要とするイラクにとっては、同氏の脱宗派主義的姿勢は望ましいものである。
イランと距離を置き、アラブ諸国との関係を強化するということのようなので、イラクを巡る関係勢力の均衡とってもプラスとなり得る。
一方、米国などが期待をかけていたアバディも、前任のマリキ元首相(同氏派は今回の選挙では4位と惨敗)と異なり、対イラン傾斜やシーア派偏重ではなく、「イラク第一」である。
サドル派とアバディ派が組むことができれば、イラクの安定に最も寄与し得る組み合わせであると思われる。ただ、サドル派とアバディ派だけでは過半数に達しない。連立交渉は難航するであろう。なお、サドル自身は立候補していないので首相になることはない。
これに対し、イラクをスンニ派アラブに対抗する拠点と見ているイランは、イラクへの影響力を守り抜こうとして、アミリに肩入れするであろう。
選挙後、イランは直ちに革命防衛隊コッズ部隊のソレイマニ司令官をバクダッドに派遣した。アミリはマリキら親イラン勢力とともに政権を樹立しようとしている。
仮に彼らが政権をとった場合、宗派主義が復活することになろう。PMFがレバノンのヒズボラのような強力なイランの代理勢力として権力の一翼を奪おうとする可能性がある。これは地域を大きく不安定化させる要因である。アミリとイランの動向を注視する必要がある。
なお、米国のポンペオ国務長官は、5月21日に行った対イラン戦略についての講演で、「イランはイラクの主権を尊重すべきで、シーア派民兵組織の武装解除、解体、統合を認めなければばならない」と、厳しく注文を付けている。【6月5日 WEDGE】
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【不正疑惑で票の数え直し 大混乱に陥ていないということは“政治的安定”の証か】
シーア派、スンニ派、クルド人勢力に分かれ、シーア派の中も親イラン派やシーア派偏重派などある等、複雑な政治情勢にありますので、連立に時間を要するのは当初から予想されたことではあります。
ただ、(少なくとも国際的には)今頃になって選挙における不正が大きく取り上げられ、得票の再集計がおこなわれるとのことで、さらに不透明性が増しています。
****イラク議会選挙 票の数え直しへ 新政権発足見通し立たず****
イラクで先月行われた国民議会選挙をめぐって、電子投票システムによる集計などで不正が行われたという批判が相次ぎ、イラク国民議会は6日、手作業で票を数え直すことを決めました。新しい政権が発足する見通しは全く立たない状況です。
イラクでは、過激派組織IS=イスラミックステートとの戦いで政府が勝利を宣言してから初めてとなる国民議会選挙が先月行われ、開票の結果、イスラム教シーア派の指導者、サドル師の勢力が最も多くの議席を獲得しました。
ところが、今回の選挙で初めて使われた電子投票システムでの集計などで不正が行われたという批判が相次ぎ、アバディ首相も5日、深刻な違反行為があったという認識を示すとともに、責任は選挙管理委員会にあると指摘しました。
これを受けてイラク国民議会は6日、選挙法を改正して手作業で票を数え直すことを賛成多数で決めました。
またイラク国外で投じられた票をすべて無効としたほか、選挙管理委員会の幹部の職務を停止し、9人の判事に票の数え直しを監督させることを決めました。
今回の選挙では、最も多くの議席を獲得した勢力も全議席の20%に満たず、連立交渉が長引くことが懸念されていましたが、票の数え直しという事態を受けて、新しい政権が発足する見通しは全く立たない状況です。【6月7日 NHK】
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“今回の選挙ではイラクで初めて電子投票機が使われたが、複数の情報機関によると、投票機の検査で集計結果にばらつきが出たことで、不正疑惑に信ぴょう性が生まれた”とのことで、手作業による再集計が命じられたようです。
ただ、“AFP通信によると、約1100万票を数え直すが、獲得議席数に大きな変動はないとみられる。”【6月7日 時事】とのことです。
選挙で不正が行われたとして騒動になるのは各国でよく見るところですが、ひところのイラクであれば、あるいは、アフリカなどの多くの国では今でもそうですが、大規模な大衆行動・武力衝突が起きるところです。
今回はそうした騒動の話は聞きません。
ということは、なんだかんだ言っても、現在のイラクは政治的にはかなり“落ち着いた”と言える・・・・のかも。