孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イタリア  「同盟」サルビーニ内相の“正直な”発言が示すロマ差別 排斥を容認する「民主主義」

2018-06-19 23:50:39 | 欧州情勢

(「泥棒家族」を支える14歳少年を描く映画「チャンブラにて」より 【https://ameblo.jp/yukigame/entry-12371311313.html】)

【「同盟」党首サルビーニ内相「(イタリア国籍を保有しているロマは)“残念ながら”国内にとどめておかなければならない」】
日本では“ジプシー”という呼称の方が馴染みがある“ロマ”の人々への差別の問題は、これまでもときどき取り上げてきました。
(2016年9月24日ブログ“ロマ差別  欧州を逃れてアメリカへ逃れるロマも増加 東欧諸国の「破られた約束」”など)

上記ブログのロマに関して説明した冒頭部分を一部再録します。

****犯罪関与などの現実が助長する欧州におけるロマ差別****
“ロマ(Roma)は、ジプシーと呼ばれてきた集団のうちの主に北インドのロマニ系に由来し中東欧に居住する移動型民族である。移動生活者、放浪者とみなされることが多いが、現代では定住生活をする者も多い。”【ウィキペディア】(中略)

日本では「ジプシー」という呼び名が方が一般的ですが、「ジプシー」などの呼称は物乞い、盗人、麻薬の売人などの代名詞のように使われる場合がままあり、「差別用語」のイメージがあるため、ポリティカル・コレクトの観点から現在は「ロマ」の呼称が使われることが多いようです。

呼称を変えたからといって差別がなくなる訳でもありませんが、あからさまな嫌悪感・侮蔑をまき散らすよりはましでしょう。(中略)

現在、ロマはルーマニア・ブルガリアなど東欧を中心に、西欧にも広く拡散しており、各地で差別の対象となっています。

“欧州連合の行政府・欧州委員会によると、欧州に暮らすロマの人口は推定1000万~1200万人。 欧州評議会の各国別推計によると、ルーマニア185万人、ブルガリア75万人、スペイン72万5000人、ハンガリー70万人、スロバキア49万人、フランス40万人、ギリシャ26万5000人、チェコ22万5000人、イタリア14万人など。”【ウィキペヂア】

欧州でのロマへの差別的感情は、イスラムやユダヤ以上に強いものがあるとか。

ロマが差別される理由として・流れ者の民族で文化が違う・キリスト教徒ではない・コーカソイド(白人系)ではない・個人主義で、決して地域に同化しない・・・などが挙げられていますが、現実問題として差別されて合法的な暮らしが困難なロマが窃盗などの犯罪や物乞いに関与することが多いことが一般市民の彼らへの感情を更に悪化させているものと思われます。【上記2016年9月24日ブログからの再録】
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“犯罪”という面では、「ローマではジプシーのスリに注意!」といった注意もよく目にします。

久しぶりにロマ差別の問題を取り上げたのは、下記のイタリア内相の発言が報じられているためです。

****伊内相、少数民族ロマの人口調査を計画 国外追放も示唆****
イタリアのマッテオ・サルビーニ内相は18日、同国内に居住する少数民族ロマの人口調査を実施し、イタリア国籍がなければ国外追放する意向を明らかにした。サルビーニ氏は反移民を掲げる極右政党「同盟」の党首。
 
サルビーニ氏は自身の出身地である北部ロンバルディア州の地元テレビ局に対し、伊当局にロマに関する人口調査の実施を許可し、外国籍で不法滞在と判明したロマについて国外追放の可否を検討できる権限を与えると発言。
 
一方で、イタリア国籍を保有しているロマについては「残念ながら国内にとどめておかなければならない」と述べた。
 
サルビーニ氏は今月、地中海で救助されたアフリカ系を中心とする移民630人あまりを乗せた船の入港を拒否して非難を浴びたが、今回のロマに関する発言に対しても抗議の声が上がっている。【6月19日 AFP】
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上記記事にもあるイタリアのサルビーニ内相のアフリカ難民船寄港拒否、及び、スペインが受け入れを発表した際の「勝利だ!」との発言については、6月13日ブログ「イタリア新政権  移民・難民船を“たらい回し”にして「勝利!」とする“良識”」でも取り上げました。

合法的な滞在資格を持たない“不法入国者”を国外追放にする・・・・という話は一般的なことですが、もし“ロマ”を標的・狙い撃ちにする形で調査を行うということになると、その排斥姿勢が問題にもなります。

もっとも、こうしたロマを狙い撃ちにした追放措置は、やはり「同盟」(当時は「北部同盟」)の主張もあって、以前からとられてきました。

****仏に続きイタリアもロマ送還 内相が表明****
イタリアのマローニ内相は(2010年8月)21日までに、国内に居住する少数民族ロマについて、十分な収入や定住先などの要件を満たしていなければ、欧州連合(EU)市民であっても出身国に送還する政策を進める考えを明らかにした。コリエレ・デラ・セラ紙が伝えた。

ロマをめぐっては、既にフランスが19日、犯罪対策の一環として送還を開始しており、イタリアもこれに倣った形。人権団体などから、人種差別的政策との批判を呼びそうだ。

内相は、EU欧州委員会がこうしたロマ送還を禁ずる決定をしているため、9月6日に予定されるEU内相会合で、決定を見直すよう働き掛けると語った。

イタリアには同国の市民権を持つロマのほか、ルーマニア、ブルガリアなど他のEU諸国の市民権を持つロマが多数、居住している。

内相は右派政党、北部同盟出身。同党は不法移民が犯罪の温床になっているほか、イタリア人の職を奪ったり福祉財政に負担をかけているとして移民排斥を主張。ベルルスコーニ政権は連立与党である同党の主張を受け、移民に厳しい国内法整備を進めている。【2010年8月22日 共同】
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今回、非常に印象的というか、この極右政治家の本音を正直に語っているのが、“イタリア国籍を保有しているロマについては「残念ながら国内にとどめておかなければならない」と述べた。”という部分です。

国籍を有していれば完全なイタリア国民です。そのイタリア国民を国内にとどめておくことが“残念”というのは、滞在資格の有無が問題ではなく、なんとかロマを排斥したという気持ちが実に正直に出ています。

こうした発言が一部の抗議を受ける程度で、政治的・社会的に許容されというのも不思議なことです。
また、こうした発言の延長線上には、そのうち何らかの理由をつくって、たとえイタリア国籍があってもロマを国外へ追放する・・・・といったことにもなるのではとも危惧されます。

根底にあるのは、かつてのユダヤ人に対するホロコーストとほとんど同じ民族的嫌悪感とも言える排他的感情です。

【「民主主義」の変容
人種的嫌悪感を発散する政治家が存在することは珍しいことではありませんが、サルビーニ内相率いる移民排斥政党「同盟」が3月の総選挙で第3位の議席を獲得し、「五つ星運動」ともに連立与党を形成するまでに躍進したということは、その躍進を支持した民主主義の在り様について考えさせられるものがあります。

最近、民主主的な政治形態に対し、中国をモデルにした「チャイナ・スタンダード」の世界への拡散、中国の自信が取りざたされることが多くありますが、その「チャイナ・スタンダード」に対峙する民主主義自体が、アメリカのトランプ大統領や、欧州の極右政党台頭に見られるように、人々の不満のはけ口として「不寛容」方向に大きく変質しているように思われます。

少数民族の人々に対する敵意は伝染しやすい
イタリアにおけるロマは冒頭にも紹介したように14万人と、他の国に比べて多いということはありませんが、アフリカ移民がほとんど流入していない中東欧諸国で激しい受け入れ拒否が起きているように、民族的嫌悪感というの人数の多寡にはあまり関係しないのかも。

イタリアにおけるロマ差別に関しては、1年前に以下のような事件も報じられています。

****ロマ人の3姉妹が放火で死亡、キャンピングカーで就寝中 イタリア****
イタリアの首都ローマ(Roma)郊外で10日、少数民族のロマ人のキャンピングカーが放火され、中にいた3人の姉妹が死亡する事件が発生した。国内に悲しみが広がっている。
 
犠牲となったのは4歳、8歳、20歳の3姉妹で、放火された当時、両親や他の8人のきょうだいと就寝中だった。
 
捜査当局によると、監視カメラには火の手が上がる前、1人の男がキャンピングカーに向けて瓶を投げる様子が映っていたという。
 
外国人に対する憎悪によるものなのか、移動生活をしている別の家族からの恨みによる犯行なのかなどは不明。報道によると、ここ数日、地元住民から脅迫を受けていたと遺族が証言しているという。
 
セルジョ・マッタレッラ大統領は「恐ろしい犯罪」と糾弾し、ローマのビルジニア・ラッジ市長も哀悼の意を表した。ローマ法王庁(バチカン)は、遺族の悲しみを和らげ「具体的な支援」を行うため、フランシスコ法王が司祭を派遣したことを明らかにした。
 
イタリアに住むロマやシンティの人々は約17万人おり、その半数以上は定職や定住する家、市民権も持っているが、貧困層へのヘイトクライム(憎悪犯罪)が後を絶たない。【2017年5月11日 AFP】
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上記記事にある“シンティ”とは、“15世紀頃からドイツ語圏に定住したロマと同根のロマニ系の集団”【ウィキペディア】とのこと。

ロマ差別に関して、“少数民族の人々に対する敵意は伝染しやすい”という、ある意味当然のことのような現象に関する“実験”も報じられています。

****民族的敵意は伝染する、チェコ・スロバキア研究****
少数民族の人々に対する敵意は伝染しやすく、少数民族に対する破壊的な行動の受容性は、他者の行動次第で容易に変わるという研究結果を、チェコとスロバキアの合同チームが発表した。
 
研究に参加したミハル・バウアー氏とユリエ・ヒティロバ氏は23日、「反社会的な行動を規制する社会規範は、そうした行動が少数民族に向けられた場合、非常にもろくなる」とAFPに語った。
 
研究は2013年に、チェコ・プラハのカレル大学にある経済研究所「CERGE-EI」と独ミュンヘンのマックス・プランク研究所、スロバキアのコシツェにある工科大学が、多くの少数民族ロマの人々が暮らすスロバキア東部で行った。
 
今年4月に米科学アカデミー紀要に掲載された論文によると、研究はスロバキア人が多数派の学校の13〜15歳の生徒327人を対象とした実験に基づいたもの。
 
実験では、生徒たちにそれぞれ2ユーロ(約250円)を渡した後、0.2ユーロ(約25円)を払う代わりにペアになった相手から1ユーロ(約126円)を取り上げてもらう破壊的な選択か、そのまま何もせず互いに2ユーロを保持するかを選んでもらった。
 
次に生徒3人のグループを作り、スロバキア人とロマ人の典型的な名前20人のリストから選ばれた相手について、グループ内で順番に「破壊的」にするかどうかを選択してもらった。
 
実験は、同じ民族の仲間が他集団の民族に害を加えた場合、その影響は仲間に害を加えた場合よりも増大するとの仮説を検証する目的で行ったものだが、その結果は驚くべきものだった。論文の指摘によると、少数民族に危害を加えるという意思決定において仲間の影響が著しいという。
 
最初の生徒が少数民族の生徒に対して「平和的」な選択をした場合、次の生徒が「破壊的」な選択をする割合は19%だったが、最初の生徒が少数民族の生徒に対して「破壊的」な選択をした場合、次の生徒が「破壊的」な選択する割合は77%に上った。
 
1番目と2番目の生徒の両方、または一方が「平和的」な選択をした場合、3番目の生徒が「破壊的」な選択をする割合はわずか18%だったが、1番目と2番目の生徒が両方とも「破壊的」だった場合、3番目の生徒の88%が「破壊的」な選択をした。
 
バウアー氏とヒティロバ氏は「実験に参加した生徒たちは、ほかの生徒がロマ人の生徒に嫌がらせをしていると、ロマ人に対する憎悪的な行為は社会的にも容認されるものだと見なすようになった」と指摘している。【5月30日 AFP】
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極めて“当たり前”のようなことに関する実験でもありますが、「少数民族の人々に対する敵意は伝染しやすい」「反社会的な行動を規制する社会規範は、そうした行動が少数民族に向けられた場合、非常にもろくなる」ということを裏付ける実験でもあります。

先述のサルビーニ内相の発言などが、“ロマ人に対する憎悪的な行為は社会的にも容認されるものだ”という社会的雰囲気を醸成していくことが懸念されます。
トランプ大統領への支持、欧州極右の台頭に見られるように、反社会的な行動を規制する社会規範の崩壊はすでに現実のものとなっています。
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