
(映画「スター・ウォーズ」より シスの暗黒卿ダース・シディアス)
【シスの暗黒卿ダース・シディアス】
自由と民主主義を掲げる共和国世界にあって、その価値観を否定し、邪悪な力の支配を信奉する者が政治指導者に上りつめ、敵対勢力の反乱を画策するなどで危機感を煽り、政治制度の変質を企て、ついには以前の世界とは全く異なる帝国の支配者として君臨する・・・・というのは、映画「スター・ウォーズ」(エピソード1~3)における銀河共和国最後の元老院最高議長パルパティーン(銀河帝国初代皇帝となるシスの暗黒卿ダース・シディアス)の話です。
動画配信サイトでその十数年前の「スター・ウォーズ」を改めて観ていて、まあ、現実世界も似たり寄ったりかも・・・なんて印象も。
ちなみに、“シスの暗黒卿”とは、怒りや憎しみなどといった強い負の感情から生み出される攻撃的な、「ダークサイド(暗黒面)」のフォースを信奉する者たちとのこと。
【強権指導者を礼賛するトランプ大統領のもとで、アメリカ自身が「ならず者国家」になっていく】
自由と民主主義の守護者でもあるアメリカのトランプ大統領、軍事パレードを希望したり、北朝鮮将軍に敬礼したり、なんだか違うのでは・・・という感がありますが、下記記事の「彼(金正恩氏)が話すときに『彼の国民』は『気を付け』をして立っている。『私の国民』も同じようにして欲しい」といった発言を聞くと、やはり発想の基本が違うにも思えます。
****トランプ氏、「強権指導者」礼賛 「正恩氏は賢い」「プーチン氏は世界の第一線」****
トランプ氏は強いリーダーと懸案事項でディールがしたい?
トランプ米大統領が北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長を絶賛し続けている。トランプ氏はロシアのプーチン大統領へも敬意を隠さず、中国の習近平(シーチンピン)国家主席をほめたたえてきた。
強権的リーダーを好む一方で、国際協調を軽視する姿勢に、米国内では米国自身が国際秩序を守らない「ならず者国家」になることを懸念する声が上がっている。
■即決できる取引相手
「我々(トランプ、正恩両氏)はとてもケミストリー(相性)が合った」。トランプ氏は20日の演説でこう強調した。
「(正恩氏は)賢い」「とても優れた能力に恵まれている」――。12日の米朝首脳会談以降、トランプ氏のそんな発言が目立つ。
だが、正恩氏は国内で過酷な人権弾圧を行っているとされる独裁者。米国務省は4月の人権報告書で、昨年に起きた正恩氏の異母兄・正男(ジョンナム)氏の殺害事件にも触れ、「北朝鮮は政府による甚だしい人権侵害に直面している」と非難した。
トランプ氏自身、1月の一般教書演説で北朝鮮の人権状況を厳しく批判したものの、どこまで真剣だったのか疑問視されている。15日のFOXニュースのインタビューでは、「彼(正恩氏)が話すときに『彼の国民』は『気を付け』をして立っている。『私の国民』も同じようにして欲しい」と、独裁者へのあこがれを明け透けに語った。
独裁者の研究などで知られる米ニューヨーク大学のルース・ベンギアット教授は「トランプ氏が独裁的な政治指導者に親近感を持つのは、彼らと多くの価値観を共有しているからだ」と分析する。「『報道の自由』の利点に納得していないし、民主主義の基本的な価値である人権も尊重していない」と語る。
トランプ氏の賛辞は正恩氏にとどまらない。ロシアのプーチン氏、中国の習氏、フィリピンのドゥテルテ大統領ら「強権的」と指摘される指導者にも向けられる。
中でもプーチン氏に対しては「世界の第一線のリーダー」(トランプ氏)と別格の評価だ。トップダウン型の判断を好むトランプ氏としては、強い政治指導者を相手にした方がディール(取引)を即決できると考えているとみられる。
■国際秩序乱す恐れも
ただ、トランプ氏の言動は米国が中心となって築き上げてきた協調的な国際秩序を揺るがしかねない。
6月の主要7カ国(G7)サミットでは米国による高関税をかける措置をめぐり、米国と他の6カ国との対立が深まる中、トランプ氏は突如、「ロシアがいた方がいい」と提唱し、参加国を驚かせた。いったん承認した首脳宣言の撤回にまで踏み込んだ。
ロシアは2014年にウクライナのクリミア半島を併合し、G7の総意で排除された経緯がある。武力による国境変更は、国際秩序を揺るがすものだ。
ベンギアット教授が懸念するのは、世界一の経済・軍事力をもつ米国が、かつて北朝鮮などを批判する際に使った「ならず者国家」に自らなっていくことだ。「国連人権理事会脱退など米国自身がいま、『ならず者国家』のように振る舞っている」と指摘する。【6月27日 朝日】
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すべてを一人で決断できる強い政治指導者を相手にしたディールを好むということは、自国内にあっても自身が“すべてを一人で決断できる強い政治指導者”でありたいという願望を持っているということでもあります。
“同盟国”との関係にあっては、自分の指示に皆が従うことを希望しており、互いが同等の立場で協議するといったことには拒否感をもっているようです。(それは、もはや“同盟国”とは言い難い関係ですが)
多国間合意に縛られることも嫌います。
意に沿はない相手であれば、“同盟国”であろうがなかろうが関係あなく、自身の力を誇示します。
****世界に貿易戦争を挑むトランプ、中国に続きEUとも報復合戦****
<EUが報復関税を発動したのを受けて、トランプは直ちに「ツイート」ですべての欧州車に20%の関税をかけるぞと脅迫>
ドナルド・トランプ米大統領が、世界に貿易戦争を仕掛けている。経済学者の多くが米中間の報復関税合戦に目を奪われる中、アメリカに着々と報復措置を繰り出しているのがEUだ。
アメリカは5月31日、EUなどの同盟国には一時的に適用を除外していた鉄鋼25%、アルミニウム10%の追加関税を、メキシコやカナダ、EUからの輸入にも適用すると発表した。EU加盟28カ国とメキシコ、カナダは対抗措置を用意し、6月22日に発動した。
現在、アメリカからEUに輸出される約340品目に追加関税がかけられている。対象品目の多くは、トウモロコシやインゲン豆、米、ピーナツバター、クランベリーなど、農産品や食料品が中心だ。
ウィスキーとタバコにも約25%の追加関税がかけられる。鉄鋼製品を含む金属製品に加え、化粧品、Tシャツ、調理器具も対象になった。一部の衣類や紙製品、毛布類は35〜50%の高関税にさらされる。全体で32億6000万ドル分のアメリカ製品に相当する報復課税だ。
カナダとも「戦争」厭わず
EUからの報復のニュースを知ったトランプは同22日の朝、さらなる報復措置をツイッターで発表した。
「もしEUがアメリカや米企業、労働者に長年課してきた関税や貿易障壁をすぐに取り除かなければ、EUからの輸入車すべてに20%の関税をかけてやる。どうしても売りたければアメリカで作れ!」
トランプの言う「関税」が、今回EUが発動した追加関税を指すのか、EUが従来からアメリカ車に課してきた10%の関税を指すのかははっきりしない。いずれにせよ、このツイートに欧州、特にドイツの自動車メーカーは震え上がった。
トランプ政権になってから、貿易は外交上の大きな争点になっている。6月9日、カナダのジャスティン・トルドー首相は、鉄鋼・アルミ製品への追加関税は「侮辱的」としてアメリカの貿易政策を批判した。
これに対しトランプは「不誠実で弱虫」などとトルドーを扱き下ろした。
トランプ政権は5月23日に、自動車や自動車部品の輸入が米通商拡大法232条に基づく国家安全保障の脅威に相当するかどうかの調査する、と発表している。もし自動車部品に輸入関税が課されれば、アメリカへの自動車部品輸出最大手のカナダがいちばん打撃を受けることになる。隣国カナダにも容赦がない。
安全保障を口実に鉄鋼やアルミの輸入を制限することには米与党共和党の議員の間でも反対する声が上がっているが、「不公正」貿易との戦いは支持する声も根強い。【6月25日 Newsweek】
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「どうしても売りたければアメリカで作れ!」と言われると、日本企業も多大な影響を受けます。
もっとも、欧州側の報復措置に最初にアメリカ国外での生産という対応をとったのが、トランプ大統領がこれまでメイドインアメリカの象徴としてさんざん持ち上げてきたハーレーダビッドソンだったというのは、笑えますが。(「私は彼ら(ハーレー)のために戦ったのに」「ハーレーの終わりの始まりだ」と、トランプ大統領は怒り心頭のようです)
プーチン大統領や習近平主席といった強権指導者と価値観を共有していますので、中国と貿易戦争も、価値観云々の問題ではなく、単に「強いのはどっちかはっきりさせたい」という力比べみたいなもので、適当なところで握手して世界を分け合う・・・といったことも想像されます。
その中国にはマティス米国防長官が向かい、懸案の南シナ海問題や台湾の扱いなどを協議して関係を調整し、今日は韓国で在韓米軍兵力を維持すると表明していますが、唯我独尊の大統領にとっては邪魔な存在にもなりつつあるとも。
****マティス国防長官の地位低下か 「指示実行遅い」と大統領が距離 米報道***
不法移民の収容、韓国との合同軍事演習の中止、「宇宙軍」の創設など、かつてドナルド・トランプ米大統領の信頼を得ていたジェームズ・マティス国防長官は、大統領からの意に沿わない指示を実行させられる立場に追い込まれている。
米メディアは、米政権の権力構造を見ると中央情報局長官だったマイク・ポンペオ氏がポンペオ氏よりはるかにおとなしかったレックス・ティラーソン氏の後任として国務長官に就任し、タカ派のジョン・ボルトン氏が大統領補佐官に任命されたことによって、海兵隊出身で元中央軍司令官であるマティス氏の地位が下がったとしている。
政権内の情報筋がNBCニュースに明らかにしたところによると、トランプ氏は「指示した政策の実行をぐずぐず引き延ばしている」としてマティス氏から距離を置くようになっているという。
ジェームズ・クラッパー前国家情報長官は米CNNに対し、「彼(マティス氏)が自分は無力で発言力も影響力もないと感じるようになれば、いつまで職にとどまるか分からない」と述べ、トランプ氏がマティス氏を脇に追いやるならマティス氏は辞任するかもしれないとの見方を示した。
トランプ政権で数少ない穏健な人物とみなされているマティス氏はこの数週間、いくつもの面倒な問題への対処を強いられている。【6月27日 AFP】
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かくして、政権はますますトランプ氏を中心に純化されていきます。
【オルバン首相など、世界各地に“ミニ・トランプ”も 一番の問題は彼らの多くが有権者から共感を得ていること】
かねてから心酔していたプーチン大統領とは、自身のロシア疑惑の関係で身動きがとりにくい状態が続いていましたが、ようやくヘルシンキかウィーンでトランプ米大統領とプーチン露大統領が近く首脳会談を行うことが決まったようです。
アメリカのトランプ大統領だけでなく、世界各地に“〇〇のトランプ”と称されるような指導者が出現しています。
麻薬問題で超法規的殺人を奨励するフィリピンのドゥテルテ大統領。
ブラジル大統領選挙では、移民の排斥を訴え、軍政時代を「よい時代だった」と評価するなど過激な発言を繰り返すことから、「ブラジルのトランプ」と呼ばれるボルソナーロ下院議員が有利な戦いを進めています。
欧州では、ポーランドやハンガリーなど中東欧で独仏主導の西欧的価値観を受け入れない政治指導者が力を得ていますが、その中心人物がハンガリーのオルバン首相。
彼は、下記記事では「ミニ・プーチン」と称されていますが、「ミニ・トランプ」と言ってもいいでしょう。(制裁を受けているロシア・プーチンもトランプも同じような人物ですから)
****魂の友はハンガリーにいる****
反EUの旗振り役であるハンガリーのオルバン首相は、やりたい放題を繰り返す「ミニ・プーチン」
今年4月のハンガリー総選挙に圧勝したとき、オルバン・ビクトル首相はこう叫んだ。「私たちは勝つた。ハンガリーを守るチャンスが与えられた」
オルバンが率いる与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」は議会で圧倒的多数を占め、政権は10年からの連続3期目に入る。オルバンは選挙戦で強硬な反移民政策を掲げ、EUを「帝国」と非難。こうした姿勢は多くの有権者を魅了してきた。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領も大満足たった。過去10年以上、プーチンは自らの信条でもある「反EU」の旗振り役であるオルバンを支援してきた。ロシア国営の英語ニュース専門テレビ局RTは「ヨーロッパがオルバン化される」と表現した。
ロシアは長年にわたり、EUの弱体化と分断を試みてきた。スペインのカタルーニャ独立派やイギリスでEU離脱を主張した活動家を支援し、フランスの国民戦線(現・国民連合)に出資し、その宣伝網を利用してバルト3国のロシア系住民への迫害に関するフェイクニュースも流した。
隣国チェコでは、親口路線のミロシュ・ゼマン大統領が今年1月に再選された。親EU派の対立候補は、小児性愛者で共産党協力者というネガティブキャンペーンの犠牲になった。中傷の出どころはチェコの約30のウェブサイト。
プラハのシンクタンク「ヨーロピアン・バリューズ」によれば、これらのサイトはロシア政府と関係がある。
ロシアの目的は各国のプーチン支持者を助け、ヨーロッパを疑心暗鬼に陥らせ、さらにはウクライナ侵攻のようなロシアの動きにEUが協調して制裁を科すのを邪魔することだ。(中略)
ロシアにとって最も重要なのは、ハンガリーがEUの自由で民主的な価値、原則、ルールに反旗を翻す流れの中心地になったことだ。
「匪界における保守的なナショナリズムの台頭は、この時代の脅威だ」と、オックスフォード大学の政治経済学者ウィルーハットンは言う。「ヨーロッパは再び悪夢と隣り合わせにいる」(中略)
もっとも、オルバンは常にロシア寄りだったわけではない。政治家になった当初は、反ロシア、反共産主義のリベラルな反体制派たった。(中略)
ロシアと中国を国の手本に
(中略)オルバンは10年の選挙戦中に、排外主義的な言葉が有権者に受けることに気付いた。09年11月、オルバンはロシアのサンクトペテルブルクでプーチンと会見し、その翌月には北京で国家主席になる前の習近平に会っている。
オルバンは2人に感銘を受けたようだ。すぐに彼はロシアと中国は手本だと言いだし、それまでの考えをかなぐり捨てて、ハンガリーに「建国の志に基づく非自由主義の国」をつくると宣言した。(中略)
その頃、ヨーロッパは第二次大戦以来最大の難民流人に直面し、各国政脳ンガリーのガス企業は対応に頭を悩ませていた。「これからの政治は右対左ではなく、グローバリスト対ナショナリストの闘いだ」と、米トランプ政権で大統領百席戦略官を務めたスティーブーバノンは言った。
13年にオルバンは反グローバリストの急先鋒として頭角を現し、EUのエリートを嘲ってばロシア政府を喜ばせていた。
「自国は特別」という彼の主張は大衆受けした。「オルバンの偏狭な主張を聞くと、ハンガリー国民であることが恥ずかしくなる」と非難する声もあったが、リベラル派やジヤーナリストが何を言っても聞く耳を持たなかった。
オルバンの移民攻撃は国内だけでなく、中央ヨーロッパでも支持を集めた。オーストリアのセバスティアン・クルツ首相とドイツのホルスト・ゼーホーファー内相もオルバンに賛同した。(中略)
オルバンは、対ロシア制裁と対ロシア批判への反対を表明し続けた。「西側ヨーロッパの姿勢が非常に反ロシアであることは問違いない」と、彼は昨年2月にブダペストで述べた。「多国間主義の時代は終わった」
これを受けて、プーチンはハンガリーを「重要で頼りになるパートナー」と呼んだ。EUがロシアを「ならず者国家」扱いしているさなかにハンガリーで歓迎を受けたことは、プーチンにとって大きな外交的な財産となった。
(中略)ロシアは長期戦の構えだ。その効果は、もう出始めている。4月のオルバン圧勝が示すように保守的なナショナリズムはハンガリーに根を下ろし、周辺国にも広がりを見せている。
それは「ドイツのための選択肢」から「デンマーク国民党」に至るポピュリスト政党が着実に支持を増していることでも明らかだ。
ハンガリーの政治学者ムラーズーアゴストンによれば、ヨーロッパのエリート層が本当に恐れているのは、オルバンの主張が有権者から共感を得ていることだという。
「国家のエゴは統合よりも魅力的に見える」と、EU大統領のドナルド・トゥスクは昨年、ヨーロッパ各国の指導者に送った書簡で述べた。「国際関係が緊張し、各国が対決しているときに必要なのは、ヨーロッパが政治的に団結することだ。それなしには生き残れない」
制裁で経済的に弱り切ったロシアは、EUに経済では対抗できない。プーチンは先頃、新型核兵器や軍事費の大幅増を公表したが、それでもアメリカが率いるNATOにはかなわない。
しかし、プーチンはプロパガンダが誰よりも得意だ。EUが崩壊するとするなら、それは内部からの可能性が高いことを、プーチンは知っているように見える。【7月3日号 Newsweek日本語版】
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トランプ、プーチン、オルバン、そして習近平、金正恩・・・彼らが日の当たる世界に君臨するとき、世界は暗黒面に沈むことに。
上記記事にもあるように、一番の問題は彼らの多くが有権者から共感を得ていることでしょう。