孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス  多発するイスラムテロ マクロン大統領、イスラム規制強化

2020-10-04 22:52:54 | 欧州情勢

(仏首都パリでイスラム嫌悪に抗議するデモ行進に参加する人々(2019年11月10日撮影)【2019年11月11日 AFP】)

 

【風刺週刊紙「シャルリエブド」の元本社付近でパキスタン人男性が刃物で襲撃】

2015年にフランス・パリの週刊新聞「シャルリー・エブド」がイスラム教の預言者ムハンマドを風刺したことでイスラム過激派のテロに襲われ、記者ら12名が殺害され、その後の犯人と捜査当局との銃撃戦のなかで人質4人が犠牲なる事件がありました。

 

その後も「シャルリー・エブド」は風刺の手を緩めず、事件の容疑者の裁判が9月2日から11月にかけて開かれるのを機に、9月2日付の特別号で、2015年に起きた同紙の本社襲撃テロ事件のきっかけとなったムハンマドの風刺画を再び掲載しています。

 

この際、マクロン大統領は「冒涜する自由」があるとして、「シャルリー・エブド」を擁護しています。

 

****仏大統領、冒とくする自由を擁護 ムハンマド風刺画再掲載で****

フランスのマクロン大統領は1日、2日付の風刺週刊紙シャルリエブドが、かつてイスラム教徒の反発を招き2015年の同紙本社襲撃テロのきっかけとなったイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を再掲載したことを巡り「フランスには冒とくする自由がある」と表明した。

 

訪問先のレバノン・ベイルートで記者会見したマクロン氏は「報道の自由があり、大統領は編集の決定に判断を下さない」とした上で、会員制交流サイト(SNS)を例に挙げ「表現の自由には憎悪を唱えないようにする義務もあるが、風刺は憎悪ではない」と述べた。【9月2日 共同】

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このあたりの経緯は、9月5日ブログ“フランス  シャルリー・エブド、テロ事件のきっかけとなった風刺画を再掲載”でも取り上げたところです。

 

こうした「シャルリー・エブド」の姿勢に触発されたのか、9月25日には「シャルリー・エブド」のパリの旧本社前で男女2人が刃物で襲われる事件が発生、犯人はパキスタン出身の男性でした。

 

****パリで刃物襲撃、2人負傷 シャルリエブド元本社付近****

 2015年に襲撃事件が発生したパリの風刺週刊紙「シャルリエブド」の元本社付近で25日、少なくとも2人が刃物で襲われ負傷した。対テロ検察局が現在、捜査を進めている。

カステックス首相は当初、4人が刃物で襲われたとしていたが、その後、警察当局者はロイターに対し、負傷したのは2人で、このうち1人が重症と明らかにした。

同首相はその後、主犯と見られる容疑者1人が逮捕されたと明らかにした。2人目の容疑者の身柄も確保されたとしている。負傷者2人について、命に別状はないとした。

パリ警察は容疑者1人をオペラ・バスティーユの近くで逮捕。ヨーロッパ1ラジオは警察当局者の話として、主犯と見られる容疑者はパキスタン生まれの18歳で、これまでに治安当局に知られていたと報じている。(後略)【9月25日 ロイター】

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【イスラム過激思想の影響を受けた「一匹狼」によるテロが多発 世俗主義社会との不統合による被差別意識】

フランスをはじめとして欧州各国ではイスラム教徒によるテロが頻発しています。

 

背景には、大前提としてイスラム教徒が多いことがありますが、それに加えて現地文化とのミスマッチ、イスラム系住民の置かれている経済的困窮などの問題があることが、テロを誘発する土壌となっていると思われます。

 

****欧州でイスラム過激思想に感化されたテロが多発する要因****

欧州においては,近年,何らかの形でイスラム過激思想の影響を受けた「一匹狼」によるテロが多発している。こうしたテロの実行犯の多くは,欧州域内に居住している移民やその背景を持つ者であった。

 

欧州人口の4.9%(約2,500万人)がムスリムとされ,特に,2017年にテロが多発したフランス(8.8%),ベルギー(7.6%),英国(6.3%)は,欧州内でもムスリム人口の割合が高いとされる。

 

それぞれのテロ実行犯には様々な背景が見られるが,欧州における過激化の要因やテロ実行を容易にしている背景については,以下のような指摘がされている。

 

世俗主義社会との不統合

欧州では,イスラム教徒の女性が顔や全身を覆うブルカやニカブなどに関し,宗教的中立性に反するとして公共の場で着用することを禁止する国や地域がある。

 

特に,フランスは,政教分離(ライシテ)の原則から,例えば,イスラム教徒の女性が公共の場でこそ着用する必要のあるブルカなどを公共の場で着用できないといったように,国家の基本原則とイスラム社会の習慣が相容れない状況が発生しており,こうしたことが意図せず,ムスリムに被差別意識を抱かせる要因の一つとなっているとの見方もある。

 

高い失業率や犯罪率

移民の若者の失業率は各国の国内平均よりも概して高く,将来への希望を持てず,中には,麻薬取引などの犯罪に関与する者も多い。

 

例えば,多数のテロリストを生み出したベルギー首都ブリュッセルのモレンベーク地区の若者の失業率は約40%とのデータもある。

 

また,犯罪への関与については,フランスでは,受刑者の40~50%がムスリムで,都市部の刑務所では60%を超えているものもあるとの指摘もあるなど,欧州における受刑者に占めるムスリムの割合は高いとされる。

 

刑務所における過激化

欧州では,テロ関連犯罪の受刑者が,他の犯罪による受刑者から隔離されることなく収監されることが珍しくない。収監前はイスラム過激思想に無関心だった人物が,収監中に過激主義者と接触し,短期間のうちに過激化する事例が複数確認されている。(中略)

 

武器の「闇市場」

欧州には,ベルギーの主要都市やオランダ・アムステルダム,フランス・パリなど各地に武器の「闇市場」が存在しているとされ,1990年代には,紛争地となったバルカン半島から大量の銃が流入するなどした。

 

そのため,欧州では,武器の入手が容易となっており,週刊紙「シャルリー・エブド」社襲撃事件(2015年1月)やフランス・パリ連続テロ事件(2015年11月)の実行犯は,ベルギー・ブリュッセルのモレンベーク地区の「闇市場」で武器を調達したとされる。

 

「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)は,こうした状況を巧みに利用し,プロパガンダ等を通じて欧州への攻撃を呼び掛けるなどした結果,「一匹狼」型のテロを多発させることに成功し,ISIL等イスラム過激組織に影響を受けた者によるテロは今後も引き続き発生するものとみられる。

 

このため,欧州各国では,治安・情報機関の強化に加え,宗教関係者などの協力を得ながらイスラム教の正しい知識の習得等を通じた過激化防止及び脱過激化に向けた取組が進められている。【公安調査庁】

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特に重要なのは、イスラムと欧州世俗主義社会との不統合、そして経済的格差の問題でしょう。

 

イスラム的文化・風習を否定されることで、ムスリムに自分たちは差別されているとの意識を抱かせることになります。

 

****【フランス】 ムスリムの42パーセントが1度は差別を経験****

フランスで暮らすムスリムの42パーセントが人生で少なくとも1回は差別にさらされた。

 

フランス世論研究所のアンケートによると、警察のチェック、就職、賃貸探しで最も多くムスリムに差別が行われている。

 

スカーフを着用している女性の60パーセントが人生で少なくとも1回は差別にあったと述べているが、この割合はスカーフを着用していないムスリムの女性では44パーセントと記録された。

 

また、ムスリムの24パーセントが口頭の攻撃に遭ったと申告しており、この割合は非ムスリムでは9パーセントとされた。同様に身体的な攻撃に遭ったムスリムの割合は非ムスリムと比べて4パーセント多かったと述べられた。

 

スカーフを着用しているムスリムの37パーセントも侮辱に遭ったと申告した。

 

過去5年間でムスリムの40パーセントに、非ムスリムの17パーセントにも人種差別的な態度が取られた。

 

上院は先週、学校の遠足で生徒に付き添う母親のスカーフ着用を禁じる法案を採択している。

フランスの極右ジュリアン・オドゥール議員は約1か月前にブザンソンで催された会合で、ムスリムの女性に息子のそばでスカーフを外すよう求め、口頭で攻撃している。

 

事件後に始まった論争でムスリムが標的にされたとする発言が高まった。

 

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は数日前に行った発言で、「公共の場でのスカーフ着用は私には関係ないが、公的機関や学校で子どもに教育が行われているとなればスカーフ問題は私に関係がある。世俗主義にはこれが必要である」と述べている。【2019年11月6日 TRT】

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【マクロン大統領「フランスを好きになってもらわなければならない」】

前出【公安調査庁】では、フランスのイスラム教徒人口は、上記では8.8%とされていますが、2017年調査では5%とするものもあります。

 

モロッコ、アルジェリア、チュニジアなど旧植民地に所縁がある人々が中心ですが、近年はイスラム系移民受け入れによって少しずつ増加しているとも言われており、フランスには30校ほどのイスラム系の学校が存在しています。

 

マクロン大統領は、前出の「冒涜の自由」発言やスカーフ問題発言に見られるように、従前からフランスの「伝統」とされる「世俗主義」を重視(ということは、イスラム的文化を制限)する立場ですが、頻発するイスラムテロ、および近年の与党支持率低下のなかで1年半後に大統領選をむかえることもあって、保守層を意識した、より強硬な対応に踏み込んでいます。

 

****仏、イスラム規制強化へ 過激派対策でモスク監視、政教分離徹底 マクロン氏、保守層支持狙う****

フランスのマクロン大統領は2日、イスラム過激派対策として、モスクへの規制強化などを盛り込んだ法案を年末までに提案する方針を示した。公の場所に宗教を持ち込まない原則を徹底させることが柱だ。

 

治安問題に強い姿勢を示すことで、1年半後の大統領選で保守層の支持を得る狙いが透ける。イスラム教徒側からの反発を招く可能性もある。

 

フランスにはイスラム過激主義が存在し、フランスの法律を否定し、暴力をはびこらせ、テロの条件を生み出している」 マクロン氏は2日、パリ郊外で行った演説でこう強調した。

 

フランスでは近年、イスラム過激派によるテロが相次いでおり、自国で育ったテロリストが少なくないことから、徹底排除を訴えた。

 

マクロン氏が示した法案の骨子によると、国内のモスクに外国からの資金が流れていないか監督を強化するほか、「反乱主義者」が紛れていないか監視するとしている。

 

各種文化団体などには「共和国の価値観」を守るよう署名させる。マクロン氏は、国内の一部のプールなどで女性と男性の利用者を分けるなどしていると指摘。「男女平等」が守られていないとした。

 

さらに、公共交通機関などの公共の場所で、「政教分離」を徹底させる方針も示した。マクロン氏は、フランスの理念から外れる行為をする者を「分離主義者」と非難。「フランスを好きになってもらわなければならない」と強調した。

 

一方で、「我々自身が貧困を一定の区域に集中させ、分離を生み出してきた」とも語り、格差解消にも取り組む姿勢を示した。

 

今回の方針は、治安対策が不十分だとして右派から批判を浴びてきたことが背景にある。1年半後に大統領選を控え、フランスの原点である「政教分離」を強調しつつ、治安問題での強い姿勢を示すことで、保守層の支持を回復する狙いがあるとみられる。

 

 ■テロと宗教の「同一視」批判

在仏イスラム教評議会(CFCM)はAFP通信に対し、法案は「イスラムと自称する過激主義者との闘い」を目指すものだとして、理解を示した。

 

一方、別のムスリム団体代表は同通信に「マクロン氏はテロとイスラム教を一緒にしないようにしているが、実際には同一視に一役買っている」と指摘。人権団体のSOSラシズムも同通信に「過激化の問題が特定の区域に集中してしまったのは、フランスがこうした地域を放置してきたからだ」と政府を批判した。

 

リヨン政治学院のアウエス・セニゲール准教授は「法案は何をもって分離主義者とみなすのかあいまいだ。イスラム教徒は自分たちだけが非難されるという懸念を抱くだろう」と語る。

 

 ■風刺紙テロ容疑者、演説で例に 祖国の抗議デモ動画閲覧、移民多く暮らす郊外在住

マクロン氏は演説で、フランス社会になじめずに過激化した例として、週刊紙シャルリー・エブド旧本社前で起きた先月のテロ事件を挙げた。

 

仏検察によると、容疑者はパキスタン出身の25歳。2018年に、イランやトルコを経て入国。名前と年齢を偽り、未成年として保護を受けていた。容疑者は、同紙が先月に掲載したイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画に「怒っていた」と供述。事件前に、パキスタンで繰り広げられていた抗議デモの動画を見ていたという。

 

AFP通信によると、故郷の父親は「息子は預言者を守った」と誇っているという。

 

容疑者は移民が多く暮らすパリ郊外パンタンの老朽化した5階建てアパートに暮らしていた。階下の自動車部品販売店員のジエド・ザイエドさん(31)によると、容疑者は30平方メートルほどの部屋にパキスタン出身の男性2人と同居。

 

隣に住む2人の同郷の男性2人とともに、計5人で毎朝8時半ごろにそろって外出し、夕方帰宅していた。泥で汚れた作業靴を履いていたことから、「作業現場で働いていたはずだ」と語った。

 

5人のうち50歳くらいの男性のほかは、ほとんどフランス語を話さなかったという。【10月4日 朝日】

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****過激派対策で学校教育の監督など強化、仏大統領が新方針****

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は2日、同国の世俗的な価値観をイスラム過激派から守るため、学校教育の監督とモスク(イスラム礼拝所)への外国からの資金援助の規制を強化する方針を示した。

 

マクロン氏は移民が多く住むパリ郊外の町、レミュローで演説を行い、「イスラム教は今日、世界中で危機的状況にある。わが国に限ったことではない」と述べ、学校やモスクにおける過激な思想教育を根絶するため、新たな方針では「いかなる譲歩」も行わないと明言した。

 

マクロン氏はまた、過激派がフランス国内で新規改宗者の洗脳活動を行っていると指摘。フランス法を軽視し、独自の法律を優先させる「カウンター・ソサエティー」の形成を企てる「イスラム分離主義」がはびこっていると非難した。

 

このような宗派主義の形は子どもたちを学校から遠ざけ、スポーツや文化といった地域の活動を「フランスの法律とは相いれない教義を広める口実」として利用することにつながりやすい、とマクロン氏は述べ、1905年施行の政教分離法をさらに厳格化する内容の法案を12月に発表する意向を示した。

 

さらにマクロン氏はサウジアラビアやカタール、トルコなどを名指ししつつ、「フランス国内のイスラム教徒を外国の影響力から自由にさせること」が重要だと強調。

 

その実現のために政府として、外国からのモスクへの資金援助の調査や、仏国内のイマーム(イスラム教の宗教指導者)の海外研修および海外指導者の入国の取り締まりを強化するとしている。 【10月3日 AFP】

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かなり踏み込んだ規制強化です。保守層への受けはいいでしょう。

これでテロがなくなるかは・・・どうでしょうか?

 

【朝日】記事最後の“5人のうち50歳くらいの男性のほかは、ほとんどフランス語を話さなかった”というところが重要なポイントに思われます。

 

言葉が話せないことは、経済的な機会が制約され、低賃金労働・貧困を余儀なくされます。

また、情報も同じ出身国同士のグループからのものに限定され、フランス国内の一般的情報からは隔絶されます。

 

そうした状況にあっては、自己のアイデンティティとしてのイスラムに傾斜を強めるのは当然の流れでしょう。

 

「我々自身が貧困を一定の区域に集中させ、分離を生み出してきた」(マクロン大統領)という自省に立って、経済格差や言葉の問題の解消にフランス国民が向かわない限り、単に規制強化だけでは被差別意識を増長させる結果ともなるでしょう。

 

かねてより移民が集中的に居住するエリアでは、暴動が起きるのがフランスの年中行事ともなっていました。

イスラムの問題は、昨日・今日の問題、近年の移民増加の問題ではありません。

 

一般に、フランス人は“フランス的伝統・文化”への愛着・こだわりが他国にもまして強いというイメージがあります。ときに傲慢と見られるほどに。

 

そのことがイスラムを拒絶・差別することにつながっていないかの自省も必要でしょう。

 

「だから異民族、特にイスラムとは一緒に暮らせない」という短絡的結論に飛びつく前に、やるべきことは多いように思われます。

 

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