孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  政府とタリバンの交渉は難航予想 撤退に前のめりの米 市民からは「見捨てないで」

2020-10-08 23:27:21 | アフガン・パキスタン

(5月12日、国際NGO「国境なき医師団」が支援するカブールの産婦人科病院が武装勢力に襲撃され、妊産婦ら計24人が殺された。助け出された赤ん坊20人のうち17人が母親を失った。

31歳だったスラヤさん(遺影)はザハラちゃん(手前)を出産した翌日に病院襲撃事件に巻き込まれ死亡した。【10月7日 朝日】)

 

【アフガン政府とタリバンの交渉は難航が予想されるが、米軍は来年5月までには撤退】

アフガニスタンで政府とタリバンの和平交渉がカタールの首都ドーハで始まった話は、9月13日ブログ“アフガニスタン  当事者間の和平協議開始 女性やマイノリティーの権利は? 撤退ありきの米”で取り上げました。

 

下記は、そのときも紹介した記事。

 

****アフガン和平協議が再開、ポンペオ氏も出席 政府・タリバンの歩み寄りなるか****

(中略)11月の米大統領で再選を目指すドナルド・トランプ大統領は、米史上最長となるアフガン戦争の終結を強く求めており、来年までにアフガニスタンから撤退するよう各国の軍隊に要請している。

 

だが、包括的な和平合意の締結までには数年かかる可能性もあり、国の在り方をめぐって対立する両者の考えがまとまるかは、双方が歩み寄れるかどうかにかかっている。

 

また、アシュラフ・ガニ大統領率いる政府の認知を拒否し続けているタリバンは、アフガニスタンを「イスラム首長国」にするよう要求してくるものとみられる。

 

一方のガニ政権は、女性の権利向上など多くの権利を定めた立憲共和国として、欧米の支援を受ける現状を今後も維持する方針とみられる。【9月12日 AFP】

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焦点となる女性やマイノリティーの権利保護については、“タリバン幹部は、女性の権利については「イスラム教にのっとった形で尊重する」としており、就労や教育、政治への参加は認めるが、国の指導者や司法トップへの就任は認めない構えだ。”【9月12日 毎日】とのことですが、現実にどのように“尊重”されるのか?

 

どういう形で協議が行われているのかは知りませんが、具体的な中身の話は、その後も報じられていないように思います。

 

****新国家体制に「数年」も アフガン政府の和平担当****

アフガニスタン政府で和平プロセスを主導する「国家和解高等評議会」のアブドラ議長は9月30日、共同通信に対し、恒久停戦に向け協議している反政府武装勢力タリバンとの新たな国家体制を巡る考え方に隔たりが大きく「(新体制樹立に)数年かかるかもしれない」と述べた。訪問中のパキスタンの首都イスラマバードで取材に応じた。

 

 民主体制維持を目指す政府と、旧政権下でイスラム教の厳格な適用を掲げたタリバンが歩み寄れるかが焦点。【10月1日 共同】

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新国家体制に「数年」かかるかも・・・一般論としては、そうでしょうが、現実問題としては、タリバンがそう悠長に交渉を続けるか・・・おそらく(タリバンの望む方向で)話が進まなければ、軍事的な圧力を強めるでしょう。そうなれば、交渉の行方も流動的となります。

 

一方のアメリカ・トランプ大統領は米軍撤退を急いでいます。

 

****米軍「全面撤退」で20年のアフガン紛争に終止符か*****

(中略)今回のアフガン和平交渉を推進したのはトランプ大統領であった。トランプは2016年の大統領選挙でシリア、イラクに加えてアフガニスタンからの米軍撤兵を公約に掲げ、そのためアフガンでの和平交渉を推進しようとした。

 

トランプはまず駐アフガン米兵を12,000人から8,600人に削減し、ついで11月までに4,500人まで削減することを決定した。

 

2月のタリバンとの和平会談で、タリバンがアフガン国土をテロ攻撃に使わないという約束をすれば、米軍とNATO加盟国の軍を14か月以内に(来年4月ごろ)完全撤収することに合意した。

 

これは二つのことを意味する。一つはトランプの当初の希望にもかかわらず、大統領選挙までの完全撤退はないということである。トランプも現実を認めたことになる。

 

第二は、タリバンが約束を守れば米軍が完全撤退することである。

 

米国政府の中には、アフガンの治安部隊の訓練のため4,000人前後の米兵は残すべきであるという見解があったが、その見解は採用されなかったことになる。

 

米国はもしタリバンが約束を破ったら完全撤退はすべきでない、という意見もあるが、タリバンから見れば、約束を守れば14か月以内に米軍とNATO軍が完全撤退することが合意されているので、来年4月ごろまで約束を守るようにするのではないだろうか。

 

もしバイデン大統領が実現したらどうなるか。バイデンは以前からアルカイダの復活を阻止するために小規模なテロ対策部隊は残すべきであるとの見解を持っていたことで知られている。

 

バイデンは以前から米国のアフガンに対するコミットメントには懐疑的であったので、仮に完全撤退となっても反対はしないのではないかと思われる。

 

その背景は米国世論のアフガン疲れである。9.11直後は、アルカイダ撲滅のためアフガンへの軍事攻撃を全面支持したが、その後アフガンの米国にとっての重要性が急速に薄れたこともあり、米国世論は米軍の全面撤退を支持するだろう。

 

タリバンとアフガン政府の交渉は当然のことながら難航することが予想される。アフガン政府は統治の形態をめぐって、たとえば民主的選挙と女性の権利を定めた憲法を受け入れなければならないと主張し、タリバンは難色を示すだろう。

 

合意の成立が容易でないことは周知の事実である。しかし、交渉が始まったこと自体画期的で、軍事的解決の選択肢がない以上、何とか妥協点を見出すための努力が行われ、米国や関係国も支援の手を指し伸ばすこととなるだろう。【9月28日 WEDGE】

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【「おびえて暮らすアフガン市民を米国は見捨てず、支援だけでも続けてほしい」】

“交渉が始まったこと自体画期的”ではありますが、“(タリバンが)約束を守れば14か月以内(来年5月)に米軍とNATO軍が完全撤退する”ということで、アメリカの後ろ盾をなくしたアフガニスタン政府がどこまで交渉力を発揮できるかは、はなはだ疑問です。

 

タリバンとアメリカの合意内容は

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  • 2021年春までに、12000人規模の駐留米軍が撤退する
     ●米国はタリバン関係者に対する経済制裁を解除する
     ●米国は、国連に対して和平合意の支持を要請する
     ●タリバンは、今後、テロ組織へのサポートは一切行わない
     ●タリバンとアフガニスタン政府の対話を開始すること
     ●アフガニスタン政府(ガニ大統領)とタリバンは相互の捕虜交換を3月10日までに実施すること

【3月9日 MAG2NEWS】

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“タリバンは、今後、テロ組織へのサポートは一切行わない”とはありますが、アフガニスタン政府への攻撃を停止したものではありません。

 

現実的にも、トランプ政権はタリバンのアフガニスタン政府側への攻撃を“問題視しない”方針のようです。

 

****「米国よ見捨てないで」 ディールに翻弄されるアフガン****

米国は各地で軍事介入を繰り返し、長く「世界の警察官」を演じてきた。その役回りを返上して、米軍撤退を進めるのがトランプ大統領だ。

 

「米国史上最も長い戦争」が続くアフガニスタンも例外ではない。米兵を帰還させ、戦費を浮かし、自身の再選につなげる狙いだが、現地では「見捨てないで」との声が上がる。

 

9月9日朝、アフガニスタンのサーレ副大統領の車が、首都カブール中心部の路地に差し掛かった時だ。路肩に仕掛けられた爆弾が炸裂(さくれつ)した。爆風は路面をえぐり、周囲のブロック塀をなぎ倒した。

 

防爆仕様の車体はひしゃげ、後部座席の副大統領は左腕を負傷。たまたま近くを通りかかった市民ら10人が犠牲になった。アフガン当局は爆発物の成分分析などから、反政府勢力タリバーンの強硬派による犯行と判断した。

 

ところが、翌日に米ワシントンで記者会見したトランプ氏の認識は大きく違った。トランプ氏は「タリバーンと良好な関係が続いている」とし、このところ「(米兵は)一人も殺されていないし、問題は起きていない」と強調した。

 

米国にとってタリバーンは、19年戦ってきた敵だ。その敵をかばうような発言をトランプ氏がするのは、現地の治安が保たれているような印象を作り、米軍撤退を加速させる狙いがあるからだ。

 

トランプ氏はさらに、約1万3千人いた駐留米軍を「短期間で4千人に減らす」と表明した。厭戦(えんせん)ムードが広がる米世論にアピールし、11月の米大統領選に向けて弾みをつけたい思惑がにじむ。

 

アフガニスタンから撤退しよう。米兵は殺され、巨額の無駄を出している。ばからしい!」。トランプ氏は就任前からツイッターなどで撤退を唱えてきた。(中略)

 

タリバーン政権時代に逆戻りか

撤退合意の後、米軍とタリバーンの戦闘はやんだが、残されるアフガン政府とタリバーンの戦いは続いている。アフガン政府は、後ろ盾となってきた米軍が撤退することで、タリバーンだけでなく過激派組織「イスラム国」(IS)なども勢いづくと懸念する。

 

その心配は早くも現実のものになっている。5月12日、国際NGO「国境なき医師団」が支援するカブールの産婦人科病院が武装勢力に襲撃され、妊産婦ら計24人が殺された。助け出された赤ん坊20人のうち17人が母親を失った。

 

生後間もないザハラちゃんも、その1人だ。母スラヤさん(31)は腹を撃たれて死亡。父グル・アカーさん(38)は朝日新聞助手の取材に「できることなら、もっと母乳を飲ませてやりたかった」と涙をこぼした。粉ミルクを溶いてザハラちゃんを育てている。

 

グル・アカーさんは、かつてタリバーン政権下で迫害された少数派のシーア派に属する。米軍撤退については「戦いを終わらせるには、いつか米軍が引くしかない」と受け止めているが、同時に米軍撤退後のタリバーン復権を心配し、「我々には逃げ場がない。礼拝のときも買い物のときも気が抜けない。おびえて暮らすアフガン市民を米国は見捨てず、支援だけでも続けてほしい」と訴える。

 

タリバーン政権時代、女性たちは教育や就職、外出などが制限された。人権擁護に取り組む現地NGOのローシャン・マシュアル副代表(47)は「米国の監視がなくなれば、女性を奴隷として扱うタリバーンを止める者がいなくなる」と米軍撤退に反対する。

 

アフガニスタンに軍事侵攻し、紛争を始めた米国が、国を壊したまま、自己都合で去っていく。そんな疑念を今、アフガン市民の多くが抱いている。【10月7日 朝日】

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【撤退に向けて前のめりのトランプ政権】

トランプ政権の米軍撤退に向けた動きは加速しています。

とにかく撤退したいという思いで前のめりになっているようで、政権内部でも統一のない様々な意向が示されています。

 

****アフガン駐留軍、2500人に=米高官「来年初頭に削減」****

オブライエン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は7日、米大学主催のイベントで講演し、「アフガニスタン駐留米軍を来年初頭に2500人規模にまで削減する」と表明した。複数の米メディアが報じた。

 

オブライエン氏は「トランプ大統領就任当時、アフガン駐留米軍は1万人以上だったが、現在は5000人以下だ」と強調。アフガン政府と反政府勢力タリバンの和平プロセスは困難な道のりだと認めつつも、「米国人は本国に帰る必要がある」と述べた。

 

一方、トランプ氏は「クリスマスまでにアフガンに残っている勇敢な米兵を帰国させるべきだ」とツイッターに投稿した。【10月8日 時事】 

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****アフガン駐留米軍、「クリスマスまでに帰国を」=トランプ大統領****

トランプ大統領は7日、ツイッターへの投稿でアフガニスタンに駐留する米軍は全員「クリスマスまでに帰国」すべきと述べた。

米国とタリバンが2月に結んだ和平合意では、米軍は2021年5月までに完全撤収するとしている。

トランプ大統領や当局者はこれまで、アフガン駐留米軍を11月ごろに4000─5000人に縮小させると発言していた。(後略)【10月8日 ロイター】

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撤退への期待は語られていますが、その後のアフガニスタンがどうなるかについての言及はあまりないようにも。

自己責任で・・・でしょうか、「あとは野となれ山となれ」でしょうか。

 

コメント
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