(漢族が経営するカフェに改装されたモスク。礼拝所だった広間は休憩所になり、観光客がお茶を飲んだり、寝転んだりしていた=5日、新疆ウイグル自治区・カシュガル【10月15日 朝日】)
【中国外務省報道官「チベットは中国という大きな家族の一部で、平和的な解放以来、経済成長をおう歌してきた」】
米中の対立が強まる中で、チベットや新疆ウイグルをめぐる民族文化否定・宗教弾圧・人権問題もアメリカ側の中国批判の一つのカードになっています。
そのため、中国側もアメリカの対応に敏感に反応するようです。
****米国のチベット担当調整官任命、中国が内政干渉と非難****
米政府がトランプ政権発足以来、空席となっていたチベット問題を担当する特別調整官を任命したことについて、中国政府は15日、米国はチベットの不安定化をもくろんでいると非難した。
ポンペオ国務長官は14日、同調整官にロバート・デストロ国務次官補(民主主義・人権・労働問題担当)を指名したと発表した。デストロ氏は国務次官補を兼務する。
中国外務省の趙立堅報道官は定例会見で「チベットを巡る問題は中国の内政問題で外国の干渉は許されない」と主張。チベット問題調整官の任命は中国の内政問題に干渉し、チベットを不安定化する狙いがあり、断固として反対すると述べた。
趙氏は「チベットの全ての民族グループは中国という大きな家族の一部で、(1950年の)平和的な解放以来チベットは経済成長をおう歌してきた」とし、チベットでは誰もが信教の自由と人権が完全に尊重されていると強調した。
しかしダライ・ラマらは中国の統治について「文化的虐殺」に等しいと非難している。【10月15日 ロイター】
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中国からすれば“平和的な解放以来チベットは経済成長をおう歌してきた”という話になるのでしょうが、“中共軍は1959年3月から62年3月までに中央チベットにおいて、死亡・負傷・捕虜を含めて93,000人のチベット人を殲滅”【ウィキペディア】というチベット動乱の記憶はどこかに飛んでしまったようにも。
それはともかく、中国側は経済成長を強くアピールしています。
****チベットは「貧困脱却」と宣言 区都ラサで自治区トップ****
中国チベット自治区のトップ呉英傑共産党委員会書記とナンバー2のチザラ主席が15日、区都ラサで内外メディアと記者会見し、中国で最も貧しい同自治区は基本的に貧困状況を脱却したと宣言した。
同自治区のトップ2人が現地で会見するのは比較的珍しい。
チベットは、31ある省・直轄市・自治区の中で唯一、自治区全体が特別貧困地区に指定されている。「脱貧困政策」に取り組んだ結果、自治区内の74の貧困県・区にいる62万8千人は平均年収が9328元(約14万6千円)となり「全員貧困から脱却した」とした。呉書記は「習近平総書記の特別な配慮があった」と繰り返し礼賛した。【10月15日 共同】
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ツートップそろっての異例の会見というのも、昨今の欧米からの批判を強く意識したものでしょう。
【中国人の文化的優越感は極めて強く、それゆえに文化破壊に至る政策を「善意」で押し付ける危険性】
マクロ的に見れば「経済成長」は間違いないではないのでしょうが、その恩恵の相当部分がチベットに大挙龍してきた漢族のものになっていること、そして何より宗教をはじめとした伝統的な民族文化が否定されていることへの不満がチベット族住民には大きいと思われますが、そうした「同化政策」を中国側がどのように理解しているのか?
****〝新疆化〟するチベット、同化政策進める中国の論理****
9月22日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「新彊モデルがチベットに来ている。北京は悪待遇を否定しているが、監視されない訪問者を禁止している」との社説を掲載し、対ウイグル弾圧のやり方がチベットにも適用されている、もしそうでないのなら、外からの人が自由に状況を見えるようにせよ、と中国を批判している。
この社説は、中国がウイグル人に対して行っていることをチベットでも行っていることを告発したものである。チベット人「弾圧」の様子は、チベット入域が厳しく制限される中、外からはなかなか窺い知ることができない。
アドリアン・ゼンズは、中国の諸文書、メディアの報道をよく調べ、今回のジェームスタウン財団の報告書をまとめたが、こういう地道な作業は重要である。
彼の報告書を読んだが、チベットで新彊におけるウイグルに対する施策と同じことが行われているとまでは言えないように思われる。
新彊では、警備の強化された強制収容所のようなものがあるが、チベットの「職業訓練所」はそれほどのものではない。新彊では、ウイグル族の若い女性に不妊手術が行われている(中国政府は否定せず、本人の希望によるとしている)との報道があるが、チベットについてはそういうことは報道されていないし、ゼンズも言及していない。
中国側の文書で明らかなのは、中国政府がチベット人を労働力として利用することに大きな関心を有しており、そのためにチベット人の意識を変えて、工場などでも働くように仕向けたいと考えていることである。
それでイデオロギー教育や中国語教育を行い、愛国心を高めようとしている。中国政府はそれがチベット人の貧困状況の改善のためであると主張している。
中国は、今の傾向が続くと労働力不足に直面することは明らかであり、余剰農村人口の利用を考えることは当然であろう。しかし、チベット人の自発性、文化等を尊重したうえで行うべきことであり、強制的にそうすることはよろしくないだろう。
中国は、漢民族が90%以上を占めるが、少数民族も50以上いる。中国人は自治区その他で少数民族の文化尊重などを掲げているが、同化政策と少数民族の文化尊重の間のバランスが最近、同化政策に力点をおくように変化している嫌いがある。内モンゴル自治区の小学校では中国語で教育するなどはその表れだろう。
一度中国人とチベット問題を話し合った際、先方からあなたは原始奴隷制支持者ですかと言われたことがある。中国人の文化的優越感は極めて強く、それゆえに文化破壊に至る政策を「善意」で押し付ける危険性がある。
チベット情勢についても、今後、注意を払っていくべきだろう。【10月14日 WEDGE】
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“中国人の文化的優越感は極めて強く、それゆえに文化破壊に至る政策を「善意」で押し付ける危険性がある”・・・・いろんな政治的判断・思惑があるにせよ、根底に「未開の蛮族に優れた漢文化を広めてやる、それのどこが悪いのか?」という、中華思想的な発想があるのではないかとも推察されます。
当事者に「罪悪感」がないだけに厄介でもあります。
そのため、中国側からすれば、欧米からの批判に対する苛立ちで下記のような反応にもなるのかも。
****中国への否定的な見方が増加、「中国が何か間違ったことをしたのか」と中国紙編集長****
2020年10月8日、米華字メディア・多維新聞は、日本や欧米諸国で中国に対するネガティブな評価が急速に高まっていることに対する、中国紙編集長の意見を報じた。
記事は、米世論調査機関のピュー・リサーチ・センターが6月から8月にかけて14カ国で実施した調査で、いずれの国でも中国に否定的な見方をする人の割合が過半数に上り、日本、スウェーデン、オーストラリアは80%以上、最低だったイタリアでも62%に達したことを紹介した。
その上で、中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報の胡錫進(フー・シージン)編集長が微博上で「これは米国政府が極端なやり方によって世界を分断、分裂させた結果だ。中国は何か間違ったことをしたのか、戦争を仕掛けたり他国の内政に干渉したりしたとでもいうのか。そんなことはしていない。われわれは誠実に、そして努力して自らを発展させ続け、世界との友好を進めてきた。それにもかかわらず、西側の政治、世論のエリートたちは中国を攻撃し、西側市民の中国に対する認識を毒化させていったのだ」と論じたことを伝えている。
また、米国が新型コロナウイルスの世界的な流行に対し中国が責任を負うべきだとの態度を示し、新疆ウイグル自治区や香港の問題で中国がさまざまなレッテルを張られ、中国による有効な方法を用いての解決が妨げられていることについて胡氏が「西洋のエリートたちが気に食わないならそれで結構。われわれは自らのやり方で生活する権利を完全に持っている。中国国民の幸福が、この国の最高目標なのだ」との考えを示したと紹介した。【10月8日 レコードチャイナ】
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【新疆ウイグルで進むモスク破壊 漢族経営のカフェ転用も】
伝統的民族文化の否定、同化政策の押しつけを新疆ウイグル自治区で見ると、多くのモスクが破壊・転用され、漢族によるカフェとして使用されるようになっているものもあるとか。
****壊されるウイグルのモスク カフェに改装、寝転ぶ観光客****
中国新疆(しんきょう)ウイグル自治区で、イスラム教の礼拝所(モスク)が相次いで閉鎖されたり、カフェに改装されたりしている状況を記者が現地で確認した。
オーストラリアの研究機関は、衛星写真などで調べたモスクの60%以上が破壊されたりダメージを受けたりしたと指摘。ウイグル族住民の信仰や文化を危機に押しやる行為との批判が出ている。
新疆の最西端の街、カシュガルでウイグル族が暮らす旧市街。10年ほど前までは、およそ1キロメートル四方の範囲にれんがや土壁でできた古い街並みが残っていたが、近年開発が進み、国家指定の重点観光地に造り替えられた。
それでも土産物屋や飲食の露店が並ぶ通りから横道に入ると、ウイグル族が暮らす居住区が残る。複数の住民によると、旧市街のあちこちにあった小〜中規模のモスクの大半が、この2〜3年で閉鎖されたという。
今月初め、居住区を歩くと、茶色いれんが造りで、モスクに特徴的な丸いドームがそびえる建物があった。しかし最上部にあったイスラム教のシンボルの新月は取り外され、カフェに改装されていた。
中に入ると、かつて礼拝所だったじゅうたんが敷かれた広間は休憩室として使われ、漢族とみられる観光客がお茶を飲み、寝そべっている人もいた。関係者によると、経営者は広東省から来た漢族で、改装して昨年5月に開業したという。
近くの住民は、モスクが飲食店や休憩所として使われている様子を「見たくない」と言って顔を背けた。周辺のモスクもほとんど閉鎖されたといい、「外で礼拝するのは怖いので、家族みんな自宅で拝んでいる」と話した。
この店から徒歩1分ほどの距離にあるモスクも、塔の一部が壊され、カフェに改装された。しかし、欧米から来た観光客が昨年、ツイッターで写真をつけて批判的に投稿。それがきっかけになったのか、昨年から閉店したままだという。
居住区の東側にある別のモスクは、新月の装飾があった2本の塔が壊され、観光客向けに翡翠(ひすい)を売る土産物屋に改装され、福建省出身の店員が働いていた。旧市街地ではこの3カ所を含む小~中規模のモスク6カ所をまわり、うち5カ所が閉鎖されていた。
モスクをカフェに改装した漢族の経営者は取材に、建物は地元政府から賃貸を受けていると説明した。モスクは党や政府が管理し、閉鎖後は別の用途として貸し出しているとみられる。
同様の動きは新疆各地で起きている模様だ。豪政府系のシンクタンク、オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)は9月に報告書を公表。新疆にある約2万4千のモスクから約530カ所を抽出し、衛星写真などを分析した結果、2017年以降、約330カ所が破壊されたり改造されたりしていると指摘した。ASPIは安全保障やサイバー攻撃などでも中国に批判的な報告書を出している。
英紙ガーディアンと英国の調査報道機関も約100カ所のモスクを衛星写真などで調べ、16年以降に二十数カ所が破壊されたとの分析を明らかにしている。
ウイグル族との民族対立が深まるなか、中国政府はイスラム教への管理を強め、宗教の「中国化」を唱える。
新疆の共産党機関研究者は15年、「新疆のモスクの数は正常な宗教活動に必要な数をはるかに超え、分裂主義や過激派の活動拠点になっている」と報告。相次ぐモスク閉鎖の背景には、こうした政権側の認識もあったとみられる。
ASPIの報告について、中国外務省の汪文斌副報道局長は9月25日の定例会見で、「ASPIは外部から資金援助を受けて、反中国のでっち上げ報告をしている。新疆の宗教と人権は十分に保障されている」と否定した。
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〈ウイグル族をめぐる問題〉
新疆ウイグル自治区にはトルコ系でイスラム教を信仰するウイグル族が多く暮らし、その人口は2018年現在、新疆全体の50%強の約1270万人を占める。
政府の民族政策などへの反発からしばしば対立が起き、2009年にはウルムチ市でウイグル族と漢族が衝突して2千人近くが死傷。これを機に警察署や市民などが襲われる事件が相次いだ。
政府はウイグル独立を目指す過激派勢力の犯行として弾圧を強化し、ウイグル族住民への統制も強めた。米国務省などは中国当局が新疆各地に造った「収容所」で100万人以上の住民を拘束していると指摘。中国政府は職業訓練施設だと否定している。【10月15日 朝日】
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【チンギスハンに関する展覧会へ中国圧力】
最近は、内モンゴルにおける中国語教育拡大で、同様の「同化政策」が問題となっていることは、9月10日ブログ“中国・内モンゴル自治区における中国語教育強化 反発する住民 共産党政権の内外統一運動への警戒感”でも取り上げました。
****中国が圧力「チンギスハン」を削除せよ 仏博物館、企画展延期に****
モンゴル帝国の創始者チンギスハンに関する展覧会を計画していたフランスの博物館が12日、中国当局が検閲を試みたとして展覧会を延期すると発表した。
仏西部ナントにある歴史博物館は、中国・内モンゴル自治区フフホトにある内モンゴル博物館の協力を得てこの企画展を準備してきたが、中国国家文物局が当初の案に変更を求めてきたために問題が生じた。
ナントの博物館によると、要求された変更点には「新たな国家観にとって有利となる、モンゴル文化に関する偏った書き換えが顕著な要素が含まれていた」という。
具体的には「チンギスハン」「帝国」「モンゴル」といった言葉を展覧会から削除するよう要求され、さらに同展に関するテキスト、地図、パンフレットおよび宣伝に対する監督権も求められたという。同博物館ではこの企画展の開催を3年以上は見送るとしている。
今回の騒動は、中国がモンゴル民族に対する強硬姿勢を強める中で起きた。ナントの博物館は、「今夏、中国政府がモンゴル民族への態度を硬化させたこと」が展覧会延期の一因となったと説明している。
博物館長のベルトラン・ギエ氏は、「われわれが守る人間的、科学的、倫理的価値観の名の下、今回の展示をやめる決定を下した」と述べた。
仏シンクタンク、戦略研究財団のアジア専門家、バレリー・ニケ氏は、「中国政府は、公式の国家観と一致しない歴史観を禁止しており、国外でも同じことをしようとする」と解説した。
同シンクタンクの研究員、アントワーヌ・ボンダス氏はツイッターへの投稿で博物館の判断を支持し、伝えられている中国の要求は「常軌を逸している」と批判した。
来週から開幕するはずだった企画展は今年、すでに新型コロナウイルス流行の影響で半年ほど延期されていたが、今回の一件で「2024年10月までは延期せざるを得ない」と博物館は述べている。 【10月14日 AFP】
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チンギスハンに関する展覧会で“「チンギスハン」「帝国」「モンゴル」といった言葉を展覧会から削除するよう要求”というのは「なんのこっちゃ?」という感がありますが、要するにチンギスハンをモンゴルンの民族的英雄のように取り上げるのは許さないということでしょう。
その意味では、例えばアメリカ南北戦争で南軍を率いたリー将軍を英雄視するような企画に対し、アメリカ・リベラルが「現在の国家間にそぐわない」と反発するようなものか?
そう考えれば、それほど突拍子もない話でもないのかも。
チンギスハンの取り扱いの「微妙さ」を認めるなら、モンゴル語、イスラムモスク、ダライ・ラマの扱いについても「微妙」な部分があることを認める必要もあるのかも。
そうであっても「強制収容所」やモスク破壊を是とすることにはなりませんが。
「同化」と「統合」は別物でもあります。
バランス感覚の問題か・・・と言えば、あまりに曖昧・無意味な言い様でしょうか。