(【10月28日 ロイター】 フィラデルフィア 一部過激化した暴徒に略奪される店舗)
【ナイフ所持の黒人男性を母親の目の前で警官が射殺】
アメリカ・ペンシルベニア州フィラデルフィアで黒人男性が警官に射殺される事件が。
同種の事件はこれまでも頻発していますが、抗議の拡散および一部の暴徒化という状況が、大統領選挙最終盤という時期もあって注目されます。
****ナイフ所持の黒人男性を警官が射殺、再び暴動や略奪に発展 米フィラデルフィア****
米ペンシルベニア州フィラデルフィアで、ナイフを持った男性が警官に射殺される事件が起きた。全米で警察の人種差別に対する抗議の声が強まる中、今回の事件をきっかけとして新たな暴動が発生、これまでに91人が逮捕され、警官30人が負傷する事態になっている。
黒人男性のウォルター・ウォレスさん(27)は26日、フィラデルフィア西部で警官に射殺された。
CNN提携局のKYWによると、発端はナイフを持った男性がいるという通報だった。フィラデルフィア警察によれば、現場に駆け付けた警官は、ナイフを振り回している黒人男性を発見した。
付近にいた車から携帯電話で撮影された動画は、最後の瞬間をとらえていた。
ウォレスさんは駐車している車の間を歩き回り、道路を渡って反対側へと移動していた。男性警官2人がウォレスさんに銃口を向ける中、1人の女性が間に入ってウォレスさんを助けようとしている様子だった。家族や司法関係者によると、この女性はウォレスさんの母親だった。
警官2人は自分たちの方に向かって歩いてくるウォレスさんを見て後退りした。続いて複数の銃声が聞こえ、警官が撃った銃弾がウォレスさんを直撃。警察によると、警官は警察車両でウォレスさんを病院に運んだが、ウォレスさんは搬送先の病院で死亡した。
この動画を見たフィラデルフィア市のジム・ケニー市長は、「答えを出すべき困難な疑問が浮上する」とコメントした。
この事件をきっかけとして抗議デモが巻き起こり、警官がなぜ致死性の低い武器を使わなかったのかという疑問が噴出。ウォレスさんを撃った警官はテーザー銃を携帯していなかった。
その夜には抗議デモが暴動や略奪に発展して商店などが略奪され、警察車両5台と消防車1台が破壊された。警察によると、警官に対する暴行や窃盗などの容疑で91人が逮捕された。
警官も物を投げられるなどして多数の負傷者が出ている。警官1人はピックアップトラックにひかれて脚を骨折するなどの重傷を負い、病院に運ばれた。
州と市は暴動が続くことを見越してペンシルベニア州兵に出動を要請。州兵は数百人を動員すると表明した。
暴動は27日夜も続くと予想され、当局は商店などに対して閉店時間を早めるよう要請している。
警官の銃撃については、フィラデルフィア地区検察が警察と連携して捜査に乗り出した。事件にかかわった警官2人は捜査が続く間、デスクワークに回されている。
ウォレスさんが射殺された現場を携帯電話のビデオで撮影した目撃者のジャヒーム・シンプソンさんによると、警察への通報前に何らかの騒ぎがあり、ウォレスさんの母親は現場に到着した警官に対し、ウォレスさんには精神衛生問題があると説明していたという。
15秒ほどすると、ウォレスさんがナイフを持って家から出てきた。周りにいた全員が、ナイフを下ろすよう呼びかけていた。
警官2人はナイフを見るなり銃を抜いたとシンプソンさんは証言し、「私は頭の中で、『テーザーはどこだ』と考えていた」と振り返る。
ウォレスさんが撃たれると、誰もが警官に向かって怒鳴り始め、現場にはさらに大勢の警官が駆けつけたという。
シンプソンさんは何よりも、ウォレスさんが母親の目の前で撃たれたことに憤りを覚えると話している。
家族によると、ウォレスさんはラップアーティスト志望だった。【10月28日 CNN】
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【警察の対応への抗議行動 一部が暴徒化で外出禁止令 激戦州の選挙へも影響】
射殺への抗議行動の一部が過激化し略奪や暴力行為が発生したため、市当局は夜間の外出禁令を発令。
*****米フィラデルフィアで外出禁止令 黒人射殺で暴動****
米ペンシルベニア州フィラデルフィア市当局は28日、警察による黒人男性射殺をめぐる暴動が2夜連続で発生したことを受け、外出禁止令を出すと発表した。
同市では26日、刃物を所持していた黒人男性のウォルター・ウォレスさんが、警察に射殺された。家族はウォレスさんが精神に問題を抱えていたと説明し、警察がテーザー銃を使用しなかったことに疑問を投げかけている。
市内では数千人がウォレスさんの射殺に抗議し、略奪や暴力行為が発生。市はウェブサイトでの発表で、市内全域を対象に同日午後9時から翌29日午前6時まで外出禁止令を出すと表明した。
米国では5月、ミネソタ州ミネアポリスで黒人のジョージ・フロイドが警察により殺害される事件が起きたことをきっかけにデモや暴動が相次いだ。11月3日の米大統領選まで1週間を切る中、共和、民主両党の間ではウォレスさんの死とデモ発生を受けて再び政治論争が勃発している。
ドナルド・トランプ大統領は記者団に対し「私が目にしているのはひどいことだ。正直言って、市長であろうが誰であろうが、人々の暴動や略奪を許して制止しようとしないのも、ひどいことだ」と語った。
デモ参加者の多くは警察による人種差別と暴力を非難してきたが、トランプ氏は一連の騒乱を利用して「法と秩序」の候補としてのイメージを強化してきた。
民主党の正副大統領候補、ジョー・バイデン氏とカマラ・ハリス氏は共同声明を出し、ウォレスさんの家族を考えると「心が痛む」と表明すると同時に、「略奪は抗議ではなく、犯罪だ」と強調した。 【10月29日 AFP】
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事件が起きたペンシルベニア州は大統領選挙の帰趨に大きく影響する激戦州だけに、その動向が注目されます。
****米激戦州、暴徒対応で両候補攻防 選挙前に治安懸念****
米大統領選の共和党候補トランプ大統領と民主党候補バイデン前副大統領は28日、東部ペンシルベニア州で26日に警官がナイフを持った黒人男性を射殺した後の抗議デモを巡って攻防を繰り広げた。
同州は大統領選の結果を左右する激戦州の一つ。両氏とも一部の暴徒化と略奪を非難しつつも、徹底的な封じ込めを訴えたトランプ氏に対し、バイデン氏はデモに理解を示し、温度差が出た。
トランプ氏は「法と秩序」を掲げて暴徒対策に焦点を移したい考え。バイデン氏が同州で勝つには黒人の支持獲得が重要で、デモ擁護と略奪非難でバランスを取る姿勢をにじませた。【10月29日 共同】
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【「われわれはいつも忘れられている」】
警察の対応に抗議する人々は、おそらく差別にオープンなトランプ大統領には投票しない人々でしょう。
であれば、この時期の暴徒化は「法と秩序」を掲げるトランプ大統領を利するだけなのにどうして・・・という感じも。
ただ、そういう印象は外部の人間のものであり、当事者の思いはまた別のところ、一言で言えば「トランプだろうが、バイデンだろうが、何も変わらない」というところにあるのかも。
****「都会のアパルトヘイト」の絶望、米メリーランド州ボルティモア****
麻薬密売や発砲事件、ネズミがはびこる空き家、そして絶望で荒廃した街は、11月の米大統領選で誰が勝ったとしても変わらないだろう──そう語るデーモン・レーンさんは、米メリーランド州ボルティモア市東部に住む。
この地区は住民の圧倒的多数が黒人で、貧困が深刻であり、街並みは何十年も放置されて荒廃している。数キロ離れた、白人が圧倒的多数の富裕地区にある高価なマンション、真新しい商店や安全な通りとは際立って対照的だ。
ボルティモアは人口の3分の2が黒人だが、人種による居住地区の違いが最も際立つ都市の一つだ。専門家らによると、ボルティモアに住む最貧困層のアフリカ系住民は、白人地区の最富裕層の人々に比べて平均寿命が約20年短い。
「過去3人の大統領では何も変わらなかった。だからこの次も変わらない」。レーンさんは妻と幼い子ども3人と住む集合住宅の玄関口で階段に座り、AFPの記者に語った。
通りを挟んだ向こう側には、腰の高さにまでごみが積み上がっている。隣のブロックは、廃虚となった家屋が解体されて更地となり、ほとんどが雑草で覆われている。何年も衰退を続けてきたこの地区ではそのように廃虚となった建物が数千棟ある。
道路を進み、空き家が並ぶブロックをさらにもう一つ過ぎると、そこはレーンさんが「クラック・セントラル」と呼ぶ違法薬物の取引場所だ。暖かい季節だと週に約3回は銃声が聞こえるとレーンさんはいう。「希望はない。唯一希望を持っているのは自分自身に対して、自分が家族のためにできることだけだ」
■「都市アパルトヘイトのグラウンド・ゼロ」
ドナルド・トランプ大統領はボルティモアの困難な状況を、政治的に利用している。民主党が長年、市政を率いてきたボルティモア市を繰り返し攻撃し、最近では「全国で最悪」と形容した。
2015年にボルティモアで、当時25歳だった黒人男性のフレディ・グレイさんが警察による拘束中に負傷し、その後死亡した事件を受け、人種的不平等に対する不満は沸騰した。そして今年、全米に広がった反人種差別運動「黒人の命は大切」は、ボルティモア市で強い反響を呼んだ。
2016年のボルティモア市のデータによると、中心部東西の一部の地域では、住民の90%以上を黒人が占め、年間所得の中央値は1万4000ドル(約150万円)という低さだ。一方、最富裕層地区のいくつかでは、住民の85%以上が白人で、年間所得の中央値は11万ドル(約1100万円)となっている。
専門家らによると、この分断はボルティモアの醜悪な人種差別の歴史から生まれた。
研究者で活動家のローレンス・ブラウン氏は、今年ユーチューブに投稿されたインタビューで「ボルティモアは現に米国の都市アパルトヘイトのグラウンド・ゼロ(中心地)だ」と語った。
同氏によると1910年、ボルティモアの指導者らは米国初の居住区における人種隔離法を可決した。この法律によって黒人は、住民の大半を白人が占める地区への転入ができなくなり、その逆も同じく禁止された。
7年後に米最高裁はこの法律を無効としたが、その後も数十年間にわたって、黒人による不動産の所有や賃貸を禁じる「制限的不動産約款」などの施策が、法的執行力を持って黒人を締め出していた。
■「いつも忘れられている」
こうした地区の学校には冬でも暖房がない。黒人の失業率は白人より少なくとも2倍は高く、レーンさんのブロックの住宅価格は推定2万ドル(約210万円)以下だ。
ジャーナリストで作家のローレンス・レナハン氏はAFPの取材に、ボルティモアの分断を最もはっきり示しているのは、平均余命だと語った。市北部の白人富裕層地区で生まれた子どもは、東部の貧しい黒人地区で生まれた子どもより約20年長生きするという。
ボルティモア市当局に対し、黒人地区に巨額の補償金を払うことや、最も困難な地区の再活性化に向けた大型プロジェクトのために地元運営の基金を創設することなどを求める専門家もいる。
だが、ボルティモア市東部に住むアフリカ系米国人、エドモンド・ハーグローブさんは、この地区の悲惨な状況を必ず解決してみせると誰が誓おうとも、変わることはないと語る。「われわれはいつも忘れられている。彼らはいろいろ約束はする。(中略)だが、6か月後には元通りだ」 【10月29日 AFP】
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【民主党内の肌合いの違い】
ついでに言えば、今でこそ民主党は比較的リベラルな立場で、黒人差別に批判的な立場でもありますが、もともとは「南部奴隷主の党」。
どこでどう変わって今の姿になったのか・・・そのあたりは数多くの指摘があるところでしょうが、今も変わらぬ部分もあるのか・・・
****トランプ支持者をバカ、無知、無能と見るエリート****
(中略)
「テヘペロ」で済む問題ではない犯罪厳罰化
民主党のバイデン大統領候補は10月22日の第2回大統領候補討論会で、トランプ大統領に「あなたは1994年の上院議員時代に犯罪を厳しく取り締まる法案の成立に携わり、黒人を『スーパープレデター=略奪者』と呼んで彼らを苦しめた」と攻め込まれた。
民主党支持者である黒人女性司会者のクリステン・ウェルカー氏からも、「かつてあなたが提案した法案で、黒人の若者はわずかな薬物を所持しているだけで刑務所に入れられ、その影響で家族は今も苦しんでいる」とダメ押しをされた。
これに対し、バイデン候補は「間違っていた。刑務所に送るのではなく、治療を受けさせるべきだ」と答え、トランプ氏の目に余る人種差別的言動を批判することで話を逸らすことに精一杯であった。
だが、これはバイデン氏が行ったような「テヘペロの対応」で済む問題ではない。民主党の本質や正義、正統性にかかわる問題であるからだ。
黒人有権者に顰蹙を買ったバイデン候補
今まで犯罪ではなかった家庭内暴力の犯罪化、麻薬に対する戦争、監獄産業を潤わせる犯罪の厳罰化など、(女性)有権者ウケのよい政策を提案し、実現させてきた原動力は民主党である。
それによって警察に問答無用で射殺される丸腰黒人や収監される黒人の数を飛躍的に増やしたのも、本来は南部奴隷主の党であった民主党だ。バイデン氏は、「考えを変えた」と述べたが、党の歴史から見てにわかに信じられるものではない。
また民主党支持者には、白人による黒人弾圧をシンボルの問題にすり替え、白人至上主義者の銅像撤去や企業トップに黒人を増やすことで「解決」とみなす傾向がある。
だが、それらは抜本的な解決ではなく、法律や社会に不可分に染め込まれた「白人は推定無罪、黒人は推定有罪」という米国のDNAそのものの変革が解決なのである。
だが、それは白人が他人種を推定有罪とすることで不当に得た法外な既得権の喪失を意味する。そこに決して踏み込まない民主党はやはり、「南部奴隷主の党」の本質を失っていない。
大多数の黒人たちは、オープンに人種差別的で、「敵」とみなされる共和党に投票することはないだろうが、いつまで経っても約束の平等や利益をもたらさない民主党に積極的に投票することをためらう人も多いのではないか。
バイデン氏は、「自分に投票しない黒人は黒人ではない」という趣旨の発言で顰蹙(ひんしゅく)を買っており、トランプ氏の討論会での攻撃が効いて、民主党支持の黒人票が予想より少なくなることはあり得る。(後略)【10月29日 岩田太郎氏 JBpress】
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もっとも、バイデン氏(あるいはヒラリー・クリントン氏)のような昔から民主党本流を歩んできた政治家と、急進的あるいはプログレッシブ(進歩主義)とされる副大統領候補ハリス氏のような政治家では、だいぶ異なる肌合いがあるのでしょう。
もし、バイデン氏が勝利することがあれば、次に問題になるのは、予備選挙でもサンダース氏が善戦したように、民主党政権内でのそういう肌合いの違いの確執かも。