(寮で食事を受け取るため、列を作る外国人労働者=7月【9月15日 SankeiBiz】)
【「彼らには食事と寝る場所はあるが、まるで動物のような扱いだ」】
新型コロナ対策に関して、シンガポールは第1波が各国を襲った3月段階ではきびしい行動制限をとることなく感染拡大を有効に阻止していると高い評価がなされていましたが、4月には第2波が拡大。
その感染源は、劣悪な住環境で密集寮生活する30万人超の外国人労働者で、はからずもシンガポール経済を支える外国人労働者の存在に注目が集まりました。
(4月19日ブログ“シンガポールの外国人労働者、日本の「ネットカフェ難民」 弱者を通して社会全体を脅かすウイルス”)
シンガポール政府も対策の必要性を認識し、外国人労働者の居住環境の改善に乗り出しています。
****シンガポール、6万人の出稼ぎ労働者向け住宅を年末までに建設****
シンガポール政府は、国内の約6万人の出稼ぎ労働者のために新たな住居施設を年末までに建設する計画。出稼ぎ労働者が密集して生活する寮で新型コロナウイルスの集団感染が発生したことに対応する。
人口約570万人のシンガポールでは、新型コロナの感染者が3万5000人を超えており、アジア地域で特に感染者が多い。主に東南アジアから来ている30万人以上の出稼ぎ労働者が共同生活を送る寮でウイルス感染が急速に広がったことが背景にある。
政府は仮設住宅の建設を急ぐほか、使われていない学校や工場なども住居施設にする計画という。
今後は1部屋当たりのベッド数や洗面所などを共有する人の数を減らすなどして、出稼ぎ労働者の居住環境の改善も図る。
長期的には、複数の寮を建設して最大10万人を収容する計画。全ての寮を建設するのは数年先になる見通しだが、今後1─2年で約11の寮の建設を目指す。【6月2日 ロイター】
************************
ただ、全員分でもないですし、“全ての寮を建設するのは数年先”ということで、当面は現在の寮生活における対応がメインとなりますが、環境などの秩序維持に非常に厳しい法治主義をとるシンガポールですので、外国人労働者への対応も厳しいものになっているようです。
*****シンガポールで外出制限5カ月、外国人労働者の苦悩続く 給料未払い続出も****
シンガポール経済を低賃金で下支えする約30万人の外国人労働者が5カ月以上にわたり外出を厳しく制限されている。
一時期、相次ぎ発生した新型コロナウイルスの集団感染は減ったものの、政府は「再び増えれば国を危機にさらす」と警戒を緩めておらず、外国人労働者の間では将来を不安視する声も出始めている。
感染者の95%占める
「外に出られるのは職場を往復するときだけ。まるで刑務所にいるようだ」。8月に仕事に復帰した20代のバングラデシュ人男性は、自由に外出できない生活を嘆く。
シンガポールでは南アジアなどからの出稼ぎ労働者が低賃金で建設業や清掃業などの現場労働を担う。その多くが1200以上ある民間の専用寮で暮らしている。
寮では2段ベッドが並ぶ部屋に10人以上も寝泊まりし、冷房がなく、トイレや台所は共用。この劣悪な環境が集団感染の原因とみられており、同国の感染者約5万7000人のうち約95%を外国人労働者が占める。
危機感を強めた政府は4月、全ての寮を封鎖し治療や隔離を開始。6月には約2カ月ぶりに市民の外出制限が解除され、店舗の営業も再開されたが、外国人労働者の外出制限は続いたままだ。
政府は企業の税金を軽減し、休業中も外国人労働者に賃金を支払うよう要請した。建設業の20代インド人男性は月給1000シンガポールドル(約7万8000円)のうち6割を受け取り、大半を家族に仕送りしている。
ただ、支援団体によると、コロナで経営状態が悪化し、賃金を払わない企業も少なくない。ある中国人男性は「もう2カ月、社長と連絡が付かない。給料はもらっていない」と途方に暮れる。
支援団体の代表は「彼らには食事と寝る場所はあるが、まるで動物のような扱いだ」と批判。ネット上では、絶望して寮の高層階から飛び降りようとする外国人労働者の動画も出回っている。
封じ込めに難航
第2波を防ぐため政府は2週間ごとにPCR検査を実施。寮を増やして部屋の定員を減らすなど環境改善を図る方針だが、定員2万5000人という最大級の寮で8月下旬に再び集団感染が発生するなど、封じ込めは難航している。
8月に仕事に復帰したインド人男性は数日後、政府から復帰の許可を取り消された。職場で新たな感染者が見つかり、接触した可能性があるという。男性は「4カ月も待って、やっと仕事に戻れたと思ったのにまた元の生活だ」と肩を落とした。【9月15日 SankeiBiz】
*********************
寮なので、食事は提供されるようですが・・・
一般国民の外出制限が解除されたのちも、寮が封鎖されたまま・・・というのは、日本などであれば人権問題になりますが、そこは外国人労働者は景気の調整弁と割り切る現実主義シンガポールですから。
最初から、外国人労働者のことを一般国民と同じ人権を有する人間とは見ていないようです。
とは言え、そういう「動物のような扱い」でいいのか?という問題はやはりあります。
【個人の家庭という極めて密室化された場所で起こる外国人メイド虐待】
外国人労働者も建設業などに従事する男性の場合は上記のような状況になりますが、女性の外国人労働者の仕事として多いのが家事労働者、いわゆるメイド・家政婦です。
シンガポールは一人当たりGDPで日本の1.5倍(2018年はシンガポールは第8位、日本は第26位)というアジア随一の高所得国ですからインドネシアなど周辺国からメイドの出稼ぎ労働者が集まります。
男性の寮は、ある意味オープンになりますが、メイドの場合、その労働・居住環境は家庭内にクローズされて“見えない”という問題があります。
その“見えない”ところで、多くの虐待・不当労働が強いられているという話は、シンガポールだけでなく、アジアからの出稼ぎメイドが多い中東でもよく話題になります。アジアでは台湾やマレーシアでも。
****シンガポールの人間扱いされない「外国人メイド」 冤罪、暴行、タダ働きの深い闇****
東南アジアの優等生として知られるシンガポールで、今、ある判決が波紋を呼んでいる。経済界の大物として知られる人物が、雇用していた外国人家事労働者(以下メイド)を窃盗の容疑で訴えていた裁判で、メイドに逆転無罪の判決が下されたのだ。
事件からは、シンガポール社会が抱える闇も浮き彫りになってくる。東南アジア情勢に詳しいジャーナリストの末永恵氏がレポートする。
***
インドネシアからシンガポールに出稼ぎに来ていたメイドのパルティ・リヤニさん(46)が、約270万円相当の財産を盗んだとして逮捕されたのは、2016年末のことだった。
パルティさんから“被害”を受けたと訴えたのは、リュー・ムンリョン氏(74)の一家だ。リュー氏は、チャンギ国際空港を始め、中国、イタリア等で国際空港を運営する政府系大企業「チャンギ・エアポート・グループ」会長ほか、その親会社でシンガポール政府が100%出資し、リー・シェンロン首相夫人が最高顧問を務める投資会社「テマセク」上級顧問、さらには政府系都市計画コンサルト会社「スルバナ・ジュロン」の会長や「テマセク財団」の理事も兼任するという、シンガポール政府機関の重鎮である。
9月4日に下された高裁判決を受け、リュー氏は10日にこれらの要職を辞任した。事件には司法の公平性を揺るがしかねない“疑惑”があり、10月5日から始まった国会で、野党が政府を追及することは必至と、国政を揺るがす事態となっているのだが……裁判の過程で明らかになったことのあらましはこうだ。
(中略 窃盗容疑はリュー氏側のでっち上げ しかも、常識的にそのようにわかるはずなのに、警察・検察はパルティさんを逮捕)
この事件の根が深いのは、検察トップであるルシエン・ウォン検事総長が、リュー氏と近しい間柄であることだ。(中略)
国の重鎮に、警察や検察は忖度したのか――シンガポールの司法システムの公平性そのものが問われかねないこの事件に、「パルティさんの事件は、格差社会のシンガポールでは誰にでも起こりえる恐ろしいできごと」と国民からは激しい怒りの声が上がっている。(中略)
メイド残酷事例集
パルティさんの事件は、シンガポールにおけるメイドが置かれた不条理な状況を浮き彫りにしているともいえる。
人口570万人のシンガポールは、外国人労働者の積極的な受け入れで急成長を果たしてきた。メイドは、外国人労働者の20%以上を占め、その数は25万人にも及ぶ。中間層から超富裕層まで、5世帯に1世帯が、月給相場400〜600シンガポールドル(約3〜5万円)でメイドを雇っている。
彼女たちは家事や育児、介護要員として求められ、インドネシアを筆頭に、フィリピン、ミャンマー、タイ、スリランカ、中国、インドといった国々から、シンガポールにやってくるのだ。
だが、メイドが被害者となる問題は噴出している。オーストラリアの民間コンサル会社「リサーチ・アクロス・ボーダーズ」の調査報告(2017年11月)は、シンガポールの外国人メイドの約60%が雇用主から搾取されているという実態を報告している。
2017年3月には、40代のフィリピン人のメイドに十分な食事を与えなかった夫婦が収監された。高級住宅街オーチャード・ロードのマンションに住み込みで働いていた彼女は、少量のインスタントラーメンとパン数切れといったと食事を1日2食しか許されなかった。そんな生活を1年3カ月強いられた結果、49キロあった体重は29キロにまで減ったという。
昨年3月には、30代のミャンマー人のメイドを虐待したとして、夫婦に実刑判決が下されたケースもあった。裁判資料によると、メイドは夫婦から殴る蹴るの暴行を受けており、下着姿で家の掃除も強要されていた。食事もほとんど与えられず、トイレの使用も制限。「虐待を通報したらミャンマーの両親を殺す」と脅されてもいたという。食事を要求すると、砂糖と米を混ぜた物をじょうごで無理やり流し込まされた。吐くためにトイレに駆け込むと、夫人から平手打ちを受け、さらに自分の吐しゃ物を食べるよう強要されたという。
今年になってからも、ミャンマー人のメイドの顔などをガラスのビンで殴ったシンガポール人女性が、14カ月の収監を言い渡された事件があった。マグカップをメイドに投げつけて鼻に障害を与え、再教育矯正訓練を言い渡された20代のシンガポール男性もいる。
NPO団体「Home」は、そうした不当な扱いを受けたメイドを保護する活動を行っており、2018年には約900人のメイドを保護したという。保護されたうちの一人であるインドネシア人メイドは、10年間も無賃金無休で働かされたという。「Home」の関係者は次のように語る。
「個人の家庭という極めて密室化された場所で起こる問題は、外から確かめることが難しい。また、メイドのほとんどが、母国に残してきた家族の稼ぎ頭であることが多い。だから告発をためらう場合も少なくなく、効果的な防止策をとることが簡単ではないのです」
あくまで“臨時の労働力”と位置付けられているメイドに対する、制度上の問題もある。例えば、勤務時間。「家事労働の時間や日数を規制するのは実用的でない」と、労働時間は定められていないのが実態だ。さらにシンガポールは先進国の中でも異例なことに、最低賃金が制定されていない。シンガポール人ら労働者の賃金低下につながっている、と7月の総選挙でも争点となり、最低賃金制度の制定を政府に求めた野党が大躍進した。
パルティさんはいきなりクビを宣告されたが、“解雇の事前通知”を定めた法律も、メイドは対象外になっている。シンガポール人および外国人永住者と結婚するには政府の許可が不可欠であり、彼ら配偶者以外との間で子どもをつくれば、帰国させられることになる
「賃金の外国人労働者を厳格に管理することで、シンガポールでの定住化や社会保障費の増大を防ぐ意図があるのです。そこに人権保護の意識は抜け落ちています」(先述のNPO「Home」の関係者)
シンガポールはメイドなしには成り立たない国である。しかし、彼女たちの置かれた状況は、雇い主である“一般国民”と比べて極めて過酷だ。
イタリアのジョン・カボット大学やシンガポール経営大学で准教授を歴任し、現在は台湾大学上級研究員などを務める東南アジア情勢の専門家、ブリジット・ウェルシュ博士は次のように筆者の取材に答えた。
「シンガポールは、今、分断された社会になった。格差問題には政府の対応が迫られており、国を大きく揺るがす深刻な事態だ」【10月8日 末永恵氏 デイリー新潮】
******************
便利な労働力としてしか見ていない、人間として見ていないということでは、寮に追い込められた男性外国人聾者と同じです。
【日本のコンビニ店員に外国人の方が歓迎される理由は】
日本では・・・どうでしょうか?
日本ではコンビニで多くの外国人労働者が働いていますが、日本人労働者より歓迎されるとか。
****コンビニで外国人店員の方が歓迎されるのはなぜか?****
<日本人同士のほうが、敬語の使い方や微妙なニュアンスの違いによってお互いにストレスを感じやすいというパラドックス>
コロナ危機による経済危機を受けて、東京を中心とした大都市ではコンビニのバイトへの応募が増えているそうです。そんななかで、特に東京の場合、コンビニのバイトとして外国人のほうが歓迎されるというケースがあるようです。
具体的には、外国人のバイトの方が笑顔で対応してくれる、基礎能力の高い人が多い、母国語を活かして外国人客に対応してくれる、ほとんどの人が英語ができるといった理由が指摘されています。
反対に日本人の応募者の場合は、大組織にいた人はコンビニの現場に素直に入れない、組織と距離を置いてきた人は対人ストレスを抱えがち、などの問題があるようです。さらに、日本人のほうが待遇面での要求や不満を口にするのでオーナーとしてはやりにくい、などの声もあるようです。
これに対する利用者の声を調べてみても、外国人の店員の方が手際が良いとか、日本人だと対応に「モヤモヤ」することがあるが、外国人の方が爽やかな印象になることが多いというような反応も見られます。(後略)【8月20日 Newsweek】
***********************
面白いのは、下記のような事情
***********************
コンビニの現場では「ネイティブな日本語話者」同士の方が、微妙な敬語意識のズレ、言葉に出るか出ないかの微妙なニュアンスへの誤解といった問題によって、店員も客もストレスを抱えてしまうリスクを負っています。
「ソト」側の存在の外国人店員
その点で、外国人の店員の場合は、客から見て「ソト」の存在ですから、「マウンティング」の対象でもないし、「ネガティブな感情」を吐き出す相手にもされません。
それは一種の差別ですが、結果として、外国人の店員を相手にしたほうが、客も「正しい距離感」を確保して「社会的に振る舞う」ことができるというパラドックスがあるわけです。【同上】
************************
これはやはり「一種の差別」で、しかも「同じ人間とみていないからケンカにもならない」というのは、同じ人間同士という目線でケンカするよりたちが悪い面も・・・・との言い様も成り立ちます。
昔、作家の五木寛之氏がエッセイで以下のように。
「…私はヨーロッパで、白人の婦人たちが、黒人の青年たちと腕を組んで街を歩いている風景をしばしば見た。…私はその美しい白人女と、それを見ている群集の中に、黒人に人種差別をしないヨーロッパの目を感じたのだった。
彼らは、黒人を差別して見てはいなかった。彼らは、黒人を区別していた。人間とテリヤや、九官鳥が違うように。
私はアメリカに一つの希望をもっている。それは、あの国に黒人に対する人種差別があるからだ。
…彼ら [アメリカ人] が、黒人を人間と区別せず、同じ族として考えているからではないかと思う。アメリカの人種差別問題は、肉親の愛憎に似てはいないだろうか…
だが私は、黒人を区別する人間たちと、その世界をひどく怖いものに感じる。アメリカの差別のほうに、より人間的な苦しみを見るような気がする…」【五木寛之氏 『風に吹かれて』】
人種差別せずに「区別」する方がたちが悪い・・・・どうでしょうか?
「彼らは、黒人を区別していた。人間とテリヤや、九官鳥が違うように」というのが、事実認識としてあたっているかどうかによるでしょう。