(【10月22日 YAHOO!ニュース】 パキスタンへのビザを求めて押し寄せ、大混乱となった人々)
【米軍撤退を急ぐトランプ政権】
アフガニスタンの反政府勢力タリバンの政府軍への攻撃が激化するなかで、米軍は空爆を実施しています。
****アフガニスタン タリバンの攻撃が激化*****
(中略)タリバンは18日、声明で、駐留米軍が2月29日にドーハで成立した米タリバン和平合意に違反し、ヘルマンド州などの非戦闘区域を爆撃したと非難。「和平合意によれば、米軍は衝突以外では攻撃できない、空爆は明らかな違反だ」と主張した。
駐留米軍報道官は、声明で「米軍の空爆は、タリバンの攻撃を受けている政府軍を守るために行われた」と述べ、ハリルザド氏は「タリバンの主張には根拠がない」と一蹴した。(後略)【10月22日 世界日報】
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ただ、アフガニスタンから撤退を急ぐアメリカと、米軍撤退後を見据えるタリバンは、「撤退」という点では利害が一致していますので、両者の関係には現在のところ大きな破綻はないようです。
****軍事行動抑制で合意=米・タリバン―アフガン****
米国のハリルザド・アフガニスタン和平担当特別代表は15日、アフガンの反政府勢力タリバンと「(互いに)軍事行動を減らすことで合意した」とツイッターで明らかにした。
トランプ政権は、11月の米大統領選を前にアフガン駐留部隊の撤収を進める一方、タリバンにも暴力行為を抑制するよう求めている。
タリバンとアフガン政府は9月12日から和平交渉を開始したものの、交渉は難航。その間も武力でアフガン政府に圧力をかけたいタリバンの攻勢は強まり、犠牲者が増えている。
アフガン駐留米軍は今月12日、南部ヘルマンド州で「タリバンからアフガン軍を守るため」空爆に踏み切ったと発表していた。
ハリルザド氏は15日の声明で「ここ数週間で攻撃が増加し、和平プロセスが脅かされていた」と説明。アフガン駐留米軍のミラー司令官と共にタリバンと協議を重ね、互いに攻撃を抑制することで合意に至ったと述べた。【10月16日 時事】
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米軍撤退に向けた動きにも、今のところは大きな変更はないようです。
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米タリバン和平合意には、タリバンが支配地域でアルカイダなどのテロ活動を阻止することを条件として、アフガンに駐留する米軍および外国軍の段階的撤退を2021年5月までに完了させることなどが盛り込まれている。
米政府は6月、それまで約1万3000人いた駐留米軍を約8600人に削減した。
トランプ米大統領は9月10日、駐留米軍を約4000人に削減すると表明。さらにトランプ氏は今月7日、ツイッターで「アフガニスタンに駐留する勇敢な兵士らをクリスマスまでに帰国させるべきだ」と表明した。【前出 10月22日 世界日報】
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もっとも、撤退を極力急ぎたいトランプ大統領に対し、米軍幹部は現地情勢を踏まえて慎重な姿勢も見せています。
****アフガン撤収は条件付き=現地情勢は依然不安定―米統参議長****
米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は、12日放送された公共ラジオ(NPR)のインタビューで、アフガニスタンの反政府勢力タリバンとの2月末の和平合意に基づく駐留米軍削減は「条件付きだ」と強調した。
その上で、条件の一つである暴力の減少について「この4〜5カ月に関して言えば、それほど大幅ではない」と述べ、アフガン情勢は依然不安定だとの認識を示した。
アフガン駐留米軍をめぐっては、オブライエン大統領補佐官(国家安全保障担当)が7日、「来年初頭に2500人規模にまで削減する」と発言。トランプ大統領は「クリスマスまでに、アフガンに残っている勇敢な米兵を帰国させるべきだ」とツイッターに投稿した。【10月13日 時事】
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【難航するタリバン・アフガン政府の直接交渉 タリバンが求める「イスラム式統治」とは?】
一方、タリバンの軍事的圧力が強まる中で、タリバンとアフガニスタン政府の交渉は難航しています。
****アフガン和平「入り口」で停滞 協議1カ月 政府とタリバン、進め方で対立****
アフガニスタン政府と旧支配勢力タリバンによる和平協議が始まって1カ月が過ぎた。だが、協議の進め方を巡って意見が対立し、停戦や新たな政治体制の確立など本題に進めず、「入り口」段階で行き詰まっている。
政府に譲歩を迫りたいタリバンは南部ヘルマンド州で攻勢を強めており、国連によると、3万5000人が避難民となった可能性がある。協議を仲介した米国は戦闘を抑制し、協議を進めることを求めているが、事態打開のめどは立っていない。
和平協議は9月12日に中東カタールで始まった。タリバンはこれまでの協議で政府側に対し、今年2月に米国とタリバンとの間で結んだ合意を「和平協議の土台」として位置づけることを要求している。
合意には2021年4月末までに米軍がアフガンから完全撤収することが明記されている。
タリバン幹部は取材に「(米国との合意は)米国が我々の正統性を認め、我々がアフガンを外国の占領から解放した証拠だ」と主張。政府に合意を「協議の土台」と認めさせ、主導権を握る思惑があるとみられるが、政府は「ゼロベース」での協議を主張している。
また、タリバンは協議で問題が生じた際、タリバンが信奉するイスラム教スンニ派の法学に基づいて解決することを要求。しかし、国内の少数派であるシーア派に配慮する政府側は難色を示している。
協議が停滞する中、タリバンは南部ヘルマンド州で攻撃を強めている。地元メディアによると、タリバンは今月中旬、州都ラシュカルガーの一部地区を制圧したほか、発電所や道路などを破壊。政府側が応戦し、米軍もタリバンを空爆した。
タリバン幹部は16日、取材に「米軍とタリバンの双方が攻撃を抑制することで一致した」と明らかにした。ただタリバンの思い通りに和平協議が進まない場合、再び攻撃を仕掛ける可能性もある。
米軍はタリバンとの合意に基づいて段階的な撤収を進めてきた。ただ和平協議が進展せず、治安がさらに悪化した場合、撤収計画自体に支障が出る可能性がある。米国はタリバンに影響力を持つパキスタンなどの協力も得ながら、和平協議を加速させたい意向だが、予断を許さない情勢だ。【10月19日 毎日】
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タリバンは交渉で「イスラム式統治」(スンニ派法学に基づく)を要求しており、その内容が一番関心がもたれるところです。
****難航するアフガン和平交渉、課題は〝イスラム式統治〟*****
カタールの首都ドーハでのアフガン和平交渉では、アフガニスタンにおいてイスラムがどのような役割を果たすべきかという問題が一つの重要な論点である。
これは、タリバンが和平交渉でどれだけイスラムの役割を要求するかにかかっている。タリバンは交渉で「イスラム式統治」を要求しているが、タリバンは社会や政治でのイスラムの役割を明らかにする必要がある。
ソ連のアフガニスタンからの撤退後、タリバンはアフガンの政権を奪取し、一切の欧米文明を否定し、テレビ、ラジオ、映画を禁止し、女性に就職や教育の機会を与えないなど、イスラム原理主義に基づく一種の恐怖政治を実施した。
しかし、タリバンの支配は2001年9月11日の米国での同時多発テロ後の米軍によるアフガン軍事介入で終わりを遂げた。
国際的NGOインターナショナル・クライシス・グループのアフガニスタン問題上級コンサルタント、ボーハン・オスマンは、10月2日付けニューヨーク・タイムズ紙掲載の論説 ‘Whose Islam? The New Battle for Afghanistan’ で、タリバンはかつての強圧的支配を反省したようであり、今回の和平交渉でも「イスラム式統治」を要求しているが、アフガン国内の世論に影響され妥協の余地がある、と言っている。
現在のアフガン憲法では、イスラム法が他の法の上位に来ると定められており、アフガン政府当局者はアフガンの制度はすでに十分イスラム的であると言っている。
アフガンの交渉で和平を達成するためには、タリバンの考えと政府当局者の考えを調和させる必要がある。新しいイスラムの役割は、憲法を改正し、そこで規定されることとなる。
上記の論説は、タリバンがアフガン政府の頂点に、行政府を監視する宗教機関を設置することを考えていると述べているが、具体的なことはまだ分からない。
アフガン政府とタリバンの和平交渉ではアフガン政府に逆風が吹いている。
一つには米国が2月のタリバンとの和平会談で、14か月以内(来年4月ごろ)に米軍を完全撤収することに合意していることである。
もしバイデン大統領が実現した場合でも、バイデンは以前から米国のアフガンに対するコミットメントに懐疑的であったので、完全撤収に反対しない可能性がある。ガニ大統領は米国に見放されたと感じているのではないか。
もう一つはタリバンの軍事攻撃が止まないことである。現在タリバンは面積でアフガン全土の5〜6割を支配していると見られている。その上アフガンの34州中30州で戦闘を行っていると報じられている。
特に1隊15名からなる特殊部隊が20〜30あり、パキスタンからの武器の支援を得て戦闘に加わり、タリバンは支配地域を広げていると言われる。
このような状況の下でタリバンは和平交渉を急ぐ必要はなく、「イスラム式統治」についても粘り強く交渉するだろう。
アフガン政府とタリバンの和平交渉が始まったこと自体画期的なことで、歓迎すべきであるが、和平交渉がまとまり、アフガンに和平が訪れるシナリオは描きがたい。【10月19日 WEDGE】
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タリバンは急ぐ必要はありません。時間をかけて現在の枠組みで交渉を維持すれば、来年5月には米軍がいなくなります。米軍撤退後は“思うがまま”でしょう。
仮に、タリバンが合意に反した軍事行動に出たとしても、撤退した米軍が再びアフガニスタンの泥沼に戻ってくることはないでしょうから。
“かつての強圧的支配を反省した”“アフガン国内の世論に影響され妥協の余地がある”とは言うものの、実際に女性やシーア派など少数派の権利が「イスラム式統治」においてどのように保護されるのか・・・・非情に懸念されるところです。
“行政府を監視する宗教機関を設置する”・・・・イランのような宗教支配、神権政治になってしまうのでは・・・との懸念も。
イランの宗教支配政治を忌み嫌うアメリカが長年戦って、その結果できる政治体制が似たようなものだったということになれば、大いなる皮肉でもあります。
タリバンによる軍事圧力は激しさを増しています。
****タリバンと治安部隊が複数州で衝突****
アフガニスタン北東部で、タリバン戦闘員と衝突した治安部隊隊員25人が死亡した。
タハール州知事府のジャヴァド・ヒジュリ報道官は、ホジャイ・ガル区とバハラク区で同時にタリバン戦闘員と治安部隊が衝突したと述べた。
この衝突で治安部隊隊員25人が死亡したと述べたヒジュリ報道官は、タリバン戦闘員16人も殺害されたと話した。
タハール病院のカイユーム・ハイラト医院長は、この衝突で治安部隊隊員34人が死亡したと主張している。
一方、タハール州警察局のラズ・ムハンマド・ドゥランディシュ局長が、タリバンとの衝突で死亡した。
タハール警察局のハリル・エシル報道官は記者団に発言し、昨夜(10月20日)バララク区でタリバン戦闘員との間で衝突が発生したと述べた。
エシル報道官は、この衝突で、ドゥランディシュ局長と数人の護衛が死亡したと述べた。
タリバン側も大勢の死傷者を出したと述べたエシル報道官は、増援部隊が地域に派遣されたことを伝えた。
アフガニスタン西部のニームルーズ州カング区で実行された爆弾攻撃でも、区警察局長と警察官11人が死亡している。【10月21日 TRT】
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米軍撤退後はこの比ではないでしょう。タリバンの攻勢に政府軍が軍事的にどこまで耐えられ、タリバン側の譲歩を引き出すような交渉を行うことができるか・・・どうしても悲観的な想像をしてしまいます。
【パキスタンへのビザを求める人々の大混乱 かつてカンボジアやベトナムで見た光景とダブるものも】
話は変わりますが、久しぶりのビザ発給業務再開に大勢が押し寄せ、大混乱となったとか。
****アフガニスタンで将棋倒し ビザ申請の女性ばかり11人死亡****
アフガニスタン東部ナンガルハル州の競技場で10月21日、パキスタンへのビザを申請する数千人の群衆の一部が折り重なって倒れ、少なくとも女性11人が死亡、13人が負傷した。
パキスタン領事館によれば、死亡した女性の殆どは高齢者だったという。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、ジャララバードにあるパキスタン領事館は8カ月近く閉鎖されており、その間ビザ発給業務も中断されていた。
首都カブールの同国大使館もビザ発給業務を再開し、事故の前週だけで1万9000人にビザを発給した。
ビザ発給業務再開に当たって、大量の申請者を想定した領事館は、320人のスタッフを待機させ、5キロ離れた競技場で引換券を渡す予定だったが、死亡事故は想定外だった。
アフガニスタンでは、数百万人の市民が戦火と経済的苦境を逃れてパキスタンへ脱出。また、仕事や医療目的で、日常的に両国間を行き来している。【10月22日 YAHOO!ニュース】
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我先にとビザを求める混乱の映像を見ていると、ダブる記憶が。
映画「キリング・フィールド」に描かれた、カンボジアからの米軍撤退、それに伴うカンボジア脱出に賭ける市民の混乱。
同じくベトナムからの米軍撤退時の最後の飛行機にすがりつく人々、そうした人々を力づくで振り落とすアメリカ人・・・・。
アメリカは撤退でおしまいですが、残された人々の悲劇はそこから始まります。
同じような光景・悲劇を繰り返すことがなければいいが・・・と願うだけです。