(86年ぶりにモスクとなったアヤソフィアで7月24日に開催された金曜礼拝 エルドアン大統領も参加し、敷地内外に全国から数万人規模の国民が詰めかけた。敷地内に収まらないイスラム教徒は外で礼拝を行った。 国際社会からは批判の声も。【9月25日 livedoor NEWS】)
【東地中海問題 EUの対トルコ制裁の動きにトルコ反発】
東地中海のガス資源をめぐるトルコとギリシャ・キプロス・フランスなどの対立については、
8月18日ブログ“東地中海キプロス沖のガス田開発 出遅れたトルコの権益主張で高まる緊張”
9月14日ブログ“トルコと南欧諸国が対立する東地中海問題 トルコ・欧州間の移民・難民問題にも影響する可能性”
でも取り上げてきましたが、EUはキプロスなど南欧諸国に促される形で対トルコ制裁もスケジュールにあがっています。
これに対し、トルコも後に引かない構えです。
****トルコ、EU制裁でも東地中海領有権への決意揺るがず=外務省高官****
トルコ外務省高官は、東地中海での石油・ガス探査を巡り欧州連合(EU)が最終的にトルコに制裁を科す決定を下しても、同海域における領有権を守るとの決意が揺らぐことはないと述べた。
同高官は匿名で、制裁でトルコを思いとどまらせることはできないとしたほか、係争状態にある海上境界線や石油・ガス権利を巡り予定されるギリシャとの対話を危うくする可能性があると示唆した。
EU首脳会議は2日未明、トルコが係争海域で活動を継続すれば同国に制裁を科すことを加盟国のキプロスに確約し、協議の行き詰まりを打開した。「挑発行為」がやまない場合、早ければ12月に制裁を発動する可能性があるとしている。
キプロスは同首脳会議前、トルコの行為を「砲艦外交」であり、自国の海域を侵犯しているとして、トルコへの制裁を要求していた。
8月にトルコ探査船付近の海上でトルコとギリシャのフリゲート艦が接触して以降、緊張状態が続いているものの、北大西洋条約機構(NATO)加盟国でもあるトルコとギリシャが2016年に終了した「予備交渉」を再開すると表明したことを受けて状況はやや落ち着いていた。【10月2日 ロイター】
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EUとしては、ベラルーシのルカシェンコ大統領の問題、アルメニア・アゼルバイジャンの紛争再燃・トルコの関与など問題が多いなかで、「予備交渉」再開も表明されている東地中海問題であまりことを荒立てたくないような姿勢も見えます。
しかし、トルコと対立するキプロスが、対トルコ制裁を行わないならEUの対ベラルーシ制裁に同意しないという姿勢だったため、上記のような“トルコが係争海域で活動を継続すれば同国に制裁を科すことを加盟国のキプロスに確約”という話になったようです。
【アゼルバイジャンを軍事的にも支援し、今回紛争再燃の伏線にも】
一方、アゼルバイジャン内にあって主にアルメニア人が居住し、アルメニア軍が駐留するナゴルノ・カラバフ地区をめぐるアルメニア・アゼルバイジャンの紛争が再燃しているのは連日の報道のとおり。
両国は2016年にも「紛争再燃」しており、そのときのブログは2016年4月3日“アゼルバイジャンとアルメニア ナゴルノ・カラバフを巡って再び衝突 改善が難しい両国関係”。ですから、今回は「再々撚」です。
トルコは、宗教的にも近いこと、アルメニアとは「虐殺」をめぐる歴史問題があることなどから、以前からアゼルバイジャンを支援しています。
“トルコでは歴史的な結びつきが強いアゼルバイジャンに親近感を持つ国民が多い。エルドアン氏はトルコリラが史上最安値を更新するなど経済が低迷する中、アゼルバイジャン支援を打ち出すことで支持率回復につなげる狙いとみられる。”【10月1日 朝日】
支援と言うより、軍事的にアゼルバイジャンを強くサポートしていると言うべきかも。
今回、特にそのトルコのアゼルバイジャン支援が目立ちます。
****なぜ今、戦闘が勃発したのか****
緊張は夏から徐々に高まっており、9月27日に直接衝突へと発展した。
衝突のタイミングは重要だ。過去に仲裁に当たったロシア、フランス、米国などの大国が現在、新型コロナウイルス感染症、米大統領選、レバノンからベラルーシに至る数々の世界危機への対応に忙殺されているからだ。
7月に低いレベルで衝突が起こった際、国際社会の反応は薄かった。7、8月にアゼルバイジャンと大規模な軍事演習を実施したトルコは、過去の危機に比べても目立った支援を打ち出している。
トルコのエルドアン大統領は28日、「資源と心のすべてで」アゼルバイジャンを支持すると表明した。トルコがアゼルバイジャンに対し、軍事専門家やドローン、戦闘機などを提供しているかどうかには直接言及しなかった。アルメニアはトルコがこれらを提供していると主張し、アゼルバイジャンは否定している。【9月29日 ロイター】
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また、“トルコのエルドアン大統領は、アルメニアに対し直ちにアゼルバイジャンから撤収するよう要請。ナゴルノカラバフ問題に決着を付ける時が来たと述べた。”【9月29日 ロイター】
今回、アゼルバイジャンが強硬な軍事行動を展開している背景には、トルコの存在があると指摘されています。
****トルコ関与やアルメニア政変が伏線=ナゴルノカラバフ戦闘で専門家***
旧ソ連のアルメニアとアゼルバイジャンの係争地ナゴルノカラバフをめぐる両国軍の戦闘が激化している。今回の大規模戦闘に至った背景について、ロシアの専門家はトルコが友好国アゼルバイジャンを支援して関与を強化したことや、アルメニアで2018年に政変で指導者が代わったことが伏線になったとみている。
モスクワ国際関係大学付属機関の研究員などを務めるセルゲイ・マルケドノフ氏はカーネギー財団モスクワ支部への寄稿で「今回の出来事は完全に予想外だったとは言えない」と分析。
今年7月にアルメニア軍とアゼルバイジャン軍が国境地帯で衝突した直後、トルコとアゼルバイジャンが合同軍事演習を実施していたことを挙げた。
トルコのエルドアン大統領が今月の国連総会一般討論演説で、アルメニアを「地域の長期的な平和と安定の最大の障害」と批判し、ナゴルノカラバフ問題の解決を訴えたことも「アゼルバイジャンの強硬姿勢を助長したのは疑いようがない」と説明した。(後略)【9月29日 時事】
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アルメニア側は、トルコの戦闘機が戦闘に加わっていると主張、トルコは否定しています。
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アルメニア国防省は29日、トルコ軍のF16戦闘機が自国の戦闘機を撃墜したと主張。パシニャン氏は「トルコ軍高官らがアゼルバイジャン軍の司令部にいる」と発言した。
これに対し、トルコ大統領府は「完全な虚偽だ」と否定した。また、トルコメディアは同国から分離独立をめざす少数民族クルド人の非合法武装組織クルディスタン労働者党(PKK)などがアルメニアの民兵を訓練していると報道するなど、情報戦の様相も呈している。【10月1日 朝日】
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【シリアから戦闘員をアゼルバイジャンに送り込んでいるとの疑惑 マクロン大統領「越えてはならない一線を超えている。容認できない」】
今回特に問題となっているのは、トルコがシリアから戦闘員をアゼルバイジャンに送り込んでいるとされることです。
****アゼルバイジャンにシリアから「イスラム過激派」 仏大統領、トルコに説明要求****
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は2日、シリアのイスラム過激派がトルコを経由してアゼルバイジャン入りしていると同氏が主張している問題について、トルコに説明を求め、北大西洋条約機構加盟国の一員であるトルコの行動に立ち向かうよう全加盟国に呼び掛けた。
マクロン氏は欧州連合首脳との会合後、「越えてはならない一線を超えている。容認できない」「NATO加盟国の一員(トルコ)のこうした行動に立ち向かうようすべての加盟国に求める」「フランスの対応は、この点についての説明をトルコに求めることだ」と述べた。
マクロン氏によると、シリア北部アレッポから、トルコ・ガジアンテプを経由して、シリアの「イスラム過激派」300人がアゼルバイジャン入りしたことが情報報告によって示されたという。 【10月2日 AFP】AFPBB News
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ロシア、アメリカ、フランスの3カ国は1日、即時停戦を呼び掛ける共同声明を発表しましたが、トルコはこれに反発しています。
****米仏ロ、ナゴルノ紛争の即時停戦呼び掛け トルコ反発****
ロシア、米国、フランスの3カ国は1日、旧ソ連のアゼルバイジャンとアルメニアの間で勃発したナゴルノカラバフ地域を巡る戦闘を巡り、即時停戦を呼び掛ける共同声明を発表した。これに対し、トルコは反発している。
米仏ロは、旧ソ連時代から続くナゴルノカラバフ地域を巡る民族紛争の調停に向け欧州安保協力機構(OSCE)が設置した「ミンスクグループ」の共同議長国。声明で「関与する軍事勢力に対し、即時停戦を求める」とし、アルメニアとアゼルバイジャンに前提条件なしに和平協議を行うよう呼び掛けた。
こうした中、トルコのエルドアン大統領は3国の仲介に反発。トルコ議会で「米仏ロが約30年にわたりこの問題を放置してきたことを踏まえると、今になって停戦に関与することは受け入れられない」とし、「アルメニアの侵略者」がナゴルノカラバフから撤退しない限り長期的な停戦は実現しないと述べた。
ロシア外務省によると、ロシアのラブロフ外相はトルコ外相と電話会談を行い、事態の沈静化に向け協力していくことを確認した。
声明発表に先立ち、フランスのマクロン大統領とロシアのプーチン大統領は9月30日夜に電話会談を行い、停戦の必要性で合意。その数時間後、10月1日に入ってから米国のトランプ大統領も含め、3国で共同声明を発表した。
仏大統領府は、プーチン氏との電話会談で「トルコがシリア傭兵をナゴルノカラバフ地域に送り込んでいることに対する懸念」を共有したと表明。ロシア側の声明にこの件に関する言及はないが、タス通信は、ロシア大統領府はシリアとリビアからナゴルノカラバフ地域に兵士が送り込まれているとの疑惑は極めて危険と認識していると報じている。
フランスのマクロン大統領は、欧州連合(EU)首脳会議に出席するためにブリュッセルに到着した際、記者団に対し「シリアの兵士が(トルコ南東部の)ガズィアンテプを経由してナゴルノカラバフ地域に送られていることを示す情報を得ている。これは極めて深刻な情報で、これにより(ナゴルノカラバフを巡る戦闘の)状況は一変する」と述べた。ただ仏大統領府は証拠を示していない。
この件に関しては、駐ロシアのアルメニア外交官が9月28日、トルコが約4000人の兵士をシリア北部からアゼルバイジャンに派遣し、これらの兵士が戦闘に関わっていると述べていた。トルコ政府はこれを否定している。【10月2日 ロイター】
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【大国として振る舞おうとする「新オスマン主義」とも呼ばれる対外政策は周辺国との関係悪化も】
エルドアン大統領は国内にあっては、従来からトルコの国是であった世俗主義を変質させるイスラム主義拡大を進めていますが、シリア、リビア、東地中海、そしてアゼルバイジャンにおけるその強気の外交姿勢はかつてのオスマン帝国の栄光再現をめざす「新オスマン主義」ともいわれています。
****世界遺産モスク化が生むトルコの孤立 遮られた聖母子像 分断を象徴*****
トルコのエルドアン大統領が今年7月、最大都市イスタンブールの世界遺産、アヤソフィアの地位を博物館からイスラム教礼拝所(モスク)に変更してから約3カ月になる。
トルコは政教分離の「世俗主義」を国是とする半面、スンニ派の信徒が大多数を占める。地位変更は「国のかたち」を問い直す動きといえるが、広大な領土を支配したオスマン帝国を想起させるエルドアン氏の政策は海外で(あつれき)を生んでいる。
キリスト教国は非難
(中略)アヤソフィアは現在のイスタンブールを征服したオスマン帝国がモスクに定めた。
キリスト教様式の絵画が残るのは、元をたどればギリシャ正教の聖堂だったからだ。帝国の崩壊後に成立したトルコは、人類の融和を象徴する建物だとして「無宗教の博物館」と規定したが、今回、85年ぶりにその決定が覆された。
こうした経緯から、東方正教会系のキリスト教国からはトルコへの非難が殺到した。ギリシャ正教を国教とするギリシャ政府は「宗教と文化の分断を助長する」と再考を促した。オスマン帝国の支配を受けたギリシャはトルコとの関係が歴史的によくない。
一方、トルコ国民の多くはエルドアン大統領を称賛、喜びを隠さない。(中略)
イスラム保守派台頭
アヤソフィアの地位問題は「世俗かイスラムか」という国家像と密接な関わりがあり、1990年代には世論の変化が起きていた。
トルコの初代大統領アタチュルクは、オスマン帝国がイスラム教に基礎を置いたため欧州列強に後れを取って崩壊したと考え、「世俗主義」を国是に据えた。西欧の制度や技術を取り入れて発展を目指す方針に百八十度転換した格好だ。
アタチュルクの遺志を継ぐ世俗主義政党、共和人民党(CHP)が与党時代に進めた西欧化で、経済発展の恩恵に浴した都市住民の「脱イスラム化」は一定の成功を収めた。
その陰で、開発から取り残され、貧困から抜け出せない地方の住民はCHPに反感を募らせてきたとされる。地方にはもともと熱心な信徒が多く、都市に比べて子だくさんで人口も急速に増えた。
こうした潮流を受け、96年にはイスラム政党が建国史上初めて政権を奪取。その流れを継承したのがエルドアン氏だ。同氏のワンマン政党である公正発展党(AKP)は2002年から与党の座を占め、女性公務員が頭部を覆うスカーフを着用することが認められるなど、イスラム色の濃い政策を進めてきた。
世俗主義の看板は下ろさず、イスラム保守派に国の重心を移す。それがエルドアン氏の戦術といえる。
強権的手法に反感
しかし、モスク化の後もエルドアン氏の支持率は思わしくない。トルコの世論調査機関メトロポールの調査によると、支持率は3月の約56%から下降線をたどったままで、8月には約48%と5割を切った。
背景には長期化する経済低迷への不満がある。この3年で通貨の価値は対ドルで半分に下落し、失業率は10%超で高止まりしたまま。新型コロナウイルスの感染拡大も足を引っ張る。
エルドアン氏は16年のクーデター未遂事件の後、軍や裁判所、報道機関の“反体制分子”を徹底的に摘発し、いまや95%のメディアが政権寄りといわれる。今年7月にはネット空間の異論を封じるSNS規制法も成立した。こうした強権的な手法で、世俗派を中心に同氏に対する反感が強まっている。(中略)
アヤソフィアのモスク化に支持回復の狙いがあることは世俗派の国民らに見透かされており、この点もエルドアン氏の支持拡大につながっていない理由とみられている。
新オスマン主義進める大統領
トルコのエルドアン大統領がアヤソフィアをモスク化した背景には、2023年10月の建国100年を大統領として迎え、アタチュルクを超える「国父」の座を占める狙いがあるといわれる。
だが、大国として振る舞おうとする「新オスマン主義」とも呼ばれる対外政策は周辺国との関係悪化を招き、政治生命を脅かしかねない危うさをはらむ。
「国際基準を侵食するイスラエルの狙いを支援するものだ」。エルドアン氏は9月22日、ビデオ録画で行った国連総会一般討論演説で名指しを避けながらも、米国の仲介でイスラエルと国交を正常化したアラブ首長国連邦(UAE)とバーレーンを非難した。
両国のイスラエル接近の狙いは軍事的脅威が増すイランの包囲網構築にある。また、イスラエルとUAEの関係改善は人工知能(AI)の共同研究など先端分野にも及ぶ。パレスチナ問題というかつての障害を乗り越えた両国の関係進展で、他のイスラム教スンニ派諸国が追随する可能性も指摘される。
これにエルドアン氏が焦りを感じている公算が大きい。トルコがこれまで通りパレスチナ問題に固執すれば、新たな枠組み作りが進む中東の再編から取り残される恐れがあるからだ。
エルドアン氏は演説で「世界は(核を保有する)5カ国だけではない」とも述べ、大国としての自負を強調。同氏は過去にオスマン帝国が支配した地域への浸透を図る外交を国内の支持引き締めに利用してきた。
トルコはオスマン帝国がかつて支配したシリアの内戦で、テロ組織とみなす少数民族クルド人の民兵組織を越境して攻撃。同組織と協力してきた米国を批判した。
トルコはロシアの防空システム「S400」の購入にも踏み切り、北大西洋条約機構(NATO)加盟国でありながら対米関係をぎくしゃくさせた。
軍事力を背景とした周辺国への干渉も激しさを増すばかりだ。昨年、本格参戦したリビア内戦ではロシアやフランスが支援する有力軍事組織と敵対する暫定政権を支援した。
今年8月にはギリシャと海底権益を争う東地中海に軍艦の護衛付きで探査船を派遣し、ギリシャの側に立つフランスが戦闘機を送って緊張が高まる局面もあった。
シリアとリビア、東地中海はオスマン帝国が最盛期の16〜17世紀に支配した地域と重なるため、欧米では過去の歴史や文化をテコに浸透を図る新オスマン主義の表れとみる論評も増えている。
だが、エルドアン氏の政策に批判的なトルコのジャーナリスト、ウスカン氏(49)は「内政同様に外交も場当たり的。長い目でみて利益は得られない」と突き放した。【10月1日 産経】
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