孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ドイツ  東西統一から30年 微妙な「心の壁」 在独米軍削減で東西冷戦の亡霊がよみがえる流れも

2020-10-03 23:02:56 | 欧州情勢

(1990年10月3日、ベルリン中心部のブランデンブルク門に集まり、ドイツ統一を祝う人々【10月3日 共同】)

 

【「われわれ皆国民だ」】

東西冷戦下で分断されていたドイツですが、1989年、ソ連勢力下の東欧で広がった民主化の波が東ドイツに波及し、分断の象徴「ベルリンの壁」が11月9日に崩壊、1990年10月3日に統一されたということで、統一から30年を迎えました。

 

****「われわれ皆国民だ」=独統一30年、東西もイスラム教徒も****

ドイツ東部ポツダムで3日、メルケル首相や全16州の市民らが参加し、東西ドイツ統一30年の記念式典が行われた。

 

シュタインマイヤー大統領は演説で、東西ドイツ人に加え、イスラム教徒やユダヤ教徒らも含め「われわれ皆が国民だ」と強調。統一時に東独市民が掲げた「われわれは国民だ」とのスローガンを拡大し、30年で大きく多様化したドイツの団結を誓った。

 

旧東独のポツダムは分断当時西ベルリンと国境を接し、東西陣営がにらみ合った場所。式典の皮切りの礼拝は、宗派を超えた結束のため、旧西側で信者が多いカトリック教会内で、旧東側で一般的なプロテスタントをはじめ、さまざまな宗派が集まる形で実施された。【10月3日 時事】 

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国民の大半は統一を「成功」と評価していますが、「一体感」醸成にはまだ課題も残されています。

 

****東西ドイツ統一30年祝う 9割が「成功」、残る経済格差****

(中略)東西の交流は着実に進み、国民の多くが統一を「成功の歴史」と捉える一方、経済格差も残り、半数の国民が今も社会の溝を感じている。(中略)

 

最近の世論調査では90%の人が統一は成功だったと考える一方、東西の一体感を抱かない人は49%に達した。【10月3日 共同】

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近年の政治情勢のなかでは、東西の格差を背景に、東では極右勢力が台頭している・・・との見方をよく目にします。

一面の事実ではありますが、そうした画一的な理解ではあまりに一面的に過ぎるとの不満も東の住民にはあるようです。

 

****かつての「東」、多様な今見て 「右翼的」は偏見、ネットで本音募る 東西ドイツ統一30年****

東西ドイツが統一して、3日で30年を迎える。依然として東西で経済格差は残り、東では排外主義を訴える右翼政党への支持も高い。

 

メディアなどでは「右翼的で文句の多い旧東ドイツの人たち」といった見方も色濃い。そんな偏見を打ち破ろうという運動がドイツで起きている。

 

「東を一つのグループと見るのは古い分け方だ。私たちはもっと多様だということを分かって欲しい」

東に住む人たちの本音を探る運動をするジャーナリストのメラニー・シュタインさんは、こう訴える。旧東地域の北東部ロストックに「統一の少し前」に生まれた。「北ドイツ人」として、長く自分を東の人間と意識したことはなかった。

 

変化のきっかけは、2017年の総選挙だった。移民・難民の排斥などを訴える新興の右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が12・6%を得て、初めて国政に進出した。特に東でAfDが支持されたことから、ドイツメディアは、東の人たちは「不平不満が多く」「右翼的」で「排外主義」という否定的な印象を繰り返し伝えた。

 

人々が一緒くたにされることに驚いたシュタインさんは「8割の人は右翼に投票していないのに。ありのままの姿を見せたい」。19年10月、東に住む人たちの多様な本音を引き出す運動を仲間と始め、インターネットで体験や意見を募った。

 

「地方と都市の格差などはともに抱える問題。東か西かは気にしない」「平和な国に住める幸せを喜んでいい」など、400以上の意見が集まった。「過去の苦い経験があるからこそ、新しい変化に柔軟に対応できる」といった前向きな声も多かったという。

 

一方で「価値観が違う」と西の人から偏見を持たれるという意識も根強かった。東西の心理的な壁は残る。

 

政府は、統一後に連邦に加わった地域だとして、東の6州を「新しい州」と呼んでいる。東西比較や統一の進み具合などを毎年、報告書にまとめており、今年の報告書によると、東の1人当たり国内総生産(GDP)は西の約79%だった。

 

ただ、東の世帯収入は全国平均の約88%になった。00年代初めに18%台だった東の失業率は19年に6・4%と、西(4・7%)との差は年々、縮まっている。

 

政府の担当委員マルコ・ワンデルウィッツ氏は東の経済発展を評価しつつ、「外国に対する態度や右翼の過激志向の広がりには、依然として違いがある」とし、東西対話を続けることが重要だと指摘する。

 

(中略)東部チューリンゲン州のラメロー州首相も西で生まれ、1990年に東に移った。だが、東の人たちが経験した苦悩は容易には理解できないという。東の人々の中には独裁政権の監視下で暮らし、統一後に企業の相次ぐ倒産や失業で困窮した記憶が残っている。

 

長年、旧東地域に住んだラメロー氏も「私は東の人間とは言えない」と話した上で、「人々は東を変えようと30年、努力してきた。そこに東と西の違いはない」と訴えた。【10月2日 朝日】

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同じ民族の東西の融和についてすらそう簡単ではないのですから、移民として増加したイスラム教徒も含めて「われわれ皆国民だ」というのは、現実には難しいものも多々あるでしょう。

 

【東独育ちの「女王」】

この統一ドイツを長く率いてきたのが東ドイツ育ちのメルケル首相。

移民問題で一時求心力を失いかけましたが、堅実な新型コロナ対応で国民支持を取り戻し、圧倒的な存在感も今も維持しています。

 

****【ドイツの岐路】東独育ちの「女王」が見せた覚悟****

10月3日、東西ドイツの再統一から30年を迎える。メルケル首相(66)は今年、在任15年。東独育ちの女性が、統一ドイツの半分を統治してきたことになる。

 

欧州で新型コロナウイルスの「第2波」が広がる中、メルケル氏の支持率はいまも7割を超える。なぜ、これほど国民の信頼を集めるのか。

     ◇

ベルリンから北に約80キロ。テンプリンという町でメルケル氏は育った。少女期を過ごした家は、無人駅から徒歩30分の森の奥にある。生まれは西独ハンブルク。牧師だった父親の赴任に伴い、生後2カ月でこの町に移住した。黄色い壁の家は教会の障害者施設で、一家は3階に住んだ。西には見渡す限り、荒野が広がっていた。

 

東独では、こんな寂しい町にも秘密警察の目が光っていた。メルケル氏は後に「父は都合が悪い話をするとき、森に行きました。知人をどう西独に逃すかといった話です」と回想した。(中略)

 

今年3月、コロナ感染がドイツに及び始めたとき、メルケル氏はテレビカメラに向かった。都市封鎖の決断を国民に伝えるためだ。

 

「私は自由を苦労して勝ち取った世代です。自由の制限は、民主主義社会で安易に決めるべきでないと身に染みて知っている。しかし今、命を救うために必要なのです」。首相の言葉は、説得力があった。

 

 ■科学を重視

メルケル氏のコロナ対策では、「科学を信じる」姿勢も際立つ。

 

都市封鎖やその解除、学校再開はドイツの「国立科学アカデミー」の提言に沿って決めた。アカデミーは17世紀発足の学際組織。自然科学、経済、教育、法律など各分野のトップ学者が集まる。メルケル氏自身、物理学者でかつて東独の科学アカデミーに勤務した。「アカデミーに従いましょう」と首相が言えば、異論は出なかった。

 

学際の強みは、それぞれの分野が英知を絞るので、政策に無理がないことだ。

 

違いは、周辺国を見れば分かる。医学界の提案と経済界の要求が、なかなか折り合わない。英国は春の第1波で、医学顧問団より財界の要請に押された。死者は4万人を超え、欧州最悪になってしまった。

 

先月、英国では感染者が1日6000人、フランスでは1万人を超えた。ドイツは、1日の感染が2000人前後。日本に比べればかなり多いが、欧州では低水準だ。感染者が増えているのに、ドイツ世論調査では、66%が「政府の対策に満足」と答えた。

 

 ■圧倒的な財政

ドイツは英仏に比べ、財政出動でも圧倒的な強みを持っていた。

新型コロナウイルス禍で、ユーロ圏経済は4〜6月期、域内総生産(GDP)が前期比で12%下落した。年間換算では40%のマイナスになる。

 

メルケル氏は大きな決断をした。ドイツ伝統の財政均衡路線から外れ、EU一丸の巨額救済にかじを切った。7月のEU首脳会議で、フランスのマクロン大統領とともに、7500億ユーロ(約92兆円)という、大型の復興基金を実現させた。債務を共有する初の仕組みになる。ドイツには「抜かずの宝刀」があった。欧州で群を抜く巨額の財政黒字である。

 

会議は5日間に及ぶマラソン協議になった。締まり屋のドイツが負担もいとわない態度に出て、最後は誰もが納得した。会見でメルケル氏は「コロナ危機が、われわれを結びつけました」と述べた。10年前の欧州債務危機で南欧諸国に緊縮財政を迫ったときとは、まるで別人だった。

 

ドイツ研究家のポール・リーバー元英国大使は、「これまでメルケル氏は、欧州統合のビジョンを示したことがなかった。今回の危機で、ようやく『統合の主導権を引き受けねばならない』と覚悟したのでしょう」と指摘する。

 

そのメルケル氏は来年の次期総選挙で、首相退任を宣言している。普通の政治家なら最晩年の黄昏(たそがれ)期なのに、新型コロナで一段と評判を高めた。メルケル氏が誰を選ぶのか、で「次の首相」の最有力者が決まる。(中略)

 

これだけ余力を残す以上、こんな疑問もわく。6月、テレビのインタビューで「留任した方がいいと思いませんか」と聞かれた。首相は「ナイン(いいえ)。これははっきりしているわ」と即答した。【10月1日 産経】

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「科学を信じる」姿勢・・・温暖化や新型コロナで科学軽視が目立つトランプ大統領とは、この1点だけでも「そりが合わない」ものがあるのでしょう。

 

一方、日本では政府に批判的な人間が学術会議会員に任命されなかったということで揉めているのは周知のところ。

政府に都合のいい人間ばかり集めても、その重みがなくなると思いますが。

 

【在独米軍削減  歓迎する対米・トランプ不信感の一方で、安全保障論議も】

ドイツが直面している国際的な課題のひとつがアメリカとの関係、在独米軍削減の問題。

「そりが合わない」トランプ大統領とメルケル首相の関係も加速・増幅させている要因ですが、大きくは、東西冷戦から米中対立へという新たな国際関係に対するアメリカの対応の一環でもあるでしょう。

 

****きしむ世界 トランプ流の4年)同盟軽視、縮む基地 在独米軍削減、「自国第一」の表れ****

(中略)米軍基地が沖縄に集中する日本と異なり、ドイツでは南部や西部に基地が点在する。グラーフェンウェアでも、銃声や軍用機などの騒音被害はあるが、住民は米兵らを地域に受け入れ、祭りを開いて親密に交流してきた。

 

退役した米兵や家族が、そのまま住み続ける例も多い。プレスナーさんは「私たちは共に75年の歴史を歩み、世代を超えた友情があるんです」と話す。

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米独同盟の象徴だったこの訓練場が、トランプ米大統領の方針に揺れている。自国第一主義のトランプ氏は「米国はドイツを守っている。カネを払わないから、軍を削減する」と述べ、7月末、ドイツからの米軍削減計画を正式に発表したからだ。

 

伏線は米国で6月に開催予定だった主要7カ国(G7)首脳会議にあった。元々トランプ氏とそりが合わないドイツメルケル首相は、新型コロナウイルスの感染拡大を理由に渡米を断った。

 

大統領選を控えて有権者にアピールできる対面開催にこだわっていたトランプ氏は怒り心頭に発したという。米軍削減の話がメディアをにぎわし始めたのは、その直後だった。

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ドイツには陸軍、空軍を中心に約3万6千人の米軍部隊が駐留する。その規模は約5万5千人が駐留する日本に次いで多い。東西冷戦が終わっても、欧州防衛の要だ。

 

計画では、南部シュツットガルトにある欧州司令部の人員など、合計約1万2千人を削減。うち約5600人はNATO加盟国のベルギーイタリアへ再配置し、約6400人は米国へ戻す。

 

訓練場周辺の基地では、駐留する約1万2千人のうち、人口約6300人の町フィルゼックに駐留する約4500人が削減対象となった。兵士の家族ら約9千人もこの地を去る。

 

トランプ政権は「米国第一」を掲げ、国際機関からの脱退をいとわず、各国との協調に背を向けてきた。NATO加盟国や日本、韓国に対しては駐留経費などの大幅な負担増を要求。同盟軽視も際立つ。

 

トランプ流の4年間が世界で引き起こしてきた数々のきしみ。ドイツの基地の町で起きている異変はその一端にすぎない。【9月22日 朝日】

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基地の町はともかく、国民世論は在独米軍削減にむしろ賛成の方向。

ただ、ロシアの脅威などもあって、安全保障の面でどうなのかという指摘はあります。

 

****世論は削減賛成多数、「核も撤去を」****

米軍が欧州から部隊を減らすのは、今に始まった話ではない。対共産圏の最前線にあった旧西ドイツには東西冷戦の終結直前、約25万人の米兵が駐留した。1989年に「ベルリンの壁」が崩壊し、冷戦が終結。駐留する兵士の数は大幅に減った。

 

トランプ政権以前から、安全保障戦略の軸足は欧州からアジアに移す方針が示されており、欧州部隊の段階的な削減は必然だった。

 

ただ、欧州部隊の役割は冷戦後、イラクアフガニスタンなど欧州外の展開に広がった。訓練場や病院、兵舎など長年にわたって部隊を支援する設備が整ったドイツの基地は、いまもなお米国自身の戦略上の重要拠点だとの指摘は多い。

 

ドイツの与党議員らからは「米欧関係や欧州の安全保障を揺るがす」と懸念の声が上がる。クランプカレンバウアー国防相も「残念だ」と述べたが、トランプ政権を翻意させるための動きは乏しい。11月の米大統領選の結果次第で方針が変わり得ることもあり、現段階で米政府を過剰に刺激しない方針だとみられる。

 

身近に米軍の存在を感じる機会がなく、現実的な敵の脅威を目の当たりにしない多くの市民にとって、米軍が存在し続ける意義を見いだすのは簡単ではない。世論調査会社ユーガブによる全土の市民を対象とした7月の調査によると、米軍の削減に反対したのが32%だったのに対し、47%が賛成。うち半分強は「完全撤退」を支持した。

 

ドイツには約20個の核兵器が配備されているとされ、左派系政党からは「米国は軍だけでなく、核こそドイツから撤去するべきだ」との声も上がる。同じ世論調査では「核を撤去すべきだ」との回答は66%にも上った。

 

ニュルンベルク大のシュテファン・フレーリヒ教授(国際政治経済学)は「ドイツの世論の多くがトランプ政権へ嫌悪感を抱くなかで、安全保障上の米国の重要性が軽視されかねない」と危惧する。「ロシアの脅威もある。米国抜きで欧州独自の安保体制が確立できるか分からない間は米国の支援がなお必要だ」と指摘する。【9月22日 朝日】

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興味深いのは「核」の扱い。

核は米軍基地ではなく、ドイツ連邦軍基地に配備されており、「いざ使用」のときには独軍機が核兵器を運び、標的に投下せねばならない・・・ということのようです。

 

****【ドイツの岐路】(下)冷戦の亡霊 核の議論再び****

(中略)米科学者連盟によると、フランス国境に近いビューヘル独空軍基地に20発の核爆弾があるとされる。

 

ドイツ統一後の30年間、有力政党は極力、この話題を避けてきた。ところが、投下を担う独攻撃機の老朽化で、政府は2030年代には後継機を調達せねばならなくなった。

 

中道左派の与党、社会民主党(SPD)のミューゼニヒ連邦議員団長は、この機をとらえ「核兵器は東西冷戦の遺物。トランプ米政権はすべて一方的に決める。こちらも協力を見直せ」とタブーに火をつけた。

 

左派には元来「核兵器撤去」論が強く、ミューゼニヒ氏は国民の「トランプ嫌い」を追い風にしようとした。トランプ大統領に対するドイツ人の不信は強烈で、世論調査で「再選は米独関係にマイナス」と答えた人は82%にのぼった。(中略)

 

ドイツをさらに悩ませたのは、フランスのマクロン大統領が2月に提案した「欧州共通の核」構想だ。

 

フランスは欧州連合(EU)唯一の核保有国で、約300発の核弾頭を持つ。マクロン氏は「いつまでも米国に甘えられない」と言い、自国の核兵器を欧州の抑止力に使おうと訴えた。本音は「ドイツも維持費を負担して」ということだ。

 

クランプカレンバウアー氏は、「話し合いは歓迎だが、フランスは核兵器の指揮権まで他国に委ねるつもりはないでしょう」とかわした。その上で「NATOの核抑止力は安全保障の基盤」と原則論を掲げた。

 

米国か欧州か−安保でドイツの姿勢が煮え切らない中、欧州は再びロシアの核の脅威に直面している。中距離核戦力(INF)全廃条約が昨年8月、失効した。

 

独軍の制服組トップだったハラルド・クヤート元総監は「米国にとって欧州の重要性は低下した。米軍戦略で重要なのは、ロシアより中国。INF全廃条約破棄は、米国の欧州離れの表れだ」と危機感を示す。

 

独ケルバー財団は、(1)トランプ大統領が再選され、欧州から米軍撤収を表明(2)ロシアが1年以内にミサイル実験や配備を進め、欧州を威嚇する−という「恐怖のシナリオ」を予測した。

 

クヤート氏は「ドイツは欧州の安全保障を強化しながら、世界の核軍縮を訴えるしかない」と言う。東西冷戦の亡霊が、30年後によみがえったようだ。【10月3日 産経】

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