孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  相も変らぬ「闇」 貧困・レイプ・カースト、そしてヒンズー至上主義

2020-10-01 23:39:24 | 南アジア(インド)

(RSS(モディ首相も属したヒンドゥー至上主義団体「民族奉仕団」)の集会では、「インドの女神に勝利を」という愛国的なフレーズが連呼されていた【9月11日 朝日】)

 

【今なお続く絶対的貧困】

絶対的貧困、劣悪な居住環境、女性のレイプ被害、カースト制に絡む差別、更に最近では、モディ首相のもとで進むヒンズー至上主義、コロナ禍にあえぐ貧困層等々、インドが抱え深刻な問題に関する記事を日々目にします。

 

比較的最近の記事からいくつか。

 

****「くず拾い」の印少女、巨大なごみ山の下敷きに 捜索続く****

インド西部で巨大なごみ山が崩落し、「くず拾い」をしていた12歳の少女が下敷きになった。事故発生から2日後となった28日にも、救助隊が必死の捜索活動を継続した。

 

事故が起きたのはグジャラート州アーメダバードにある、高さが25〜30メートルに達する同市最大のごみ山。26日夕方に崩落した際、ネハ・バサバさんと6歳の少年が山の頂上にいた。

 

インドでは、ごみから金属などの資材をふるいにかけて売るくず拾いを仕事とする人が推定400万人に上っており、不潔で危険な環境で働くこのうちの多くが子どもとされる。

 

消防当局はAFPに対し、「少年もごみの下敷きになっていたが、頭部が見えていたため、地元住民に救出された」と語った。

 

「少女を発見するまで捜索活動は続く」としながらも、「大量のごみに囲まれて呼吸しにくい」状態であり、野犬の群れも歩き回っていることから、捜索は非常に困難だと説明している。

 

人口560万人のアーメダバードから1日約3500トンのごみが集められるこのごみ山には、くず拾いとして働く貧困家族数百世帯が暮らしている。

 

国連児童基金(ユニセフ)によると、南アジアでは12歳未満の子ども4100万人超が労働を強いられている。

 

専門家らは、新型コロナウイルス対策のロックダウン(都市封鎖)が児童労働問題の悪化を招いていると指摘している。【9月28日 AFP】

*******************

 

グジャラート州はモディ首相の地元で、ここでの州首相としての経済実績が評価されて、現在の地位にあります。

 

【多発するレイプ事件 低カースト女性の被害を問題視しない警察】

インドではレイプ事件が多発していますが、単に女性蔑視というだけでなく、カーストによる身分差別の問題も絡み、かつて「不可触民」として知られたカースト最下層のダリット女性が被害にあうことが多々あります。

 

****カースト最下層の19歳女性が集団レイプ死、インド全土に怒り****

インドでカースト最下層のダリットの女性が上位カーストの男たちに集団レイプされて死亡する事件が起き、人権活動家や政治家、インド映画界「ボリウッド」のスターやクリケット選手らをはじめインド全土で怒りが巻き起こっている。

 

かつて「不可触民」として知られたカースト最下層のダリットは、インドに現在2億人いる。人権活動家らによると、長年はびこってきたダリットに対する差別や虐待は、ここへ来て新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)の影響で増加している。

 

遺族が警察に提出した告訴状によると、死亡した女性は北部ウッタルプラデシュ州で今月14日、男らに襲われ、首と背骨をけがして体がまひし、血まみれになって倒れているのを発見された。

 

女性は発見されてすぐに地元の病院に搬送されたが、容体が悪化したため28日にニューデリーの病院へ移送され、翌29日、治療中に亡くなった。当局によると告訴された男4人がすでに逮捕されている。

 

インドではカーストや社会階級にかかわらず、女性に対する性暴力が深刻で大きな問題となっている。2018年に全国で報告されたレイプは3万4000件近くに上っているが、被害者が恐れて名乗り出ないケースが多いため、報告数は氷山の一角と考えられている。

 

今年3月には、2012年にニューデリーのバスの車内で起きた女子学生の集団レイプ殺害事件の死刑囚4人が絞首刑に処された。この事件は動画配信大手米ネットフリックスでドラマ化もされた。 【9月30日 AFP】

******************

 

今回事件は社会的関心を呼んでいるようですが、そもそも被害者がダリットのような低カーストの場合、事件にもならないことが多いとも言われています。

 

そうした構図に、本来は被害者の権利を守るべき警察組織も加担しているというのが、インド社会の実態とも。

 

****カースト最下層女性集団レイプ死、警察が遺族の意思に反して遺体を火葬****

インドでカースト最下層のダリットの女性が上位カーストの男たちに集団レイプされて死亡した事件で9月30日、遺族の意思や宗教的慣例に反して遺体を死去した晩に火葬したとして、警察が非難の的になった。適切な捜査が行われたかについても疑問が生じている。(中略)

 

女性の母親は30日、「火葬前の最後の時に、娘の遺体を見ることさえ許されなかった」と報道陣に語った。

 

当局によると、男4人──全員が20代から30代──がすでに逮捕されている。英字紙インディアン・エクスプレスによると、うち1人は地元でダリットに恐れられている大地主一家の一員だという。

 

インディアン・エクスプレスがある村人の話として報じたところによると、この男は「トラブルを起こすが、どうこう言う人は一人もいない」「酒を飲み、女性に嫌がらせをする。みんなが大地主一家を恐れている」という。

 

地元の警察署長は、女性の火葬は遺族の同意を得て行われたと主張する一方、「誰であろうと部外者に法と秩序を乱させはしない」と述べた。

 

女性の権利団体「全インド進歩的女性協会」は、警察の行動には「カースト至上主義」がにじみ出ていると指摘した。 【10月1日 AFP】

*********************

 

【モディ首相のもと強まるヒンズー至上主義】

こうした旧来のカースト制は次第にインドでも薄れていく・・・と言いたいところですが、一方で、モディ首相のもとでヒンズー至上主義が台頭して、ヒンズー的価値観が前面にでてくる場面が増えているのは、これまでも再三取り上げてきたところ。

 

****1992年のモスク破壊、ヒンズー国家主義者らに無罪判決 インド****

インドの裁判所は9月30日、数十年前に発生した暴徒によるモスク(イスラム礼拝所)破壊を企てた罪に問われていた与党幹部らに無罪を言い渡した。この宗教間対立によって2000人以上が死亡している。

 

1992年にアヨドヤで、ヒンズー国家主義を掲げるインド人民党の支持者数万人と複数のヒンズー教集団が、つるはしやすきで武装し、ヒンズー教寺院建設を目的に、16世紀に建造されたモスク「バーブリー・マスジッド」を破壊した。

 

ヒンズー教徒の多くは、モスクが立てられていた小さな土地を戦士である神ラーマ王子誕生の地だとしており、インドにおけるヒンズー教とイスラム教の分断を象徴する場所になっていた。

 

暴徒はラール・クリシュナ・アドバニ元副首相やムルリ・マノハー・ジョシ元BJP総裁、ウマ・バーティ氏を含むBJP幹部が率いていたとされている。

 

アドバニ氏らは後にモスク破壊を企てたと非難され、30人を超えるBJP幹部と共に、犯罪を共謀し、憎悪を増幅し、暴徒を扇動した罪で起訴された。

 

だが、北部ラクノーの特別法廷は、検察は有罪を証明できなかったとした。裁判長は「反社会的集団により建造物が破壊された。被告である幹部らは、この集団を制止しようとした」と述べた。

 

裁判は約30年に及んだため、この間に被告17人が死亡している。

 

信心深いヒンズー教徒らは、ラーマ王子は約7000年前にアヨドヤで生まれ、イスラム王朝ムガール帝国の初代皇帝バーブルがラーマ王子生誕の地にモスクを建設したと考えている。

 

現在ナレンドラ・モディ首相が率いるBJPは1980年代後半、ラーマ神を祭る寺院を建立するための支援を呼び掛ける全国的な運動を立ち上げた。

 

現在92歳のアドバニ氏は当時、数万人の支持者を率いて数か月にわたる全国的なデモを行った。その後、暴徒がモスクを襲撃した。

 

モスクの破壊はインドで最悪の宗派間暴動に発展したため、裁判が長引いていた。 【10月1日 AFP】

*********************

 

“検察は有罪を証明できなかったとした。裁判長は「反社会的集団により建造物が破壊された。被告である幹部らは、この集団を制止しようとした」と述べた。”・・・モディ首相が州首相時代の2002年にグジャラート州で起きた1000人以上の死者を出した宗教暴動へのモディ首相の関与疑惑を彷彿とさせます。

 

 

1992年に宗教対立からの暴動が起きたインド北部アヨディヤのモスクに関しては、昨年11月、最高裁はヒンズー的価値観を優先する判断を示しています。

 

****宗教対立の土地、ヒンドゥー教側に所有権 インドで判決****

インド最高裁は9日、インド北部アヨディヤでヒンドゥー教徒とイスラム教徒が所有権を争って宗教対立の火種となってきた土地をめぐる訴訟で、ヒンドゥー教徒側の所有権を認める判決を言い渡した。敗訴したイスラム教徒に対しては、政府に代替地を与えるように命じた。

 

所有権が争われていた土地について、ヒンドゥー教徒は叙事詩「ラーマーヤナ」の主人公ラーマ神が生まれた「聖地」だと主張。ヒンドゥー至上主義を掲げるモディ首相は、この土地にヒンドゥー教寺院の建設を選挙公約にしていた。

 

この土地には、かつてムガール帝国時代の16世紀に建てられたイスラム教礼拝所(モスク)があった。しかし、ヒンドゥー至上主義者が1992年、モスクの破壊を強行。その後全土で暴動が起き、約2千人の死者を出した。

 

2002年にはヒンドゥー教寺院建設の運動に関わった人たちの乗った列車が放火され、58人が死亡する事件が起き、全国的な衝突に拡大した。

 

今回の判決をきっかけに対立が再び激化する可能性がある。インド政府はアヨディヤのあるウッタルプラデシュ州の学校を閉鎖し、インターネットも一部地域で遮断。現地には5千人以上の治安部隊を増員し、同州では判決前に500人以上を予防拘禁した。全国で警戒態勢を敷いている。

 

モディ首相は判決後、ツイッターで「判決はどちらの勝訴か敗訴かではない。ヒンドゥー教でもイスラム教でもなく、国家への奉仕が我々には必要だ」と述べ、国民に冷静な対応を呼びかけた。【2019年11月10日 朝日】

*********************

 

“2002年にはヒンドゥー教寺院建設の運動に関わった人たちの乗った列車が放火され、58人が死亡する事件が起き、全国的な衝突に拡大した。”・・・・これに関連してグジャラート州で起きたイスラム教徒虐殺暴動が先述のモディ首相が関与したとの疑惑がある事件です。

 

“インドの最高裁判所は、ヒンドゥー教徒過激派によるモスク破壊行為を違法と判断しつつ、インドの多数派であるヒンドゥー教徒のラーマ信仰の想いを、イスラム教徒が中世以来現実に維持してきたモスクの所有権の上に位置づけたことになる”【イスラム世界との叡智の架け橋

 

モディ首相に「ヒンドゥー教でもイスラム教でもなく、国家への奉仕が我々には必要だ」と言われても、モディ首相のもとで着々とヒンドゥー至上主義が拡大し、司法判断もその流れに取り込まれているように見えます。

 

“(仏教だけでなく)インドのイスラム教徒やキリスト教徒も、(カースト制差別から抜け出すために)下位カーストからの改宗者が多いとされてきた。近年、ヒンドゥー至上主義者が強制的にヒンドゥー教に「再改宗」させる事件も散発する。RSS(モディ首相も属したヒンドゥー至上主義団体「民族奉仕団」)幹部は取材にこう語った。「インドに住み、その文化を信じる者は、みなヒンドゥーなのだ」”【9月11日 朝日】

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする