孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アゼルバイジャンとアルメニア 停戦合意後も続く戦闘 後ろ盾国トルコ・ロシアの思惑

2020-10-17 23:14:59 | 欧州情勢

(アゼルバイジャン西部ギャンジャで17日、現場で捜索、救出活動が続く中、破壊された自宅跡に立つ女性(中央)=ロイター【10月17日 朝日】)

 

【停戦合意後も続く戦闘】

ロシアの仲介で10日に停戦合意が発効したとされる、アルメニアが実効支配するアゼルバイジャン領のナゴルノ・カラバフ地域をめぐる争い・・・・容易には鎮火しそうにありません。

 

****揺らぐ停戦、ロシア火消し アゼルバイジャンとアルメニア****

アルメニアが実効支配するアゼルバイジャン領のナゴルノ・カラバフ地域をめぐり、両国の停戦合意が履行できるかどうか瀬戸際に立たされている。

 

発効から3日経過した13日も戦闘が続き、双方の非難が収まらない。和平協議再開に向け、ロシアなど関係国は沈静化に努めるが、先行きは不透明な状況だ。

 

「我々の情報では、攻撃を決めたのは(アルメニアの)パシニャン首相本人だ」。アゼルバイジャンのアリエフ大統領は12日、テレビのインタビューで語気を強めた。

 

前日に同国西部ギャンジャで集合住宅が爆発で崩壊。同政府はミサイル攻撃によるもので、市民10人が犠牲になったとしている。タス通信によると爆発は停戦合意の発効から14時間後の11日午前2時に起きた。建物は崩れ残ったのは壁一つ。数百メートル離れた場所でも窓ガラスが割れたという。

 

アルメニア国防省はただちに関与を否定した。逆にナゴルノ・カラバフの東側境界線上の複数の場所に攻撃を仕掛けているとしてアゼルバイジャンを非難。インタファクス通信によると、パシニャン氏は12日、「停戦は存在しない」とも述べた。現地からの報道では、境界近くの拠点をめぐる衝突が13日も続いた。

 

両国ともかつては旧ソ連の共和国。アゼルバイジャン内の自治州でありながらアルメニア系住民が多数を占めたナゴルノ・カラバフは、1991年のソ連崩壊を前に独立を宣言。

 

独立を支持するアルメニアとアゼルバイジャンとの軍事衝突が本格化した。この紛争の停戦は94年に成立したが、先月27日に勃発した衝突はそれ以来の規模だ。

 

今回の停戦は10日未明に決まり、同日正午に発効。アゼルバイジャンのバイラモフ外相は合意後「政治解決は支持するが、軍事的手段で領土を回復する権利を持ち、いつでも行使できる」とした。

 

94年以来アルメニアはかつての自治州の範囲を越えてアゼルバイジャンの国土の10%以上の地域を実効支配する。アリエフ氏は90年代初頭に採択されたアルメニア軍撤退を求める国連安保理決議が実行されていないとし「力による解決」の正当性を主張してきた。

 

今回の停戦合意では欧州安保協力機構(OSCE)で続く和平協議を再開させることも盛り込まれた。ただアゼルバイジャンを支援するトルコはこれまでの協議を批判しており、停戦履行が滞ればその枠組みも崩壊しかねない。

 

停戦協議を仲介したロシアは緊迫化する状況の沈静化に努めている。ラブロフ外相は12日、停戦がプーチン大統領とアリエフ氏の合意にもとづくものだったことや、トルコも停戦を支持したと強調。「停戦履行のための課題はわずかだ」と語った。【10月14日 朝日】

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軍事的には、ナゴルノ・カラバフ地域を死守しようとするアルメニア軍に対し、これを奪還しようとするアゼルバイジャン軍の方が優位にあるとも言われています。

 

そうした軍事的優位を実現し、アゼルバイジャンを強気にさせているのが文化的・宗教的に近く、「虐殺問題」で同じようにアルメニアと敵対するトルコの支援。

 

ロシア仲介の停戦合意についても“アゼルバイジャン当局幹部は、「遺体や捕虜の交換のための人道的な停戦だ。(本当の)停戦ではない」とし、同国政府としてはナゴルノカラバフの支配権を取り戻す取り組みを「やめる考えはない」と述べた。”【10月11日 AFP】と、強気の姿勢を変えていません。

 

トルコも同様姿勢でアルメニアのナゴルノ・カラバフ地域からの撤退を求めています。

 

****停戦は恒久解決にならず=トルコ、アルメニアに撤退要求****

トルコ外務省は10日、声明を出し、係争地ナゴルノカラバフをめぐるアゼルバイジャンとアルメニアの停戦について「捕虜や遺体の交換のためで、恒久的な解決策に代わるものではない」と指摘した。その上で、ナゴルノカラバフを実効支配するアルメニアに対する「最後の機会だ」と述べ、直ちに係争地から撤退するよう要求した。

 

トルコは「同一民族の兄弟国」と見なすアゼルバイジャンの後ろ盾。声明では「トルコはアゼルバイジャンが受け入れられる解決策のみ支持する」とも強調した。【10月10日 時事】 

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【戦闘拡大で後ろ盾となっているロシア・トルコを巻き込む可能性も】

戦火が拡大し、全面的な戦争状態ともなれば、アルメニアと軍事同盟関係にあるロシア、アゼルバイジャンを支援するトルコを巻き込む事態ともなりかねません。

 

アゼルバイジャン第2の都市ギャンジャに対するミサイル攻撃に対し、アゼルバイジャン側もアルメニア国内軍事施設を攻撃破壊したとしています。

 

****アゼルバイジャン、アルメニア国内を攻撃 紛争拡大の恐れ****

アゼルバイジャンは14日、アルメニア国内からアゼルバイジャンの都市を攻撃していたミサイル発射装置を破壊したと発表した。係争地ナゴルノカラバフをめぐる両国間の紛争に地域大国のロシア・トルコを引き込む恐れを高める展開だ。

 

ナゴルノカラバフをめぐり2週間にわたり続いている戦闘では、これまでに数百人が死亡。先週にはロシアの首都モスクワで停戦合意が交わされた後も衝突は続き、合意は形骸化している。

 

アルメニアは国内の軍展開地が攻撃を受けたことを認めたが、同国軍によるアゼルバイジャン領土への攻撃はなかったと主張。アルメニア側もアゼルバイジャン国内の軍施設に対する攻撃を開始する可能性があると警告した。

 

アルメニア外務省はその後、アゼルバイジャンが停戦を拒否していると批判。アゼルバイジャンがトルコの支援を受けてアルメニアを攻撃し、紛争地域の「拡大」を企てていると主張した。

 

アルメニアはロシアが主導する集団安全保障条約に加盟しているが、ロシア政府はこれまで、同条約はナゴルノカラバフには適用されず、アルメニア領土のみが対象となるとして介入を拒否してきた。

 

アルメニア系住民が多数を占めるナゴルノカラバフは1990年代のソ連崩壊時に起きた紛争以降、アルメニア系住民によって支配されている。アゼルバイジャンは同地の奪還を目指す意向を繰り返し表明。ナゴルノカラバフの独立宣言を承認している国は今のところない。

 

アルメニアのニコル・パシニャン首相は14日、北部・南部の各前線で分離派の部隊が撤退を強いられたと認め、状況は「非常に深刻」だと表明。国民向けテレビ演説で、「われわれは敵を阻止するために団結し、カラバフの独立を実現しなければならない」と呼び掛けた。 【10月15日 AFP】

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【アゼルバイジャン第2の都市ギャンジャに対する攻撃 アゼルバイジャンは「報復」表明】

17日、アゼルバイジャン第2の都市ギャンジャに対する、11日に続く更なる攻撃があったとされています。

 

*****アゼルバイジャン第2の都市にミサイル、民間人に被害*****

アゼルバイジャン第2の都市ギャンジャで17日未明、複数の民家がミサイル攻撃で破壊された。同国とアルメニアの係争地をめぐる3週間におよぶ紛争はいっそう激化している。

 

ミサイル攻撃があった時、多くの住民は就寝中だった。ギャンジャにいるAFP取材班は、建物群ががれきの山と化し、人々が泣きながら現場から逃げる様子を目撃した。バスローブやパジャマ姿の人も見られ、多くは室内用のスリッパを履いたままだったという。(中略) 

 

イルハム・アリエフアゼルバイジャン大統領のヒクマト・ハジエフ補佐官はツイッターで、第1報として「民家20軒以上が破壊された」と明かした。

 

ギャンジャでは11日に別の住宅地がミサイル攻撃を受け、民間人10人が死亡していた。 【10月17日 AFP】*******************

 

こうなると“アゼルバイジャン政府はアルメニア側からスカッド・ミサイルが撃ち込まれたと主張。(アゼルバイジャンの)アリエフ大統領は17日、「これは戦争犯罪だ。国際社会が罰しないなら、我々が戦場で答えを出す」と述べた。”【10月17日 朝日】と、戦火拡大に歯止めがかからなくなります。

 

軍事的には劣勢とされるアルメニア側が、アゼルバイジャンの都市攻撃で戦火を拡大させる意図はよくわかりません。

 

****南コーカサス紛争****

(中略)ganjaがミサイル攻撃を受けていることは事実のようですが、この町はナゴルノカラバッハから離れていて、報道では特に軍事的に重要ではないとのことですが、アルメニア軍が繰り返し攻撃している理由は不明です。

一つの可能性としては、ナゴルノカラバッハでの戦闘がアルメニア側に不利に進んでいるので、第2戦線と言うか、離れた場所で攻撃し、ナゴルノカルバッハ地域に対する圧力を軽減することでしょうか?

もう一つは人口比率からも、長期間の戦闘はできないため、国際社会に対してアルメニアの決意を示し、その介入と停戦の実施を求めるシグナルと言うことです。

いずれにしてもトルコは非難していますが、民間目標に対する攻撃に対して、米仏等があまり反応していないのは興味深いところです。(後略)【10月17日 中東の窓】

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なお、“ロシアのノーボスチ通信によると、アルメニア国防省は同国領からの攻撃も同国軍の空爆も行われていないとして関与を否定している。”【10月17日 朝日】とのことです。

いくら何でも、アゼルバイジャン側の自作自演ということはないでしょうが・・・。

 

【微妙なロシアとトルコの関係 本音では関係悪化は望んでいないのでは】

双方の後ろ盾となっているロシアとトルコの関係も微妙です。

 

ロシアとしては、シリアやリビアでもトルコと利害が対立するものがありますが、一方で、それだけにトルコとの関係が決定的に悪化することは望んでいないでしょう。利害対立はあるものの双方がなんとか協調して枠組みを維持できる状況を保ちたいところ。

 

エルドアン大統領の“新オスマン主義”で欧米と対立することも多いトルコも、アメリカを敵に回してまでロシアのミサイルを導入し、欧米をけん制するというように、ロシアとの関係は維持したいところでしょう。

 

****トルコでミサイル実験か=ロシア製S400の可能性****

トルコ軍は16日、同国の黒海沿岸地域で、ミサイルの発射実験を行ったもようだ。ロシア製の地対空ミサイルシステム「S400」が使用された可能性もある。

 

S400であれば、北大西洋条約機構(NATO)加盟国によるロシア製兵器導入を深刻視する米国などが強く反発するのは避けられない状況だ。

 

トルコ当局はこれより先、「発射訓練」を行う予定があるとして、特定の空域、海域に入らないよう警告のメッセージを出していた。ロイター通信などによると16日、対象地域でミサイルが発射されるのが映像で確認された。【10月16日 時事】 

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なお、アメリカはトルコのアゼルバイジャン支援を批判しています。

 

****ナゴルノ紛争でトルコ批判=ポンペオ米国務長官*****

ポンペオ米国務長官は15日、米テレビのインタビューで、アゼルバイジャンとアルメニアの係争地ナゴルノカラバフをめぐる軍事衝突について、アゼルバイジャンの後ろ盾のトルコが「リスクを高めている」と批判した。その上で外交交渉を通じた事態の平和的解決を呼び掛けた。

 

ポンペオ氏は「トルコがアゼルバイジャンに資源を提供し、現地での戦力を強化している」と述べ、第三国の介入に反対すると強調。劣勢の伝えられるアルメニアが「アゼルバイジャンの行為を防御できるようになり、停戦が機能することを望んでいる」とも語った。【10月16日 時事】 

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また、東地中海問題で“トルコのガス田探査船、東地中海で作業を開始”【10月14日 ロイター】ということで、今後欧州のトルコ批判・圧力が強まることが予想されます。

 

そうした情勢で、アゼルバイジャンに深入りしてロシアを敵に回すことになれば、トルコとしては周りは敵だらけという状況にもなりますので、そうしたことはエルドアン大統領も望まないのでは。

 

当然ながらプーチン・エルドアン両大統領の間では協議がなされています。

 

****ナゴルノカラバフ紛争解決目指す トルコ、ロシア首脳が電話会談****

トルコのエルドアン大統領は14日、ロシアのプーチン大統領と電話会談し、アゼルバイジャンとアルメニアが衝突するナゴルノカラバフ紛争に関して協議した。従来の国際的な枠組みのほか、関係国との2国間の枠組みを通じて問題の「永続的な解決」を目指す考えを伝えた。トルコ大統領府が発表した。

 

アゼルバイジャン支持のエルドアン氏は、アルメニアが「(係争地)占領を恒久化しようとしている」と改めて非難。同紛争の平和解決を目指し、トルコもメンバーの欧州安保協力機構(OSCE)内の「ミンスク・グループ」の枠組みに加え、関係国との2国間協議に意欲を見せた。【10月15日 共同】

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もっとも、今回のギャンジャへのミサイル攻撃のような形で現地情勢が緊迫化すると、プーチン・エルドアン両大統領の思惑にもかかわらず事態が制御不能的に拡大する危険もあります。

 

何としても「失地回復」したいアゼルバイジャンとしては、頭越しにトルコとロシアが手打ちするようなことは不快でしょう。

そうさせないためには、中途半端な手打ちができないように事態を悪化させる・・・という可能性も。あくまでも可能性の話です。

 

コメント
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