孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エチオピア  長期化する紛争 凄まじい暴力 深刻化する飢餓

2021-10-01 21:42:49 | アフリカ
(エチオピア北部ティグライ州の州都メケレの病院で手当てを受ける深刻な栄養失調の子ども【10月1日 朝日】)

【ティグレ人勢力の反転攻勢で紛争は長期化】
これまで何回か取り上げてきたエチオピア情勢。

長年権力を牛耳って権益を独占してきた少数民族のティグレ人を排除して、民族単位ではない国家を構築しようというアビー首相(ノーベル平和賞受賞者)の試み、それに反発したティグレ人が昨年11月に反乱。

その反乱を鎮圧する政府軍に加え、旧政権時代のティグレ人に遺恨がある隣国エリトリア軍も介入して、反乱を抑え込んだように見えましたが、その後情勢は変化。

ティグレ人側が反転攻勢をかけるようにもなっているようですが、あまり情報がなく、現在どのようになっているのかよくわかりません。

半月程前の下記記事によれば、ティグレ人勢力は“ティグレ州に隣接するアムハラ州などに進入し、緊張が続いている”とのことです。
アムハラ州をおさえれば、首都アジスアベバは目前です。

****対エチオピア、米が制裁警告 停戦を要請****
バイデン米大統領は17日、エチオピア北部の紛争当事者である連邦政府軍とティグレ人民解放戦線(TPLF)などを対象にした制裁を可能とする大統領令に署名した。

ブリンケン国務長官は声明で速やかに停戦しなければ制裁を発動すると警告、停戦交渉に応じるよう要請した。制裁対象にはエチオピアに派兵しているエリトリア軍なども含まれる。

米政府高官は紛争の影響で最大90万人が飢饉(ききん)に見舞われ、500万人以上が人道援助を必要としていると指摘。「世界最悪の人道危機の一つ」に当たるとして危機感を強めている。

エチオピア北部ティグレ州では、州を統治していたTPLFが連邦政府を率いるアビー首相と対立し、昨年11月に武力衝突に発展。連邦政府は6月下旬に停戦を宣言したが、その後もTPLFはティグレ州に隣接するアムハラ州などに進入し、緊張が続いている。【9月18日 日経】
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政府軍とティグレ人民解放戦線(TPLF)の戦いに加え、アムハラ州の拡大主義勢力が第3の勢力として、政府軍およびTPLF双方に戦いを仕掛けているらしいとの情報も。【8月30日 MAG2NEWSより】

【政府軍、ティグレ人勢力双方に凄まじい暴力 広がる飢餓の恐怖】
戦況はよくわかりませんが、確かなことは凄まじい暴力と、その結果としての飢餓が深刻になっていることです。

****エチオピア紛争での残虐な性暴力、女性らが証言 人権団体報告****
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは11日、エチオピア北部ティグレ州の紛争で、エチオピア軍とエリトリア軍の兵士が数百人の女性や少女をレイプし、性奴隷として扱ったり、性器を激しく傷つけたりする残虐行為に及んだとする報告書を発表した。
 
ティグレ州での残虐行為についてはエチオピア当局がすでに捜査を進めており、これまでに少なくとも3人の兵士が有罪判決を受け、25人が起訴された。アムネスティが被害者63人に対するインタビューに基づきまとめた今回の報告書からは、これまで明らかになっていなかった実態が浮かび上がっている。
 
被害者の中には、数週間にわたり拘束され集団レイプを受けた人や、家族の目の前でレイプ被害に遭った人もいた。釘や石などの異物を性器に挿入され、「長期的かつ、回復不能な可能性もある損傷」を受けたとの証言もあった。
 
アムネスティのアニエス・カラマール事務総長は、「レイプや性暴力が、ティグレの女性や少女の心身に長期的損傷を与えるための戦争の武器として使用されたのは明らかだ」と指摘。「行われた性犯罪の深刻さや規模は特におぞましく、戦争犯罪に相当するものであり、人道に対する罪に当たる可能性もある」と述べた。
 
エチオピア外務省はツイッターに投稿した声明で、性的暴行の疑いが掛けられている兵士の責任を追及する当局の努力を強調。アムネスティによる調査は「不十分で、厳密さが決定的に不足している」と反発した。
 
2019年のノーベル平和賞を受賞したエチオピアのアビー・アハメド首相は昨年11月、ティグレ州の与党「ティグレ人民解放戦線」を制圧するため、同州に派兵。以来、エチオピア北部では暴力がまん延している。
 
AFP通信は過去に、エチオピア軍やエリトリア軍の兵士から集団レイプを受けた複数の被害者にインタビューを行っている。 【8月12日 AFP】
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****性暴力や拷問、虐殺も。タリバン報道の裏で進行するアフガン以上の悲劇****
(中略)電話やインターネット回線という情報インフラが、政府によって意図的に遮断され、北部ティグレ州をはじめ、TPLFが奪還したと言われているアムハラ州やアファール州でも情報発信が妨害され、かつ国内外のメディアのアクセスも政府軍が阻止しているせいで、伝えられる情報はほとんどアビィ政権側(とその仲間たち)の見解や主張ばかりであり、TPLF側の主張やアビィ政権に反感を抱く勢力側の情報が伝わらないため、なかなか実情が掴めないのが事実です。

そのような中、途切れ途切れではありますが、伝えられてくる情報のかけらを集めて分析してみると、いくつかの懸念すべき状況が見えてきます。

一つ目は、各地で繰り広げられる武装勢力による一般市民への虐待や人権蹂躙の横行です。

TPLFが侵攻したアムハラ州やアファール州では、TPLFの構成員による一般市民のリンチや組織的な性暴力、18歳以上の成人男子の殺害、脅迫と拷問の末、無理やりTPLF側の戦闘員にされてしまうという事例が頻発していると言います。それを逃れた者たちが、政府軍側に協力してTPLFへの反攻に加わっていると言われています。

しかし、政府軍サイドも決して正義の味方ではないようです。TPLFが行っているのと同じような内容の蛮行がTPLFとの交戦エリアで繰り広げられており、それを常に情報ルートを使ってTPLFの仕業と非難しているという主張をしているようです。

特に政府軍がティグレ州で行っているティグレイ人への拷問や虐殺、集団的性犯罪などは残虐性を極めているという情報があり、それを指示しているか、もしくは黙認しているアビィ首相と繁栄党のTPLFに対する怨念とも感じられる状況です。

そして状況をさらにややこしくしているのが、隣国エリトリアの紛争への介入です。(中略)一旦エリトリア軍は撤退しましたが、今年6月の戦闘激化を機に、また越境し、TPLFのリーダーであるゲブレミカエル氏に瀕死の重傷を負わせ、その後もティグレ州に居座って、州内で一般市民に対する蛮行を繰り返しているということのようです。

(中略)そして、ここ数か月ほど、ティグレ州とスーダンの避難民に国際的な支援を届けるための主要ルートにあるテケゼ橋が何者かによって爆破され、現在、ティグレおよび避難民への支援が届かない様子とのことで、対象地域における食糧事情や衛生状態が著しく悪化しているという報告がもたらされています。
まさに人道的な危機が発生しています。

政府軍側はTPLFによる犯行との声明を出していますが、TPLFにとってそのような行為を行う理由が見当たらず、支援を行う国際機関や欧米諸国はアビィ政権側の言い分を受け入れず、代わりにアビィ政権軍とアムハラ州軍によるティグレに対する非人道的な行為とみなして、激しく非難するに至っています。

それを受けて、すでにアメリカのバイデン政権は対アビィ首相およびエチオピア政府に対する支援を凍結し、同時にアメリカ政府はエチオピア政府に制裁を課しています。

そして最近、越境してティグレ州の一般市民に対する非人道的な行為を繰り返しているエリトリア軍も、米政府のGlobal Magnitsky Human Rights Accountability Actを適用して、制裁対象としています。

欧州各国政府もそれに続くようで、今後、対エチオピアおよびエリトリアに対する制裁が課されることになりそうです。もちろん、エチオピア政府のアビィ首相も、隣国エリトリアも全面的に非人道的な行為に対しては否定していますが、それが制裁の発動を食い止めることにはならなさそうです。

TPLF側も、政府側も、そしてエリトリアも人権侵害に加担していることは明らかですが、欧米諸国が執拗にアビィ政権などを非難する理由は、さまざまな背景がありそうです。(後略)【8月30日 MAG2NEWS】
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****エチオピア北部の村で125人虐殺か ティグレ人民解放戦線は犯行否定****
エチオピア北部アムハラ州の村で今月初め、少なくとも125人の住民が虐殺されたと、地元の医師らや当局者が8日、AFPに明らかにした。

隣接するティグレ州の与党でエチオピア連邦政府と対立する「ティグレ人民解放戦線(TPLF)」の犯行だとの指摘があるが、TPLF側は否定している。
 
エチオピア北部では政府軍とティグレ人系反政府勢力の紛争が10か月にわたって続いており、これまでに数千人が死亡。虐殺の報告も相次ぎ、大きな人道危機が起きている。【9月9日 AFP】
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【エチオピア政府 国連支援活動とも軋轢】
こうした紛争の常として、暴力行為は敵対する双方に起きているといったところのようですが、欧米を中心とする国際世論は国際支援を妨害しているともとられるエチオピア・アビー政権に対し厳しいものとなっています。

エチオピア政府側には、そうした国際世論への反発も強いようです。

****エチオピア、国連職員7人に国外退去命令 政府批判への報復か****
エチオピア外務省は9月30日、ユニセフのエチオピア事務所代表など国連職員7人が内政に干渉したとして、「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」に指定。72時間以内の国外退去を命じた。フェイスブックで発表した。詳細を明らかにしていないが、政府批判への報復の可能性がある。
 
発表によると、対象になったのは他に、国連人権高等弁務官事務所の職員1人と国連人道問題調整事務所(OCHA)の職員5人。
 
ロイター通信によると、国連のマーティン・グリフィス緊急援助調整官が同月28日、「ティグライ州の州境が約3カ月にわたって事実上封鎖されている」などと話し、援助物資の配送が制限されていると政府を批判していたという。
 
ティグライ州では昨年11月から政府軍と地元政党TPLFの間で軍事衝突が勃発。国連によると、これまでに州内では200万人以上が住まいを追われ、500万人以上が食料などの支援を必要としている。うち約40万人は飢餓に近い状態とみられている。
 
国連のグテーレス事務総長は国外退去の発表を受け、「エチオピアでは、絶望的な状況にある人々に国連が食料、医薬品、水、衛生用品などの援助を行っている」「職員が重要な仕事を続けることができるよう政府に働きかけている」などとする声明を発表した。【10月1日 朝日】
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この紛争が表面化するまでは、アビー首相に対しては、隣国エリトリアとの関係改善、近隣諸国紛争の調停などで大きな期待も抱いたのですが・・・

****国家としての統一性が揺らぎはじめたエチオピア内戦****
(中略)アビィとTPLFの和解は容易ではなく、これを契機に、民族の枠を超えた中央集権国家を目指すアビィ政権と有力な民族を基盤とする地域政党の間の対立が深まり、エチオピアの国家としての統一性が揺らぐ懸念がある。

7月3日付のエコノミスト誌の記事は「(ティグレ人民解放戦線TPLEによるティグレ州都)メケルの奪還は、数週間で終わるとアビィ政権が考えていた内戦の転換点となる。ティグライを武力で屈服させるアビィの試みが頓挫しただけでなく、アフリカで第二の人口を有する民族派閥により構成される連邦国家が崩壊する恐れがある」

「欧米の外交官や地域の国々の政府関係者が最も懸念しているのは、エチオピアの脆弱な民族連邦の安定性である。TPLF指導者は、未だ分離独立を呼びかけてはいないが、多くの若いティグライ人たちは、明確に分離独立を主張している」などと報じている。【7月19日 WEDGE】
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分離独立運動、激しい戦い、飢餓・・・同じアフリカのナイジェリアにおいて、“厳しい飢餓と、栄養不足から来る病気、北部州における虐殺により、少なくとも150万人を超えるイボ人が死亡した”【ウィキペディア】とされるビアフラ戦争(1967年7月6日 - 1970年1月12日)を思い出しました。
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