孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン テロと飢餓に直面するタリバン統治 タリバンに求められる国内外の声に耳を傾ける姿勢

2021-10-16 22:39:26 | アフガン・パキスタン

(カブールで6日、タリバンがパスポート発行を再開すると発表したことを受け、オフィスに殺到した人々=ロイター。パスポートを取得して国外に脱出したいと願う人たちが多い【10月15日 朝日】)

【タリバン支配を不安定化させるテロ攻撃と食糧難・飢餓】
タリバンが統治するアフガニスタンでは、敵対するIS系勢力による大規模テロ攻撃が続いており、また、食糧難・飢餓が深刻化していることで、タリバンの統治能力に疑念を抱かせるような不安定な状況が続いています。

****2週連続で大規模テロ タリバンに打撃 ISが犯行声明****
アフガニスタン南部カンダハルのイスラム教シーア派のモスク(礼拝所)で起きた爆発で、スンニ派過激派組織「イスラム国」(IS)系の「ホラサン州」(IS−K)が15日、犯行を認める声明を出した。AP通信は爆発による死者が47人、負傷者が70人になったと報じた。

国内では8日にも北部クンドゥズでIS−Kによる自爆テロが発生し、50人以上が死亡した。2週連続で大規模テロが起きたことで、国内の実権を握ったイスラム原理主義勢力タリバンの治安維持能力が疑問視されている。

声明によると、IS−K戦闘員2人が警備員を射殺してモスクに侵入し、礼拝中の住民の間で自爆したという。IS−Kは敵対するタリバンへの攻撃とともに、国内少数派のシーア派住民を狙ったテロも繰り返している。【10月16日 産経】
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かつては、タリバン自身が(IS系と異なり、一般市民は対象としないとはしていましたが)自爆テロなどで政権を揺さぶっていましたが、現在はIS系勢力のテロに苦しむというのも皮肉な事態です。

テロも重大な問題ですが、より深刻・広範な問題は食糧難・飢餓の問題。

今日、10月16日は「世界食料デー」とのことですが、WFP(国連世界食糧計画)日本事務所は15日、「アフガニスタンの95%の家庭が十分な食料を得ることができていない」と支援を呼びかけています。

アフガニスタンの食糧難はタリバン支配以前からの問題ですが、タリバンが支配権を掌握して以来、経済は混乱し、頼みの綱の国際支援も滞り、事態は更に深刻化しています。

****アフガ二スタン 多くの国民が食事をとれない危機的な状況****
アフガニスタンでは、ことし8月にイスラム主義勢力、タリバンが再び権力を掌握して以降、現金不足などで経済の混乱が続いていて、多くの国民が十分な食事をとれない危機的な状況となっています。

アフガニスタンでは、海外にある政府の資産が凍結されるなどして現金が不足しているため、多くの人が給料を受け取れないうえ、仕事を失った人も多く、経済状況が極端に悪化しています。

さらに、ことしの干ばつの影響に加えて、再び権力を握ったタリバンの統治の行方を見極めようという各国の人道支援も滞り、食料不足が深刻化しています。

WFP=世界食糧計画によりますと、アフガニスタン国内で毎日の食事を十分にとれない人は、ことし8月のタリバンの復権の前でも80%いましたが、その数はタリバンが権力を握ったあと急増して、現在は、国民の95%に上るということです。

中でも子どもたちの食料不足は深刻だということで、WFPは、年末までに5歳未満の子どもたちのおよそ半数が急性の栄養失調となり、少なくとも100万人が命を落とす危険性があると警告しています。

WFPが人道支援に必要な資金は、年末までに1億ドル(日本円でおよそ110億円)が足りないということで、各国に対し緊急の支援を呼びかけています。

子どもたちの施設 支援届かず 食事提供できなくなるおそれ
首都カブールにある施設では25年余りにわたり、親を失った子どもたちなどに簡単な読み書きを教えたり、温かい食事を提供したりしてきました。

毎日この施設に通うアリシュ・シャハユムさん(13)は5年前、アフガニスタン政府軍の兵士だった父親がタリバンとの戦闘で亡くなりました。

母親と2人の弟を養うため、路上でプラスチックの袋を売る毎日ですが、一日の稼ぎは400円足らずほどしかありません。

学校にはこれまで一度も通ったことがないといいます。日々、厳しい生活を送るアリシュさんにとって、施設で提供される温かい食事がいちばんの楽しみだといいます。

この日出されたのはごはんと豆の煮込みで、アリシュさんは「ここの食事はおいしいです。一日のうちで食事と呼べるのは、このランチしかありません」と話していました。

しかし、タリバンの復権以降、アフガニスタンの経済が危機的な状況となり、施設では子どもたちに食事を提供できなくなるおそれが出ています。

これまでNGOを通じて施設を支援してきたアメリカやヨーロッパ各国はタリバンの統治の行方を見極めようと、援助を見合わせました。

その後、各国は今月になって国連を通じた人道支援への資金の拠出を表明しましたが、まだ施設への援助は届いていません。

もともと施設の予算が限られ、肉などの高価な食材は使えませんでしたが、物価の高騰もあって十分な食材を調達することができず、保存していた米や豆を使った料理で何とかしのいでいるといいます。

施設の担当者は「支援金が届かず困難に直面しています。いつになったら資金が調達できるのか、いつまで子どもたちへの支援が続けられるのか分かりませんが、最善を尽くしたいです」と話していました。

食事を終えたアリシュさんは「施設は僕にとって家のようなものです。もし行けなくなったら食事も食べられなくなり、どうしたらよいか分かりません」と不安な様子で話していました。

WFP「目の前で状況がみるみる悪化している」
NHKのインタビューに応えたアフガニスタン事務所のメアリー・エレン・マクグロアーティ代表は、現在のアフガニスタンの食料不足について「200万人以上の子どもたちが栄養失調の危機にあり、信じられない割合に増えています。これが本当の危機です。目の前で状況がみるみる悪化しています」と話し、強い危機感を表しました。

そして「最も苦しむのは子どもと女性です。彼らは食べることもできず、体を温めることもできないのです」と訴えました。

支援が必要な人が増える中、WFPは今、深刻な資金不足に直面していて、冬が近づく中、状況の悪化に懸念を強めています。

冬になると特に北部の山岳地帯では、支援物資を運ぶルートが雪に覆われて通行できなくなるため、今のうちに物資を調達する必要がありますが、資金不足で確保できず、食料などを届けられないおそれがあるということです。

マクグロアーティ代表は「年末までに1400万人に支援を行いたいので、緊急にあと1億ドルが必要です。私たちは家族や子どもの平和やよりよい暮らしを願いますが、それはアフガニスタンの人も一緒です。世界のどこに住んでいても、私たちは同じ人間なのだということを忘れないでほしい」と訴えました。【10月16日 NHK】
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WFPの支援活動については、タリバンもその活動を保証しているようです。しかし、女性の就業について現時点では限定的にしか認めていないタリバンの姿勢によって、女性スタッフは不安を抱えながらの活動にもなっています。

そのたりの事情について、WFP日本事務所は以下のようにも語っています。

****支援活動の安全を確保も、女性スタッフに不安****
(中略)
――支援活動で危険を感じることは?

タリバンは、自分たちが人道支援を必要としていることを理解していて、私たちは標的ではないと保証しました。私たちは何年にもわたってタリバンに対応してきました。アフガンは一夜にしてタリバンに占拠されたわけではありません。私たちはタリバンと交渉して人道的アクセスを確保し、戦闘に巻き込まれることを回避してきました。そのため、国連WFPの活動に関しては、継続するのに十分な安全性があると考えています。(中略)
――女性スタッフへの影響は?

その質問に一言で答えるなら「ある」です。女性スタッフは大きな不安を抱えています。現在、80人の女性スタッフが働いています。何人かはマザリシャリフ(北部バルフ州の州都)やファイザバード(北東部バダフシャン州の州都)、そして私たちがカブールで運営している国連人道支援航空サービスで、すでに仕事に復帰しています。

しかし、タリバン暫定政権のトップレベルから女性スタッフの職場復帰が認められているとの確証が得られているとはいえ、仕事をすることに不安を感じる人もいます。現地のタリバン指揮官によって、状況が違うことがあります。女性スタッフは、出勤した場合に標的にされる可能性があることを非常におそれています。

――どのように対処している?

スタッフを強制的に出勤させることはありません。彼女たちが不安を感じた場合、可能な限りリモートで作業します。私たちはタリバンの指導者に対して、性別を問わず、すべてのスタッフの出勤を認め、国連機関が取り組んでいる職務の遂行を妨げてはならないと訴えています。私たちは人道的な理由で、人道的な原則に基づいて活動しています。独立し公平であり、私たちの活動やスタッフに対するいかなる干渉も受け入れることはできません。【10月15日 日テレNEWS24】
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【国際社会は人道支援では一致するも、制裁解除などについてはタリバンの姿勢を見極めてから】
こうした事態に国際社会も児童支援の必要性では一致していますが、欧米諸国はタリバンの人権、特に女性の権利に対する姿勢が明確に示されていない現状では制裁解除や国家承認は行わない方針で、人道支援が十分に機能するか不透明な部分もあります。

また、中国も人道支援では一致するものの、欧米とは異なる独自のアプローチに力点を置いています。

****G20首脳がアフガン情勢を協議 首相、年内220億円の支援表明****
主要20カ国・地域(G20)は12日、アフガニスタン情勢について初めてとなる首脳レベルの臨時会合をオンラインで開いた。岸田文雄首相にとって就任後初の国際会議への参加となった。

各国は人道支援の重要性を強調。ただ、中国の習近平(シーチンピン)国家主席やロシアのプーチン大統領は参加せず、足並みの乱れが懸念されている。

8月にタリバンが権力を掌握して2カ月近くが経ち、アフガニスタンでは人道危機が深刻化。国連世界食糧計画(WFP)によれば、1400万人が深刻な食料不足にあり、320万人の子どもたちが深刻な栄養失調に陥る恐れがある。
 
一方で、タリバンへの経済制裁による資産凍結や援助資金の停止によって国内経済は財政難にある。

国連のグテーレス事務総長は11日、人道支援を続けるためにも「アフガン経済の崩壊を何としても防ぐ必要がある」と訴えた。だがタリバンへの制裁解除に応じるかどうかは各国の意見が割れており、人道支援に向けてG20が歩調を合わせられるかが焦点となっている。
 
米ホワイトハウスは会合後、テロ対策や国外退避を望む人々の安全確保について議論したと発表した。また「国際機関を通じてアフガニスタンの人々に直接人道支援を届け、女性や少数派を含む全ての人々の基本的人権を促進することを各国が再確認した」とした。
 
ただ、米国はタリバンをテロ組織に指定しており、経済制裁を早期に解除するつもりはない。制裁維持によってタリバンに圧力をかけつつ、女性の権利尊重やテロ対策などの要求事項を守らせたい考えだ。タリバンへの圧力を強めるためにも、各国との協調が重要となる。
 
日本政府によると、岸田首相は人道危機に対応するため、6500万ドル(約71億円)規模の新規分を含め、今年中に総額2億ドル(約220億円)の支援を行う考えを表明。「タリバンがテロ組織との関係を断ち切ることが不可欠」との認識を示した。

対タリバン、米中の違いが浮き彫りに
また、「すべてのアフガニスタン人の人権、特に女性が学び、働くことができる環境を守ることは将来の発展に不可欠だ」と指摘。タリバンに対し、国際社会が一致して粘り強く働きかけていくべきだと訴えたという。
 
欧州連合(EU)もアフガニスタンの国民と近隣国のためだとして、約10億ユーロ(約1300億円)の支援を申し出た。

EUはアフガンへの開発支援を凍結したままで、タリバンの暫定政権も認めていない。だが、経済状況の悪化が進むなかで、飢餓などの人道危機を回避するためだとしている。

行政を担う欧州委員会のフォンデアライエン委員長は会合前、「私たちはアフガン当局とのいかなる約束にも明確な条件を設けているが、市井の人々がタリバンの行動の代償を払うべきではない」とした。すでに計画していた人道支援に加え、予防接種や市民の避難などの専門的な支援をするという。
 
一方、この日の臨時会合に中国からは習氏は参加せず、王毅(ワンイー)国務委員兼外相が出席。アフガン問題を議論した9月の上海協力機構(SCO)首脳会議には習氏がオンラインで参加しただけに、米欧より、SCOに加盟するロシアやパキスタンなどとの協調を重視する姿勢がにじんでいる。
 
中国政府は先月、SCO加盟国のロシア、パキスタンとそろってアフガニスタンに特使を派遣し、タリバン側と会談。タリバンに対して一定の影響力を持つ両国と歩調を合わせて接触を重ねつつ、穏健な政権づくりを促す方針だ。
 
米国とはテロ対策の必要性では一致するが、タリバンとの向き合い方が異なっている。中国は医薬品など総額2億元(約35億円)分の支援をすでに約束し、暫定政権へ受け渡しを始めた。中国外務省によると、王氏は会合で一刻も早い援助の必要性を主張した上で、「一方的な制裁は解除すべきだ」と呼びかけた。
 
蘭州大学アフガニスタン研究センターの朱永彪主任は「タリバンに対する姿勢の違いが、アフガン問題で中米の協調を難しくしている」と語る。
 
先立って9月にオンラインで開催されたG20外相会議では、女性の権利尊重をタリバンに求めることで各国が一致したものの、対タリバン制裁をめぐっては米中の姿勢の違いが浮き彫りとなっていた。【10月13日 朝日】
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【現場において変化が認められないタリバン統治の暴力性】
日本を含めた欧米諸国もタリバン支配のアフガニスタンにどのように向き合うか悩ましいところです。
人道支援は必要ですが、人権を十分に保証していない現状においてタリバン統治を認めることもできません。

タリバン側の姿勢にも、目だった変化も見られていません。

****記者を暴行、脅迫、出勤停止… タリバン支配2カ月、言論の危機****
アフガニスタンでイスラム主義勢力タリバンがガニ政権を崩壊させ、権力を握ってから、15日で2カ月となる。タリバンは報道の自由をうたうが、実際には嫌がらせを受けた報道機関の休業や記者の拘束が相次いでいる。
タリバンによる支配への抗議や弱い立場にある女性の声は、ますます届きにくくなっている。
 
政権崩壊直前の8月中旬、東部ジャララバードのテレビ局「エニカスTV」でショクルラ・パスン記者(43)は番組の準備をしていた。そこに突然、タリバンの戦闘員らが現れた。戦闘員は「メディアは外国勢力の差し金だ」とののしり、局内を見回した後、取材車両3台を奪って帰ったという。
 
激戦地で取材するエニカスTVは、2018年に経営者が一時誘拐され、今年3月には女性局員3人が帰宅中に射殺されるなど繰り返し武装勢力の標的にされてきた。「市民と政治をつなぐ橋になる」ことを目標に報道を続けたが、タリバンの復権は記者たちを動揺させた。経営陣が国外脱出し、局の閉鎖が決まった。
 
閉鎖前から、パスン記者の携帯電話には不審な着信があったという。「タリバンはメディアを萎縮させ、批判を封じ込めている。市民の声を代弁する批判こそが政治を鍛える土台となることを理解していない」と憤る。現在は東部の自宅を離れ、親戚宅を転々として暮らす。
 
現地のジャーナリスト保護団体の調査によると、この2カ月間で国内の報道機関の約7割が休業したという。地元テレビは、政権崩壊から1カ月ほどで休業した活字メディアが153社に上ったと伝えた。米国の制裁などで経済がまひし、広告収入の減少で、記者に給料が払えないことも一因となっている。
 
特に苦しんでいるのはタリバンが敵視してきた女性記者たちだ。タリバン傘下に入った国営テレビ「RTA」では女性キャスターが出勤を止められた。国際NGO「国境なき記者団」が8月末に公表した報告によると、首都カブールの女性記者約700人のうち政権崩壊後も働いているのは100人に満たないという。
 
北部バルフ州のラジオ局などに人権擁護を訴える記事を届けてきたフリーランスの女性記者(25)は「タリバンから親戚伝いに執筆をやめるよう脅され、いま首都に逃げている」と話す。欧米メディアの現地スタッフとして働いた記者が退避対象になるなか、フリーランスの多くは脱出できずにいるという。
 
国内では抗議デモを取材する記者がタリバンに暴行されたり、機材を取り上げられたりする事案が相次いでいる。記者が減った東部ではタリバンの車両を狙った爆発が続発しているが、タリバンは取材を規制し、被害規模を公表しない。
 
一方、タリバンは見せしめ的な処刑や財産没収を公表し、反対派を牽制(けんせい)している。処刑や財産没収の法的根拠は明らかでない。
 
女性記者は「監視の目がなくなれば、誰も説明責任を果たさなくなる」と危惧する。これまでも女性の立場は弱かったが、児童婚や家庭内暴力に苦しむ女性の記事を書けば、NGOや人権活動家が動く希望があった。

女性記者は訴える。「堂々とものが言える社会には、内外の厳しい目が欠かせない。どうかアフガニスタンに目を向け続けてほしい」【10月15日 朝日】
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タリバンは長年、外国勢力を排除し、イスラム法による統治を実現することを掲げて戦ってきましたが、いざ政権を手にれると、国を統治することの難しさを今実感しているのではないでしょうか?

国際的な協力、国民の理解なくしてまともな統治はできません。そのためにはタリバン自身が国内外の声に真摯に向き合い、一定に譲歩し、変化していかなければなりません。
タリバンにそれができるか・・・・口ではいろいろ言ってはいますが、いまのところ実行が伴っていません。

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