孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州移民・難民問題  ベラルーシ国境でピンポン球のように扱われる移民 再び壁を作る中東欧

2021-10-29 22:50:10 | 難民・移民
(ポーランドのベラルーシとの国境に座るレバノン人のアリ・アブド・ワリスさん(2021年10月22日撮影)【10月29日 AFP】)

【ピンポン球のように扱われる「兵器としての移民」】
不正が強く疑われる大統領選挙以来、反政府活動を強権的にねじ伏せているベラルーシのルカシェンコ大統領ですが、EUからの批判・制裁への意趣返しに、中東移民・難民を意図的に欧州側に送り込んでいるとされています。

****ポーランドが緊急事態宣言 「ベラルーシから大量の不法移民」****
ポーランドのドゥダ大統領は2日、隣国ベラルーシから大量の不法移民が送り込まれているとして、国境の二つの地域で緊急事態宣言を発令した。

ロイター通信によると、30日間にわたって多人数の集会が禁止されるなどの措置が取られるという。東西冷戦期の共産主義政権が崩壊して以降、ポーランドが同様の宣言をするのは初。
 
ポーランドも加盟する欧州連合(EU)は昨年以降、強権姿勢を強めるベラルーシのルカシェンコ政権と対立。今年5月の民間機強制着陸問題などを受け、EUは6月にベラルーシに経済制裁を発動した。
 
こうした中、ベラルーシと国境を接するポーランドやリトアニア、ラトビアでは、ベラルーシを経由した移民が急増。8月だけで3500人が不法にベラルーシからポーランドへ入国しようとしたという。

このため、ベラルーシがEUの制裁に報復する形で「意図的に移民を送り込んでいる」(ポーランドのモラウィエツキ首相)との批判が高まっていた。
 
ポーランドの大統領報道官は2日、「自国の国境だけでなく、EUの国境にも責任を持ち、安全を確保するための措置を取らなくてはならない」と述べた。【9月4日 毎日】
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ベラルーシ側は、「兵器として」欧州に送り込む移民・難民を中東各地で集めているとも言われています。そして、送り出した移民らが戻ってくることは許さず、一方通行です。

一方のポーランドなど隣接国も受入れを強硬に拒否しており、移民・難民は両者の間で“ピンポン球のように扱われ”、行き場を失う状況ともなっています。

****「家に帰りたい」 ベラルーシ・ポーランド国境で立ち往生 レバノン移民****
レバノン出身の理髪師アリ・アブド・ワリスさんは森の中で疲れ果て、寒さに震えている。ベラルーシからポーランドの国境を越え、欧州連合域内に入ろうと試みたこの1週間を後悔している。

「嫌いな人にさえ訪れてほしくないようなみじめな目に遭っている。悪夢だ」と、クローン病を患うアブド・ワリスさんはAFPに語った。
 
国境を越えればポーランド東部の町クレシュチェレだ。松葉と枯れ葉のベッドに足を組んで座るアブド・ワリスさんは、ベラルーシの国境警備隊にピンポン球のように扱われている。
 
国境を越えようと5、6回試みたが、見つかるたびに戻されたという。ベラルーシ側は、アブド・ワリスさんを首都ミンスクに戻すことを拒否している。
 
国境警備隊に「選択肢は二つ。ここで死ぬか、ポーランドで死ぬかだ」と言われた。
 
今年8月以降、数千人の移民がベラルーシ、ポーランドの間の400キロにわたる国境線を越えようと試みている。その大半が中東出身者だ。

アブド・ワリスさんはより良い生活を求めて、経済危機に陥っているレバノンを後にした。地元ベカーからこの地に来るまで4000ドル(約45万円)の費用が掛かった。ソーシャルメディアで見つけたミンスクに拠点を置く企業から支援を得ている。

ポーランドに前例を見ない数の移民が流入していることについて、EU側は、ベラルーシに対する経済制裁への報復として同国が後押ししているのではないかと疑っている。一方、ベラルーシは、西欧諸国に責任があるとしている。
 
ポーランドはベラルーシとの国境沿いに数千人の兵士を派遣し、有刺鉄線のフェンスを設置。3か月間の緊急事態宣言を出し、国境付近から報道関係者や慈善団体を締め出した。
 
アブド・ワリスさんは森の中で、葉っぱにたまった水を飲んで過ごしてきた。寒くて眠れず、ポーランドの軍か警察に頭を殴られたこともあった。

「疲れ果て」「打ちのめされている」にもかかわらず、国境警備隊は「仕事をしているだけだ。国を守っている」と理解を示し、法律に違反しているのは自分たちだと分かっていると話す。
 
アブド・ワリスさんと、一緒に歩いてきたシリア人の仲間たちは先週、ポーランドの活動家と森で接触することができた。暖かい衣服と食べ物を提供してくれ、国境警備隊が来た時の支援を申し出てくれた。
 
今後のことは分からない。ポーランドへの亡命か、少なくともレバノンへ戻ることを望んでいる。
「ベラルーシにもいてほしくない。それなら国に送り返してほしい。それだけが望みだ」と、アブド・ワリスさんは語った。

「国境で死ぬのはごめんだ。母さんに会いたい」 【10月29日 AFP】
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【移民・難民対応で分断されるEU】
ベラルーシからの「兵器としての移民」だけでなく、EUは以前から中東・アフガニスタンなどからの移民・難民の圧力にさされており、その対応に苦慮しています。

もし、ベラルーシ・ルカシェンコ大統領が「兵器としての移民」を使用しているとしたら、ある意味、EUの“痛い所”を突いた方法だとも言えます。

EU内部には移民・難民を巡って、西欧諸国・EU指導部と移民難民に拒否感が強い中東欧の間で分断・亀裂も生じています。独仏も移民・難民問題では国内世論が割れており、理念と本音の間の葛藤とも言えます。

****国境沿いそびえる5mの鋼 移民を阻む「壁」次々、EUの本音と苦慮****
アフガニスタンなどから欧州連合(EU)を目指す移民・難民の流れを遮ろうと、域外と接するギリシャやポーランドなどが、国境に壁や鉄条網を設けている。賛同する加盟国は22日のEU首脳会議で建設費補助を要請。人権尊重か「難民危機」回避か。EUは対応に苦慮している。

移民流入、恐れる国々
ギリシャは8月下旬、トルコとの国境沿いに長さ40キロの鋼の壁を完成させた。高さ5メートル。てっぺんには鉄条網が据えられた。ドローンやレーダーなども備え、壁から10キロ先まで監視の目を光らせる。

完成に先立つ同17日、ギリシャの移民担当相は「アフガンから逃れる何百万人もの人々を通すのは無理だ。ギリシャは欧州の玄関になれない」と強調。今月10日には現場の国境警備隊を250人増強すると内相が明らかにした。
 
ギリシャは2015年、シリアなどから100万人以上が欧州に押し寄せた「難民危機」で、主要ルートの一つになった。アフガニスタンで今年8月に政権が崩壊した今回は、「難民がこれ以上欧州に到着するのを避けたい」(ミツォタキス首相)という姿勢を鮮明にしている。
 
イラクなどからの移民・難民が急増したリトアニアも8月、壁の建設計画を明らかにした。経由地となっているベラルーシとの国境沿いに総延長500キロを来年9月までに築く。ベラルーシのルカシェンコ大統領が7月、隣国へ不法越境する人々の取り締まりを拒むと明言したためだ。
 
ポーランドも今夏、ベラルーシとの国境に鉄条網を設置。フェンスも増設する方針だ。
 
ギリシャなど12カ国の内相は今月7日、共同書簡を欧州委員会に送り、壁の建設費をEUが負担するよう求めた。域内への移民・難民の流入を恐れるオーストリアなどの中欧も加わった。

「壁」支援拒むEU
22日のEU首脳会議。リトアニアのナウセーダ大統領は「我々はフェンスについて議論しなければならない。5千人もの移民があす一斉に国境に押し寄せるかもしれないのだ」と語り、会議に臨んだ。
 
だが、EUの行政を担う欧州委員会のフォンデアライエン委員長は「鉄条網や壁の費用を負担しないのが欧州委や欧州議会の考えだ」と壁の建設費用負担を拒んだ。人員の派遣や必要な機器への支援はしても、人権を重んじるEUとしては「壁」そのものにお金は出せないからだ。
 
とはいえEUも移民・難民の流入を防ぎたいのが本音だ。アフガニスタンやシリアから逃れる人々の近隣国での受け入れを、資金面でも支援する方針を打ち出している。
 
一方で、EU加盟国への受け入れ議論は進んでいない。このため首脳会議の合意文書には「即座に適切な対応をとるため、資金支援をともなう具体案をまとめるよう欧州委に求める」との項目が盛り込まれた。直前までの文案にはなかったが、首脳間の交渉を踏まえて書き足された。EUとして取り得る代案を示したうえで、国境管理の効率化をはかる。
 
欧州は何度も戦禍に包まれ、自らの市民が難民となったこともある。フランスのマクロン大統領は22日、閉幕後の記者会見で「欧州は自由のために戦った人たちを守り、難民を守る原則のもとで築かれた。この価値観を揺るがすことなく、国境を守る必要がある」と述べる一方、「受け入れられなかった移民は、もっと効率的に出身国に送り返さなければならない」として、不法滞在者の国外退去を徹底させる考えも示した。【10月24日 朝日】
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【冷戦時代の壁を壊した欧州が、今また壁を建設】
かつての冷戦時代、中東欧諸国は西欧との間、西側に壁を建設していました。その壁が取り壊されて今の欧州があります。しかし、移民・難民の問題はその中東欧諸国に今度は東側に壁を作らせています。

また、EUだけでなく、外国人受入れへの反対を大きな理由としてEUを離脱したイギリスもこの問題に直面しています。移民・難民らの多くは最終的にイギリスを希望する者が多く、ドーバー海峡を挟んで“送り出し国”フランスと移民対策強化を求めるイギリスの間で軋轢も生じています。

****冷戦終結から32年、EUに再び築かれた「壁」の正体****
「ベルリンの壁」の記憶を呼び起こす巨大な壁

ベルリンの壁が1989年11月9日に崩壊して約32年が経つヨーロッパで、今また国境の壁の建設が進められている。今度は東側から西側への逃亡を防ぐためではなく、アフガニスタンでタリバンが実権を握ったことで、ヨーロッパに押し寄せる難民・移民の流入を阻止するためだ。(中略)

昨年9月初旬、ギリシャのレスボス島モリアで超過密状態にあったモリアの難民キャンプで大規模な火災が発生し、何千人もの難民が行き場を失った。モリア・キャンプには約70カ国からの難民が生活し、そのほとんどはアフガニスタンからの難民だった。その後、EUは難民・移民受け入れに関する新たな協定案を発表した。

難民が最初に到着した国に難民認定審査を義務付ける「ダブリン協定」が機能しなくなったEUは、各国間で、より「連帯・団結」した形で難民受け入れの責任を分担する方針転換を行った。

大量難民・移民が集中したイタリアやギリシャ、スペインなど受け入れ最前線の国々は、裕福な北欧諸国が受け入れに消極的なだけでなく、受け入れ分担の考えに公然と抵抗する中東欧諸国を非難し、ヨーロッパの分断につながっている。

受け入れるべき人数を大きく下回る中東欧諸国
EUは、加盟国のGDP(国内総生産)や人口、失業率、国土面積によって、受け入れるべき人数を割り出し、加盟国に相応の分担を求めているが、ギリシャのように受け入れるべき人数をはるかに上回る難民・移民を受け入れている国もある一方、中東欧諸国は受け入れ人数が大きく下回っている。

ポーランドは適切な受け入れ能力は約1万4000人とされるが、2020年、コロナ禍で例年より少ないとはいえ、約2800人が難民申請し、その84%が却下された。

ハンガリーは受け入れ能力は約3600人とされるが、2020年は115人が難民申請し、73%が却下されている。中東欧諸国は「そもそも鉄条網を敷設することはEUへの入域を阻止することにつながっている」と主張している。

実際、フランスにたどり着いたアフガン難民の多くがフランス北西部の海岸からドーバー海峡をゴムボートで渡り、イギリスへの入国を試みている。10月9日の週末2日間でフランスからイギリスに不法に40隻の小型ボートに乗って海峡を渡った人数は1115人に上ったとイギリス内務省は発表した。

イギリスは今年7月末に、沿岸におけるフランスの治安部隊の取り締まり強化に資金を提供するために2021年から2022年にかけて、フランスに対して6270万ユーロを支払うことを約束した。

(中略)イギリスは現在、不法移民に対する法整備強化に動いているが、ブレグジット後のフランスとイギリスの関係は難民・移民問題でこじれている。(中略)

アフガニスタンがタリバンの手に落ちたことで急増した難民・移民は、ただでさえコロナ禍で経済的ダメージを受け、コロナ対策の遅れで加盟国からの不信感が高まるEUに、追い打ちをかける結果をもたらしている。

とくにEU域内の豊かな国々と発展途上の中東欧加盟国の分断に拍車をかけ、特に東西冷戦以降、再度、壁建設を強いられることへの複雑な思いが暗い影を落としている。

十分な情報共有なしのアメリカ駐留軍の完全撤収決行は、アフガニスタンに駐留していた北大西洋条約機構(NATO)軍に参加したEU加盟国の軍にもダメージを与えた。

(中略)さらに結果としてアフガン難民・移民が押し寄せている実情に「アメリカは軍撤収の影響は地政学的に少ないが、ヨーロッパには大いに迷惑だ」との批判の声があがっている。

キリスト教の価値観が強く、イスラム教徒を警戒
実はポーランドやハンガリーなど旧ソビエト連邦に属していた国々は地下で信仰を守ってきたキリスト教信者が多く、民主化されて以降、イスラム教徒を警戒する国民感情が強く存在する。

ポーランド憲法裁判所は昨年10月22日、胎児に障害があった場合の人工妊娠中絶を違憲とする判決を下し、ヨーロッパでほぼ完全に妊娠中絶が禁じられる国になった。ハンガリー議会は今年6月、通称、反LGBTQ法案を可決した。EU加盟時にEU法に従うことを約束した両国は今、批判の的になっている。

これらはキリスト教の価値観に即した宗教的判断で、いかに中東欧にキリスト教の価値観が強く根付いているかを表したものだ。EU側は、コロナ復興基金の給付を延期するなどして圧力を加えているが、EU内ではイギリスに次ぐ離脱、「ポレグジット」になる可能性も噂されている。

そんな中東欧の国々とバルト三国は、EU内では反イスラムの急先鋒で、難民受け入れを拒否している大きな理由の一つになっている。

西ヨーロッパ諸国でイスラム系移民を大量に受け入れた結果、自由主義の価値観に同化しようとしないイスラム系移民が社会を根底から揺さぶっている姿を見た中東欧加盟国は、イスラム系移民を自国に定住させることを拒んでいる。

2015年に風刺週刊紙シャルリ・エブド編集部襲撃テロやパリで発生した130人以上が犠牲となった大規模なパリ同時多発テロなど、ヨーロッパで最もテロが頻発するフランスは、中東欧が難民・移民を受け入れない姿勢に批判的な一方、難民・移民に紛れ込んで入域するテロリストへの警戒も強めている。

人道的立場では開かれたヨーロッパをめざすEUだが、テロリストの流入は防ぎたいところだ。(中略)

欧州の求める人材と難民・移民の現状にギャップも
一方、ヨーロッパの受け入れ態勢は2015年に100万人近い難民を受け入れたドイツで明らかになったように十分とは言えない。差別に苦しんでシリアに引き返した難民も少なからずいた。

国益にかなった高度スキル人材を求める欧州と難民・移民の現状にはギャップもある。逃げてきた国が紛争から抜け出し安定すれば帰国させるという見通しが立たない場合も多い。

(中略)壁が崩壊し、人々が自由に国境を往来できる感動に浸り、EU内での自由な移動が保障された中東欧の人々は、まさか30年後に新たな壁を築かなければならないとは予想していなかっただろう。21世紀に入り、紛争、迫害、暴力、人権侵害などで故郷を追われた人々に立ちはだかる壁は、ポストコロナ時代に新たな深刻な課題を突き付けている。【10月18日 安部 雅延氏 東洋経済online】
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