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(7日午前、台北の台湾総統府で、勲章を授与されたフランスのリシャール元国防相(左)と蔡英文総統【10月7日 時事】)
【高まる中台間の緊張 「中国は2025年に侵攻能力」】
台湾に対する中国の軍事的圧力は今に始まった話でもありませんが、このところ、これまで以上に強い姿勢が見えます。
****台湾の防空識別圏に中国軍機52機 最多更新****
台湾の国防部(国防省に相当)は4日、中国軍機延べ52機が同日、台湾の防空識別圏(ADIZ)に進入したと発表した。中国は2日に過去最多となる39機を進入させたばかりで、最多記録を更新した。
台湾の蔡英文政権が環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)加入を申請したのを受け、中国は圧力を強めている。
(中略)昨年、台湾のADIZに進入した中国軍機は計380機だったが、今年はすでに600機を超え、今月だけで145機となった。【10月5日 産経】
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こうした中国側の圧力強化は習近平主席の指示によるとも。
****習氏、台湾への軍事圧力を指示 日米英共同訓練に対抗****
中国の習近平国家主席が軍の最高指導機関、中央軍事委員会を開催し、台湾の南西域で台湾への軍事的な圧力を強化するよう指示したことが分かった。複数の中国筋が5日、明らかにした。
沖縄南西海域で2〜3日、米原子力空母や英空母など空母3隻が共同訓練を実施し、海上自衛隊も参加したことを受けて緊急開催したとみられる。
中国軍機は1日以降、台湾南西域で台湾の防空識別圏へ大量に飛来。特に4日には昨年9月の公表開始以来最多の56機が進入した。日米英などの共同訓練への対抗的な措置であることは明らかだ。【10月5日 共同】
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今すぐに軍事進攻する考えはなくても、緊張が高まると不測の事態から衝突へ発展する危険性もあり、台湾・蔡英文総統は中国側に自制を求めています。
****中国に自制呼び掛け=軍用機の進入急増で―台湾総統****
中国軍の戦闘機などが今月に入り、台湾の防空識別圏への進入を急増させている問題で、蔡英文総統は6日、「アクシデントを避けるため、自制が必要だ」と中国側に警告した。偶発的な軍事衝突の回避に向け、威嚇行為をやめるよう中国側に呼び掛けた格好だ。
蔡氏は、自身が率いる与党・民進党のオンライン幹部会議であいさつした。蔡氏はこの中で、中国軍機の大量進入について「国際社会が一斉に注目している。対岸(中国)の振る舞いは地域の平和と安定を著しく破壊している」と批判した。【10月6日 時事】
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中国の圧力が不気味なのは、今すぐに・・・ではなくても、やがては中国が軍事的手段に出るのでは・・・という懸念を、台湾・国際社会はが持っているからです。
****台湾の国防部長、「中国は2025年に侵攻能力」 国防予算の増額を****
台湾の邱国正(チウクオチョン)国防部長(国防相)は6日、「中国が2025年には全面的に台湾に侵攻できる能力を持つ」と語った。また中台の情勢について、「私が軍に入って40年以上だが、最も厳しい」と述べた。国会にあたる立法院の国防予算審議で、野党・国民党議員の質問に答えた。
中国は昨年以降、台湾の防空識別圏(ADIZ)に、自国軍機を高頻度で派遣。10月4日には1日としては最多の延べ56機を進入させるなど、蔡英文(ツァイインウェン)政権への威嚇を強めている。
邱氏はこうした点を踏まえ、「中国には現在でも台湾に侵攻する能力があるが、得られる結果に対するコストが大きい。25年にはこのコストを最低限に下げられるだろう」と語った。
国防部は、中国が年100機以上の戦闘機を量産するなど、27年の軍創建100年に向け、民族意識も高めていると分析。対応には独自のミサイル開発や軍艦量産が必要とし、国防予算の増額をめざしている。【10月7日 朝日】
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国防部長のこうした発言が、本気の不安なのか、国防予算増額のための戦術なのかは知りませんが、2025年といえばあと数年です。
中国が軍事的オプションを発動するにしても、台湾本島に手をかけるのは台湾側の抵抗、国際社会からの孤立、特にアメリカの反応などからして、強気の中国としてもそうそうできるものでもないでしょうが、周辺部の島を占拠するということなら、そう大きな抵抗もなく可能かも。
そのことで台湾への圧力にもなりますし、中国国内政治的にも台湾回復を始動したということで政治的アピールともなります。
【現実的には中国の侵攻は台湾本島ではなく離島か】
いずれにしても、アメリカの出方を慎重にうかがって・・・といったところでしょう。
****米国人の4割超が「台湾防衛」を支持ー世論調査****
2021年9月29日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、米国の最新世論調査で4割以上が「米国による台湾防衛を支持する」と回答したと報じた。
記事は、非営利、無党派の米ユーラシア・グループ基金(EGF)が8月27日〜9月1日に米国内で実施したアンケート調査の結果を発表し、「もし台湾が中国本土からの攻撃を受けた場合、米軍は台湾を防衛すべきか」との質問に対し、42.2%が「防衛すべき」と回答し、「すべきでない」の16.2%を大きく上回ったと紹介した。また、41.6%が「どう対処すべきかわからない」と回答したと伝えている。
その上で、同基金が分析報告の中で「米国は1979年に『一つの中国』を承認して以降、台湾に対して『あいまい』な戦略を取り、台湾に武器を提供する一方で台湾防衛への協力は明確に示してこなかった。中国の実力が高まったことで、この戦略が正しいかどうかの議論が起きている」と解説したことを紹介した。
また、米軍による台湾防衛を支持する人は、台湾が重要な民主主義の盟友であり、中国によるインド太平洋地域への勢力拡張を阻止する上で戦略的に重要な位置に存在するほか、半導体などの重要な電子製品を生産する貴重な貿易パートナーであるとの認識を持っているとした。
記事は、非営利、無党派の米ユーラシア・グループ基金(EGF)が8月27日〜9月1日に米国内で実施したアンケート調査の結果を発表し、「もし台湾が中国本土からの攻撃を受けた場合、米軍は台湾を防衛すべきか」との質問に対し、42.2%が「防衛すべき」と回答し、「すべきでない」の16.2%を大きく上回ったと紹介した。また、41.6%が「どう対処すべきかわからない」と回答したと伝えている。
その上で、同基金が分析報告の中で「米国は1979年に『一つの中国』を承認して以降、台湾に対して『あいまい』な戦略を取り、台湾に武器を提供する一方で台湾防衛への協力は明確に示してこなかった。中国の実力が高まったことで、この戦略が正しいかどうかの議論が起きている」と解説したことを紹介した。
また、米軍による台湾防衛を支持する人は、台湾が重要な民主主義の盟友であり、中国によるインド太平洋地域への勢力拡張を阻止する上で戦略的に重要な位置に存在するほか、半導体などの重要な電子製品を生産する貴重な貿易パートナーであるとの認識を持っているとした。
一方で、支持政党によって一定の意見の相違が見られ、台湾防衛支持と答えた共和党支持者の割合が50.6%に達したのに対し、民主党支持者では39.4%にとどまり、10ポイント以上の開きがあったことを伝えている。(後略)【10月1日 レコードチャイナ】
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もちろんアメリカとて、中国と軍事的にことを構えるのは容易ならざる危機であり、米中双方が互いの腹を探り合いながら・・・・。そいうなかで、中国にとっては、台湾本島ではなく周辺部・離島への攻撃というのが選択肢にもなると思われます。
“「中国が台湾の離島奪取」の可能性が濃厚、行動に出るのはいつか”【8月7日 吉田 典史氏 JBpress】では、防衛省防衛研究所地域研究部長の門間理良氏が、台湾の南西に位置し台湾が実効支配している東沙島の名が挙がっています。
中国にとっては、東沙島は地理的・地形的にも軍事行動がとりやすく、台湾軍将兵と海巡署(日本の海上保安庁に相当)の職員があわせて数百人いるだけなので、民間人犠牲を出すことなく占拠でき、(アメリカのリアクションを含む)国際批判も一定に抑えられるメリットがあります。
たとえ台湾本島から数百キロメートル離れた離島でも、国内世論に大しては大きなアピールとなるでしょう。
一方、台湾側はそうした事態は「やむをえない」としているとの見立てで、東沙島で軍事的に激しく争うことはせず、東沙島を犠牲にすることで危機意識を高め、本島防衛態勢を固め、国際社会にも中国の非道をアピールして支援を求める・・・という話になるとも。
また、台湾が東沙島を奪還しようとしないのならば、アメリカも軍を送ることはしないはずとも。
時期的には“2022年には北京で冬季五輪が開催されます。また、同年秋には中国共産党大会が開催され、習近平が総書記兼軍事委員会主席に3選されるはずです。従って、2027年の党大会で引退すると仮定すると、2023年から2027年までの間に東沙島を奪取する可能性が高い。”【同上】とのこと。
そうなれば、中台関係、中国と欧米・日本との関係は、現在以上にシビアなものになります。
【議員交流の形で広がる台湾支援】
現在、中国を苛立たせているのは、フランスの元国防相、リシャール上院議員ら超党派の議員4人の訪台。
オーストラリアのアボット元首相も5日に訪台しています。
そう言えば、高市早苗元総務相も蔡氏総統とオンライン会談をしていました。
正式な国交を台湾と持つ国は、中国の圧力もあって15か国に減っていますが、台湾支援の動きは逆に広がっています。
****台湾支援の姿勢、欧米続々 仏議員訪問、中国「断固反対」****
フランスの元国防相、リシャール上院議員ら超党派の議員4人が6日、台湾を訪問した。米国や日本なども議員交流を通じて、台湾との距離を縮めようとしている。中国はこうした動きに反発しており、台湾への軍事的威嚇がさらに強まる可能性がある。
台湾外交部(外務省)によると、リシャール氏は仏上院で台湾友好議員連盟の代表を務め、2015、18年にも訪台した。7日に蔡英文(ツァイインウェン)総統と会談し、10日まで滞在する。外交部の欧江安報道官は事前の会見で「中国の圧力を恐れずに訪台することを歓迎する」と話した。
今回の訪台には中国が強く反発。駐仏中国大使がリシャール氏に手紙を送って計画中止を強く要請し、中国外務省は9月末、「仏議員と台湾当局のあらゆる公的な接触と交流に断固として反対する」(華春瑩報道局長)と強調した。
仏政府も「訪問先は国会議員が自由に決めるもの」(外務省)と距離を保つ。仏政府の中国への外交方針は、「独立した、第三の道を目指す」(マクロン大統領)もので、対中警戒論に傾く米国とは一線を画すためだ。
ただリシャール氏は仏メディアに「仏外務省と相談の上の訪台だ」と語っている。仏政府も、台湾企業が半導体供給の大きなシェアを握っており、台湾支援の姿勢を示すことは国益にかなうと判断したとみられる。香港や新疆ウイグル自治区の人権問題などで中国批判が強まる仏世論も訪台の背景にありそうだ。
台湾が正式な外交関係を維持する国は15カ国にとどまるが、近年は台湾への支持を強める国が増えつつある。政府間の外交でない議員交流は、中国の批判をかわす手法の一つだ。
米議員の訪台は頻繁で、今年6月には上院議員らが韓国から軍用機を使って訪れた。昨夏以降、東欧チェコの上院議長や日本の自民党の古屋圭司衆院議員らが訪台。高市早苗元総務相も今年9月、蔡氏とオンライン会談した。
■「一つの中国」厳しく順守要求
台湾国防部(国防省)によると、10月1~5日には延べ150機の中国軍機が台湾の防空識別圏(ADIZ)に進入。空母打撃群も参加する日米英など6カ国による台湾東部海域などでの共同訓練や、仏議員団の訪台に反発する動きの可能性もある。
中国は国際社会に台湾は中国の一部だとする「一つの中国」原則の順守を要求。台湾に近づく国々に厳しい態度を示している。昨夏のチェコ上院議長らの訪台では、チェコ産ピアノの契約を停止。
リトアニアが今年7月に「台湾代表処」の名称で台湾が事実上の大使館を置くことを受け入れると、中国は駐リトアニア大使を召還した。
近くスイスで開かれる米中高官会談では、バイデン政権の台湾関与の姿勢を見直すよう改めて求めるとみられる。【10月7日 朝日】
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“政府間の外交でない議員交流は、中国の批判をかわす手法の一つ”という便法ですが、リトアニアが「台湾代表処」の名称で台湾が事実上の大使館を置くことにしたのは、そうしたレベルを超えており、中国との間でホットな争いにもなっています。
“台湾問題で中国と関係こじれたリトアニア、中国企業による契約拒否相次ぐ”【9月21日 レコードチャイナ】
****リトアニア「中国製スマホに監視機能」不買呼びかけ****
リトアニア国防省は24日までに、国内で流通する中国スマートフォン大手、小米科技(シャオミ)の製品に、中国政府が警戒する用語を検出し、コンテンツの利用を制限する機能が内蔵されていると警告した。同省は、中国製スマホの不買と購入済み製品の廃棄を公共機関や消費者に呼びかけた。(後略)【9月24日 産経】
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【中国のTPP加盟を退ける手立てはあるのか?】
日米英など6カ国による台湾東部海域などでの共同訓練や、仏議員団の訪台と並んで、中台間の問題となっているのがTPPへの中国、そして台湾の加盟申請の件。
****中国、TPP加入交渉へ参加国への働きかけ積極化 NZなど支持****
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への加入申請を9月16日に行った中国が、加入交渉に向け参加国へ働き掛けを強めている。
9月末には王毅(おう・き)国務委員兼外相がメキシコとの電話会談で加入へ積極姿勢を示し、中国商務省はニュージーランドなどから協力姿勢を引き出した。台湾の加入申請を受け、自国に有利な環境整備を急いでいるとみられる。
王氏は9月29日、メキシコのエブラルド外相と電話会談し、加入申請について「対外開放をさらに拡大する固い決意を示したものだ」と強調。エブラルド氏は「申請を称賛、歓迎する」と応じた。王氏は同日、マレーシア、ブルネイの外相ともそれぞれ電話会談。中国外務省の発表文にTPPの文字はないが、いずれもTPP参加国であり協力を求めた可能性がある。
習近平国家主席も24日、ベトナムのグエン・フー・チョン共産党書記長と電話会談を実施。発表文はTPPに触れていないが、習氏は「双方は国際・地域問題での協調、協力を強化すべきだ」と強調した。
ベトナム外務省報道官は23日、中国の加入申請について「経験と情報を共有することを望む」と述べている。両国とも国有企業の存在感が大きいなど共通点が多く、中国の加入にはベトナムの事例が役立つと指摘される。
中国商務省幹部も28日にニュージーランド、29日にブルネイとテレビ会議を実施。ニュージーランド側から「中国の申請は非常に重要な意義を持つ一歩で、今後のプロセスを積極的に推進する」との言質を得た。
TPP加入には、全参加国の同意を得ることが必須だ。日本やオーストラリアなどが中国の加入に慎重姿勢を見せる中、それ以外の国々から協力を取り付けて外堀を埋める思惑も指摘される。
22日に台湾がTPP加入申請に踏み切ったことで、台湾の加入阻止へ先に支持を得ることも重要な課題になったとみられる。
中国商務省報道官は30日の記者会見で「次の段階として、TPPの手続きに従い参加各国と協議する」との方針を示しており、TPP参加国とのやり取りをさらに加速させる見通しだ。【10月3日 産経】
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中国の場合、国有企業の影響度、知的財産権の保全、資本の自由化(海外からの投資の自由化)、労働者の権利を守ること(新疆ウイグル地区でのジェノサイド疑惑の解消)など、クリアしなければならない問題が多く、台湾加盟は歓迎するものの、中国加盟に慎重な日本などでは中国の加盟は難しいとの指摘が一般的ですが・・・。
****今の日本に中国のCPTPP加盟を止める手立てはない****
(中略)日本では、加藤官房長官が「中国の加盟はルールに則って進める」「台湾の加盟は歓迎する」と述べたが、両者の扱いの違いは鮮明だ。(中略)
中国の加盟を防ぐ手立てはあるか?
2020年12月、中国の習近平主席は、ドイツのメルケル首相、フランスのマクロン大統領、EUのミシェル大統領、欧州委員会のフォンデアライエン委員長とオンライン会談をして、中国EU包括投資協定(CAI)の妥結を宣言した。中国がEUの求める基準をすべて飲んだ賜物である。(中略)
ところが、EUの中で民主主義や資本主義という意識が台頭したために(そう筆者は受け止めている)、感情的なもつれもあって、2021年6月にCAIは凍結されてしまった。CPTPPもそうなるだろうと予測している向きは多い。
その考えはわからなくもないものの、アジア・オセアニア諸国には、EU諸国のような民主主義や資本主義の長く複雑な歴史はなく、また中国を見下すという感覚もない。利益優先となるのはむしろ自然だ。一度合意に達すれば、それで中国の加盟プロセスは進むだろう。
CPTPP議長国を務める日本からすれば、中国がクリアしなければならない問題は数多くあると感じるのかもしれない。ただ、中国側が期限を付けてすべて受け入れる、または事実関係の調査を受け入れるという反応をとれば、それでOKということになる。結果を待ってOKという回答も出来ようが、これは時間が解決するかもしれない。ジェノサイドについては、現場の写真が出てきていないのも弱点だと言えるだろう。
この時に、「それは騙されているんだ」と叫ぶ専門家もいるだろうが、中国自身が条件を飲むと言った場合に、それを嘘だと言える根拠はどこにもない。(中略)
つまり、中国が融和的な態度で条件をクリアできると宣言した場合に、それを止める手段はないのである。(後略)【10月1日 小川 博司氏 JBpress】
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中国は参加を言い出した以上、台湾に先んじて加盟する意向でしょう。そのためには「条件はクリアする」と言明するのでしょう。
そのとき外交交渉という場で、「習近平は嘘つきだ。騙そうとしている」と言える国があるのか?
それを言えば、オーストラリアやリトアニアが直面した以上の経済圧力を受け、国内経済は動揺し、その政権は次期選挙で政権を失うかもしれない・・・という状況で。しかも、中国加盟で経済的メリットは圧倒的に拡大する・・・。
いったん中国が先に加盟すれば、台湾の加盟を中国は認めないでしょう。
台湾としては中国より先に、少なくとも同時に加盟する必要があります。