孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スーダン  2年前に歴史的合意で成立した軍と民主派の共同統治が、軍のクーデターで崩壊

2021-10-26 22:46:19 | アフリカ
(クーデターに抗議するため路上でデモをする市民ら=スーダンの首都ハルツームで25日、AP【10月26日 毎日】)

【クーデターへの抗議デモに軍が実弾発砲 7人死亡】
アフリカ・スーダンで軍が文民の首相を拘束するクーデターが発生し、これに抗議する市民に軍が発砲、多くの死傷者が出ていることが報じられています。

****スーダン軍部隊、クーデター抗議の市民に発砲 7人死亡140人けが****
アフリカ東部スーダンでハムドク首相らを拘束し権力を掌握した軍の部隊が25日、クーデターに抗議するデモ隊に発砲し、これまでに7人が死亡、140人が負傷した。ロイター通信が同国保健省の話として伝えた。
 
首都ハルツームなどでは25日のクーデター発生後、多数の市民が路上に出て抗議。路上でタイヤを燃やしたり、石を置いたりして軍の行動を妨害した。民主化運動団体「自由・変革勢力」などは市民らに非暴力の抗議継続を呼びかけいる。
 
スーダンでは2019年に30年間続いたバシル大統領の独裁体制が崩壊した後、軍部と民主派が共同で暫定統治を行う体制を構築。今回は軍を率いるブルハン統治評議会議長らが、政権から民主派を追い出す形でクーデターに踏み切った。
 
民主派はバシル政権崩壊の前後から度々大規模なデモや座り込みをして政治を動かしてきた経緯があり、今後、軍側がこれにどう対処するかが焦点となる。
 
一方、クーデターを巡っては国際機関や欧米各国が相次いで軍を非難する声明を発表した。米国はスーダンへの7億ドル(約800億円)相当の緊急援助を停止すると発表。また国連は26日に安全保障理事会を開いてスーダン問題について緊急に協議する。【10月26日 毎日】
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****軍が実権掌握のスーダン、通信寸断 市民生活に深刻な影響****
 軍のクーデターから一夜明けたスーダンでは、一部道路が封鎖され、通信は寸断。店舗もほとんど閉まっており、人々は食料を買うために長い行列を作っている。

民政移管に向けた設置された軍民共同の統治評議会の議長で軍側のブルハン氏は前日、統治評議会が開催されたと発表。一部報道で、同氏は26日、労働組合を監督する委員会を解散したとされる。

軍に拘束され、現在居場所が分からないハムドク首相を支持する情報省はフェイスブックに、前日の軍の緊急事態宣言について、民政移管憲法で緊急事態を宣言できるのは首相だけで、軍の行為は犯罪だと投稿した。

首都ハルツームと主要都市オムドゥルマンを結ぶ主要道路や橋は車両の通行ができなくなっている。銀行は休業、現金自動預払機(ATM)は使用不可となっているほか、スマートフォンの決済アプリもアクセス不能。オムドゥルマンでは、営業しているパン屋に長い行列ができている。【10月26日 ロイター】
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【19年7月に、予想外の歴史的合意で成立した共同統治】
アフリカ・スーダンで軍のクーデターが起きて、犠牲者が出ている・・・これだけ聞けば、多く者は「ああ、アフリカでまたクーデターね・・・」という印象でしょう。

確かに“また”ではありますが、スーダンの場合、「やっぱりダメだったかな・・・」という残念な思いがあります。

冒頭【毎日】にもあるように、スーダンでは2019年に30年間続いたバシル大統領の独裁体制が崩壊した後、軍部と民主派が共同で暫定統治を行う体制を構築されていました。

その共同統治もすんなりと出来た訳でなく、バシル前大統領を拘束して実権を掌握した軍による統治に国民が抗議デモを繰り返し、犠牲者も出ました。

その抗議行動は、暴発しないように市民によってコントロールされ、女性も先頭に立つ形で行われました。

(今は国内問題ですっかり国際評価落としていますが)ノーベル平和賞を受賞したエチオピアのアビー首相の仲介もありました。

(私的には“予想外”の展開でしたが)そうした市民・民主派の抵抗が一定に実を結ぶ形で、軍と民主派の合意が2019年7月に成立し、トップを軍人と文民が交代で務める共同統治がスタートしました。

下記は、その当時(2019年7月)の記事です。

****スーダンのデモ隊、軍事評議会との歴史的合意に歓喜****
スーダンを暫定的に統治している軍事評議会と民政移管を求めるデモ隊の指導部が新統治機構について歴史的な合意を結び、首都ハルツームでは(2019年7月)5日、大勢が街頭で祝福した。(中略)
 
昨年12月にオマル・ハッサン・アハメド・バシル前大統領に対する抗議デモを開始し、反政府デモを主導してきたスーダン専門職組合は合意を歓迎。声明で、「きょう、われわれの革命は勝利を収め、われわれの勝利は輝いている」と述べた。
 
ハルツームの街頭では大勢が合意を祝い、「犠牲者が流した血は無駄ではなかった」「民政、民政」とシュプレヒコールを上げた。
 
デモ指導者のアハメド・ラビ氏がAFPに語ったところによると、新統治機構の構成は軍人5人、文民6人になる見通し。文民のうち5人をデモ隊が指名するという。
 
SPAによると、新たな機構の統治期間は3年と3カ月になる見通し。機構のトップは始めの1年9か月は軍人が、残りの1年6か月は文民が務めるという。
 
民主化勢力の一派「自由・変革同盟」の指導部は5日、最終合意は来週、各州知事の立ち会いの下で結ばれると発表した。新統治機構のメンバー候補と首相候補について、来週までに指名の用意をするという。
 
国連のアントニオ・グテレス事務総長は、「全ての利害関係者が、時宜にかなった包括的で透明性ある合意の履行を実施し、あらゆる懸案事項を対話によって解決する」ことを呼び掛けた。
 
軍事評議会に賛同していたアラブ首長国連邦とサウジアラビアも、今回の合意を歓迎した。
 
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、この合意によりスーダン国民に対して長年行われてきた「恐ろしい犯罪」に終止符が打たれることを期待すると表明した。 【7月6日 AFP】
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力の論理がストレートにまかり通ることが多いアフリカにあって、“意外な”軍と民主派の合意によって生まれた共同統治でした。

アメリカは制裁を解除し、先進国の債権国の集まりであるパリクラブとスーダン政府との間で債務解消に向けた合意が締結され、世界銀行、米国・フランス・EU等の各国ドナー、またUNDP(国連開発計画)、アフリカ開発銀行などの国際機関・各国が支援を再開するなど、国際社会もスーダンの共同統治を歓迎しました。

【軍と暫定政府の間には緊張が 9月にはクーデター未遂も】
ただ、インフレの進行、若者の高い失業率など、国内経済は良い状況ではなく、国民の不満も高まっていたようです。

****新生民主国家スーダンの現状―アラブの春を繰り返さないために****
(中略)
高まる国民の不満
このような国際社会の歓迎ムードとは対照的に、スーダン国内では現在、暫定政権に対する国民の不満が高まっている。

スーダン財務経済省は、IMF等が債務救済の条件として求める財政健全化を進めるべく、様々な財政経済改革を行っている。

今年2月には、(中略)為替レートの変動制が導入され、(中略)実質7分の1に通貨の切り下げが行われた。その後も通貨は下がり続け、7月15日現在、市場レートは1USD=445SDG前後となっている。

またスーダンではこれまで、電気、小麦、燃料等の価格が政府補助金の投入で支援されていたが、かかる補助金を削減することで財政再建が進められている。

6月に財務経済計画省は燃料補助金の完全撤廃を発表したが、その直後にガソリン、ディーゼルの価格は2倍以上に高騰、6月の対前年同月比のインフレは413%、食品・飲料を除く商品の価格は644%を記録した。

政府は世銀等の支援により貧困世帯支援のファミリーサポートプログラムを実施中であるが、効果は現在のところ限定的であり、国民の経済悪化に対する不満は上昇している。
 
6月30日は、前バシール政権時代の革命記念日であり、2019年の民主政権への転換後、民主化を記念する日として国民のデモ行進が行われているが、今年は生活実態の悪化に対する抗議デモの色彩が鮮明となり、若者がタイヤを燃やし、道路を封鎖するなど、政府に対する抗議行動が目立った。

スーダンでは、若年層の比率が高く、15歳から30歳までの世代が全人口の60%を占める。また失業率も高く、人口の約17 %が失業中である。若者の失業は、社会の不安定要因となるが、就職の機会が提供され、経済成長の推進力の役割を担ってもらうことが期待される。
 
スーダン国内の社会不安は、経済の分野に止まらない。

スーダン西部のダルフールでは、ダルフール国連・AU合同ミッション(UNAMID)が2020年12月末で活動を終了し、2021年6月で撤収を完了したが、UNAMIDの活動終了後治安が悪化している。

またスーダン南部の南コルドファンや青ナイルでも部族間の衝突が増加し、また紅海に面したポート・スーダンではベジャ民族評議会がジュバ和平合意の約束が履行されないとして、7月に一時、道路や鉄道を封鎖する動きが発生した。

スーダンの暫定政権は、軍部出身のブルハン氏が大統領に就き、民主派のハムドック氏が首相に就く体制で構成されている。また暫定政権期間中、最高権限を持つ主権評議会(Sovereign Council)の議長にブルハン氏が、副議長にダルフール紛争で非人道的な行為を行ったといわれている民兵組織ジャンジャウィードの後継組織「機動支援部隊(Rapid Support Force)」トップのヘメティ氏が就任しており、政治的には微妙なバランスの下で成り立っている。

7月には主権評議会のブルハン議長やハムドック首相が参加するTransitional Partners’ Councilにて、「8月1日に全州の知事を解任し、8月5日に新しい知事を任命する」との提案が発表されるなど、政治運営ではなおも先行きが見通せない状態が続いている。

ハムドック首相は、6月、未だ政治的分断が続き、民主的な政治システムを構築するためのコンセンサスが形成できていないとして危機感を表明している。

「アラブの春」の失敗を繰り返さないために
10年前の2011年、中東諸国では「アラブの春」が発生し、民主化運動が中東諸国で広がった。しかしながら、多くの国で、民主化の動きは長続きしていない。新政権は国を統治した経験がないことから、国民の民主化への期待を吸収できなかったのが一因と考えられる。

スーダンは、1956年の独立以降、2019年の政変以外にも、1958年、1969年、1989年に軍事クーデターが起きているが、民衆の蜂起により軍事政権が打倒され、その後軍事クーデターが発生する歴史を繰り返している。

2年前の政変を経てようやく誕生した民主政権が継続するか否か、今、分岐点にさしかかっている。途上国の民主化プロセスを定着させることが出来るかどうか、国際社会の力量が試されている。

「アラブの春」から10年後に誕生した新生民主国家スーダンが安定と発展の道を歩み続けることが出来るよう、国際社会が一丸となって脆弱なガバナンス体制を支えることが、今、必要である。【8月5日 国際協力機構(JICAスーダン事務所長・坂根 宏治氏 国際情報ネットワーク分析 IINA】
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2年前の軍政に対する抗議デモを力で排除し、犠牲者を出したのも、ダルフール紛争で悪名をはせた民兵組織ジャンジャウィードの後継組織「機動支援部隊(Rapid Support Force)」とそのトップのヘメティ氏だったようですが、今回もまた・・・でしょうか。

軍とハムドック首相ら暫定政府の間には緊張があり、9月にもクーデター未遂がありました。

****スーダンでクーデター未遂 バシル前政権に関係と暫定政府****
スーダン暫定政府は21日、同日朝にクーデターを阻止したと発表した。今回のクーデター未遂には、長期独裁体制を敷き、2019年のクーデターで崩壊したオマル・バシル 前政権とつながりがある軍人や民間人が関与したとの見方を示している。
 
ハムザ・バロール情報相は、クーデターは阻止され、関与した者らは「制圧された」と明らかにした。
 
バロール氏はテレビ演説で「国民に対し、秩序は回復したと保証する。クーデター未遂の軍民双方の首謀者は逮捕され、捜査を受けている」と述べた。
 
バシル氏の失脚以来、複数のクーデター未遂が起きており、当局は、前大統領を支持するイスラム主義者や解散した与党の元党員が関与したと主張している。
 
スーダンにはクーデターが繰り返されてきた長い歴史がある。かつて軍の准将だったバシル氏も、1989年にイスラム主義組織と連携して軍事クーデターを起こし、権力を掌握した。 【9月21日 AFP】
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上記のクーデター未遂による多くの将校逮捕も、今回クーデターの伏線になったようです。

****軍が実権握ったスーダン、今起きていること****
(中略)
クーデターは予想外だったのか
完全に予想外だったということはない。ハムドク首相の側近であるアダム・ヒレイカ氏はCNNに対し、首相は軍の計画に気づいていて、政府を解散する圧力を受けていたと語った。(中略)

なぜこんな事態になったのか
ハムドク首相を含む一部の政治家が当初の暫定合意に従って11月17日までに完全な民選意向を進めようとした後、緊張関係は高まった。

先月、バシル前大統領に忠誠を誓う部隊による軍のクーデターが失敗。関係した大半の将校が逮捕されると状況はエスカレートした。

軍指導部は、その後数週間、「自由と変化宣言勢力」の改革を要求し、閣僚の入れ替えを迫った。文民指導者らは軍指導部による権限掌握にあたると批判した。

今月21日には多数の群衆が通りに出て、19年の暫定合意を尊重することを要求し、選挙に基づく政府を求める声を上げた。一方、文民政府に反対する軍支持のデモも発生した。

国際社会の反応は
国連のグテーレス事務総長は25日にツイッターで、クーデターを非難し首相や他の当局者らの釈放を求めた。国連はスーダン国民を支持し続けるとも述べた。

米ホワイトハウスは記者会見で、バイデン政権がスーダンで進行する事態に深い危機感を感じていると述べた。英国は、クーデターがスーダン国民に対する「受け入れがたい裏切り」にあたると述べた。(中略)

バシル前大統領はどこに
オランダ・ハーグにある国際刑事裁判所(ICC)の検察官は09年と10年に、03〜08年のダルフールにおけるスーダン軍の活動に関連したジェノサイド(集団殺害)と戦争犯罪の罪でバシル前大統領に対する逮捕状を出した。

スーダン政府は今年、バシル前大統領やダルフール紛争に関連して手配されている他の当局者らをICCに引き渡すと発表していた。

バシル前大統領は現在、汚職と外国通貨の不法所持で禁錮2年の有罪判決を受け、スーダンの刑務所に収監されている。また1989年で自身が権限を掌握したクーデターでの役割についても別の訴訟に直面している。【10月26日 CNN】
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文民統治の支持者らは軍の権限奪取に対抗して不服従の計画やストライキも発表したということで、抵抗の実力排除を厭わない軍との間で、混乱がしばらく続きそうです。

2年前のスーダン国民の高揚と国際社会の歓迎・支援によって誕生した“アフリカらしからぬ”共同統治が、“いかにもアフリカ的な”クーデターで潰れてしまうというのは、残念な展開です。
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