(トルコ製AIドローン「バイラクタルTB2」 【航空万能論】)
【ウクライナ軍 “あの”トルコ製AIドローンで親ロシア勢力を攻撃】
今日一番目を引いた記事は、久しぶりのウクライナ東部の戦闘に関する記事。
2014年以来のウクライナ東部におけるウクライナイ政府軍と親ロシア勢力の紛争は、昨年7月に「一応」の完全停戦合意が成立していますが、その後も断続的に小規模な戦闘は続いていますので、戦闘があったこと自体は驚きでも何でもありません。
目を引いたのは、ウクライナ側が使用した兵器が、アゼルバイジャンとアルメニアの戦いで戦局を左右する影響力を発揮した“あの”トルコ製AIドローンだったことです。
****ウクライナ軍、トルコ製ドローンで親ロシア派武装集団を初めて攻撃****
ウクライナ軍参謀本部は26日、東部での親ロシア派武装集団との紛争で、トルコ製攻撃無人機(ドローン)「TB2」を武装集団への攻撃に初投入したと発表した。武装集団からの砲弾攻撃でウクライナ兵に死傷者が出たことを受けたものだと説明し、相手のりゅう弾砲を破壊したとしている。
ウクライナとトルコは軍事面での協力関係を強化している。TB2は、アゼルバイジャンが自国領ナゴルノ・カラバフ自治州を巡るアルメニアとの大規模戦闘で多用し、旧ソ連製の兵器主体のアルメニアに対する勝利に貢献したとされている。
今回の投入が、2014年に始まった紛争の戦況に影響する可能性がある。【10月27日 読売】
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戦闘の経緯をもう少し詳しく見ると・・・
下記記事で“バイラクタル”とあるのが、トルコ製AIドローンTB2で、長さは6.5m、翼幅が12mほどの大きさのものです。
****ウクライナ軍、トルコ製無人機を東部で初めて使用 露占領軍の火砲を破壊****
(中略)
(ウクライナ軍)参謀本部は、同使用に先立ち、ロシア占領軍からの攻撃があったと伝えている。具体的には、同日14時25分から15時15分にかけて、ロシア占領軍が122ミリ口径榴弾砲D-30によりフラニトネのウクライナ統一部隊配置地点に対して砲撃、これによりウクライナ軍軍人2名が負傷、内1名が死亡したと報告された。
その際、ウクライナ側は、敵の砲撃開始時に欧州安全保障協力機構(OSCE)ウクライナ特別監視団(SMM)を通じて停戦要求を出し、さらに外交チャンネルを通じて口上書を送付したが、ロシア占領軍は対応しなかったという。
これを受け、ウクライナ参謀本部は、「敵を強制的に攻撃停止させるため、ウクライナ軍総司令官の命令に従い、『バイラクタル』が使用された。同無人機は、衝突ラインを越えず、誘導弾により、ロシア占領軍保有の火砲1点を破壊した」と伝えた。その後、敵のウクライナ側への砲撃は止まったという。
これに先立ち、2020年12月14日、ウクライナ国防省は、トルコ企業との間で複数の防衛関連契約を締結、2021年7月には、ウクライナ海軍の装備用にトルコ製無人機バイラクタルTB2の1機目が到着していた。【10月27日 ウクルインフォルム】
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【火薬や核兵器のように軍事史を変えるくらいのインパクトのあるAIドローン】
トルコ製ドローンが世界の耳目を集めたは、ロシア製兵器を装備したアルメニア軍を、トルコ製AIドローンを使用したアゼルバイジャンが圧倒したナゴルノ・カラバフ紛争でした。
****AIドローン兵器が勝敗を決したナゴルノ・カラバフ紛争の衝撃****
(中略)このアゼルバイジャンが、世界の軍事関係者を震撼させている。AIを搭載したドローンによって、30年来にわたる係争地として知られるナゴルノ・カラバフ州を巡るアルメニアの紛争をアゼルバイジャンが勝利に導き、同州の領土の一部を奪還することに成功したからだ。
AIドローンは、アルメニア側の兵士や戦車の存在を見つけ出し攻撃する。これまで洞穴の中などに隠れている兵士は上空から判別できなかったが、AIドローンは、兵士の持っている電子機器などの存在から兵士の存在を発見し、攻撃するのだ。不意の攻撃を受け続けたアルメニア側は修羅場と化したであろう。
なぜ、アゼルバイジャンという軍事大国とも科学技術大国とも言い難い国が、AIドローンという最新兵器を使って軍事的勝利を収めることができたのか。それは、同地域の大国トルコによるAIドローンの提供があったからだ。
トルコは、ナゴルノ・カラバフ紛争において、同じトルコ系でイスラム教徒が多いアゼルバイジャンを軍事的に支援してきたが、今回はAIドローンという隠し玉で勝敗の帰趨を決める役割を果たした。(中略)
火薬や核兵器など、兵器は世界史を大きく変えてきた。今回のAIドローンは、軍事史を変えるくらいのインパクトのあるものだ。(後略)【7月22日 山中 俊之氏 JBpress】
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上記記事を含め、このAIドローンの画期的とも言える影響については
でも取り上げてきました。
下記はトルコと並んでドローン先進国であるイスラエル製AIドローンに関する記述です。
****蜂などの大群がブンブン飛び交うように****
ここで「群れ」としたのは、原語では「swarm」とあり、直訳すれば「蜂などの大群がブンブン飛び交うこと」だ。さまざまな機能を備えた小型ドローンを、昆虫の群れのように多数飛ばして敵の状況を詳細に把握し、最も効果的な手段を備えたドローンから攻撃する。
例えば偵察用のドローンには、可視光、赤外線、放射線などの探知を担当するものがあり、攻撃用ドローンには機銃やミサイルを搭載したものの他、目標に自爆攻撃するものもある。さらに「群れ」には、敵方の電波を撹乱するジャミング担当のドローンも同行することがある。
これらのドローンは、人間の兵士が離陸させた後はAIの指示で互いに情報を交換しながら行動し、AIの判断で攻撃を行う。(後略)【7月12日 木村太郎氏 FNNプライムオンライン】
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トルコ製AIドローンがどの程度“自律性”を持つのかは知りません。
「バイラクタル TB2」は各種ミサイルも搭載していますが、自爆攻撃も行うようです。
【バランスオブパワー(勢力均衡)を変える可能性も】
“ウクライナは12機を輸入し、親ロシア勢力の支配下にある東部地区の偵察に投入した。ウクライナは、より高性能なトルコ製無人攻撃機「アキンチ」へエンジンやプロペラを供与している。ロシア連邦副首相ユーリ・ボリソフは、「トルコとの関係を見直す」とウクライナへの無人軍用機輸出に対して警告を発した。”【ウィキペディア】
ウクライナはこのドローンで黒海パトロール活動も始めています。
トルコはこのドローンをウクライナやアゼルバイジャンだけでなく、カタールやアルバニア、ロシアを警戒するポーランド・ラトビアに供与しているようです。
****アルバニアもトルコから攻撃ドローンを12億円で購入:地元メディア報道****
アルバニア軍がトルコの軍事企業のバイカル社の攻撃ドローン「バイラクタル TB2」の購入に強い関心を示しているとトルコの地元メディアSABAHが報じていた。アルバニア軍は900万ユーロ(約12億円)でドローンを購入する予定。
NATO加盟国ではポーランド、ラトビアもトルコのバイカル社の攻撃ドローン「バイラクタル TB2」を購入している。
軍事ドローンで注目度が高いトルコ
トルコは世界的にも軍事ドローンの開発技術が進んでいる。アゼルバイジャンやウクライナ、カタールにも提供している。
(中略)またロシアと対峙しているウクライナにも軍事ドローンを提供しており、ロシアにとっても大きな脅威になっている。
攻撃ドローンは「Kamikaze Drone(神風ドローン)」、「Suicide Drone(自爆型ドローン)」、「Kamikaze Strike(神風ストライク)」とも呼ばれており、標的を認識すると標的にドローンが突っ込んでいき、標的を爆破し殺傷力もある。(中略)
特にロシアにとっては周辺の中小国が攻撃ドローンを大量に導入することは脅威である。NATOおよびEU加盟国で初めてトルコから軍事ドローンを購入したポーランド、続けて購入したラトビアの標的は明らかにロシアであり、ロシアに対する抑止を狙っている。
「神風ドローン」の大群が上空から地上に突っ込んできて攻撃をしてくることは大きな脅威であり、標的である敵陣に与える心理的影響と破壊力も甚大である。
ドローンはコストも高くないので、大国でなくとも購入が可能であり、攻撃側は人間の軍人が傷つくリスクは低減されるので有益である。
そして軍事ドローンを活用すればポーランドやラトビアのような中小国であってもロシアのような大国に対して非対称な戦いが可能となるため、抑止力にもなり、バランスオブパワー(勢力均衡)を変える可能性がある。【7月11日 佐藤仁氏 YAHOO!ニュース】
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世間では極超音速巡航ミサイルなどの中国・ロシア・アメリカ、はては北朝鮮などの開発競争が取り沙汰されていますが、そうした兵器は実際の紛争で使用されることはまずないでしょう。
使用されるとしたら、全世界的・人類的危機のときです。そうした事態にならないことを願っています。
それより実際の紛争で現実的威力を発揮して、戦い方を変えつつあるのはAIドローンでしょう。
(更に言えば、現金がメインで、ファックス・印鑑が未だに使用される日本にあって、自衛隊はそういう技術変化に対応出来ているのか・・・いつまでもF35、いずも、イージス艦ばかかりに固執していると・・・という不安もありますが)
【目だった進展はない外交交渉 ウクライナのNATO加盟問題】
ウクライナ頭部に関する交渉は、進んでいるのか、いないのか・・・少なくとも目だった進展はありません。
****独・仏・ロシア・ウクライナが外相会談開催へ、ウクライナ紛争巡り****
ドイツ政府は11日、メルケル首相とフランスのマクロン大統領がウクライナのゼレンスキー大統領およびロシアのプーチン大統領とそれぞれ電話会談し、ウクライナの紛争を巡り協議したほか、外相会談の開催で合意したと発表した。
メルケル首相とマクロン大統領はまずゼレンスキー大統領とウクライナ東部の紛争解決に向けたミンスク和平合意の履行について協議。その後、プーチン大統領と会談し、和平交渉の進展を要請した。【10月12日 ロイター】
メルケル首相とマクロン大統領はまずゼレンスキー大統領とウクライナ東部の紛争解決に向けたミンスク和平合意の履行について協議。その後、プーチン大統領と会談し、和平交渉の進展を要請した。【10月12日 ロイター】
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ウクライナ軍がトルコ製ドローンを今後多用することがあれば、戦局を変える、ひいては上記のような外交交渉に影響する可能性もあります。(今のところは保有数が12機とか、まだ少ないようですが)
ロシアも、アゼルバイジャンで面目を潰され、今度はウクライナで・・・となると、その国際的影響力にもかかわってきます。
ところで、ウクライナはNATO加盟を望んでおり、ロシアは「越えてはならない一線だ」と反対しています。
****ロシアはウクライナ和平に障害、米国防長官が警告****
オースティン米国防長官は19日、訪問先のキエフで、ロシアはウクライナ東部における和平の妨げとなっており、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟に反対する権利はないと述べた。
ウクライナ軍は、2014年のロシアによるクリミア半島編入以来、東部ドンバス地方でロシアの支援を受けた軍と戦闘状態にある。
オースティン長官は、ウクライナのタラン国防相と行なったブリーフィングで、「ロシアがこの戦いを始め、事態の平和的解決の障害となっている。したがって、われわれはロシアに改めて、クリミア半島占領とウクライナ東部における戦闘の中止、黒海およびウクライナ国境における不安定化行為の停止、米国と同盟国およびパートナーに対する執拗(しつよう)なサイバー攻撃その他の有害行為をやめるよう求める」と述べた。
また、「第3国にはNATO加盟に拒否権を発動する権限はない。ウクライナには将来の自国の外交政策を決定する権利があり、われわれは外部からの干渉なしにこれが実現することを期待する」と述べた。【10月20日 ロイター】
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オースティン米国防長官はロシアの反対を取り上げていますが、ウクライナのNATO加盟を躊躇しているのは、アメリカなどNATO側ではないでしょうか。
もしNATO加盟国となって、そのウクライナがロシアと衝突することになったら、アメリカなどNATOはロシアと正面からぶつかることにもなります。
ウクライナ側は、アメリカに「はっきりしてくれ」と加盟を迫っています。
****ウクライナ大統領「バイデン氏は明確な答えを」、NATO加盟巡り****
ウクライナのゼレンスキー大統領は14日、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟への前段階である加盟行動計画(MAP)を巡り、バイデン米大統領からの明確な答えを望んでいると述べた。
ロイターやAP通信などとのインタビューで、「NATOやMAPについて協議するのであれば、(バイデン氏から)イエスかノーか具体的な答えを聞きたい」と指摘。「ウクライナの加盟の可能性と明確な日付を知る必要がある」とした。(後略)【6月14日 ロイター】
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