(【2019年7月24日 日経ビジネス】 メイ前首相に代わる新たな保守党党首に選出されたときの記事から
“ジョンソン氏は人間臭い言動から庶民派と言われるが、生粋のエリートだ。ブレグジットで庶民の生活が苦しくなれば、同氏の求心力は急低下し、英政治はさらなる混乱に陥る可能性がある。”
庶民受けするパフォーマンスのうまさでは、トランプ前大統領といい勝負でしょう。多少の“不都合な真実”はうやむやにしてしまう突破力もあります。その力で今回騒動も乗り切るのかも・・・ただ、それがイギリスにとっていいことなのかどうか・・・・)
【ガソリンだけでなく他の商品の物流も 物流だけでなく生産現場で深まる人手不足】
イギリスで、ガソリン輸送にあたるトラック運転手が大量に不足していることから、ガソリンの「パニック買い」が発声し、多くのガソリンスタンドで品切れ、給油を待つ車の長蛇の列という混乱が発生していることは、9月29日ブログ“イギリス ガソリンスタンドに長蛇の列 トラック運転手不足から物流がトラブル”でも取り上げました。
****英のガソリン、供給滞り「パニック買い」発生…混乱の長期化も****
英国でガソリン供給が滞り、多くのスタンドが営業停止に追い込まれるなど混乱が広がっている。欧州連合(EU)離脱や新型コロナウイルスの影響で外国人労働者が減り、燃料を運ぶ大型トラック運転手が不足しているためで、混乱の長期化が懸念される。
ロンドンでは2日、多くのスタンドが「ガソリン売り切れ」の表示を掲げた。市西部のスタンドを訪れた男性は、「ここで5軒目だが、どこも開いていない」と嘆いた。
混乱のきっかけは、石油大手BPが9月23日、トラック運転手の不足を理由に一部店舗の休業を発表したことだった。ガソリンが手に入らなくなるとのうわさが広まり、「パニック買い」が発生。一時は全国約8000のスタンドの半数近い店舗で品切れになった。
需給の切迫で、国内のガソリン小売価格は1リットルあたり約1・4ポンド(約210円)と、約8年ぶりの高値に急騰した。
事態収拾に向け、政府は約200人の軍人に燃料輸送の訓練を受けさせた。4日から、精製所などからスタンドへのガソリン輸送に動員する。
さらに外国人の運転手5000人の受け入れを目指し、2月末までの期間限定で一時ビザを発給することも決めた。
運転手不足の主因は、2020年12月末に英国がEUを完全離脱し、EU出身者が英国で自由に働けなくなったことだ。
英国では元々、長時間労働や低賃金を理由に運転手の仕事が敬遠されてきた。政府は東欧のEU諸国から移民を積極的に受け入れて穴埋めし、30万人近い大型トラック運転手の1割強をEU出身者が占めるまでになった。
ところがEU離脱後は、EU出身者も就労ビザが必要となった。英語能力や給与水準などの条件を満たさない人は新たにビザを取ることができない。
さらに新型コロナ禍で、ビザを持つ労働者も母国に帰り、戻ってこないケースが相次いだ。英統計局の推計によると、EU出身の大型トラック運転手は、ピーク時は4万人近くいたが、今年3月時点では約2万5000人まで減った。
英国では新型コロナ対策の規制が撤廃されて経済活動が上向き、運送業界全体では約10万人の運転手が不足しているという。商品が届かず、スーパーマーケットの棚が空になるなど、影響はサプライチェーン(供給網)全体に広がっている。
EU諸国も経済が回復し、各地で運転手不足が深刻化する。運送業界の調査会社「トランスポート・インテリジェンス」の調べでは、ドイツで約6万人、フランスで約4万3000人の運転手が足りないという。
トラック運転手として15年近く働く英国人トム・レディさん(36)は、「東欧の運転手たちは、母国や周辺国でも仕事を見つけられる。自由に働けない英国には魅力を感じていない」と話す。
運送業界だけでなく、飲食や食品加工といった分野でも労働力不足が指摘される。EU離脱によって英国が自ら招いた混乱は、経済や社会にじわじわと広がりかねない。【10月3日 読売】
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今回のガソリン騒動は、政府の対応もあって「パニック買い」が鎮静化すれば、一定に収束するのかもしれません。
ただ、上記記事にもあるように、物流が滞っているのはなにもガソリンだけでなく、イギリスでは以前からスーパーの商品棚から多くの商品が消えてしまうという“影響はサプライチェーン(供給網)全体に広がっている”事態が続いています。
“英国では、これまでも「運転手不足」が度々問題になってきた。8月、英マクドナルドがトラックの手配ができないなどとして、人気の「マックシェイク」の販売を中断。ファストフード大手も看板商品のチキンを提供できなくなり、一部店舗を閉鎖した。スーパーの棚も商品が届かず欠品が目立つようになった。”【10月2日 朝日】
そうした混乱は、今後も続くことが予想されます。
移民労働者の減少で人手不足に陥っているのはトラック運転手だけではありません。
****野菜収穫に時給4500円=軍が燃料運搬、人手不足深刻―英****
(中略)キャベツなど野菜の収穫作業員の求人では時給が30ポンド(約4500円)に高騰した。背景には新型コロナウイルス流行に加え、欧州連合(EU)離脱の影響が尾を引いていることがある。(中略)
業界団体によると、大型トラック運転手の不足人員は推計10万人にも上る。一部地域では食品などの運搬に支障を来し、スーパーの棚が空っぽになった。食品加工業や農業でも労働者が不足し、中部ボストンでは野菜の収穫作業員に時給30ポンド、年収換算で6万2000ポンド(約930万円)が提示されたほどだ。
人手不足の背景には、コロナ流行で東欧などからの移民労働者が帰国したことに加え、EU離脱後に外国人の就労ビザの要件を厳しくしたことがある。
調査会社ユーガブの世論調査では、国民の53%が「EU離脱が悪い方向に進んだ」と回答。ドイツの次期首相候補のショルツ副首相兼財務相も、EU離脱による「労働者の自由な移動」の終了が英国の混乱の原因と指摘した。
英政府はEU離脱の影響をかたくなに否定しているが、たまらずビザの発給要件緩和に方針転換。トラック運転手5000人分と畜産労働者5500人分について、3カ月間限定で外国人の就労を認めると発表した。
ただ、これに対しても産業界からは「規模も範囲も不十分」(英国小売協会)などと批判が殺到している。【10月3日 時事】
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【人手不足で高まるブレグジット後の移民政策への批判】
年収換算で6万2000ポンド(約930万円)もらえるなら私もイギリスにキャベツ収穫のバイトに行こうか・・・なんて思ってしまいますが、低い所得水準の東欧からのそうした労働者移入を難しくしたのが、ジョソン首相が旗振り役となったEU離脱であり、ビザ取得の厳格化です。
ガソリン騒動で表面化した人手不足問題は、ジョソン首相の移民政策への逆風となりつつあります。
****英でガソリン不足深刻化 移民政策に批判****
(中略)欧州連合(EU)を離脱した英国が、運転手の大半を占めるEUの単純労働者へのビザ(査証)を厳格化したことが労働力不足につながったとみられており、野党などから批判が出ている。(中略)
運転手の不足は、EU離脱後の移民政策による「弊害」(英石油会社)とみられている。
英国はEU完全離脱後の1月から、英会話能力や英企業からの正式な雇用契約の有無など一定の基準を満たした移住申請者にだけビザを与えている。それ以前は、EU市民が英国で働くためのビザは必要なかったため、完全離脱以降、単純労働者の移住が減少した。
さらに、新型コロナウイルスの感染拡大により、帰国する労働者が増えた。BBCによると、英国では現在、10万人以上の運転手が不足している。
ジョンソン政権が移民の受け入れを厳格化した背景には、離脱の効果を強調する狙いがあったとされる。英国の離脱支持者の多くは、仕事が奪われる不安から移民労働者の流入に不満を募らせていた。
ただ、英調査会社イプソス・モリが今年6〜7月に実施した調査によると、英市民約4000人のうち移民の減少を望むのは45%で、2015年6月時点(66%)より下がった。
英国では今年前半から労働力不足で飲食店の閉店が相次ぎ、離脱問題を研究する元保守党議員は「離脱に反対した市民だけなく、離脱支持者の多くもジョンソン政権の移民政策に違和感を覚えるようになった」と分析する。
英政府は9月25日、運転手5000人に語学などの審査が不要な短期ビザを発給すると表明。陸軍を動員したガソリン輸送の準備も進めているが、野党労働党は「(政府の対応は)根本的な解決にはならない」とし、移民政策が「英国を混乱させた」と非難している。【10月2日 産経】
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こうした離脱後の移民政策への批判に対し、ションソン首相は方針を曲げない姿勢を見せています。
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(中略)最大野党・労働党のサー・キア・スターマー党首は、外国人労働者のビザ発行を急ぐため「緊急対策」が必要だとして、議会審議を再開するようボリス・ジョンソン英首相に呼びかけた。
一方ジョンソン首相は、輸送業界が低賃金の外国人労働者に依存しすぎているのが問題だと非難した。
ジョンソン氏は、問題の短期的解決のために大勢の移民労働者を受け入れることで、イギリス人労働者にとって「低賃金で低技能の経済」を作り出してしまうような、過去の「失敗」を繰り返すつもりはないと強調した。
リシ・スーナク財務相は、複数の業界でサプライチェーン(供給連鎖)の混乱が世界的な問題となっており、クリスマスまでは続くと警告。
英紙デイリー・メールに対して、「物不足は現実に起きている問題だ」と財務相は述べ、「この国だけでなく世界中で、様々な分野でサプライチェーンが具体的な形で混乱している。影響をできるだけ軽減するため、最善を尽くす」と話した。
英経済紙フィナンシャル・タイムズによると、ブレグジットのため低賃金の外国人労働者が減った影響で、イギリスの養鶏農家は七面鳥の育成を大幅に削減。今年の供給は約100万羽少なくなる見通しで、スーパーなど小売業者はフランスやポーランドなどEU諸国からの輸入を増やすことになるという。【10月2日 BBC 「イギリスのガソリン不足、英軍が週明けから輸送支援」】
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多すぎる移民を排除して本来のイギリスを取り戻すというのはブレグジットの根幹をなすポイントであり、(ブレグジットに関する難しい話には関心を持たなくても)その単純明快・シンプルな主張に多くの有権者が賛同したからこそブレグジットは成立したのであり、その旗を振って首相に上り詰め、選挙に勝利したのがジョンソン首相です。
いわば移民削減はジョソン首相そのものであり、今更その「弊害」云々なんて、口が裂けても言えないでしょう。
では、イギリスは今後どうするのか・・・。
【天然ガス価格高騰問題でも懸念が強まるイギリスの立ち位置】
ブレグジットの影響は移民労働力の不足だけではありません。
昨日ブログで取り上げたように、欧州は天然ガス価格高騰に見舞われていますが、イギリスでも話は同じです。
****英国で電気・ガス料金値上げ、天然ガス急騰で*****
英国では1日から多くの世帯で電気・ガス料金が引き上げられる。
多くの世帯が利用するプランの上限価格が約12−13%引き上げられることが理由。背景には天然ガスの国際価格急騰がある。
ガス電力市場監督局(Ofgem)は「8月に発表した最新の上限価格が今日、(年間)1277ポンド(1721.01ドル)に設定された。平均的な世帯が支払うガス・電気料金となる」との動画をツイッターに投稿した。
電気・ガス料金の上限価格は2019年1月に導入。エネルギー会社による「ぼったくり」(メイ元首相)に終止符を打つことが狙いだった。
Ofgemは、今回の上限引き上げについて、今年のエネルギー価格上昇を反映したものだと説明。ここ数週間の「前例のない」天然ガス国際価格の上昇で供給業者の財務が圧迫されていると指摘した。
英国では記録的な価格上昇を受けて、多くの中小供給業者が破綻している。
Ofgemは「約1500万世帯がエネルギー価格上限の対象となる。契約先の供給業者が破綻し場合、この料金で新たな供給業者に引き継がれる」と述べた。【10月1日 ロイター】
多くの世帯が利用するプランの上限価格が約12−13%引き上げられることが理由。背景には天然ガスの国際価格急騰がある。
ガス電力市場監督局(Ofgem)は「8月に発表した最新の上限価格が今日、(年間)1277ポンド(1721.01ドル)に設定された。平均的な世帯が支払うガス・電気料金となる」との動画をツイッターに投稿した。
電気・ガス料金の上限価格は2019年1月に導入。エネルギー会社による「ぼったくり」(メイ元首相)に終止符を打つことが狙いだった。
Ofgemは、今回の上限引き上げについて、今年のエネルギー価格上昇を反映したものだと説明。ここ数週間の「前例のない」天然ガス国際価格の上昇で供給業者の財務が圧迫されていると指摘した。
英国では記録的な価格上昇を受けて、多くの中小供給業者が破綻している。
Ofgemは「約1500万世帯がエネルギー価格上限の対象となる。契約先の供給業者が破綻し場合、この料金で新たな供給業者に引き継がれる」と述べた。【10月1日 ロイター】
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“話は同じ”というより、他のEU諸国より状況は厳しいと言うべきかも。
****英国のリスクはどれほどか****
英国が受ける影響は他の欧州諸国より間違いなく大きい。英国は過去10年間にCO2の排出量を大きく減らしたことで称賛を得てきた。
その背景には再生可能エネルギーの利用を増やし、石炭を天然ガスに置き換えたことがある。特に、風が弱く風力発電の出力が上がらない時に、こうした措置を講じた。
また、英国はガスの供給において実質的にジャスト・イン・タイム方式を採用している。欧州連合(EU)諸国より国内生産量が多い一方で、貯蔵容量は小さい。
英政府は、天然ガスの多様な供給源を確保していると主張する。それゆえ世界市場において、とりわけ液化天然ガス(LNG)の輸入を巡って他国と競わねばならないことを認めている。
LNGの需要はアジアでますます高まり、輸入競争を激化させている。ノルウェーがパイプラインを通じて英国や他の欧州諸国にもたらす供給は信頼性が高いと見られる。その一方で英国は、ロシアにつながるEUのパイプラインがもたらす供給への依存度も高めている。
英国がEUを離脱した今、欧州はいざとなれば、自分たちへの供給を英国への供給に優先させるかもしれないと懸念する声がある。
「我々は事実上、パイプラインの末端に位置している。物理的にも、政治的にもだ」。英コンサルティング会社エナジー・コントラクト・カンパニーのニオール・トリンブル氏はこう語る。
「寒さの厳しい冬に我々が問題に直面するシナリオは決してあり得ないことではない」(同氏)【9月22日 日経ビジネス「天然ガス価格の高騰に苦しむ欧州」】
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「我々は事実上、パイプラインの末端に位置している。物理的にも、政治的にもだ」というのが、EU離脱後のイギリスの置かれている状況であり、ジョンソン首相がイギリス国民を率いてたどり着いたところでもあります。
ジョンソン首相は新型コロナワクチン確保ではEU諸国を出し抜いて、EU離脱の「成果」を誇示することにもなりましたが、総合的・長期的にみた場合、地域諸国との協調を振り切って「我が道を行く」という対応が賢明な選択だったのか個人的には以前から疑問に感じています。
ジョンソン首相は、もはや存在しない「大英帝国」へのノスタルジックな郷愁をかきたてることで、イギリスを危険な道へといざなったのでは・・・と言うと言い過ぎかもしれませんが・・・・。