(【10月19日 朝日】)
【クアッドへのシフトを強めるインド】
日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4カ国(通称クアッド)の首脳が9月24日に初の対面での会談を開催しました。
新たに創設された米英豪の「AUKUS(オーカス)」が軍事・安全保障面に重点を置くのに対し、クアッドは経済などより広範な分野を対象としているとされますが、いずれもアメリカ主導の対中国戦略です。
****対面でのクアッド首脳会議、米の強い意向で開催 対中シフトを強調****
日米豪印(通称クアッド)による対面での初の首脳会議は、バイデン米大統領の強い意向で開催された。バイデン政権には8月末のアフガニスタン戦争の終結後、早期に首脳会議を開くことで、外交・安全保障の軸足を中東地域から中国への対応にシフトさせたことをアピールする狙いがある。
バイデン政権は、中国が経済・軍事面で影響力を強めるインド太平洋地域を最重要地域と捉えている。なかでも民主主義や法の支配などの価値観を共有するクアッドは「地域における政策立案の根本的基盤」との位置づけで、専制主義と批判する中国に対抗するための中核的な枠組みだ。
バイデン政権は3月にオンラインながらクアッドで初の首脳会議を開催するなど、対中シフトへの環境整備を進めてきた。アフガン戦争の終結もその一環だ。
しかし、駐留米軍撤収に伴う混乱で、バイデン氏の支持率は急落。撤収理由に挙げていた「差し迫った脅威」である中国への対応を本格的に始動させ、撤収を正当化するとともに強い指導力を示す必要に迫られていた。
バイデン政権は今回の首脳会議前には、英国とオーストラリアと共にインド太平洋地域での安全保障の新たな枠組み「AUKUS(オーカス)」の創設も発表している。クアッドで経済安保の協力を強化しつつ、オーカスでは軍事的な連携を進める方針で、バイデン政権は重層的な多国間連携で中国に対抗する戦略を描いている。
ただし、バイデン政権の戦略が、思惑通りに進む保証はない。オーカスでは、オーストラリアがフランスと共同で進めていた潜水艦開発計画を破棄し、米英の支援による原子力潜水艦の配備に切り替えた。秘密裏に進められた米英豪の計画にフランスは猛反発し、欧州連合(EU)も不快感を表明。バイデン氏がマクロン仏大統領と22日に電話協議し、関係修復を試みているが、対中国で歩調を合わせたい欧州との間に亀裂が生じている。
また、東南アジア諸国連合(ASEAN)の一部の国は露骨な対中シフトには警戒感を示しており、オーカスについては「軍拡競争につながる」と懸念の声も上がる。
クアッドの一角を占めるインドも中国との経済的な結びつきが強く、米国が対中強硬姿勢を強めれば、足並みが乱れる可能性がある。【9月25日 毎日】
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上記記事最後にあるように、伝統的に非同盟主義を掲げてきたインドは、中国とのライバル関係にあり、中国のインド洋進出に神経をとがらせているのは事実ですが、一方で、経済的には中国と不可分の関係にあり、また、国境問題という慎重な扱いを要する問題を中国との間で抱えていますので、「中国包囲網」という形で過度に中国を刺激することには及び腰の面もあります。
日本は、そういう慎重なインドを引きずり込むような働きかけを行ってきましたが、初の対面での会談実現は、日本にとってはそうした努力の成果とも評価されているようです。
****日本、インド引き込みが奏功 日米豪印首脳会談****
日本、米国、オーストラリア、インド4カ国(クアッド)の首脳が24日に初の対面での会談を開催することになったのは、伝統的に「非同盟」の立場を続けてきたインドが積極的になったことが大きい。対中国を念頭に日本はインドとの2国間関係を強化してきており、働きかけが実りつつある。
「(法の支配などの)『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向けた重要なパートナーだ」
菅義偉首相は23日、クアッドの首脳会合前に会談したインドのモディ首相にこう語りかけた。対面の会談は初めてだったが、次第に打ち解けた雰囲気になったという。
クアッドの原点は2004年のスマトラ沖地震の際の4カ国の被災地支援だ。以前は当局間の会合を開いても公表しないことがあったというが、17年が過ぎ、ようやく初の対面の首脳会合が実現する。外務省幹部は「要するにモディ氏が出てきたということだ」と解説する。
インドは特定の国と同盟関係を築かず、全方位外交を展開してきた。ロシアからは武器を輸入し、中露の主導する上海協力機構(SCO)や、新興5カ国(BRICS)にも参加する。
日本政府は表向き、クアッドについて「対中包囲網ではない」として、軍事同盟にすることも考えていないと強調する。インドの離反を招かないためだ。
一方で、安倍晋三前首相は中国を念頭にインド太平洋構想を打ち出す中、モディ氏と相互往来を重ね、関係を築いてきた。政府関係者は「日本は伝統的にインドと(対立する)パキスタンと等距離で外交を行ってきたが、安倍さんはインドにかじをきった」と打ち明ける。菅首相も今年4月末からの大型連休中にインド訪問を検討していた。
そのインドがクアッドへのシフトを強める「分水嶺になった」(外務省幹部)とされるのが、新型コロナウイルス禍にかかわらず、各国外相が顔を合わせた昨年10月の東京での会合だ。インドとしては、中国の影響力がアジア地域で拡大していることに加え、国境付近で中印両軍が衝突し、昨年6月に45年ぶりに死者が出たことも後押ししたとみられる。【9月25日 SankeiBiz】
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【中印国境に関する協議が物別れ クアッドを背景にインドが強気姿勢?】
インドと中国は、昨年6月に中国チベット自治区とインド北部ラダック地方の係争地域パンゴン湖周辺での衝突で45年ぶりに死者が出ましたが、今年2月に両軍は撤退に合意しています。
ただ、両国の国境での衝突・小競り合いは毎度のことで、中国メディアによると最近も国境付近で両軍が一時衝突したと報じられています。【10月11日 共同より】
そうしたなかで、2月の両軍撤退合意後も話し合いは続けられていますが、10月10日に行われた両軍の協議は紛糾したことが伝えられています。
背景には、インドがクアッドに参加してアメリカに接近したことで自信を深め、強気に出ているとの中国メディア
報道も報道もありますが、そこらはどうでしょうか・・・。9月の首脳会議出席に見られるように、インドが対中国で真正面から向き合うような流れになっているのかもしれませんが、もう少し状況をみないとなんとも言い難いところです。
****インド、中国との対立再燃 米国への接近で「自信」―軍高官会談物別れ****
中国とインドの国境地帯に再び緊張が走っている。中印両軍が小競り合いを起こし、10日に開かれた国境問題をめぐる軍高官会談は物別れに終わった。インドが米国に接近し強気に転じていることが、対立再燃の背景にあるという見方も浮上している。
中印は3000キロ以上の未画定国境を抱え、事実上の国境となる実効支配線をはさみ対峙(たいじ)してきた。両軍は昨年6月、インド北部ラダックの国境地帯の渓谷沿いで衝突。45年ぶりに双方に死者が出た。両軍はその後もヒマラヤ山脈の国境地帯でにらみ合いを続け、今年2月に一部地域で撤退を始めた。
だが、中印メディアによると、先月下旬になってインドが実効支配し中国も領有権を主張するアルナチャルプラデシュ州タワン近郊で、両軍の小競り合いが発生した。中国軍兵士がインド側に一時拘束されたという情報も流れ、英字紙チャイナ・デーリーが中国軍関係者の話として「完全なでっち上げ」と報じる一幕もあった。
インドのナイドゥ副大統領は今月8日、同州を空軍機で訪問し、中国をさらに刺激。中印両軍は10日、にらみ合いが続いている地域からの撤退について軍高官会談を開いて協議したが、「インド側が不合理かつ現実離れした要求を掲げた」(中国軍西部戦区)「中国側はいかなる前向きな提案もしなかった」(インド外務省)と非難し合う結果に終わった。
中国ではインドの一連の対応について、同国と日米、オーストラリアの4カ国連携枠組み(通称クアッド)と結び付ける論調が出ている。
日米豪印は14日までの日程で合同海上演習「マラバール」をインド東方のベンガル湾で実施し、軍事面で存在感を誇示。中国紙・環球時報は、クアッド参加がインドに「これ以上ない自信」を与え、軍高官会談に影響したという専門家の見解を伝えた。
中国の疑念を裏付けるように、インドでもクアッド重視の機運が高まっている。ただし、インド側で指摘されるのは、対中包囲網の一環として米英豪が立ち上げた安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」の影響だ。
印オブザーバー研究財団のハーシュ・パント研究主任はヒンドゥスタン・タイムズ紙への寄稿で、「米国がAUKUSを特別視してクアッドが希薄化するとインドは懸念している」と分析。こうした危惧が、インド政府をクアッドへの関与強化に向かわせている可能性があると解説した。【10月14日 時事】
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もともとインドはクアッドにそう積極的でもありませんでしたが、アメリカの関心がAUKUSに移るかも・・・という事態になると、置き去りにされるような不安感からクアッド重視に傾く・・・といった話でしょうか。
【中国は、インドの影響力が強いブータンとの関係を深める】
一方、中国は、インドの影響力が強いブータンへの働きかけを強めているようです。
****中国とブータン、国境画定へ加速 覚書に調印 対インド狙いも****
国境を巡る対立が長年続いてきた中国とブータンが、問題解決に向けて動き始めた。両国は国境画定交渉を加速させるための覚書に調印し、国交の樹立にも意欲を示した。
中国にとってブータンとの関係安定を図る動きは、同様に国境問題を抱えるインドを揺さぶる狙いがある。ブータンに影響力を持ってきたインドは、交渉の行方を注視している。
14日、中国の呉江浩外務次官補とブータンのタンディ・ドルジ外相がオンラインで会談し、国境交渉を3段階で進める計画に関する覚書を交わした。
詳細は明らかにされていないが、中国外務省によると、呉氏は「今日の調印は国交樹立プロセスにも有意義な貢献になると信じている。中国は親善、誠実、互恵の周辺外交を実践する」と表明。ブータン外務省も「この工程表の履行により、両国が受け入れ可能な結論を導くことが期待される」と発表した。
国境が400キロ以上に及ぶ中国とブータンは、国境画定に向けた協議を1984年に始め、これまで24回の交渉を重ねてきたが、合意には至っていない。主な係争地はブータン西部のドクラム地域だったが、中国は昨年、東部のサクテン野生生物保護区についても「国境は未画定」と主張し、問題を複雑にした。
中国が陸地で国境を接する14カ国のうち、現在も境界が画定していないのはブータンとインドの2カ国で、国交がないのはブータンのみだ。中国にとって文化や宗教でチベット自治区とつながりが深いブータンとの関係を築くことは、チベットを安定させる意義がある。
さらに中国の思惑が透けるのは、対インド関係だ。
昨年、両軍の衝突で45年ぶりに死者が出た中印国境では緊張が続く。今月9日、インドのナイドゥ副大統領が中印の係争地でインドが実効支配するアルナチャルプラデシュ州を訪問すると、中国外務省の趙立堅副報道局長は「州の設立が違法であり、指導者の活動など認めない」と抗議。10日に開かれた軍団長級の会議も、物別れに終わった。
インドは中国とブータンが対立するドクラム地域に軍を駐留させるなど、ブータンの後ろ盾として強い影響力も持つ。中国ではブータンとの交渉が難航してきた背景に、インドの存在があるとの見方が強い。
共産党機関紙・人民日報系の環球時報は「インドが妨害しなければ、中国とブータンの交渉は成立する」と題した16日の社説で、「インドが国境に関する国益をブータンにまで拡大させて『対中前線』をつくることは、国際関係における違反行為だ」と非難した。
インド外務省のバグチ報道官は、中国とブータンの覚書について「両国で締結があったことは把握している」と語るにとどめている。
インドの安全保障にとって、ブータンは重要な国だ。近くには、首都ニューデリーがあるインド主要部と北東部をつなぐ「チキン・ネック(鶏の首)」と呼ばれるインド領の細い地域があり、ここを中国に攻められれば、国土が分断されるとの懸念がある。【10月19日 朝日】
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インドが後ろ盾となって軍を駐留させてきたブータンが、インド抜きで中国と交渉を進める・・・という話であれば、インドにとっては手痛い失点でしょう。
更に、「チキン・ネック」への中国の圧力が強まる事態になれば、戦略的にもインドは不利です。
やっぱり、中国の方が一枚上手かな。というか、ブータンを直接交渉に引き込むほどに、中国に勢いがあるというか、影響力が強いといったところでしょう。