孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  ノーベル平和賞を黙殺、規制強化 一連の規制強化で政権に疑問を持たない人間が育つ懸念

2021-10-09 23:14:55 | 中国
(習近平国家主席の政治理念を教える小学校教材【9月1日放送「日テレNEWS24」】)

【ムラトフ氏の平和賞受賞はロシアに報道の自由が存在している証?】
今年のノーベル平和賞が、ロシアとフィリピンで強権支配政権を批判して活動してきたジャーナリストに授与されたのは周知のところです。

****強権批判、2記者にノーベル平和賞 フィリピン・ロシア 屈さず報道、表現の自由守る****
ノルウェーのノーベル委員会は8日、2021年のノーベル平和賞を、いずれも強権的な政権への批判を続けてきた、フィリピンのジャーナリスト、マリア・レッサさん(58)と、ロシアの独立系リベラル新聞「ノーバヤ・ガゼータ」の編集長ドミトリー・ムラトフさん(59)に授与すると発表した。

ノルウェー・ノーベル委員会のライスアンデシェン委員長は発表の会見で「民主主義と恒久的な平和の前提である表現の自由を守るために努力してきた」と2人の実績をたたえた。
 
さらに、2人は「民主主義と報道の自由がますます不利な状況に直面している世界」で、表現の自由のために闘う「全ジャーナリストの代表だ」と述べた。(後略)【10月9日 朝日】
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両名に批判されてきた政権側の反応が気になるところですが、ロシア・プーチン政権は、ムラトフ氏の受賞を歓迎し、ロシアに表現の自由が存在することの証だと言いたいようです。

****プーチン政権、「言論の自由」アピール?…政権批判ジャーナリストへの平和賞授与を祝福****
ロシアのプーチン政権が、政権批判を続ける独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」のドミトリー・ムラトフ編集長(59)へのノーベル平和賞授与を祝福している。欧米向けにロシアには「言論の自由」があるとアピールしようとしているようだ。
 
タス通信によると、ミハイル・ミシュスチン露首相の報道官は8日、内閣を代表し「彼にふさわしい賞であり、我々は祝福する」と述べた。ムラトフ氏のプロ意識や人格も称賛した。
 
人権問題などに関するプーチン大統領の諮問機関トップは「ロシアには活気に満ちたジャーナリズムが存在することを示している」と評した。ノルウェーのノーベル賞委員会の決定を「内政干渉だ」とする批判はほとんど出ていない。
 
ロシア政府は、多くの独立系メディアを「外国の代理人」に指定することで「欧米のスパイ」のレッテルを貼ってきたが、ノーバヤ・ガゼータは指定を免れてきた。露有力紙コメルサントは、ノーバヤ・ガゼータが言論の自由の象徴として政権側によって「保護されてきた」と指摘する。
 
ただ、プーチン政権は実質的にはメディアへの弾圧の手を緩めていない。露法務省は8日、ロシアの反政権運動指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の毒物襲撃事件の真相を調べてきた国際的な民間調査機関「ベリングキャット」など3団体と記者9人を「外国の代理人」に追加した。【10月9日 読売】
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“言論の自由の象徴として政権側によって「保護されてきた」”・・・政権側も狡猾です。

マリア・レッサ氏に「麻薬問題」での超法規的殺人を批判されている直情径行なフィリピン・ドゥテルテ大統領にはそうした狡猾さはないかもしれませんが、今のところ大統領の反応に関する記事は目にしていません。

フィリピンでは次期大統領選挙がスタートしたところで、今回の授与はその混戦模様の選挙戦に影響するかも・・・との報道もありますが、多くのフィリピン国民はドゥテルテ大統領の強硬姿勢を受け入れてきた経緯もありますので、影響云々はどうでしょうか・・・。

【今回平和賞を黙殺し、報道規制を強化する中国】
注目されるの、やはり「報道の自由」が圧殺されている中国の反応です。今回授与を黙殺する構えのようです。

****中国、ノーベル平和賞の報道を規制か 速報削除、主要メディア報じず****
ノーベル平和賞の報道を規制したのか――。中国では8日発表された同賞について、一部メディアが速報を流したが、その後に削除されて閲覧できない状態となった。

ノーベル賞委員会が、強権下で「表現の自由を守るため努力をした」と評価したジャーナリスト2人の受賞の報道について、当局が不適切と判断した可能性がありそうだ。
 
インターネットなどで速報を流したのは、中国の通信社である中国新聞社や中国共産党紙・人民日報系の環球時報。中国新聞社はノーベル賞委員会が発表した直後、受賞が決まった2人を似顔絵入りで紹介した。しかし速報はすぐに削除され、一部の転載されたもの以外は閲覧できない状態となった。また、その後も国内の主要メディアは平和賞に関して報じていない。
 
ロシアやフィリピンで公然と体制批判を続けてきたジャーナリストへの授与に、中国当局が強く反応したとみられる。ノーベル賞全般については中国国内でも関心が高く、平和賞以外の各賞は連日報道されていた。
 
中国でメディアは中国共産党の「喉と舌」と位置づけられる。2010年に中国の民主活動家の劉暁波氏(17年に事実上獄中死)に平和賞が授与されたが、当局は国内での報道を封殺し、各メディアは授賞決定を非難する当局の談話を伝えただけだった。【10月9日 毎日】
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ロシア・プーチン政権の鷹揚さを取り繕うような狡猾さと違って、中国・習近平政権はピリピリしているようです。
今でも圧殺されている報道の自由ですが、更にその度合いが強まるようです。

****中国政府 民間の報道事業参入禁止の方針****
中国政府は8日、民間企業が報道関連の事業に参入することを禁止する方針を明らかにしました。さらなる情報統制の強化で、政権への批判を抑え込む狙いがあるとみられます。

これは、中国の国家発展改革委員会が公表したもので、新聞やテレビ、ネットメディアなどの報道事業に民間企業が参入してはならないとしています。

また、民間企業が政治、経済、外交や、重大な社会問題などを発信することも認めないということで、今月14日まで意見を募集するとしています。

中国では、経済分野などで既存の共産党系メディアとは異なる視点で情報発信する民間のネット企業が成長を続けていますが、習近平指導部は今後、さらなる情報統制の強化で世論をコントロールし、政権への批判を抑え込む狙いがあるとみられます。【10月9日 日テレNEWS24】
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【一連の規制強化は「文化大革命」か?】
こうした統制強化は、最近中国・習近平政権が進めている、かつての“文化大革命”を彷彿とさせるもろもろの統制・管理強化の一環のようにも思えます。

規制の標的とされた業界はバラバラです・・・・アリババグループなどIT企業、配車サービス最大手・滴滴(ディディ)、セレブな芸能人、「推し(応援対象)」にお金を使うファン活動、ゲーム産業、学習塾・・・等々。

それぞれには、それぞれのもっともな理由もあります。規制を必要する過熱ぶりなどもあります。

中国政治事情に詳しく、中国に対し厳しい指摘を常々行っている遠藤誉氏(中国問題グローバル研究所所長)などは、日本メディアの“文化大革命”云々の捕らえ方には批判的なようです。

文化大革命の何たるかも知らないくせいに皮相的に物事を言ってはならない・・・といったところでしょうか。

****中国政府「飯圏(ファン・グループ)」規制の真相****
中国政府による「飯圏」規制を、日本では「思想統制」とか「文革への逆戻り」などと解説しているが、笑止千万。飯圏はアイドルへの狂信的な十代前半のファンの心を操り暴利をむさぼっている闇ビジネスの一つだ。

「飯圏(ファン・チュエン)」とは何か?
「飯圏」の「飯」は中国語では[fan](ファン)と発音し、日本語の「ファン」を音に置き換えたもので、「飯圏」とはアイドルを追いかけるファンたちのグループ」のことだ。

(中略  「えげつないほどに」ビジネス化した中国の“推し”活動の詳細が記述されていますが、スペースの都合で割愛します。)

「飯圏」のメンバーの多くが社会的判断力をまだ養われていない十代前半の青少年が多いため、自分でお金を稼ぐ能力はない。そこで両親や祖父母のクレジットカードを盗み、両親や祖父母が生涯かけて貯めてきたお金を、アイドル事務所に煽られるままに「飯圏」が応援するアイドルのために使い果たしてしまうというケースも散見される。

何も持たない12歳とか、せいぜい15歳くらいの青少年が、「投げ銭」をアイドルに投げ続けることによって、そのアイドルを人気者にしていったのは自分であり、まるで「自分が育てたのだ」という自己満足を得ることによって自分の存在感を認識するという、ネット社会が生んだ「歪んだ衝動」であり「哀しい現象」の一つだ。

青少年の心を破壊していくだけでなく、家の財産全てを悪徳業者のような闇ビジネスに吸い取られていく不健全な「中国の闇」がそこにはある。

「飯圏」の規制に出た中国政府
そこで、中国政府のネット管理に関する部局である「中央網絡安全和信息化委員会弁公室秘書局(中央ネット安全と情報化委員会秘書局)」は今年8月25日、<"飯圏"の乱れた現象の管理をさらに強化する通知に関して>という通達を出した。(中略)

中国政府の規制を「文革の再来」、「思想統制」、「来年の党大会への警戒感」と分析する日本メディアの罪
この規制に関して日本の大手メディアが、これは
●習近平による思想統制の強化(独裁性が強まった) ●文革への逆戻りだ ●「飯圏」は組織化されているので、反共産党に傾くのを中国政府が恐れている。●習近平は、来年の党大会が順調に行くように警戒している(国家主席2期10年の任期撤廃をしたので、党大会で中共中央総書記に選出されなければならないから、その邪魔をされることを警戒している、という意味)
などが背景にあるといった趣旨の説明を展開しているのを、偶然、夜9時のテレビニュースで見て非常に驚いた。(中略)

日本のメディアの中国報道はほとんどが間違っているが、それにしても、これはいくら何でもあんまりではないかと唖然としてしまったのである。

どんなことでも「文革の再来」と言えばすむような風潮が日本にあるが、文革とは何かを本当に知っているのだろうか?

文革の目的は「政府の転覆」にある。
国家主席の座を退かざるを得ないところに追いこまれた毛沢東が、国家主席になった劉少奇を倒そうと、1966年に「敵は中南海にあり!」と上海から叫び始まったものだ。

国家主席であり、中共中央総書記および中央軍事委員会主席でもある絶対的権限を持った習近平が、自分の政権を倒してどうする? あり得ない発想だ。(中略)

日本でも、ここまで激しくはないが、2012年に自民党の礒崎陽輔参院議員が、ツイッターで「 アイドルユニットAKB48の総選挙では、投票券付きのCDを1人で大量に買うファンがいて、イベントのあり方が論議になったこと」について、疑問を呈したことがある。

「飯圏」規制は、まさに磯崎議員のこの疑問と同じで、結果日本では2019年に中止になったようだ。
このプロセスが、中国では大規模に起きただけだ。

なぜ日本で起きると「歪んだ社会を是正した」ものと位置付けられるのに、中国が日本のあとを追いながら規制したことは「思想弾圧」であり「文革への回帰」であり「来年の党大会への習近平の警戒感」に変質していくのか。

日本の大手メディアが解説した理由とは程遠い現実が中国にあり、その真相こそが中国の弱点でもあるのに、これらを次々と決まり文句で位置付けて視聴者の耳目におもねる日本のジャーナリズムこそは、ビジネス化してしまって正常な役割を果たしていない。

視聴者が喜ぶ方向に事実を捻じ曲げていくことを、ジャーナリストは恥ずかしいとは思わないのだろうか?
虚偽の事実を日本の視聴者に拡散させていくのは、日本を誤導し国益を損ねるのではないかと懸念し、本稿をまとめた。【10月9日 遠藤 誉氏 Newsweek】
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中国で教育を受け、長春包囲戦を体験し、朝鮮戦争時は延吉にいた遠藤氏にすれば、何も知らずに皮相的に書き立てる日本メディアのあり様が我慢ならないようです。

【政権に疑問を持つことすらしない人間が育つことへの懸念】
ただ、確かにファン活動規制などは必要性があってのことでしょうが、一連の動きは、社会経済活動・市民活動の「あるべき姿」は“社会主義”の理念に照らして、国家・党が決める、そこからの逸脱は許さない・・・という党の強い意思が感じられます。

もちろん、それは共産党政治が以前から持っている傾向ではありますが、最近とみに強まっているのではないか・・・というように思えます。

****文化大革命の再来なのか?習近平指導部の「急進的な締め付け」 その狙いと「最も心配な副作用」****
中国・習近平指導部の一挙手一投足に、チャイナ・ウォッチャー(中国観測者)たちが繊細な注意を払っている。
習近平指導部が、IT企業や芸能界、それに学習塾など複数の業界で締め付けを急速に強化している。中には「富裕層叩き」とみられる動きもある。(中略)

■専門家はどう見る?
一見すると、規制の標的とされた業界はバラバラだ。しかし中国政治が専門の学習院大学の江藤名保子教授は「世論誘導」という狙いが通底していると指摘する。

「二つの特徴があると考えています。一つは『社会がより良い方向に向かっている』と世論を誘導するメッセージが盛り込まれていること。もう一つは、『中国が非常に良くなっていることを外国は理解していない』というもので、排外的な傾向が強まっています」(中略)

江藤さんは、今回の習近平政権による規制は「文革とはいえない」という立場をとる。

「毛沢東の時代は国内だけを見ていて、劉少奇とその一派を押しのけることが最大の目標でした。しかし習近平は、自身が権力を握りつつ、アメリカとの競争に勝つことも目標としています。それが自身の権力を確定させることにつながりますから、表裏一体なのです。そのために、国内向けには『挙国一致』という言葉を使いますが、対立が表面化しない方がいいというプラグマティック(実利的)な判断が働いています」

一方で、文革と似通う部分も出てくる。
「カリスマ的なリーダーとして自身を位置づけるとか、あるいはメディアや芸能を通じて人々の認識に働きかける。さらに若者への習近平思想の打ち込みも毛沢東のとった手法と似ています。文革的な効果というのもおそらく副作用的に現れるでしょう。それを恐れた中国社会の中から『文革の再来なのか』という声が出ることは非常に健全なことだと思います」(中略)

一方で、江藤さんが「最も心配」だという副作用は別の点にある。
「今ですら、中国の若年層の人たちは国際社会に対する認識が私たちとは違っていると感じることがあります。そうした対外的な誤認識に加え、習近平思想がボトムラインとして組み込まれてしまうのは非常に懸念すべきではないでしょうか」

学校教育で段階的に習近平思想を習ったところで、全ての人が感化されるとは限らない。一方で、中国共産党は思想面でも漏れが出ないように対策をしていると江藤さんは分析する。

「共産党は『複合的な傘』で人々をコントロールしようとしています。『社会主義』という1つの傘ではコントロールできる時代ではなく、例えば学校教育を受ける年代層に加え、起業家や知識人、党外人士(共産党に所属しない人たち)や宗教関係者。

誰かしらが必ず、どこかの『傘』に入って世論誘導の影響を受ける形で社会統制を進めています。これまで中国では、40代以上の人たちなどは、表に出さないまでも、政権に疑問を持つ部分がありました。しかし30代以下の人たちは、もしかすると政権に対する信用・信頼が非常に高くなることがあり得ると思います」【10月6日 HUFFPOST】
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小学校でも「習おじさん」の思想を学び、政府に批判的な報道は一切存在する余地もない・・・そういう社会でどのような人間が育つのか?

今はまだ、愛国主義とか共産党的な日本認識に対しても、冷静にものを言える風潮もあるようです。

****日本文化が好きなだけで批判されるなんておかしい! 中国ネットの声は****
中国ではますます愛国精神を強調するようになっており、他国の文化を褒めただけで「愛国者ではない」と言われるほどになってしまったようだ。中国のQ&Aサイト・知乎はこのほど、「日本文化が好きな人は愛国者ではないのか」と題するスレッドを掲載した。

スレ主は、日本をはじめとする外国の文化や事物を好きだと言うだけで叩かれる中国社会の風潮に疑問を呈し、「愛国は形だけではないはず」と主張している。「今は鎖国の時代ではない」ので、愛国者であっても外国の文化を好きになるのは当然ではないのかと問いかけつつ、「外国人には中国文化を好きになって欲しいと願いながら、中国人が外国の文化を好きになると批判されるのはおかしい」と主張している。

スレッドに集まったコメントを見てみると、その多くがスレ主の意見に賛同するもので、「日本好きと愛国とは全く別の話」との意見が大半を占めた。

外国の文化を褒めただけで「愛国者ではない」と言われるのは「前世紀にも見られた風潮」、「自信がなかった昔ならいざ知らず、今は2021年だぞ」という声もあったので、中国国内にも時代に逆行した風潮と感じている人は多いようだ。「この考え方からするとスーツを着たら愛国者ではないことになるのか」など、矛盾点が多く指摘されていた。

むしろ、愛国のためには外国を排斥するのではなく、外国と交流を図り、学び合い、国を発展させて世界平和を目指すべきとの意見も多く、孫子の言葉である「敵を知り己を知れば百戦負けなし」を引用する人もいた。また、大国としての度量を示すべきと言う意見も少なくなく、大国なら「海納百川」つまり大海のような包容力を持とうと呼びかける人もいた。(後略)【10月9日 Searchina】
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現実には、日本を称賛するだけで批判されることが多々あるのでこういう議論にもなるのでしょうが、現在の統制・管理の強化の結果、こういう議論さえ消えてしまうようなことはないのか・・・そこを心配しています。
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