孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  TTP無期限停戦 シャリフ首相のもとで対米関係改善? 課題は治安と財政・インフレ

2022-06-03 23:05:24 | アフガン・パキスタン
(パキスタン石油ディーラー協会(PPDA)は2021年11月24日、政府が毎月決めるガソリン公定価格では利益が少な過ぎるとして、加盟ガソリンスタンドの全国ストライキを25日から開始すると発表した。これにより、各地のガソリンスタンドは、一部の大手石油流通系スタンドを除いて休業することとなり、ガソリンを求める自動車やバイクで大変な混雑となった。【2021年11月26日 JETRO】)

【TTP 無期限停戦を発表】
パキスタン、アフガニスタンのタリバン、そしてパキスタン国内で反政府武装闘争を行うイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP))」の三者の微妙な関係・・・タリバンを生み育てのはパキスタンの軍情報機関であるが最近は利害が衝突することも、タリバンとTTPは同じイスラム原理主義でつながっている、そのTTPとパキスタン軍は激しい敵対関係にある・・・などの関係については、4月18日ブログ“パキスタン アフガニスタンを空爆 TTPをめぐる微妙な関係”でも取り上げました。

そのなかで、タリバンが仲介してのパキスタンとTTPの停戦がなされたこと、しかしその後、停戦が終了したことにも触れましたが、5月に再びタリバン仲介で停戦が実現しています。

****武装勢力が一時停戦表明 パキスタン、タリバン仲介****
パキスタンのイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」は18日、同国政府との今月30日までの一時停戦を表明した。TTPと関係が深い隣国アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権が仲介し、和平に向けて協議している。協議が進展するかは不透明。
 
タリバン暫定政権のムジャヒド報道官は、首都カブールでTTPとパキスタン政府の協議が行われたとツイートした。
 
双方は昨年11月にもタリバンの仲介で1カ月の停戦に合意したが、TTPが12月に停戦延長を拒否。戦闘が再燃した。パキスタン政府は今回の停戦について確認していない。【5月18日 共同】
*******************

上記停戦は5月30日期限で成立しましたが、更にTTPは停戦を“無期限延長”すると発表しています。

****「無期限停戦」を宣言 パキスタンのタリバン****
パキスタンのイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」は2日、アフガニスタンの首都カブールで行われていた和平交渉で「実質的進展」があったとして、パキスタン政府との無期限停戦を宣言した。これまでの停戦合意は5月30日までだった。【6月3日 時事】
********************

パキスタンでは3~4月に政変が起き、司法を巻き込んだ政治的混乱のなかでカーン前首相が退陣し、ナワズ・シャリフ元首相の弟であるシャバズ・シャリフ氏が首相に選出されています。背景にはカーン前首相とパキスタン政治を左右する軍部との関係が悪化したことが指摘もされています。

****パキスタンで巻き起こる政治的・憲法的危機****
パキスタンは、政治的・憲法的危機に陥っていた。

3月8日、野党がイムラン・カーン首相(当時)に対する不信任動議を提出し、その後の多数派工作により動議可決に必要な過半数の172票を確保したと見られるに至ったが、4月3日、不信任動議で解任されることを嫌うカーンが(過去に任期を全うした首相はいないが、不信任動議で解任された首相もいない)、不信任動議は外国政府の介入によるものだとして動議を却下させ、次いで下院を解散させて選挙に持ち込むことになった。

ところが、4月7日、パキスタンの最高裁判所は5人の裁判官の一致した判断として、カーンに対する不信任投票の却下、下院の解散、および選挙の実施は憲法違反との判決を言い渡した。

これを受けて、下院は――14時間におよぶカーンの党の妨害行動の後――10日の未明に過半数を超える174票をもって不信任案を可決した。
 
次いで、翌11日、カーンの党が退席した下院で、最大野党「パキスタン・ムスリム連盟ナワズ・シャリフ派(PML-N)」のシャバズ・シャリフが首相に選出された。

彼は、かつて3度もパキスタンの首相を務めたナワズ・シャリフの弟である。第二野党「パキスタン人民党(PPP)」のビラワル・ブットー・ザルダリ(元首相ベナジール・ブットーの子息)も当面シャバズ・シャリフに協力する意向のようである。(中略)【4月28日 WEDGE】
********************

「パキスタン人民党(PPP)」や爆死したブット元首相の名前を久しぶりに目にしましたが、息子が政界で活動しているようです。

【シャリフ新首相 中国との「中国・パキスタン経済回廊」を再生させながら、アメリカとも関係改善を目指す】
カーン前首相がアメリカへの批判的な発言が目立ったのに対し、シャリフ首相は良好な対米関係を築く意向を示しています。同時に、兄のナワズ・シャリフ元首相が始めた中国支援による「中国・パキスタン経済回廊」を推進するのではとも指摘されています。

***********************
70歳のシャバズ・シャリフにカリスマ性はないが、有能な行政官との評はあるようである。軍との関係も悪くない。

彼にとっての緊急の課題は経済の立て直しである。国際通貨基金(IMF)支援プログラムに基づく援助は、カーンが2月にIMFとの事前の了解のないまま燃料と電気の補助金を導入したことで停止されているが、この支援プログラム再生のための交渉も当面の課題である。

中国・パキスタン経済回廊の復活か
中国は今回の成り行きを歓迎しているに違いない。シャバズ・シャリフは「中国・パキスタン経済回廊」を再生させると述べているが――管理の不手際か、それともパキスタンが巨額の債務に怖気づいたのか明らかでないが、カーンの時代に幾つかのプロジェクトが停滞した――このプロジェクトはナワズ・シャリフが首相の時代に始まったものである。
 
ジャバズ・シャリフは、米国との関係を修復すると述べた。少なくともカーン流の過激な反米レトリック(例えば、タリバンがカブールを制圧して米国が支援する政権を倒した日の翌日、カーンは「(アフガン国民は)奴隷の鎖を断ち切った」と述べたことがある)は影を潜めるであろう。しかし、それだけでカーンとの会談を拒んでいたバイデンがシャバズ・シャリフと電話で会談する気になるかは疑わしい。【同上】
*********************

【ウクライナ問題でロシア寄りの前政権からの方針転換】
アメリカとの関係改善はまだよくわかりませんが、ウクライナ支援で前政権とは異なる独自路線を打ち出しています。

****パキスタン新政権 ウクライナに支援物資 前政権との違い鮮明に****
パキスタンで2日、ウクライナに送る人道支援物資の引き渡し式が行われました。前政権がロシア寄りの姿勢を示してきたのに対し、ことし4月に誕生したシャリフ政権は、ウクライナを支援する姿勢を打ち出し、前政権とは違う立場を鮮明にしています。引き渡し式は、パキスタンの首都イスラマバードの近郊ラワルピンディの空軍基地で行われました。

毛布や医薬品などの人道支援物資7.5トンを輸送機に積んで、3日、ウクライナの隣国ポーランドに向けて出発するということです。(中略)

パキスタンはこれまで、カーン前首相がロシアの軍事侵攻直後の2月24日にモスクワでプーチン大統領と会談したほか、3月に開かれた国連総会の緊急特別会合ではロシアを非難する決議案の採決を棄権するなど、ロシア寄りの姿勢を示してきました。

一方、ことし4月に誕生したシャリフ政権は、ウクライナを支援する姿勢を打ち出し、前政権とは違う立場を鮮明にしています。【6月3日 NHK】
**********************

パキスタンは中国との関係が強固なことは周知のところですが、その中国がロシア寄り姿勢を維持しているなかでのパキスタン・シャリフ政権のウクライナ支援はやや意外な感じも受けました。

【国内で続く中国を標的にしたテロ】
その中国に関しては、中国の存在感がパキスタン国内で目立つだけに、反政府活動の標的にもなっています。
(パキスタンにおける中国の存在感を個人的に実感したのは、3年前、北部のフンザに向かうためにカラコルムハイウェイを走っていると、工事区間で中国語の道路標識を目にしたとき。中国企業が工事を行っており、中国人・中国車両が行き来しているためです。)

****パキスタンの中国語教育機関で自爆テロ 4人死亡****
パキスタン南部で26日、中国政府が設置した教育機関の近くで爆発があり、中国人職員3人を含む4人が死亡しました。過激派組織が犯行声明を出しています。

ロイター通信によりますと、南部の最大都市・カラチで26日、大学内に設置された中国語の教育機関「孔子学院」の近くで車両が爆発し、中国人職員3人を含む4人が死亡したということです。

その後、パキスタンの過激派組織「バルチスタン解放軍」が、自爆テロを行ったと犯行声明を出しました。

現地の中国大使館は声明で、「テロ行為を強く非難し、両国の犠牲者に深い哀悼の意を表す」とした上で、パキスタン側には「徹底した調査を行い、犯人を厳罰に処すよう要請した」としています。

中国との結びつきを強めるパキスタンには多くの中国企業も進出していますが、現地の中国人を標的にしたとみられるテロ事件も相次いでいて、中国政府と現地の治安当局が警戒を強めています。【4月27日 日テレNEWS24】
******************

この事件を受けて、シャリフ首相は弔意を示すメッセージを出し、自ら中国大使館を訪れて追悼の意を表明しました。

シャリフ首相は「パキスタンと中国の戦略的協力パートナーシップに損害を与えようとする敵の邪悪なたくらみは、両国の、鋼のように硬い、兄弟のような関係が揺らぐことはなく、両国の協力関係にも影響を及ぼすことはない」と語っています。【4月27日 レコードチャイナより】
その後も、中国を狙った不穏な動きもあるようです。

****パキスタンのテロ対策部門、中国車列を狙う自爆攻撃を試みた女性を逮捕****
パキスタンARYニュースによりますと、パキスタンのテロ対策部門は16日、バルチスタン州のホシャブ地区を急襲し、中国・パキスタン経済回廊沿いの中国車列を狙った自爆攻撃を試みた女性を逮捕し、爆発装置を発見したとのことです。

パキスタンのテロ対策部門は、「この女性は『バルチスタン解放軍』グループのメンバーで、4月26日に発生したカラチ孔子学院の自爆テロ事件の犯人と同じグループに所属していた」と発表しました。

現在、パキスタンはこのようなテロ攻撃に関与する組織のメンバー逮捕を目的とした捜査活動を展開しています。【5月17日 レコードチャイナ】
******************

TTPとの停戦が本格化すれば、「バルチスタン解放軍」対策も強化される・・・ということになるのかも。

【難題は財政再建・インフレ抑制 IMF支援とはいうものの】
シャリフ首相にとって治安対策以上の難題は経済・財政の立て直しです。

****南アジアで政情不安 財政難、ウクライナ侵攻で物価高****
(中略)
カーン氏は2018年に首相に就任したが、もともと不安定だった経済は好転せず、野党側が批判を強めていた。物価上昇も続き、3月の消費者物価指数は前年同期比で12・7%上昇した。ロイター通信によると、外貨準備は1日時点で113億ドルと1カ月で約50億ドル減少した。
ロシアのウクライナ侵攻の影響で、原油や食料の国際相場は高値水準が続いている。(後略)【4月13日 産経】
******************

2019年に決定したIMFからの支援も、一時停滞していましたが、動き出したようです。

****IMF、パキスタンの燃料補助金廃止後に9億ドル支援へ=関係筋****
パキスタンと国際通貨基金(IMF)の支援再開を巡る協議が25日終了し、パキスタンの燃料補助金廃止を条件にIMFから9億ドル超の財政支援を受けるという枠組みで合意した。

カタールの首都ドーハでの協議について直接知るパキスタン関係筋が匿名を条件にロイターに明らかにした。パキスタンのIMF代表はロイターのコメント要請に応じていない。

パキスタンは2019年、IMFから3年にわたり総額60億ドルの財政支援を受けることが決まったが、支援金の約半分をまだ受け取っていない。【5月26日 ロイター】
********************

パキスタンの実情は知りませんが、一般論で言えば“燃料補助金廃止”というのは市民生活を直撃するだけに大問題になります。国民の不満で政情不安に陥ることも。

公共交通機関の発達していないパキスタンでは、バイクは庶民の足で、ガソリンの高騰はその庶民の懐を直撃します。

シャリフ首相の試練はしばらく続きそうです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする