(【6月13日 産経】)
【長期化する戦争で深まる食糧危機】
ウクライナの戦況については、ここ数日、東部におけるロシア軍の攻勢、ウクライナ側の苦戦を報じるニュースが溢れています。
“ウクライナ軍、東部拠点中心部から撤退=セベロドネツク、近く完全包囲も”【6月13日 時事】
“ロシア軍、ウクライナ東部の要衝都市制圧へ新たな大隊配備を準備か…孤立させるため橋も破壊”【6月13日 読売】
“ウクライナの砲弾不足鮮明に 東部苦戦の主因と米側分析”【6月14日 産経】
“セベロドネツク攻防戦で「恐るべき」人的損失 ウクライナ大統領”【6月14日 AFP】
“ロシア軍、ハリコフで占領拡大 数週間ぶりと英国防省”【6月14日 共同】
“ハリコフ無差別攻撃で数百人犠牲 ロシア軍、クラスター弾使用か”【6月14日 共同】
“「投降するか、死ぬか」親ロ派 “最後の拠点” 橋を全て破壊され…500人が退避困難に ウクライナ情勢”【6月14日 TBS NEWS DIG】
今後の展開はわかりませんが、ウクライナ側が一気にロシア軍を追い出す、あるいは、ロシア軍が内部崩壊するという期待は薄れ、戦闘は長期化するものと思われます。
ウクライナ・ゼレンスキー大統領はこの苦境をはね返すためには更なる武器支援が不可欠だと、欧米への支援を強く要請していますが、戦争が長引き、その影響が自国に及ぶにつれ、支援する欧米側にも「ロシアへの勝利」よりは「早期の停戦」を優先する考えも強まり、支援国内部に温度差が生じていることはこれまでも取り上げてきました。
さらに世界全体で見ると、有力な穀物輸出国であるウクライナ・ロシアの戦争により、食糧不足・飢餓・食品価格上昇の脅威が現実のものとなりつつあります。特に、ウクライナ穀物の黒海沿岸からの輸出がストップしていることが大きな問題となっています。
****ウクライナ侵攻で食糧危機深刻化 「世界で16億人が影響」と国連発表****
国連はウクライナ侵攻で深刻化する食糧危機をめぐり、世界で16億人が影響を受けていると発表しました。
国連 グテーレス事務総長「この戦争は他の危機とあわさり、社会的・経済的混乱を招くような前例のない飢餓や貧困の波を引き起こすおそれがある」
国連は8日、ロシアによるウクライナ侵攻がもたらす食糧やエネルギー、金融危機に関する報告書を発表しました。
この中で、世界94か国、およそ16億人が影響を受けていると指摘。ロシアによる黒海の海上封鎖で、世界有数の穀物輸出国であるウクライナの穀物が輸出できないことが要因の1つとしています。
グテーレス事務総長は、戦時であっても「ウクライナ産の食糧やロシアが生産する肥料が、世界の市場に戻されなければいけない」と強調しました。【6月9日 TBS NEWS DIG】
国連 グテーレス事務総長「この戦争は他の危機とあわさり、社会的・経済的混乱を招くような前例のない飢餓や貧困の波を引き起こすおそれがある」
国連は8日、ロシアによるウクライナ侵攻がもたらす食糧やエネルギー、金融危機に関する報告書を発表しました。
この中で、世界94か国、およそ16億人が影響を受けていると指摘。ロシアによる黒海の海上封鎖で、世界有数の穀物輸出国であるウクライナの穀物が輸出できないことが要因の1つとしています。
グテーレス事務総長は、戦時であっても「ウクライナ産の食糧やロシアが生産する肥料が、世界の市場に戻されなければいけない」と強調しました。【6月9日 TBS NEWS DIG】
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【制裁緩和に食糧危機を利用したいプーチン大統領】
食糧危機、それに伴う混乱はロシア・プーチン大統領の戦略だとの指摘も。
****途上国を兵糧攻めにしてEUに難民危機を引き起こすプーチンの「飢餓計画」****
<ロシアによる海上封鎖はウクライナ産穀物に依存する国々やEUを巻き込む「飢餓計画」の一環だ>
ウクライナ侵攻中のロシアが黒海を封鎖している問題について、エール大学の歴史学者ティモシー・スナイダー教授はその意図は「難民を生み出すこと」、さらにはEU域内を不安定化させることにあると分析した。
「プーチンの飢餓計画には、ウクライナ産の食糧に依存している北アフリカや中東からの難民を生み出し、EUを不安定化を生み出す意図もある」とスナイダーは11日、ツイッターに投稿した。
ウクライナは世界有数の穀物輸出国だ。ロシアによる黒海の海上封鎖は、ウクライナからの輸入穀物に大きく依存している少なからぬ国々の食糧供給を脅かしている。
スナイダーはまた、もし海上封鎖が続けば「数千万トンに及ぶ食糧が貯蔵庫の中で腐ることになり」、その結果、アフリカやアジアで数多くの人々が「飢えることになるだろう」と警告した。
黒海に面したウクライナ南部オデーサ州のアラ・ストヤノワ副知事も、海上封鎖によってウクライナの穀物が滞留し、世界各地の食糧不足に拍車をかけることになると警告している。
世界に対するプーチンの「恐喝」
「プーチンの狙いは貧しい国々を飢餓に追い込むことだと私は思う。ウクライナの港を封鎖することで、彼は世界を恐喝しているのだ」と、副知事は先月、英紙テレグラフに掲載されたインタビューで述べている。
テレグラフによれば、オデーサを初めとするウクライナの港には通常、1日あたりコンテナ3000個の分の穀物が鉄道で到着し、大型の貯蔵庫に一時保管されるという。
世界では今年に入り、2億7600万人近い人々が深刻な飢餓を経験している。もしウクライナ侵攻が続けば、深刻な飢餓を経験する人の数はさらに4700万人上乗せされるかも知れない。
特に危惧されるのはサハラ砂漠以南の地域だ。
先月、国連安全保障理事会では、ウクライナからの穀物輸出が大きく減少したことで、イエメンやナイジェリア、南スーダン、エチオピアなどの国々が食糧危機のリスクにさらされていると指摘された。
国連世界食糧計画(WFP)も先ごろ、ウクライナの港への封鎖が解かれなければ世界中で数多くの人々が「飢えに向かって突き進む」ことになるだろうと警告を発した。
前出のスナイダーはツイッターで、世界各地で飢餓が起きる懸念も表明した。プーチンは「飢餓計画」に基づき、「欧州における戦争の次の段階として、発展途上国の大半を飢えさせる」準備をするかも知れないと言うのだ。
「プーチンの飢餓計画はあまりに恐しく、理解しがたいものがある。われわれは、食糧が政治における中心課題であることを忘れがちだ」とスナイダーはツイートした。
「何より恐ろしいのは、世界規模の飢餓がロシアの反ウクライナのプロパガンダ活動にとり必要な背景だということだ。実際に大量の死者が出ることが、プロパガンダ合戦の背景として必要なのだ」
飢えた国々で暴動や抗議が激しくなれば、ロシアはそれをウクライナの責任にして占領を正当化するつもりだとスナイダーは書いている。本誌はロシア外務省にコメントを求めたが回答は得られていない。【6月13日 Newsweek】
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ロシア・プーチン大統領としても食糧危機・飢餓の「犯人」扱いされるのは望ましいものではないでしょうから、そこまで明確な意図を持って現在の危機を作り出しているとは思いませんが、この危機を利用して、ロシアに対する制裁圧力を弱めようと考えている・・・ということはあるでしょう。
【ロシア・トルコで話が進む現状にウクライナは反発】
こうしたなか、世界貿易機関(WTO)の最高議決機関となる閣僚会議が12日、スイス西部ジュネーブのWTO本部で4年半ぶりに始まり、ロシアのウクライナ侵攻で懸念が高まる食料危機への対応が協議されました。
****WTO閣僚会議、食料安保巡る合意案議論 インドなど支持留保****
世界貿易機関(WTO)の閣僚会議は13日、ロシアによるウクライナ侵攻で脅かされる食料安全保障について議論した。食料の供給制約と価格高騰への対策に関する合意を目指したが、インド、エジプト、スリランカが支持を見送ったため、結論を持ち越した。会議は15日まで開かれる。
議論した2つの合意案の一つは、市場開放を継続し、輸出規制を設けずに透明性を高めるという内容の閣僚宣言で、もう一つは紛争や災害、気候変動が直撃した地域で食料支援を行う世界食糧計画(WFP)への輸出制限を禁止する措置で法的拘束力を伴う。
国際通貨基金(IMF)によると、約30カ国が食料品、エネルギー、その他の資源の輸出を制限している。
WTOの報道官によると、エジプト、インド、スリランカ以外の加盟国は合意文書案に支持を表明。食料の純輸入国であるエジプトとスリランカは、食料輸出能力に限界があるとの認定を求めている。
インドは途上国による食料品備蓄について、農家支援に関するWTOのルールの適用除外として容認することを求めている。2013年に時限的に適用除外が認められた経緯がある。ゴヤル商工相は適用除外を得ることが閣僚会議における「最優先課題」だと強調した。【6月14日 ロイター】
議論した2つの合意案の一つは、市場開放を継続し、輸出規制を設けずに透明性を高めるという内容の閣僚宣言で、もう一つは紛争や災害、気候変動が直撃した地域で食料支援を行う世界食糧計画(WFP)への輸出制限を禁止する措置で法的拘束力を伴う。
国際通貨基金(IMF)によると、約30カ国が食料品、エネルギー、その他の資源の輸出を制限している。
WTOの報道官によると、エジプト、インド、スリランカ以外の加盟国は合意文書案に支持を表明。食料の純輸入国であるエジプトとスリランカは、食料輸出能力に限界があるとの認定を求めている。
インドは途上国による食料品備蓄について、農家支援に関するWTOのルールの適用除外として容認することを求めている。2013年に時限的に適用除外が認められた経緯がある。ゴヤル商工相は適用除外を得ることが閣僚会議における「最優先課題」だと強調した。【6月14日 ロイター】
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安くなったロシア産石油を爆買いするなど「自国第一」を鮮明にしているインドは、小麦についても5月14日、輸出の一時停止を発表していますが、上記の輸出規制を設けないという議論に抵触しないのでしょうか?
いずれにしても、危機的な現状に対する即効性のある対処法の実現は、黒海封鎖しているロシアの意向にかかっています。
トルコ・エルドアン大統領がここでも仲介に動いていますが、頭越しに決められることへのウクライナの反発もあるようです。
****ウクライナ「排除」に反発 穀物問題で思惑交錯****
ロシアの軍事侵攻を受けてウクライナの穀物輸出が停滞している問題で、国際社会が探っている輸出再開の方策に当のウクライナが神経をとがらせている。
穀物輸出再開の枠組みがウクライナの頭越しに決められたり、ロシアへの制裁圧力が弱められたりすることを警戒しているためだ。世界的な食糧危機の懸念が深まる中、この問題では関係諸国の利害が複雑に交錯している。
「(穀物輸出枠組みの構築に向けた)各国の協議や努力を歓迎するが、前提が一つある。わが国の安全が完全に保証されることだ」
ウクライナのクレバ外相は8日の記者会見でこう力説した。念頭にあったのは同日、穀物問題をめぐってトルコのチャブシオール外相とラブロフ露外相が会談したことだ。トルコはロシアとウクライナを仲介する用意があるとしつつ、米欧などによる対露制裁の解除に賛意を示した。
米欧は世界有数の穀物輸出国であるウクライナをめぐり、輸出拠点だった黒海沿岸の港を海上封鎖しているとしてロシアを批判してきた。これに対してプーチン露政権は、対露経済制裁が世界の食料価格高騰を招いているとして制裁解除を要求している。
露主要銀行を対象とした金融制裁により、米欧が穀物を含む各分野でロシアとの取引を控えている。プーチン政権は、制裁がなくなればロシア自身が穀物輸出を増やし、食料価格を抑制できると主張している。制裁によるロシアの経済的疲弊を待つウクライナにとっては決して容認できない。
プーチン政権は、ウクライナが露占領下にあるウクライナ南東部のマリウポリやベルジャンスクから穀物を輸出するよう水を向けるが、被占領地からの輸出はロシアによる実効支配の既成事実化につながる。
ロシアとウクライナが黒海沿岸に敷設したとされる機雷の除去も難題だ。ロシアはウクライナの機雷を問題視して批判を強めているが、ウクライナとしては、機雷が除去されれば露軍の南部への上陸が容易になってしまう。クレバ外相が「安全の保証」を強調するのはこのためでもある。
トルコは国連とも協力し、ウクライナの穀物輸出に向けた安全な航路の設置を急ぐとしている。だが、具体的な方策はまだ見えてこないのが実情だ。穀物輸出の問題は、今月下旬に予定される先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)でも主要議題となる。
アフリカ連合(AU)の議長国セネガルのサル大統領は、3日に訪露してプーチン氏と会談し、対露制裁解除の必要性に言及した。アフリカや東南アジアには飢餓や食糧危機への懸念を強めている国が多く、「背に腹は代えられない」との事情でロシア寄りの立場をとる可能性がある。
ウクライナと良好な関係にあったトルコもここにきて、経済や安全保障の観点からロシアに重心を移している感が強い。
トルコ高官が語ったところでは、天然ガスで国内需要の45%、ガソリンで40%をロシア産でまかなうなど、エネルギー面でトルコの対露依存度は高い。シリアやリビアの内戦ではトルコとロシアがそれぞれ敵対する勢力を支援しており、対露関係が悪化すると地域情勢に影響する事情がある。
ロシアが反発しているスウェーデンとフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟申請でも、トルコはロシアに理解を示して両国の加盟に反対している。【6月13日 産経】
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東部戦況の優勢に加え、石油・ガスで欧州を分断し、食糧でアフリカや東南アジアを引き寄せる・・・となれば、プーチン大統領としては侵攻当初の失敗からやや態勢を立て直すことにも。