(平安南道南浦市江西区域にある青山里協同農場での「田植え戦闘」(画像:朝鮮中央テレビキャプチャー【6月10日 デイリーNKジャパン】)
【異様に低い致死率など信頼できる数字ではないものの、北朝鮮当局は感染減少を発表】
北朝鮮では新型コロナが急拡大したものの、ここのところは減少傾向にある・・・・と、北朝鮮メディアは報じています。
ただ、鎖国体制の北朝鮮国内の事情は外部からはほとんどわからないなかで、新型コロナに関しては北朝鮮当局も満足な検査態勢がある訳でなく、何をもって新型コロナ感染者としているのかさえ不明確。当事者もよくわかっていないようで、発表も「発熱者」という表現になっています。
****北朝鮮の新たな発熱者 4万人下回る****
北朝鮮の朝鮮中央通信は13日、国家非常防疫司令部の集計として12日午後6時までの24時間に新たに約3万6710人の発熱者が確認されたと報じた。
新型コロナウイルスの感染者とみられる発熱者は4月末からの累計で約446万9520人となった。このうち約440万4210人が完治し、約6万5230人が治療を受けている。
一時は40万人に迫った新たな発熱者は徐々に減少し、3万人台にまで下がった。
新たな死者や死者の累計に関する言及はなかった。死者の累計は今月11日時点で72人。
ただ、北朝鮮が公開した統計は発熱者数に比べ死者数が少なく、韓国情報当局も北朝鮮の統計発表が住民を落ち着かせる目的が大きいとの判断を示しており、統計をそのまま信じるのは難しいとの指摘が出ている。【6月13日 聯合ニュース】
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「発熱者」を症状が出ている新型コロナ感染者だとすると、死者の累計72人は“異様”に少なく、致死率は0.002%・・・・およそ信頼できる数字ではありませんが、北朝鮮はそうした指摘を「極度の無知から発した荒唐無稽の詭弁」と猛反発しています。
****北朝鮮 コロナ統計の信ぴょう性指摘に猛反発=「荒唐無稽な詭弁」****
北朝鮮の対外向け週刊紙「統一新報」は12日付の時論で、北朝鮮の新型コロナウイルス関連統計の信ぴょう性が低いとの韓国の指摘に対し、「同族対決に血眼になっている南朝鮮(韓国)の保守勢力は共和国(北朝鮮)の現実を歪曲(わいきょく)し、詭弁(きべん)と悪口を毎日のように並べ立てている」と非難した。
同紙は平壌で新型コロナの新たな変異株が見つかる可能性や北朝鮮当局の死者数の統計が実際より低く発表されている可能性が韓国で指摘されていることに、「極度の無知から発した荒唐無稽の詭弁」と批判。「最大非常防疫体系」の実施から1カ月足らずで感染拡大を抑え、新型コロナとの戦いで勝勢を固めていると主張した。
また、韓国の保守勢力が対北朝鮮制裁に追従するだけで飽き足らず、感染症問題までを同族対決に悪用していると非難した。韓国政府が提案した南北防疫協力についても「厚顔無恥で破廉恥」と非難した。
北朝鮮は新型コロナ感染者とみられる新たな発熱者数が先月15日には40万人に迫ったが、現在は4万人台に低下し、死者の累計は72人、致死率は0.002%だと主張している。【6月12日 聯合ニュース】
同紙は平壌で新型コロナの新たな変異株が見つかる可能性や北朝鮮当局の死者数の統計が実際より低く発表されている可能性が韓国で指摘されていることに、「極度の無知から発した荒唐無稽の詭弁」と批判。「最大非常防疫体系」の実施から1カ月足らずで感染拡大を抑え、新型コロナとの戦いで勝勢を固めていると主張した。
また、韓国の保守勢力が対北朝鮮制裁に追従するだけで飽き足らず、感染症問題までを同族対決に悪用していると非難した。韓国政府が提案した南北防疫協力についても「厚顔無恥で破廉恥」と非難した。
北朝鮮は新型コロナ感染者とみられる新たな発熱者数が先月15日には40万人に迫ったが、現在は4万人台に低下し、死者の累計は72人、致死率は0.002%だと主張している。【6月12日 聯合ニュース】
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北朝鮮のような劣悪な食糧事情で国民の抵抗力が極度に落ちている国、しかもワクチンも未接種で医療体制も貧弱な国で、感染が拡大したにもかかわらず死者が72人というのは到底信じられない数字です。
【逼迫した食糧事情のもとでの行動規制、配給も無し 当然のごとく餓死者が】
まあ、数字はよくわかりませんが、ひとつ容易に推測できるのは、中国に倣ってとられたゼロコロナ政策・隔離政策が峻烈な悲劇をもたらしたであろうことです。
以前のブログでも書いたように、隔離政策のひどい実態が多く報じられている中国は、問題は多発しているにしても、当局に隔離地区に食糧を配布する意思は一応ありますし、その資力もあります。
しかし、北朝鮮は新型コロナ以前から配給も滞り、餓死者がでるような劣悪な経済状況にありましたので、その状況で厳格な隔離政策をとれば、当局には隔離地区に食糧を配布する意思も能力もなく、コロナ犠牲者よりも餓死者の方が現実の問題となることは火を見るより明らかです。
****ロックダウンで追い詰められる北朝鮮の地方住民****
北朝鮮では5月12日、国内での新型コロナウイルス感染者を公式に認めた後、全国的に封鎖令(ロックダウン)を敷き、一切の外出が禁止された。ただでさえ食糧事情が逼迫している中で実施されたロックダウンで、食べ物を入手できずに餓死する人が続出している。
状況の深刻さに、両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)では、ロックダウン措置が一部緩和されたが、深刻なのは恵山だけではないようだ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
恵山よりさらに奥地の白岩(ペガム)の情報筋は、コロナ感染よりロックダウンにより食べ物が底をつくことへの心配が大きいとし、あちこちから窮状を訴える声が上がっていると伝えた。
市場で商品を販売して、得た利益で食べ物を購入して生計を立てていた人々は、ロックダウンが10日以上となり、手元に食べるものが全くなくなり苦しんでいるが、当局は一切の支援を行っていない。
日が暮れると、村の路地裏では、安全員(警察官)や非常防疫組の目を避けて、メットゥギ市場(非公認の露店)が立ち、野菜や生活必需品などが密かに売られているが、穀物を売っている人はさほどいないという。
人々は挨拶言葉のように「食べ物がなくなって餓死しそうだ」と話を交わしている。情報筋の家には前日の夜、近隣に住む女性が食べ物の無心にやってきたが、分けるほどの余裕がなかったため、手ぶらで帰ってもらうしかなかったと述べている。
市場でコメや食料品を扱っていた人たちは、市場が閉鎖されても在庫を食べて生き延びることができるが、他の品物を扱っていた人たちは、食べ物が全くなく、新聞やテレビで宣伝している非常薬や食糧の配給がいつ行われるのか、気にしているとのことだ。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)慶源(キョンウォン)の情報筋は、現地が稲作地帯であるにもかかわらず、コメはおろか他の食べ物もめったに手に入らないと伝えた。
市場が閉鎖され、コメが買えなくなったため、稲作をやっている外戚の家で購入したが、1キロに6000北朝鮮ウォン(約120円)で購入。ロックダウンと比べて15%ほど上昇しているが、それでも安く売った、今は在庫がなく売れなくなったと言っているとのことだ。
戦時備蓄用の2号倉庫にある食糧を配給するとの話もあるが、依然として行われておらず、人民班長(町内会長)は、食糧が底をついた「絶糧世帯」のために、町内の家々を回ってトウモロコシ500グラムをかき集めて、分け与えたという。
人々の間では、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」が再来するのではないかと不安が広がっている。【6月4日 デイリーNKジャパン】
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【餓死者に加え、農作業にも遅れ 規制を一部緩和】
北朝鮮当局も、さすがに問題を認識して規制措置の緩和に切り替えたようです。
****餓死者発生でようやく一部緩和された北朝鮮のロックダウン****
北朝鮮が、先月12日に新型コロナウイルスの感染者の発生を公式に認めてから続けられてきたロックダウンが、一部緩和されたと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
平壌市のある幹部はRFAに対し、先月29日正午から、コロナ最大非常防疫体系が部分解除されたと述べた。同時に、全国の道・市・郡に、現地の事情に応じてロックダウンを緩和せよとの指示が下された。
この部分解除とは、居住行政区域内の一定地域内での移動が可能になったことを指す。これにより、近隣の市場、農場、トゥエギバッ(個人耕作地)などへの移動ができるようになった。
部分解除の理由についてこの幹部は「コロナの感染状況が安全に統制、管理される段階に入ったため」だと明らかにしている。その一方で、発熱患者が引き続き発生しており、隔離施設に収容される人も多いことから、安全に統制・管理しているという当局の話は信じられないとも語っている。
ちなみに、今月5日18時からの24時間で全国で報告された発熱患者の数は6万1730人で、ピーク時(先月14日18時からの24時間)の39万2920人に比べると大幅に減っている。ただ、発熱患者を減らせとのプレッシャーが地方幹部にかけられており、処罰を恐れるあまり、過少報告や虚偽報告が行われているのではないかとの疑惑がある。
咸鏡南道(ハムギョンナムド)の情報筋も、先月29日からロックダウンが部分解除されたと伝え、理由はともかく、一般市民は市場へ行くなど経済活動ができるようになったため、この措置を歓迎していると述べた。
この部分解除だが、生活に欠かせない地域への移動を認めるもので、自分の畑や市場への移動を禁止され、食べ物が得られずに飢えた末に死亡する人が複数発生したからだと、背景を説明している。
「
高原(コウォン)炭鉱などの炭鉱、鉱山地域では封鎖令(ロックダウン)で、住民が食糧を入手できず、餓死者が出たと聞いている。市場や穀倉地帯から遠く離れた炭鉱、鉱山地域の食糧不足が深刻だ」(情報筋)
ちなみに全国に先駆けて、一部の地域では部分解除が行われていたが、その理由も餓死者の発生だ。
ロックダウンに伴う餓死者の発生で、街の雰囲気が悪化したことを受けて、中央では部分的に緩和措置を取ったようだと情報筋は見ている。また、発熱患者の減少も理由の一つに挙げている。
一方、5月に入ってから全国的に行われている「田植え戦闘」に、ロックダウンが深刻な影響を及ぼしているために、緩和措置が取られたケースも報告されている。
平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋は、先月25日から、女盟(朝鮮社会主義女性同盟)の殷山(ウンサン)郡の委員長がメンバー全員に対し、郡内の協同農場での田植え戦闘への動員に参加せよとの指示を下したと伝えた。
これは、ロックダウンにより田植えの遅れが深刻なことを受けた中央の指示に基づくものだ。平安北道(ピョンアンブクド)の情報筋も、定州(チョンジュ)で、女盟員と一般住民に田植え戦闘への動員命令が下されたと伝えた。ただ、この時点では、市場への移動は禁じられており、住民から強い不満の声が上がっていたとのことだ。【6月10日 デイリーNKジャパン】
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北朝鮮では「田植え」への住民動員を「田植え戦闘」と称していますが、新型コロナによる行動規制によって作業が遅れており、将来的な食糧不足・飢餓の脅威が高まっています。
****田植えの遅れに焦る北朝鮮、指示乱発に農民から反感****
韓国の慶南大学国土衛星情報研究所のチョン・ソンハク副所長は、韓国デイリーNKへの寄稿で、北朝鮮の田植えの遅れが深刻な水準にある実態を明らかにした。
チョン氏は、去年と今年の5月20日前後に撮影された衛星写真を比較する手法で、昨年は田植え実施率の全国平均が89.1%だったのが、今年は66.8%にとどまっていることを示した。中でも咸鏡南道(ハムギョンナムド)の咸州(ハムジュ)平野の場合、半分しか終わっていない。
それに危機感を持ったのだろう。政府は全国の農場に対して、矢継ぎ早に様々な指示を下している。しかし、農民からは反発の声が上がるばかりだと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)会寧(フェリョン)の情報筋は、今年の農作業をきちんと行い、住民の食糧問題の解決に農場員が先頭に立てという中央の指示文が今月2日に下されたと伝えた。
この手の指示文は、今年に入って既に4回以上も下されている。「農業を改善し食糧問題を解決することは、社会主義強国建設の最も切実な課題だ」などといった内容だ。
これに対し現場の農民からは、「国は必要な営農資材を供給してくれないのに、なぜわれわれだけを痛めつけるのか」などと不満の声が上がっている。金正恩総書記は農業第一主義を掲げ、年初から農業の重要性について説き続けている。肥料や営農資材も全面的に保証すると宣伝しているが、現場に届いたものは何一つないという。
情報筋はまた、少雨の深刻さについても語っている。
「今年は近年まれに見るほどの日照りで、田植えをした田んぼですら干上がってしまい、稲の苗が枯れつつある」
「揚水機など営農資材が絶対的に不足している状況で、農民を追い立てたところで農業がうまくいくわけがない」
「揚水機など営農資材が絶対的に不足している状況で、農民を追い立てたところで農業がうまくいくわけがない」
平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋も、現地に中央からの指示文が下されたとして、その貫徹のために地域の党幹部が農場を回って宣伝扇動活動を行っていると伝えた。
この農場では6月に入っても田植えが終わっておらず、毎朝5時に出勤して、朝会に参加しなければならないが、そのたびに幹部が中央の指示文を読み上げるのを聞かされ、成果を出すよう迫られて不愉快な思いをしているという。
中央は「今年は何がなんでも農業を科学技術的に行い、1ヘクタール当たりの穀物収穫を決定的に高めよ」との指示を出しているが、農民たちは「自然条件が整っていないのに、素手で農作業をしろということか」などと、指示を下すばかりで何の援助もしようとしない中央に対して反発しているという。【6月10日 デイリーNKジャパン】
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【国民の生命を無視する独裁・強権政治の愚かさ、恐ろしさ】
国民が飢餓に脅かされ、実際に餓死者もでる惨状、しかも当局からは何ら支援もなく・・・・というなかでのミサイル連射。日本からすれば日本への脅威云々以前の話として非常識の極みですが、それが北朝鮮の現実。
****北朝鮮のミサイル発射費用 「食糧不足」解決額に相当=韓国研究機関****
韓国政府系シンクタンクの韓国国防研究院が9日までに、北朝鮮が今年ミサイル発射に推定4億~6億5000万ドル(約540億~870億円)を費やしたとする分析結果をまとめた。(中略)
国防研究院によると、北朝鮮は年初から6月5日まで17回(放射砲=多連装ロケット砲=除く)にわたり計33発の弾道ミサイルまたは巡航ミサイルを発射した。国防研究院は材料費を2億800万~3億2500万ドルと推定。人件費を発射費用全体の10~30%、その他費用を同10~20%とし、合計で推定4億~6億5000万ドルを要したと分析した。
国防研究院はこのミサイル発射費用を新型コロナウイルスのワクチン購入費と食糧購入費に換算した。新型コロナワクチンのうち比較的高額の米ファイザー製品を2000万~3250万回分購入できる。北朝鮮の人口2537万人の79~128%が1回は接種を受けられるという計算になる。製薬会社が人道的な観点から好条件で提供すればより多くのワクチンの確保も可能だ。
ミサイル費用を食糧調達に充てた場合、51万~84万トン分のコメ(平壌での価格を基準)を購入できる。米中央情報局(CIA)は北朝鮮で今年86万トンの食糧が不足するとみているが、この不足分を補うことができる。【6月9日 聯合ニュース】
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国民の生命を無視する独裁・強権政治の愚かさ、恐ろしさです。
【北朝鮮版ウィズコロナで、中朝間貨物列車の運航再開を要請】
前述のように、餓死者の発生、田植えの遅れなどで、さすがに北朝鮮当局も規制を緩和してゼロコロナから北朝鮮版ウィズコロナへ転換しつつもあるようです。
日本メディアによれば、新型コロナ対策から4月下旬ごろに停止された中朝間の貨物列車の定期的な運行についても、北朝鮮は中国に再開を要望しているとか。
防疫対策として列車の往来を止めるよりも、深刻な食料や医療物資の不足の解消を優先するとの判断があるとのこと。
朝鮮中央通信によると、金正恩総書記は8~10日に開かれた朝鮮労働党の中央委員会総会で「国家防疫事業が重大な峠を越え、封鎖を基本とした防疫から、封鎖と撲滅闘争を並行させる新たな段階に入った」との認識を示しており、規制緩和も貨物列車再開要請も、その方向に沿ったもののようです。
ただ、列車再開に関しては、依然としてゼロコロナを続ける中国側が感染流入を警戒しており、列車運行再開は慎重に対処しているとか。