(米首都ワシントンの最高裁前に座る母子。26日撮影【6月28日 ロイター】)
【中絶を巡る法廷闘争の舞台は州裁判所に】
アメリカ連邦最高裁が6月24日、人工妊娠中絶を巡る憲法上の権利を否定する判断を示したことは6月25日ブログ“アメリカ最高裁、判断変更で州ごとの中絶規制を容認 ブラジル大統領、11歳少女のレイプ妊娠中絶を非難”でも取り上げたところです。
この最高裁判断により、州独自の厳しい中絶規制が可能になったことを受けて、中絶を巡る法廷闘争の舞台は州裁判所に移っています。
保守派判事が多数を占める最高裁と各州の司法の事情はまた異なりますので、州によっては中絶禁止の州法に対する差し止め判決も出ているようです。
****米各地で中絶禁止の州法巡り法廷闘争、最高裁の判断転換受け****
米連邦最高裁が人工妊娠中絶を憲法上の権利と認める1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆す判断を下したことを受け、中絶を巡る法廷闘争の舞台は州裁判所に移った。
ルイジアナ、ユタ両州の裁判所は中絶を禁止・制限する州法を差し止める判決を27日に下し、アイダホ、ケンタッキー、ミシシッピ、テキサスでも同様の差し止め命令を求めて医療機関が訴訟を起こした。
この6州を含む13州では、連邦最高裁がロー対ウェイド判決を覆せば自動的に中絶を禁止あるいは制限する、いわゆるトリガー法が成立している。
女性向け医療サービス団体「プランド・ペアレントフッド(全米家族計画連盟)」ユタ支部のキャリー・ガロウェイ氏は「きょうは勝利したが、間違いなく長く困難な戦いが待ち受けており、その第一歩に過ぎない」との声明を出した。
このほか各地で、共和党主導の中絶関連法に異議を申し立てる訴訟が相次いでおり、妊娠6週目を過ぎた女性の中絶を禁止する州法が昨年発効したテキサスではロー対ウェイド判決以前の中絶禁止措置の有効性に関する審理が28日に予定されている。
ケンタッキーのキャメロン州司法長官は「州憲法に中絶する権利は含まれていない。いかなる根拠のない反論にもわれわれは対抗する」と表明した。【6月28日 ロイター】
ルイジアナ、ユタ両州の裁判所は中絶を禁止・制限する州法を差し止める判決を27日に下し、アイダホ、ケンタッキー、ミシシッピ、テキサスでも同様の差し止め命令を求めて医療機関が訴訟を起こした。
この6州を含む13州では、連邦最高裁がロー対ウェイド判決を覆せば自動的に中絶を禁止あるいは制限する、いわゆるトリガー法が成立している。
女性向け医療サービス団体「プランド・ペアレントフッド(全米家族計画連盟)」ユタ支部のキャリー・ガロウェイ氏は「きょうは勝利したが、間違いなく長く困難な戦いが待ち受けており、その第一歩に過ぎない」との声明を出した。
このほか各地で、共和党主導の中絶関連法に異議を申し立てる訴訟が相次いでおり、妊娠6週目を過ぎた女性の中絶を禁止する州法が昨年発効したテキサスではロー対ウェイド判決以前の中絶禁止措置の有効性に関する審理が28日に予定されている。
ケンタッキーのキャメロン州司法長官は「州憲法に中絶する権利は含まれていない。いかなる根拠のない反論にもわれわれは対抗する」と表明した。【6月28日 ロイター】
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ただ、州段階で差し止められても、更に連邦最高裁に持ち込まれたら・・・ということでしょうか。
【銃規制で“正しい方向への一歩” しかし最高裁は国民には公共の場での銃携帯の権利あるとの判断も】
中絶禁止問題の影に隠れる形になりましたが、中絶禁止問題と並んでアメリカ社会を二分する問題となっている銃規制に関して、同時期に“28年ぶりの本格的な対策”と評される動きがありました。
****バイデン氏「歴史的な日」 米銃規制強化法が成立****
バイデン米大統領は25日、若者が銃を購入する際の身元調査の強化を柱とする銃規制強化法案に署名、同法が成立した。
南部テキサス州の小学校銃乱射事件を受けて、上下両院が超党派で可決していた。本格的な銃規制法が成立するのは約28年ぶり。バイデン氏は「歴史的な日だ。多くの命を救うだろう」と語った。
21歳以下の若者が銃を購入する際の犯罪歴や精神疾患の治療歴に関する身元調査を厳格化するほか、州が危険と判断した人物の銃を一時的に差し押さえる措置に対する財政支援などが柱。ただ、殺傷力の高い銃の販売禁止などは盛り込まれなかった。【6月26日 産経】
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日本的常識からすれば“規制云々以前の当たり前のこと”のようにも思えますが、アメリカ的には銃規制に関する“正しい方向への一歩”には違いないでしょう。
銃規制をめぐっては、1994年にアサルトウェポン(突撃銃)の製造や販売を禁じる法律が成立しましたが、2004年に失効。それ以降も乱射事件で多くの犠牲者が出るたびに連邦議会で銃規制の強化が議論されてきましたが、共和党議員の反対が根強く、大きな進展はありませんでした。
今回は一部の共和党議員の賛成もあって規制が実現しました。
しかし、今回規制実現に関するメディア等の扱いがやや地味になったのは中絶禁止問題と時期的に重なったことだけでなく、内容の薄さにもあるのかも。
規制に積極的な民主党側は、殺傷能力の高いアサルトウェポン(突撃銃)や10発以上の弾丸を収納する弾倉の販売禁止などの強い規制を求めていましたが、今回はそうした本質的な規制は見送られました。
そこに踏み込まない限り銃乱射事件はこれからも・・・という気がしますが。
“正しい方向への一歩”とは言いながら、逆行するような司法判断も。
今回規制と同時期の6月23日、連邦最高裁は自己防衛のために公共の場で銃を所持する権利は合衆国憲法で保障されているとし、拳銃を自宅外で持ち歩くことを制限するニューヨーク州法を違憲とする判断を下しています。
****米最高裁、国民には公共の場での銃携帯の権利あると判断****
米連邦最高裁は23日、国民には公共の場で銃を携帯する基本的な権利があるとする判断を下した。同国では最近、学校などで銃乱射事件が相次ぎ、銃の規制強化を求める声が高まっていた。
最高裁判事は、自宅外での銃の携帯には正当な自衛の必要性を証明する許可を必要とする1913年制定のニューヨーク州法を6対3で無効とした。
銃の携帯については、米国の半数以上の州ではすでに許可が不要となっているものの、20州以上では制限が設けられており、今回の判断の影響は他州にも広まる可能性がある。
武器を保有する権利を保証する憲法修正第2条をめぐり、最高裁が判断を下したのはここ10年で初めて。
この判断を受け、ジョー・バイデン大統領は、「深く失望している。この判断は良識と憲法の両方に反するものであり、われわれ皆を深く苦しめるものだ」との声明を出した。
一方、有力な銃ロビー団体「全米ライフル協会」のウェイン・ラピエール副会長は、「全米の善良な男女にとって転換点になり、NRAが何十年にもわたって率いてきた戦いの結果だ」と歓迎した。
また、ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事はこの判断を「衝撃的」だと形容し、これにより「合理的な制限を有する権利」が奪われたとの見方を示した。その上で、「このような暗い日が来てしまったことを遺憾に思う」と記者団に述べた。 【6月24日 AFP】
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ニューヨーク市のアダムス市長も「ニューヨークをワイルドウエスト(無法の地)にすることは容認できない」との見解を示しています。
【宗教的価値観を重視する最高裁判断で政教分離の線引きがあいまいになる可能性も】
保守化を強める連邦最高裁判断がもうひとつ。
アメリカ連邦最高裁は27日、西部ワシントン州で公立高校のアメリカンフットボール部の試合後に部員の生徒らとキリスト教の祈りをささげたコーチについて、宗教行為の強要だとしてやめるよう要求する学校側がコーチを停職処分としたのは信教の自由の侵害に当たるとの判断を示しました。
****米最高裁、公立高校コーチの宗教行為認める 試合後に生徒と祈り****
米西部ワシントン州の公立高校でフットボール部の試合後に選手と祈りをささげたキリスト教徒のコーチが停職となった問題で、連邦最高裁は27日、信教の自由の侵害に当たるとの判断を示した。
判決は6対3で、リベラル派の判事全員が反対した。
2015年までブレマートン市でフットボール部の非常勤アシスタントコーチを務めたジョセフ・ケネディ氏の行為は、言論や宗教的表現の自由を認めた憲法修正第1条によって保護されるとした。判決文はゴーサッチ判事が執筆した。
公立高校におけるケネディー氏の祈りとキリスト教を取り入れたスピーチは、生徒への強制と受け止められ、政府による特定宗教の推奨と見なされる恐れがあると学校側は主張していた。
保守派が勢いを増す米最高裁は企業・個人の宗教的権利を拡大する一方で、政教分離を後退させてきた。今回の判決は人工妊娠中絶の権利を認めた1973年の「ロー対ウェイド」判決を最高裁が先週覆したのに続く保守派の勝利となった。
判決文は「宗教的表現の尊重は、自由で多様な米国での生活に不可欠だ」と指摘した。
リベラル派のソトマイヨール判事は反対意見として、今回の判決は、学校と生徒だけでなく米国の政教分離への取り組みに反すると主張した。【6月28日 ロイター】
判決は6対3で、リベラル派の判事全員が反対した。
2015年までブレマートン市でフットボール部の非常勤アシスタントコーチを務めたジョセフ・ケネディ氏の行為は、言論や宗教的表現の自由を認めた憲法修正第1条によって保護されるとした。判決文はゴーサッチ判事が執筆した。
公立高校におけるケネディー氏の祈りとキリスト教を取り入れたスピーチは、生徒への強制と受け止められ、政府による特定宗教の推奨と見なされる恐れがあると学校側は主張していた。
保守派が勢いを増す米最高裁は企業・個人の宗教的権利を拡大する一方で、政教分離を後退させてきた。今回の判決は人工妊娠中絶の権利を認めた1973年の「ロー対ウェイド」判決を最高裁が先週覆したのに続く保守派の勝利となった。
判決文は「宗教的表現の尊重は、自由で多様な米国での生活に不可欠だ」と指摘した。
リベラル派のソトマイヨール判事は反対意見として、今回の判決は、学校と生徒だけでなく米国の政教分離への取り組みに反すると主張した。【6月28日 ロイター】
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「宗教的表現の尊重は、自由で多様な米国での生活に不可欠だ」・・・・・素朴な疑問ですが、もしイスラム教徒が多い地域でイスラム教徒のコーチがイスラム式の礼拝を生徒らと行っても、“自由で多様な米国”は同様の判断をするのでしょうか?
“最高裁はトランプ前政権下で宗教的価値観を重視する保守派判事が優勢となり、21日にも宗教学校の学費に公的補助を認めない東部メーン州法を違憲だと判断している。政教分離の線引きがあいまいになる可能性もある。”【6月28日】