孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  弾圧姿勢を強める国軍支配 民主派活動家の死刑執行へ

2022-06-05 23:01:07 | ミャンマー
(AAPP(ミャンマー政治犯支援協会)が公表している国軍支配による犠牲者 一番上の1887人が死者、二番目の13959人が拘束者、その下は今も拘束されている者、一番下は解放された者の数の推移【6月4日 Newsweek】)

【野放しのままの国軍による人権侵害】
ウクライナでの戦争は世界が対応すべき重大な問題ですが、その他の多くの紛争・混乱・弾圧がウクライナ問題の陰に隠れてしまっているという問題が起きているようにも。

ミャンマー国軍の力による統治もそのひとつ。
ミャンマーの状況については、4月16日ブログ“ミャンマー ウクライナの陰で忘れられる抵抗 「声明はもういらない。行動を」日本への失望の声も”でも取り上げたところです。

****やりたい放題のミャンマー軍事政権──国際社会はこちらの「惨状」も見過ごすな****
4月4日の朝、ミャンマー南東部カイン州(旧カレン州)のコーカレイ地区で暮らす住民は、激しい砲撃で目を覚ました。ミャンマー軍事政権の政府軍による攻撃だ。

17歳の少女が砲弾に当たって病院に運ばれる途中で死亡し、ほかにも4人が重傷を負った。ミャンマー南東部では、民間人に対する政府軍の執拗で激しい攻撃が続いている。

少数民族カレンの反政府組織カレン民族同盟(KNU)の軍事部門であるカレン民族解放軍(KNLA)によれば、KNLA支配地域のキェイクとパイカルドンは政府軍の戦闘機による攻撃を繰り返し受け、この1カ月でおよそ600人の住人が避難せざるを得なくなった。

ミャンマーでは、こうした痛ましい出来事が相次いで起きている。政府軍は、機関銃や高性能の兵器で民間人の居住地域を攻撃することを躊躇しない。政府軍が化学兵器を用いたという報告もある。

ミャンマーの軍事政権は、罪のない人々を意図的に標的にしている。コーカレイ地区だけでも、3月末までに合計1万2177人が強制的に住居を追い立てられた。

無差別攻撃だけでなく、現金や所持品の没収も
「モンランド人権基金(HURFOM)」は数十年間にわたり、ミャンマー南東部、特にモン州とカイン州、そしてタニンダーリ地域の人権侵害を調査してきた。

同基金によると、昨年2月1日のクーデターで国軍が全権を掌握して以降、民間人への残虐行為が著しく増加しているという。

民間人は、無差別攻撃の標的になっているだけではない。検問所で現金や所持品を没収されることも珍しくない。
軍事政権に奪われたオートバイは少なくとも500台に上る。携帯電話を没収されて、軍事政権に対抗する民主化運動に関わっている証拠がないか調べられることも多い。

所在が分からなくなる人も増えている。人権活動家は攻撃にさらされ、しばしば国外に亡命せざるを得なくなっている。HURFOMによれば、3月末までに67人以上が逮捕され、50人以上が不法に身柄を拘束され、23人が負傷し、8人が死亡したという。

軍事政権の攻撃は子供たちの命も奪っている。3月29日、政府軍とKNLAが衝突した際、政府軍がモン州タトン地区の村を長距離重砲で砲撃した。これにより8歳と6歳の兄弟が命を落としている。

今こそ国際社会が責任を問うとき
このような状況で、国境を越えてタイ領内に逃れる人が再び増加している。しかし、避難民に対するタイ当局の対応は人道的なものとは言い難い。

国境を流れるモエイ川沿いにつくられた仮設の避難所は、大雨で簡単に損壊する。清潔な飲み水と食料が不足しているため、特に子供と高齢者の間で病気も蔓延している。

HURFOMの報告から判断すると、国際社会が厳しい反応を示して介入し、軍事政権の責任を問わない限り、ミャンマー南東部の人権侵害は野放しのままになるだろう。

それでも、アメリカでは最近ようやく、懸案の「ビルマ法」の法案が下院を通過した。この法案は、軍事政権への制裁を強化し、人権団体への支援を拡充させることを可能にするものだ。

世界の国々や国連機関は、ミャンマー軍事政権に対する国際的な武器禁輸、飛行禁止空域の設定、ミャンマーにおける人権侵害行為の国際刑事裁判所への付託に動くべきだ。

国際社会が積極的に行動しなければ、罪なき市民の命が奪われ続けることになる。【4月28日 ナイ・アウエ・モン(HURFOMプログラム責任者)、マギー・クアドリーニ(人権活動家) Newsweek】
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【現地情勢は日本関連事業にも影響】
軍事政権に対し制裁を課す欧米とは一線を画し、ミャンマーに深く関わってきて、経済的つながりも深い日本は、よく言えば軍事政権とも関係を途絶させず、事態の改善に関われるポジションを維持している、悪く言えば、ミャンマーに有する利権を守るため(あるいは、中国にその利権を奪われないようにするため)軍事政権に宥和的対応をしているという独自の立場にあります。

その日本がミャンマーで行っている事業も、国軍と民主派抵抗勢力の抗争の影響を受けています。

****日本支援の鉄道事業中断 爆発相次ぐ、ミャンマー****
日本の円借款で進むミャンマーの鉄道改修事業の一部工区で今年1〜3月に爆発があり、工事が中断していることが29日分かった。けが人はいなかった。

ミャンマー軍政は昨年2月のクーデター前から続く同事業をインフラ開発の柱の一つに位置付けており、民主派武装勢力が妨害を図った可能性が高い。事業の本格再開は安全が確保されてからとなる見通し。
 
ミャンマーでは地方を中心に民主派勢力が国軍にゲリラ攻撃を仕掛け、混乱が続いている。事業主体の国際協力機構(JICA)は「工事の稼働状況に関する回答は差し控えたい」としている。【4月29日 共同】
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****ENEOS、ミャンマーのガス開発事業から撤退****
ENEOSホールディングスは2日、ミャンマーでの天然ガス開発プロジェクトから撤退すると発表した。共同事業者であるマレーシアとタイの企業も先週、撤退を表明している。
 
ENEOSは、傘下のJX石油開発を通じ、ミャンマー南部イエタグンガス田で20年間にわたって操業してきた。このプロジェクトには、日本政府と三菱商事も出資している。
 
ENEOSは、社会問題への対応を含む現在のミャンマー情勢および技術的な評価に基づく採算性を検討した結果、撤退を決定したと説明している。
 
資源エネルギー庁の担当者はAFPに対し、政府もENEOSと同じ立場だと述べた。同ガス田事業は過去10年、生産量が減少していたという。
 
マレーシアの国営石油ペトロナスとタイ国営石油開発PTTEPは4月29日、プロジェクトからの撤退を表明。ペトロナスは子会社チャリガリを通じて41%、PTTEPは19.3%をそれぞれ出資していた。
 
日本はミャンマーの主要な経済支援国で、長期にわたり国軍と関係を維持してきた。昨年2月の国軍によるクーデター後、新規支援の停止を発表したが、軍や警察の個人を対象とした制裁には踏み切っていない。 【5月2日 AFP】
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【国軍、米ASEAN首脳会議に反発 一方、ロシアに接近する国軍】
ASEANは、シンガポールやマレーシア、インドネシアが関与に国軍支配に批判的なのに対し、軍部由来の政権のタイや一党支配のもとで人権問題を抱えるベトナムは内政不干渉を主張するなど、またカンボジアやラオスは中国の影響が強いなど温度差が目立ち、有効な対策が取れていません。

軍事政権に宥和的な議長国カンボジアのもとで、ようやく特使派遣は実現したものの、軍事政権の考えの代弁に終わった感も。

そのASEANもアメリカとの関係もあって、米ASEAN首脳会議においては一応ミャンマー情勢に「深い懸念」を表明していますが、ミャンマーは激しく反発しています。

****米ASEAN首脳会議の共同声明「深い懸念」に、ミャンマー国軍反発「内政干渉、断固拒否」****
ミャンマーの国軍当局は14日、米国と東南アジア諸国連合(ASEAN)による首脳会議の共同声明に「ミャンマー危機への深い懸念」が盛り込まれたことに反発し、「内政干渉で断固拒否する」と表明した。
 
共同声明は、暴力の即時停止や全当事者間の対話開始など、ASEANの5項目合意の完全履行などを要請。拘束中の全政治犯の解放にも言及し、国軍は「合意内容を超え、受け入れがたい」と訴えた。
 
首脳会議はミャンマー代表不在で開催されたが、国軍は「非政治的な人物を招待され、平等の原則に反するため参加しなかった」とし、ボイコットだったと強調した。
 
一方、会場の米ワシントンで、民主派による挙国一致政府(NUG)の外相ジンマーアウン氏が、シャーマン米国務副長官らと対面で会談したことにも敏感に反応し、「最も強い言葉で抗議する」と批判した。「NUGや関連団体はテロを首謀し、騒動を扇動している」と主張し、NUGを含めた打開策を提唱しているマレーシアなどをけん制した。【5月15日 東京】
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一方、ミャンマー軍事政権は、欧米から同じように制裁を受けるロシアと接近しているようです。
ミャンマー国軍はもともと武器輸入でロシアと親密な関係にありましたが、ここにきて、燃料の輸入や経済協力が加わってきているようです。

3月末、ロシア主導のユーラシア経済連合がミャンマー経済省庁と会談。石油・ガス、肥料、農業機械などの取引が話し合われたようです。

4月末には、ミャンマーの国軍トップ、ミンアウンライン司令官がロシア連邦の一つでトラック製造の大手カマズの本社があるタタールスタン共和国を訪問、その後、カマズがミャンマーでトラック生産をはじめると発表。

5月に入るとロシアからの燃料輸入協議が始まり、国軍系銀行2行とロシアの銀行との提携も発表されています。

【強まる民主派への弾圧姿勢 民主活動家ら4人の死刑承認】
ミャンマー国内では爆発事件も。

****ヤンゴンで爆発、1人死亡=国軍と民主派が互いに非難―ミャンマー****
クーデターで国軍が権力を握ったミャンマーの最大都市ヤンゴンのバス停で(5月)31日、爆弾がさく裂し、国軍によると男性1人が死亡、9人が負傷した。犯行声明は出ていない。

国軍は民主派が結成した「国民防衛隊」が手製爆弾を設置したと主張。これに対し、国軍に対抗して民主派が立ち上げた「国民統一政府」は「国軍は無分別に爆破や市民殺害を続けている」と訴える声明を出した。【6月1日 時事】 
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事件の真相はわかりませんが、民主派側が一般市民を対象にしたテロを行うメリットは思い付きません。
一方AAPP(ミャンマー政治犯支援協会)の発表によれば、国軍支配のもとで、1887人の一般人が殺害され、13959人が政治犯などとして不当に拘束されているとのことです。
【6月4日 “ミャンマー最大都市ヤンゴン中心部で爆発10人死傷の事件について” Newsweek】

国軍側は民主派への弾圧姿勢を強めています。

****ミャンマー国軍、民主活動家ら4人の死刑承認 執行なら46年ぶり****
ミャンマー国軍のゾーミントゥン報道官は3日、テロ行為などにかかわったとして国軍が設置した軍事法廷から死刑判決を受けた国民民主連盟(NLD)元議員らの上訴が棄却され、4人の死刑執行が承認されたと明らかにした。複数の地元メディアが報じた。
 
インターネットメディアのイラワジによると、死刑が執行されれば政治犯としては1976年以来になる。執行日は未定。
 
死刑が承認されたのは、アウンサンスーチー氏率いるNLDに所属していたピョーゼヤトー元議員と、著名民主活動家チョーミンユ氏。いずれも今年1月に死刑判決を受けた。他に国軍への情報提供を疑って女性を殺害したとして有罪認定された男性2人の死刑執行も承認された。【6月4日 毎日】
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“軍事政権のゾーミントゥン報道官はAFPに対し、4人が「刑務所の手続きに従って絞首刑になる」と説明。執行日は未定だとした。”【6月4日 AFP】

【ミャンマー国内情勢以上に忘れられがちなロヒンギャ問題】
以上は、最近のミャンマー情勢でしたが、ミャンマー国内事情以上に国際世論から忘れ去られがちなのが、国軍の暴力・殺戮・レイプ・放火により民族浄化的に隣国バングラデシュに追放されたイスラム系少数民族ロヒンギャの件。

****ロヒンギャ59人、孤島置き去り=密航業者に1人15万円―タイ****
タイ南部の孤島で4日、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャ59人が見つかった。ロヒンギャらはタイ警察に対し、マレーシアに向かう途中、密航業者に置き去りにされたと話している。
 
子供5人を含む59人は、マレーシアとの国境に近いドン島で発見された。5日に事情聴取したタイ警察に対し、ミャンマーとバングラデシュから178人で出発し、マレーシアの通貨で1人当たり5000リンギ(約15万円)を密航業者に支払ったと説明した。
 
ロヒンギャは2グループに分けられ、119人はマレーシアで逮捕された。59人は密航船の乗員に「マレーシアに着いた」と言われ、ドン島で降ろされたという。【6月5日 時事】
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