(【6月3日 毎日】)
【国の推計より早いペースで進む少子化】
長期的に見て日本が抱える最大の課題は中国でも、北朝鮮でもなく、日本自体の少子化、高齢化、それに並行して進む社会の活力の低下でしょう。
その少子化の流れが止まりません。
****昨年出生数、過去最少の81万人=人口自然減は60万人超―厚労省****
厚生労働省は3日、2021年の人口動態統計を公表した。出生数は前年から2万9231人(3.5%)減り、過去最少の81万1604人となった。1人の女性が生涯に産む子どもの推計人数を示す合計特殊出生率は1.30と、前年より0.03ポイント低下。6年連続の減少で、過去4番目の低さだった。
死亡数から出生数を引いた人口自然減は、62万8205人と初めて60万人を超えた。婚姻数は前年から2万4391組減り、戦後最少の50万1116組に落ち込んだ。
出生数の減少について、厚労省の担当者は「15~49歳の女性の人口が1.8%減った上、20代母の出生率が低下していることが要因」と分析。新型コロナウイルス下で結婚や妊娠を控える傾向にあったことも影響したとみている。【6月3日 時事】
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日本の少子化・人口減少は政府予測を上回るペースで進んでいます。
国立社会保障・人口問題研究所が2017年に公表した将来推計で出生数に関して、政府が将来計画で通常使う予測値(中位)では2021年に86.9万人、予測値(低位)は75.6万人としていました。現実はほぼこの中間ぐらいで進行しています。
また、中位予測では81万人台の前半になるのは2027年と見込んでいましたので、想定より6年早くそのレベルにまで減少しています。また、日本人の人口が1億人を切るのは2049年と想定されていましたが、それも早まりそうです。
****出生数81万人 国力低下を阻む道筋示せ****
令和3年に生まれた子供の数(出生数)が81万1604人と6年連続で過去最少を更新したことが、厚生労働省の人口動態統計(概数)で分かった。80万人を割るのは時間の問題で、事態は深刻の度を増している。
だが、岸田文雄首相から危機感が伝わってこない。首相は夏の参院選で打開への道筋と人口構造に見合う国の在り方を示すべきである。
女性1人が生涯に産む子供の推定人数「合計特殊出生率」も1・3と6年連続で低下した。政府は若い世代が希望通りの数の子供を持てる「希望出生率1・8」を目標に掲げているが、遠ざかるばかりだ。むしろ過去最低である平成17年の1・26に近づいている。
令和24年に高齢者人口がピークを迎える中、社会保障制度の担い手である現役世代の負担が過重になれば、制度の持続性が確保できないばかりか、国力低下に拍車がかかりかねない。
もっとも、出生率が多少上向いたとしても、出産期の女性人口そのものが減少傾向にあるため、出生数が一朝一夕に改善する見込みはない。特効薬はなく、長期戦を覚悟しなければならない。
こうした事態を招いた責任は、社会全体にある。原因として若年世代の未婚化、晩婚化が指摘されるが、その背景には、日本社会を覆う将来の暮らしへの不安があることを忘れてはならない。
第1次ベビーブームの昭和24年の出生数は約270万人で、第2次ブームの48年は約210万人だった。だが、平成に入り長期的な経済停滞に陥った日本社会に、期待された3度目のブームが訪れることはなかった。かつての政府に第3次は来るものと楽観する向きがあったことは否めない。【6月4日 産経】
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まあ、【産経】が憂うのも無理からぬところで、電気自動車大手テスラの最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏のSNSも話題になりました。
****イーロン・マスク氏が警鐘「日本はいずれ消滅するだろう」加速する日本の人口減をあやぶむ***
米SNS大手ツイッターの買収で合意した電気自動車大手テスラの最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏(50)が、日本の出生率の低下に「いずれ日本は消滅するだろう」とツイートし、加速する日本の人口減に警告を鳴らした。
総務省が先日発表した2021年の人口推移で人口の減少幅が過去最高となり、死者数が出生数を上回ったことを伝える英語の記事について7日、「当たり前のことを言うようだが、出世率が死亡率を超える変化がない限り、日本はいずれ消滅するだろう。それは世界にとって大きな損失となる」とコメントしたもので、このツイートは米金融系ニュースサイトでも「マスク氏が日本に警鐘を鳴らす」と取り上げられている。
マスク氏はこれまでも、「問題は2050年までに世界人口は高齢化と減少することであり、人口過多ではない」と語り、国連の予想は的外れだと非難するなど、人口減少に警鐘を鳴らしてきたことで知られる。2019年のインタビューでは、今後30年ほどで世界人口の年齢構造は逆ピラミッド型になっていくと述べていた。(後略)【5月9日 日刊スポーツ】
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日本人にとってはマスク氏のツイート内容は“今更”のことで、驚きも何もありません。
なお、マスク氏はその後、日本よりもっと危ない国があることに気付いたらしく、“テスラCEO「韓国、世界で最速の人口崩壊」 低い出生率に警鐘”【5月27日 聯合ニュース】と、韓国についてもツイートしています。
世界銀行が各国・地域の「合計特殊出生率」をまとめたランキング表では、韓国の合計特殊出生率0.84人で200位、香港が0.87人で199位です。日本としては「下には下がある」と、ちょっと安心するところも。
韓国の“合計特殊出生率0.84人”も“今更”のもので、私はいつも「日韓はいがみ合っているが、どうせ両国ともそのうち消滅する国家だ」と言っているところです。
ただ、“消滅する”とばかりも言っておられないので、山ほどある少子化についての議論のなかで、比較的最近目にした大前研一氏の指摘をひとつだけあげておきます。
****「人口減少」過去最大に 日本の政治家が少子化問題を解決できない理由****
(中略)政治家が関心を持っているのは、いま目の前の政治アジェンダだけで、そんなことをやっているとあっという間に選挙が来てしまいますから、オリンピックをどうするかとか、新型コロナ対策はどうするかといった話に終始して、本来なら5年10年かけていろいろ準備して進めなければいけない問題に取り組もうというような政治家はいません。今の政治家たちの政策の時間軸というのは、おそらく数か月程度ではないかと思います。
しかし、(中略)この問題の根本的な解決なしには日本の“老衰”はいつまで経っても止まりません。
少子化を加速させる4つの要因
もともとこの問題の背景には「未婚・晩婚化」という著しい傾向が出ていることがありますが、未解決のままとなっています。(中略)
もう1つ大きな問題として、配偶者がいる女性の出生率が低下しつつあります。(中略)
これは結局、結婚していない人が増えているということと、もう1つは晩婚化が進んだことによって高齢出産が増え、年齢的に2人目の子供を産むことができなくなっていると考えられます。
また、男性の長時間労働が慣行となっているため、夫が育児参加する率が低く、女性の「ワンオペ育児」が問題になっています。(中略)女性のワンオペ育児というのは、育児、家事に加えて共働きで働いているというケースも出てきています。そうなると、とてもじゃないけれどやっていられないということで、子供2人なんてどだい無理だとなってしまいます。
3つ目は、出産・育児支援制度の不備が挙げられます。たとえば、OECD平均ではGDPの2.34%を家族問題に使っていますが、日本はその平均を下回っています。加えて待機児童の問題や不妊治療の所得制限などがあって、出産・育児のために国が全面的に支援するという形にはなっていないと言われます。
さらに、もう1つ大きな問題が戸籍制度です。結婚していないカップルの場合、子供が生まれても戸籍に入れられずに「非嫡出子」という扱いになる恐れがあって、妊娠しても結婚していないから子供を産めないとか、産んでも父親の戸籍に入れられないから可哀想だということになります。
かてて加えて、新型コロナ禍によって、結婚の件数も大幅に減っている上、妊娠の届け出というのが、前年に比べて5.1%減っています(2020年1〜10月)。つまり、新型コロナ禍で感染リスクを懸念して、結婚・妊娠・出産を控える動きが目立ってきているというのが4つ目の要因です。(後略)
※大前研一『経済参謀 日本人の給料を上げる最後の処方箋』(小学館)より一部抜粋・再構成【4月29日 NEWSポストセブン】
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出産・育児支援制度の拡充は最低限の取り組みですが、それだけでは限界があり、基本的には男女の育児・家事に関する意識の改革、「非嫡出子」の制度的・社会的容認といった、すでに実態をなくしている「伝統的家族観」からの脱却を進める必要だと考えています。更に人口減を食い止める移民の容認も。
こういう話に批判的な人は、「そんなことしなくても・・・・」といろいろ言いますが、そういう現実離れした言い逃れの結果が今の状況であり、現状を打破するつもりなら、これまでの社会・意識を抜本的に変える改革が必要とも思っています。
ちなみに、少子化は日本や韓国だけでなく多くの先進国が抱える問題。
“イタリア出生数、昨年は1861年の統一以来最低 12年連続減”【2021年12月15日 ロイター】
“子供10人以上なら「母親英雄」…人口減へ危機感、プーチン氏がソ連時代の制度復活”【6月3日 読売】
人類の栄枯盛衰の歴史の一コマか・・・という達観も・・・。
【増加する「卵子凍結」支援】
そうしたなかで、前述のように日本以上に深刻な韓国では子どもを産む女性が減り、たとえ産む意思がある場合でも、住居費と子どもの教育費が高騰しており、財政的な余裕を確保することが先決だから出産を後回しにする傾向が強まっています。
そうした問題へのテクニカルな対処方法として、卵子を凍結して出産のための時間を稼ぐ選択をする女性が増えているそうです。
卵子凍結に関しては、日本でも支援する企業も増えているとか。
****卵子凍結、企業で支援広がる メルカリやデロイトなど***
将来の妊娠・出産に備える「卵子凍結」を支援する企業が増えている。メルカリは5月に卵子凍結にかかる費用を負担する福利厚生制度を正式に導入した。米IT(情報技術)大手に続いて日本でもコンサルや化粧品メーカーなど業種を問わず支援が進む。女性特有の悩みや不安に向き合う制度を導入し、優秀な人材の獲得や定着を促す狙いがある。
メルカリは採卵や凍結保管などに関わる費用の一部を負担する。不妊治療が必要な社員を対象とした妊活サポートの一環で、上限は200万円だ。社員の配偶者やパートナーも支援対象となる。2021年に試験導入していたが、想定以上の需要があったことから正式導入した。
女性特有の悩み
日本生殖医学会によると、不妊の頻度は25歳~29歳で8.9%だが、35~39歳では21.9%まで上昇する。キャリア形成で重要な時期と妊娠適齢期が重なることは、女性特有の悩みだ。将来、子供を持ちたいと考えていてもパートナーがいなかったり、仕事にまい進したい場合もある。
卵子凍結は妊娠の可能性が高い時期に採卵し、将来の妊娠に備えて液体窒素で凍結保存する仕組みだ。検査から卵子凍結まで1~2カ月かかる。クリニックによってばらつきはあるが、一連の費用は平均30万~100万円、採卵した卵子1個につき保管費用が年1万円程度かかる。35歳までに採卵することが推奨されているものの、20~30代には高額で負担が大きい。
年齢が上がると母体への危険性が高まるのは変わらないが、妊娠しやすい若い頃の卵子を妊娠したいタイミングで使える。
一方で卵子凍結は出産を保証するものではなく、身体的な負担もある。日本生殖医学会は13年に加齢などを理由に卵子凍結を容認したが、日本産科婦人科学会の専門委員会は15年に「推奨しない」との見解を示した。
リスクがあったとしても、女性にとって人生設計の選択肢があることは不安の軽減につながる。メルカリは「選択肢の提供で不安を軽減し、思い切り働ける環境を用意することを重視している」と導入の目的を説明する。(中略)
米企業の導入2割
卵子の凍結支援で先行するのは米国だ。14年に米メタ(旧フェイスブック)が導入して以降、IT企業を中心に普及した。20年時点で従業員2万人以上の米国企業の約2割が、卵子凍結を支援している。国の社会保障制度が手薄な米国では、企業が優秀な人材を確保するために手厚い支援に積極的とされる。
労働政策研究・研修機構の調査によると、会社を選ぶ際に福利厚生を重視したかという質問に、20代の女性55%が重視すると応えた。男性より約8ポイント高い。30代でも同様の傾向が見られ、男性より女性の方が会社選びで福利厚生を重視する傾向にある。女性が福利厚生を重視するのは、現状では育児や出産などで女性の負担が大きいためだ。(中略)
遅れる実態把握
卵子凍結をめぐっては、専門家の意見が分かれている。日本生殖医学会は利用者の広がりを受けて、加齢などを理由にした卵子凍結を容認している。2013年にガイドラインを定め、実施施設の要件や採卵時の年齢に関する指針を示した。凍結保存した卵子の使用年齢について45歳以上は推奨できないとし、18年には採卵時の年齢は「36歳未満が望ましい」と明記した。
一方で、日本産科婦人科学会の専門委員会は15年に身体への負担や、高齢出産を招く可能性があるといった理由で「推奨しない」との立場をとった。厚生労働省も健康な女性の卵子凍結を、「医療行為にあたらず推奨できない」としている。
ただ卵子凍結という医療行為自体は国も認めている。がんなどの治療前に卵子を保存する医療目的の場合は、不妊治療として認めており、助成制度もある。利用者の実態把握に向けて、日本がん・生殖医療学会は凍結保存した患者の情報登録システムの運用を1月から始めた。(中略)
適齢期までにパートナーがいなかったり、子供をもつ準備が整わなかったりする場合に備えた卵子凍結は、プレコンセプションケアの一環と捉える動きもある。実態把握を通じて、官民で多様な選択肢を与える環境を整備することが重要だろう。【5月31日 日経産業新聞】
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