孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ドイツ  ウクライナ問題で、武器供与でもエネルギーのロシア依存脱却でも苦慮

2022-06-12 21:53:54 | 欧州情勢
(【2月17日 東京】)

【戦後の原則を転換して武器供与に踏み出したものの、国内外から不十分との批判も】
ウクライナ戦争は食糧危機という形で世界に大きな影響を与えていますが、特に欧州には、フィンランド・スェーデンのNATO加盟やエネルギーのロシア依存からの脱却という、安全保障および経済両面で大きな変動を強いています。

欧州のなかでもドイツはとりわけ大きな変化に直面しています。

武器供与の面では、「紛争地に兵器を送らない」という戦後ドイツの原則を変え「自衛のため」として殺傷兵器の支援を決めたものの、その対応をめぐって国内的にも、またポーランドやウクライナからも不十分さを指摘される状況にもなっており、ショルツ首相は対応に苦慮しています。

ウクライナのドイツに対する手厳しさの背景には、これまでのドイツ、特に首相率いる中道左派与党、社会民主党(SPD)のロシアとの親密さがあります。

***ドイツ首相、支持急落 ウクライナ対応で迷走****
ドイツのショルツ首相がウクライナ侵攻への対応で迷走し、支持率が急落している。8日の地方選では首相の中道左派与党、社会民主党(SPD)がライバルの保守系野党、キリスト教民主同盟(CDU)に大敗した。15日には国内経済の最有力州で議会選を控えており、連立政権内で緊張が高まっている。

最近の世論調査で「首相に満足」とする回答は39%。3週間で12ポイントも下落した。原因は、ウクライナへの兵器供与をめぐる煮え切らない態度にある。

ショルツ氏は2月末、「紛争地に兵器を送らない」という戦後ドイツの原則を変え、「自衛のため」として殺傷兵器の支援を決めた。その後、米国や東欧が軍用ヘリコプターや戦車など大型兵器の供与に乗り出すと、国内外の要求に押される形で4月末、「ゲパルト自走対空砲50台を供与する」と決めた。

すると、ウクライナ側が「ゲパルトは40年前の兵器ではないか」と反応し、戦車と歩兵戦闘車計180台以上の提供を改めて求めた。ショルツ氏は先週、新型自走砲7台の追加供与を決めたが、ポーランドは戦車200台以上を供与する方針とされ、ドイツの慎重ぶりをかえって際立たせた。

ショルツ氏は8日、第二次大戦終結記念日のテレビ演説で、大型兵器の供与を「注意深く続ける」と表明した。しかし、ウクライナのメルニク駐独大使は「具体的な支援策を示してほしかった」と失望感を示した。

ウクライナがショルツ政権に不信の目を向けるのは、SPDとロシアとの固い絆にも原因がある。
東西冷戦中の1970年代、SPDのブラント西独首相はソ連との対話によるデタント(緊張緩和)を主導し、ソ連の天然ガスパイプライン建設を進めた。

98年に就任したSPDのシュレーダー独首相はプーチン露大統領と親交が深く、退任後はロシア国営石油大手の会長に就任。ロシアのロビー活動に協力してきた。ドイツがガスや石油をロシア産に依存するために、欧州連合(EU)は対露制裁でエネルギー禁輸を即時発動するのが難しくなった。

SPDのシュタインマイヤー現大統領は先月、東欧首脳とともに首都キーウ(キエフ)訪問を計画したが、メルケル政権の外相だった際、親露外交を進めたことから、ウクライナ側に拒否された。

ショルツ氏が「これが支援国に対する態度か」と不快感を示すと、CDUのメルツ党首がすかさずキーウを訪問し、SPDの迷走を浮き立たせた。【5月11日 産経】
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なお、ドイツ連邦議会は5月19日、ロシアのエネルギー大手との関係断絶を拒否するシュレーダー元首相から、特権として与えられていた事務所を剥奪すると発表。

結局、シュレーダー元首相はロシアの国営石油大手ロスネフチの監査役会長を辞任することを余儀なくされています。

ポーランドを介した武器供与もスムーズではないようです。

****ポーランドとドイツ、戦車の「埋め合わせ」交渉難航****
ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領は24日、同国がウクライナに戦車を送る見返りに、ドイツがポーランド供与すると約束していたにもかかわらず実現していないことに「深い失望」を表明した。

ポーランドは4月、ウクライナに旧ソ連製戦車「T72」を供与したと発表した、数は明らかにしなかったが、200両以上と報じられた。
 
ドゥダ氏はスイス・ダボスで開かれている世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)で、ポーランドがウクライナに供与した分の戦車を埋め合わせるとドイツが約束していたにもかかわらず、「守るつもりがないと聞き、深く失望している」と述べた。
 
ポーランド軍は独製戦車レオパルト2を約250両保有しており、報道によると、ドイツからの追加提供を期待していた。
 
チェコは先週、ウクライナに送ったT72の埋め合わせとして、レオパルト2の「A4型」を15両受領したと発表した。

独週刊誌シュピーゲルによると、ポーランドはチェコと異なりレオパルト2の「最新型」を求めていた。しかし、最新型は独軍にさえ十分な数がないため、交渉は行き詰まっていた。
 
アナレーナ・ベーアボック独外相は24日、本件について両国が協議していると述べた。ポーランドのズビグニエフ・ラウ外相も、両国は問題解決に向けて努力することで合意したとしている。 【5月25日 AFP】
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上記記事だけ読めば、旧ソ連製戦車「T72」の見返りにレオパルト2の「最新型」を要求するポーランドも強欲な感じもしますが・・・・実際の詳しい話は知りません。

ウクライナからは厳しいドイツ批判が。

****ドイツ ウクライナ軍事支援、口先だけ? 「大型兵器届かず」と大使が不満****
ドイツがウクライナに供与を約束した大型兵器が現地に届いていないとして、ウクライナ側が強い不満を示している。

ウクライナのメルニク駐独大使は10日、民放ラジオのインタビューで、ドイツからの軍事支援について、「ミサイル発射装置、榴弾砲、歩兵戦闘車や戦車といった大型兵器は、ウクライナ側に全く引き渡されていない」と述べた。現地に届いたのは、携帯式の防空ミサイルや地雷、機関銃などだけだと明かし、「ドイツでは政治家の発言と、実際の行動には大きな格差がある」と批判した。

ドイツは4月末、ウクライナへの軍事支援としてゲパルト自走砲50台の供与を決定。その後、自走榴弾砲「パンツァーハウビッツェ2000」7台の供与も発表した。

しかし、独紙ウェルトは、5月末までにドイツからウクライナに武器が届いたのは2度で、いずれも対戦車地雷などの小型兵器だったと報じており、引き渡しの遅れがドイツ国内でも問題になっている。【6月12日 産経】
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【ドイツ経済を支えてきたエネルギーのロシア依存からの脱却にも苦慮】
エネルギーのロシア依存脱却でも、ドイツは厳しい立場に立たされています。

****ドイツはウクライナ危機で「欧州の病人」に逆戻り インフレともう一つ“爆弾”がある****
欧州連合(EU)の経済大国であるドイツがウクライナ危機のせいで苦境に陥っている。

今年第2四半期のドイツがマイナス成長に陥ることが確実視され、欧州委員会も「19カ国から成るユーロ圏の中で今年の経済成長率がドイツより低くなるのはエストニアだけだ」と予測している。ドイツ、エストニア両国はロシアへのエネルギー依存が高いことが災いして経済成長が妨げられるというのがその理由だ。
 
ドイツはEU全体の経常収支の黒字の過半を占めるなど群を抜くパフォーマンスを示してきたことから「欧州で一人勝ち」と長らく言われていたが、再び「欧州の病人」になってしまうとの懸念が生まれている。
 
1990年に東ドイツ(当時)と統合されたことが重荷となって、ドイツは2000年代初頭まで経済が低迷した。「欧州の病人」と揶揄されていたドイツだったが、安価なロシア産エネルギーを確保することなどを通じて経済を再生させたという経緯がある。
 
ロシアのウクライナ侵攻前のドイツのエネルギー消費に占めるロシアのシェアは高く、最も顕著だったのは天然ガスの55%だ。原油は34%、石炭は26%と続く。
 
ドイツには全長50万キロメートルを超えるパイプラインが張り巡らされ、住宅、工場、発電所などにロシアの安価な天然ガスが供給されていた。ドイツでは1970年代から天然ガスの大部分をロシアから輸入するようになったが、このことが問題になることはなく、むしろ、賢明な戦略だとさえ考えられてきた。
 
シュレーダー元首相とその後任のメルケル前首相もロシアからのエネルギー供給の万全を期す対策に取り組んできた。その象徴と言えるのがロシアとドイツを直接繋ぐ海底天然ガスパイプライン(ノルドストリーム)だった。
 
ノルドストリーム1は2011年から稼働を開始し、110億ドルの事業費を投じたノルドストリーム2も昨年9月に完成していたが、ロシアがドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国を承認したことを受け、今年2月にドイツのショルツ首相は「ノルドストリーム2の事業の承認手続きを停止する」と発表した。

ノルドストリーム2は稼働する目途が立っておらず、巨額の負債を抱えたパイプライン運営会社の破綻が取り沙汰されている。

残されたエネルギー政策の選択肢は…
ドイツはロシア産天然ガスを「脱炭素」社会への「架け橋」として重要視していたが、ウクライナ危機でその橋は無残にも壊れてしまった。
 
原子力発電や石炭火力発電の活用に消極的なドイツ政府に残された選択肢は(1)新しい天然ガスの供給元を見つけることと(2)再生可能エネルギーへの移行を加速することだ。
 
ロシア産天然ガスの代替として米国やカタールなどが候補に挙がっているが、天然ガスを液体で輸送することになればコストは格段に高くなる。液化天然ガス(LNG)の輸入に必要なインフラが未整備であることも頭が痛い。
 
風力や太陽光などの再生可能エネルギーについては、環境や野生動物保護団体の反対や行政手続きの煩雑さなどが導入の進展を阻む壁となっている。(中略)
 
不動産バブル崩壊の懸念
(中略)
ウクライナ危機の勃発で競争力を失い、不動産バブルが崩壊すれば、ドイツが「欧州の病人」に逆戻りするのは間違いない。欧州の雄であるドイツ経済が絶不調になれば、ユーロ圏全体の危機にまで発展してしまうのではないだろうか。【6月12日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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ウクライナは以前から、ドイツがウクライナを経由せず「ノルドストリーム」でロシアから直接ガスを得ようとする動きを快く思っていなかったので、この機会に厳しい要求をドイツにしています。

****ウクライナ、ドイツにノルドストリーム1の停止・輸送量削減要請****
ウクライナ国営ガス輸送システム運営会社(GTSOU)のマコゴン最高経営責任者(CEO)は27日、ドイツ政府に対し、天然ガスパイプライン「ノルドストリーム1」経由のガス輸送を停止するか、大幅に削減するよう要請したと明らかにした。

マコゴン氏は国営テレビに対し、「国営エネルギー会社ナフトガスとともに、ドイツ経済省および規制当局にノルドストリーム1の停止を訴える文書を送付した」と述べた。

同氏は、ウクライナは代替経路の提供が可能で、それを望んでいると付け加えた。

ドイツはロシアが2月にウクライナ侵攻を開始したため、対ロ制裁として進行中だった「ノルドストリーム2」の事業計画を停止。同パイプラインの敷設は昨年終了しているが、一度も稼働していない。

ウクライナは、パイプラインの運用は欧州向けガス供給の安全性強化に寄与するという理由でドイツの法の下で許可されているが、ロシアはその原則に違反していると主張している。

マコゴン氏は「ロシアは昨年、作為的なガス不足を起こし、一方的にルーブルでの支払いを求めポーランド、フィンランド、ブルガリアへの供給を停止した。これらは原則に反している」と発言。さらにウクライナを侵攻していると批判した。【5月30日 ロイター】
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これまでのドイツ経済を支えてきたエネルギーのロシア依存からの脱却に直面するドイツは、いよいよ困った際には「禁断」の石炭にも手をつける覚悟のようです。

****独、休止予定の石炭火力発電所利用へ ロからのガス供給途絶備え****
ドイツ政府は、ロシアからのガス供給が途絶えた場合に備え、今年と来年に休止するはずだった石炭火力発電所を予備施設として利用することを計画している。2024年3月31日までの措置。経済省関係筋が24日に明らかにした。

この計画への参加は任意であり、事業者は燃料を準備し、必要な技術支援を提供するために公的資金から補償を受けることになる。

関係筋は、石炭火力発電所の準備を整えておくことは発電所からの炭素排出増を意味せず、2030年までに発電に石炭を使わないというドイツ全体の目標も変更ないと強調。また、石炭火力発電はガスに比べて比較的安価であるため、この計画は電力価格を上昇させないとも述べた。【5月24日 ロイター】
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武器供与にしてもエネルギーにしても「大変」なドイツです。それだけに「とにかく早く停戦を」というのが本音でしょう。
そのたりで、「ロシアの脅威がなくなるまで徹底的にやるべき」というバルト3国やポーランドとの立場の違いにもなります。
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